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覚悟と懐中時計
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しおりを挟む覚悟と懐中時計
次の日から、国中が、警戒態勢で動いていた。いつもは、別々に活動していた、ギルドの人たちが集まって、キラさんの指示に従っていたし、国の人たちも、龍たちも、長の指示に従っている。
そんな中、ルカは、食事時以外、ノルさんに、あの、魔法を撃つ銃を、習い始めた。
元々、魔法の能力が高かったルカは、すぐに習得していったのだけれど……。
「うーん、やっぱり、重さが問題だな。この魔法の銃は、魔石を使っているから、どうしても、重くなる。だが、ルカちゃんは、後方で、回復にまわってもらう可能性の方が大きいし、大丈夫だろう」
ノルさんが、考え込んでいる。
その時、銃を持っていた、ルカがよろけた。とっさに支えると、魔法の銃が、とても重たいのが分かる。そんな僕を、心配するかのように、スタウロが、後ろに立った。
スタウロは、僕の側を離れず、ずっと一緒にいる。その姿に、フールさんは、とても驚いていた。
「ねぇ、ルカ。僕が、こうやって支えていたら、重さを感じずに、撃てるかい?」
ルカを支えながら、思ったことを伝えると、ルカは、一瞬驚いた顔をして、僕を見たけれど、黙って頷いて、何発か、魔法を放つ。
「支える負担がなくなった分、安定したな。エミリィと、ライキに動いてもらって、動きながら、撃てるようにしてみるか」
「あ……だったら、スタウロ、僕たちを、乗せてくれる? 実際は、僕たちも、動きながら、撃たなくちゃいけないから」
ノルさんと、僕の言葉に、スタウロは、小さく鳴いて肯定して、体を傾けてくれた。
だけれど、ルカも、ノルさんも、その場で一緒に訓練していた、エミリィさんも、ライキさんも、フールさんも、近くにいたキラさんも、驚いた様子で、僕を見ている。
「ロキ。どういうことですか。あなたが、ルカの銃を支え、龍に乗る。その意味は分かるでしょう。あなたは、大罪人になりたいのですか」
チィの言葉に、僕は、黙って、チィを見た。そして、スモ爺のうろこ、スモーキークウォーツの、首飾りについている、懐中時計を取り出して、握りしめる。
「チィ、僕ね、昨日一晩、ずっと考えていたんだ」
「はい。分かっています。ロキが、昨日寝ていないことも、脳が、活性化されていたことも。だからこそ、今、正常な判断が、できないことも」
チィと僕を、みんなが、黙って、見守ってくれているのが分かる。
「僕、ギア王国にいたとき、自分がどうしたいのか、ほとんど考えたことがなかった。チィの提案してくれるものの中から、選ぶことが、当たり前だと思っていたし、それが辛かったこともないよ。チィがいなければ、ちゃんと生活もできなかったと思う。ここに来てからだってそうだ。感情的になる僕たちを、冷静にしてくれたのは、チィだ。チィが、いつも、はっきりと、言ってくれるから、僕は、自分で考えることができるようになった。スモ爺のことも、自分で選べたんだ」
何故か、僕の目は、涙が溜まって、かすんでいた。
「産まれた時から、いつだって、チィが側にいてくれた。いつだって、チィがいたから、一人じゃなかった。例え、プログラム通り動くロボットでも、僕にとっては、とても、大切な存在だ。だけど……。僕は、ルカも、この国の人たちみんなも、スタウロも、大好きなんだ。僕は、おじいちゃんが、していることも、してきたことも、間違っているとは、思わない。僕の両親が、やったことも、間違っていると、思えないんだ。大罪人でも、国に背いても、大好きで、大切な人を守ろうとした。それが、悪だとは、思えないんだ」
「大罪人を、擁護するということですか。そして、ロキ、あなたも、大罪人になると言いたいのですか」
チィの言葉に、僕は、ゆっくりと頷く。
チィの言葉を、肯定するということは、僕が、ギア王国を裏切った、反逆者。大罪人となったということなのだから。
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