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思春期のテロリスト
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第一章 私,復讐者になる。~中二の春~
エミはそれまで恋とダンスのことしか頭にない普通の中学生だった。
セミロングの髪で,コスモスの髪飾りをつけている。
彼氏の名前はシゲル。背が高くて頭も良い努力家。
踊ること以外なんの努力もしていないエミとは正反対だったが,二人はラブラブだった。
二人の親は裁判所に勤める国家公務員。
学校帰りはいつも宿舎まで一緒。
そして宿舎の中にあるもう使われていない倉庫の中でキスをして,少し話をして,二人の合い言葉「しそにお」って言ってハイタッチして終わり。
そんな毎日だった。
けれどその日はいつもと違った。
どんな高熱でも,どんな怪我でも学校を休んだことのないシゲルが,突然なんの連絡もなしに学校を休んだ。
何度携帯電話にかけても,繋がらない。
エミは不思議に思いながらも,寂しい気持ちで学校の帰り道を歩いていた。
そしていつもの倉庫の前を通りかかったとき,いきなり【ぐいっ】と腕を引っ張られて,エミは倉庫の中に引きずり込まれた。
びっくりして見ると,そこにいたのは緑のコートのような服に黒のボディースーツのようなものを着たシゲルだった。
シゲルは今までにないような顔をしている。
「シ・・・シゲル・・・?」
エミはとまどった。
そんなエミのとまどいを無視して,シゲルはエミの肩をつかむと早口でしゃべりはじめた。
「エミ,よく聞け。この国は今,戦争をしている。それも国民にばれないようにこっそりと。」
「え・・・?」
エミは全く理解できなかったが,シゲルは話を続けた。
「国は国民にばれないように予算を作り,世界大戦が行われている。けど,必ずそれに気がつく者,反発する者がでてくる。それが俺達『テロリスト』だ。」
「テ・・・テロリ・・・スト・・・?」
「あぁ,そうだ。まだ実験段階だがな。そして,テロリストの本拠地は裁判所だ。」
「え・・・??」
「最高裁判所が司令部。高等裁判所(高裁)が実行部。地方裁判所(地裁)が訓練部兼勧誘部。そして家庭裁判所(家裁)が情報部。」
エミは訳がわからなかったが,黙ってシゲルの話を聞いた。
「お前,この国で新しくできた法律分かっているな?未成年が建物に入り,助けて!と叫ぶと安全装置が作動してすぐに近くの警察,防犯ロボが来る。防犯カメラも現場を押さえられるようになった。本来の目的は,未成年を犯罪から守るための法律だ。しかしテロリストはそれを利用して,重大な犯罪を犯した未成年や,ハッカーの天才の未成年を集めているんだ。そして,少しずつ戦争に関わりのある重要人物を殺していってる・・・。」
「・・・・・・。」
「俺は,実験的に・・・。親父が高裁だったから,実行部・・・まぁ,いわゆる暗殺部に入れられた。ちなみに俺達の幼なじみのコウタは,親父さんが家裁だったから,情報部にいる。今,裏サイトで戦争のことやテロリストのことを流したりもしているんだ。じょじょに読む奴も増えてる。本来なら,政府と裁判所が対立するなんてありえないことだ。でもそのありえないことが,今起きている。」
「・・・うちの親も,家裁なのに,なんで私は・・・?」
エミの言葉に,シゲルはちょっと恥ずかしそうに答えた。
「実は・・・。この話しを最初に聞かされた時さ・・・。エミを,この実験に巻き込まないって条件で実行部に入ったんだ。エミには・・・普通の生活を送っていてほしかったから・・・。けど,サイトの話がエミの耳に入るのも時間の問題になってきたし,なにより・・・この国自体がそろそろ安全じゃなくなってきたから。」
そう言ってシゲルが真面目な顔をした。
「エミ・・・今ここで,俺と関わった以上,もう元の生活には戻れない。だから・・・せめて,お前は情報部に入れ。そこが一番安全なはずだ。戦争が終わるまで,必ず生き延びろ。」
「え・・・?それ・・・どういう・・・」
エミがしゃべろうとするのを手でさえぎり,シゲルが続けた。
「これ,俺の形見。」
そういうとシゲルは,自ら着ていた緑の服を脱いでエミに着せた。」
エミが着るとまるで薄手のロングコートだ。
「ちょっ・・・!!形見って・・・どういう・・・。」
エミは状況が把握できず慌てていた。
「あと・・・これ・・・。」
シゲルはエミの手に,一枚の紫の花びらをのせた。
「これ・・・チューリップの花びらなんだ。紫のチューリップの花言葉は『永遠の愛』なんだって。ごめん・・・ポケットに入れていたら,ぐちゃぐちゃになっちまった。」
エミがシゲルを見ると,シゲルはいつもの優しい笑顔をしていた。
そしてエミを引き寄せると,思いっ切り抱きしめた。そのまま言う。
「もう一度言う。この国は隠れて戦争をしている。それを止めようとしているのがテロリスト。俺は・・・一番多感期で,一番能力が伸びる時期の子供を巻き込んだ,こんなやり方間違っていると思う。テロリストも,戦争をしている政府も・・・。本当の平和はそんなものじゃないと思う。けど・・・子供の俺は従うことしかできなかった。そして,任務を失敗した俺は,今,国の特殊訓練を受けた奴らに周りを囲まれている。俺は,今からなんとしてもお前を守る。そして・・・たぶん死ぬ。」
「し・・・・し・・・ぬ・・・??」
「あぁ。お前をおとりにして,なんとしてでも建物の中に入れるから。最後まで,ついてきてな。」
そう言うとシゲルは銃を取りだした。
「話は終わりだ・・・いくぞ!!」
「ちょ・・・ちょっとまってよ!!」
しかしシゲルはエミの方を見てちらりと笑うと,エミの首に手を回した。
そしてエミの頭に銃を突きつけ,一気に倉庫から出た。
わけのわからないままエミは引きずられた。
「おい!!俺に手を出すなら,この一般人を殺すぞ!!」
シゲルが叫びながら,団地の中の建物に近づいていった。
エミは,その時初めて周りを見た。
顔は隠れているが,目だけ出ている白い服を着た人達・・・10人に囲まれていた。
エミはぼうぜんとしながらも,その目を一人ずつ眺めた。
もうすぐ建物・・・その時だった。
【ドン!!】
大きくて,鈍い音がした。
「うっ・・・。」
シゲルが声をあげる。そしてエミを抱えていた体が崩れた。
「シ・・・ゲ・・・ル・・・??」
エミが慌てて振り返ると,シゲルは腹部から血を流し,力無くその場に倒れた。
そしてエミは見た。
髪が水色で,短い丈の浴衣のような服を着た,同じ年くらいの一人だけ異色の女が真っ直ぐに銃口を向けていたのを・・・。
「エミ!!早く建物へ入れ!!」
聞き覚えのある・・・いや,よく知っているその声を聞き,エミはとっさにもう入り口近くだった建物の中に飛び込んだ。
その瞬間,白い服を着た者と水色の髪の女は姿を消した。
エミは呆然とシゲルを見つめていた。
ピクリとも動かないシゲル。
すると,黒のボディースーツのようなものを着た人達が,突然現れてシゲルの周りをとりかこんだ。
「ちょ・・・!!」
エミはシゲルに近づこうとしたが,
「エミ,それ以上見るな。」
建物へ入れと言った人物がエミの前に立った。
エミとシゲルの一番古くからの幼なじみで,いつも二人と一緒だったコウタだった。
「コウタ・・・。」
コウタは,耳に紫のピアス。頭からパソコン用のマイクをつけ,小型のパソコンを持っていた。
「・・・シゲルは,死んだよ。でもあいつ,最後はパソコン用のマイクとってたから・・・。二人の最後の会話は・・・少なくとも,俺達テロリストは誰も聞いていないから・・・。」
慰めるように,コウタが言った。そして緑のコートを着たまま,座って震えているエミを抱きしめた。
「シゲルが・・・テロリストだって・・・。私に,情報部に入って生き延びろって・・・。」
「・・・そっか。・・・お前ならパソコンくらい使えるだろうし,入れるだろ・・・。情報部には,俺もいるし・・・。」
エミはコウタにしがみつくと,涙を流しながら首を振った。
「でも・・・私,情報部には入らない。」
「えっ・・・?」
「私・・・私・・・実行部に入る。」
エミが言った。
「・・・!!おい!!実行部って・・・通称,暗殺部って言われてて,人を殺すチームだぞ!!任務は守り通さないといけない。失敗したら死ぬ。それに特殊訓練だって・・・。お前にそんなこと・・・・!!」
「私・・・その任務ってやつは守る。けれど私は,『テロリスト』にはならない。」
「それ,どういう意味だ?」
エミの,コウタにしがみつく手に力が入った。
「私・・・私は,復讐者になる。」
「復讐者・・・?」
「私,覚えている。シゲルが死んだとき,周りにいた全員の目を・・・。それにシゲルを殺した女・・・。私は・・・あいつらとシゲルを殺させた人間に復讐する,復讐者になる。」
エミがコウタを見た。涙は止まっていた。
コウタは,その目を見て思った。
この目をしたエミは,もう誰にも止められない・・・。
それは昔からエミのことを知っているコウタだからこそ分かったことだった。
「コウタ・・・。私は今日から感情を殺した復讐者。でも・・・コウタにだけは,ごまかしなんてきかないこと分かってる。だから,コウタだけが私の真実,私を知る者だからね。だから・・・私の事,助けてね。ずっと、一番の味方でいてね。・・・約束だよ。」
コウタは,黙ってうなずいた。
「エミ・・・お前はあの光景を見てしまったから,どちらにせよテロリストには入れると思う。俺と違って顔とかも見られているから,もう学校にも行かれない。シゲルは・・・お前に心配をかけないよう,何食わぬ顔をして学校へ行っていたけどな・・・。」
コウタが言った。
エミは無言で頷いた。
コウタに送られ自宅に戻ったエミは,真っ先に父親に詰め寄った。
テロリストのことは聞いた。実行部へ入ると・・・。
父親は反対しようとしたが,恐ろしく変わってしまったエミの無表情の怒りの顔に,最後はうなずくことしかできなかった。
そしてエミは髪の毛をばっさりと切った。コウタに見せると,
「俺はたらたらしてた時より,そっちの方が良いと思うけど。」
と言って少し笑って言われた。
それからエミは地方裁判所へと連れて行かれた。
ここの高等・地方・家庭裁判所は珍しく同じ敷地内にあり,エミはこの中で生活することになる。
普段,家裁に居るコウタも,同じだ。
コウタはエミがテロリストに入ると同時に,学校へ行くのを自ら止めた。
最初にエミはそこで特殊訓練を受けることになった。
あらゆる武器の使い方。
超人並の運動能力開発。
大の男でもすぐに音を上げるような訓練を,エミは驚くほど早いスピードでこなした。
さらに上へ,もっと上へ・・・強くなりたい。絶対に・・・あいつらに復讐してやる・・・!!それだけの想いが,エミをさらに強くさせた。
そして,エミはどんなに早くても半年はかかると言われている訓練を,ものの一ヶ月で合格した。
それは,実験段階の者でも勧誘された者,自ら志願した者でも,今だかつてなく,さらに先にも超えられることのない記録だった。
それからエミはすぐに暗殺部へと入ったのだった。
エミはそれまで恋とダンスのことしか頭にない普通の中学生だった。
セミロングの髪で,コスモスの髪飾りをつけている。
彼氏の名前はシゲル。背が高くて頭も良い努力家。
踊ること以外なんの努力もしていないエミとは正反対だったが,二人はラブラブだった。
二人の親は裁判所に勤める国家公務員。
学校帰りはいつも宿舎まで一緒。
そして宿舎の中にあるもう使われていない倉庫の中でキスをして,少し話をして,二人の合い言葉「しそにお」って言ってハイタッチして終わり。
そんな毎日だった。
けれどその日はいつもと違った。
どんな高熱でも,どんな怪我でも学校を休んだことのないシゲルが,突然なんの連絡もなしに学校を休んだ。
何度携帯電話にかけても,繋がらない。
エミは不思議に思いながらも,寂しい気持ちで学校の帰り道を歩いていた。
そしていつもの倉庫の前を通りかかったとき,いきなり【ぐいっ】と腕を引っ張られて,エミは倉庫の中に引きずり込まれた。
びっくりして見ると,そこにいたのは緑のコートのような服に黒のボディースーツのようなものを着たシゲルだった。
シゲルは今までにないような顔をしている。
「シ・・・シゲル・・・?」
エミはとまどった。
そんなエミのとまどいを無視して,シゲルはエミの肩をつかむと早口でしゃべりはじめた。
「エミ,よく聞け。この国は今,戦争をしている。それも国民にばれないようにこっそりと。」
「え・・・?」
エミは全く理解できなかったが,シゲルは話を続けた。
「国は国民にばれないように予算を作り,世界大戦が行われている。けど,必ずそれに気がつく者,反発する者がでてくる。それが俺達『テロリスト』だ。」
「テ・・・テロリ・・・スト・・・?」
「あぁ,そうだ。まだ実験段階だがな。そして,テロリストの本拠地は裁判所だ。」
「え・・・??」
「最高裁判所が司令部。高等裁判所(高裁)が実行部。地方裁判所(地裁)が訓練部兼勧誘部。そして家庭裁判所(家裁)が情報部。」
エミは訳がわからなかったが,黙ってシゲルの話を聞いた。
「お前,この国で新しくできた法律分かっているな?未成年が建物に入り,助けて!と叫ぶと安全装置が作動してすぐに近くの警察,防犯ロボが来る。防犯カメラも現場を押さえられるようになった。本来の目的は,未成年を犯罪から守るための法律だ。しかしテロリストはそれを利用して,重大な犯罪を犯した未成年や,ハッカーの天才の未成年を集めているんだ。そして,少しずつ戦争に関わりのある重要人物を殺していってる・・・。」
「・・・・・・。」
「俺は,実験的に・・・。親父が高裁だったから,実行部・・・まぁ,いわゆる暗殺部に入れられた。ちなみに俺達の幼なじみのコウタは,親父さんが家裁だったから,情報部にいる。今,裏サイトで戦争のことやテロリストのことを流したりもしているんだ。じょじょに読む奴も増えてる。本来なら,政府と裁判所が対立するなんてありえないことだ。でもそのありえないことが,今起きている。」
「・・・うちの親も,家裁なのに,なんで私は・・・?」
エミの言葉に,シゲルはちょっと恥ずかしそうに答えた。
「実は・・・。この話しを最初に聞かされた時さ・・・。エミを,この実験に巻き込まないって条件で実行部に入ったんだ。エミには・・・普通の生活を送っていてほしかったから・・・。けど,サイトの話がエミの耳に入るのも時間の問題になってきたし,なにより・・・この国自体がそろそろ安全じゃなくなってきたから。」
そう言ってシゲルが真面目な顔をした。
「エミ・・・今ここで,俺と関わった以上,もう元の生活には戻れない。だから・・・せめて,お前は情報部に入れ。そこが一番安全なはずだ。戦争が終わるまで,必ず生き延びろ。」
「え・・・?それ・・・どういう・・・」
エミがしゃべろうとするのを手でさえぎり,シゲルが続けた。
「これ,俺の形見。」
そういうとシゲルは,自ら着ていた緑の服を脱いでエミに着せた。」
エミが着るとまるで薄手のロングコートだ。
「ちょっ・・・!!形見って・・・どういう・・・。」
エミは状況が把握できず慌てていた。
「あと・・・これ・・・。」
シゲルはエミの手に,一枚の紫の花びらをのせた。
「これ・・・チューリップの花びらなんだ。紫のチューリップの花言葉は『永遠の愛』なんだって。ごめん・・・ポケットに入れていたら,ぐちゃぐちゃになっちまった。」
エミがシゲルを見ると,シゲルはいつもの優しい笑顔をしていた。
そしてエミを引き寄せると,思いっ切り抱きしめた。そのまま言う。
「もう一度言う。この国は隠れて戦争をしている。それを止めようとしているのがテロリスト。俺は・・・一番多感期で,一番能力が伸びる時期の子供を巻き込んだ,こんなやり方間違っていると思う。テロリストも,戦争をしている政府も・・・。本当の平和はそんなものじゃないと思う。けど・・・子供の俺は従うことしかできなかった。そして,任務を失敗した俺は,今,国の特殊訓練を受けた奴らに周りを囲まれている。俺は,今からなんとしてもお前を守る。そして・・・たぶん死ぬ。」
「し・・・・し・・・ぬ・・・??」
「あぁ。お前をおとりにして,なんとしてでも建物の中に入れるから。最後まで,ついてきてな。」
そう言うとシゲルは銃を取りだした。
「話は終わりだ・・・いくぞ!!」
「ちょ・・・ちょっとまってよ!!」
しかしシゲルはエミの方を見てちらりと笑うと,エミの首に手を回した。
そしてエミの頭に銃を突きつけ,一気に倉庫から出た。
わけのわからないままエミは引きずられた。
「おい!!俺に手を出すなら,この一般人を殺すぞ!!」
シゲルが叫びながら,団地の中の建物に近づいていった。
エミは,その時初めて周りを見た。
顔は隠れているが,目だけ出ている白い服を着た人達・・・10人に囲まれていた。
エミはぼうぜんとしながらも,その目を一人ずつ眺めた。
もうすぐ建物・・・その時だった。
【ドン!!】
大きくて,鈍い音がした。
「うっ・・・。」
シゲルが声をあげる。そしてエミを抱えていた体が崩れた。
「シ・・・ゲ・・・ル・・・??」
エミが慌てて振り返ると,シゲルは腹部から血を流し,力無くその場に倒れた。
そしてエミは見た。
髪が水色で,短い丈の浴衣のような服を着た,同じ年くらいの一人だけ異色の女が真っ直ぐに銃口を向けていたのを・・・。
「エミ!!早く建物へ入れ!!」
聞き覚えのある・・・いや,よく知っているその声を聞き,エミはとっさにもう入り口近くだった建物の中に飛び込んだ。
その瞬間,白い服を着た者と水色の髪の女は姿を消した。
エミは呆然とシゲルを見つめていた。
ピクリとも動かないシゲル。
すると,黒のボディースーツのようなものを着た人達が,突然現れてシゲルの周りをとりかこんだ。
「ちょ・・・!!」
エミはシゲルに近づこうとしたが,
「エミ,それ以上見るな。」
建物へ入れと言った人物がエミの前に立った。
エミとシゲルの一番古くからの幼なじみで,いつも二人と一緒だったコウタだった。
「コウタ・・・。」
コウタは,耳に紫のピアス。頭からパソコン用のマイクをつけ,小型のパソコンを持っていた。
「・・・シゲルは,死んだよ。でもあいつ,最後はパソコン用のマイクとってたから・・・。二人の最後の会話は・・・少なくとも,俺達テロリストは誰も聞いていないから・・・。」
慰めるように,コウタが言った。そして緑のコートを着たまま,座って震えているエミを抱きしめた。
「シゲルが・・・テロリストだって・・・。私に,情報部に入って生き延びろって・・・。」
「・・・そっか。・・・お前ならパソコンくらい使えるだろうし,入れるだろ・・・。情報部には,俺もいるし・・・。」
エミはコウタにしがみつくと,涙を流しながら首を振った。
「でも・・・私,情報部には入らない。」
「えっ・・・?」
「私・・・私・・・実行部に入る。」
エミが言った。
「・・・!!おい!!実行部って・・・通称,暗殺部って言われてて,人を殺すチームだぞ!!任務は守り通さないといけない。失敗したら死ぬ。それに特殊訓練だって・・・。お前にそんなこと・・・・!!」
「私・・・その任務ってやつは守る。けれど私は,『テロリスト』にはならない。」
「それ,どういう意味だ?」
エミの,コウタにしがみつく手に力が入った。
「私・・・私は,復讐者になる。」
「復讐者・・・?」
「私,覚えている。シゲルが死んだとき,周りにいた全員の目を・・・。それにシゲルを殺した女・・・。私は・・・あいつらとシゲルを殺させた人間に復讐する,復讐者になる。」
エミがコウタを見た。涙は止まっていた。
コウタは,その目を見て思った。
この目をしたエミは,もう誰にも止められない・・・。
それは昔からエミのことを知っているコウタだからこそ分かったことだった。
「コウタ・・・。私は今日から感情を殺した復讐者。でも・・・コウタにだけは,ごまかしなんてきかないこと分かってる。だから,コウタだけが私の真実,私を知る者だからね。だから・・・私の事,助けてね。ずっと、一番の味方でいてね。・・・約束だよ。」
コウタは,黙ってうなずいた。
「エミ・・・お前はあの光景を見てしまったから,どちらにせよテロリストには入れると思う。俺と違って顔とかも見られているから,もう学校にも行かれない。シゲルは・・・お前に心配をかけないよう,何食わぬ顔をして学校へ行っていたけどな・・・。」
コウタが言った。
エミは無言で頷いた。
コウタに送られ自宅に戻ったエミは,真っ先に父親に詰め寄った。
テロリストのことは聞いた。実行部へ入ると・・・。
父親は反対しようとしたが,恐ろしく変わってしまったエミの無表情の怒りの顔に,最後はうなずくことしかできなかった。
そしてエミは髪の毛をばっさりと切った。コウタに見せると,
「俺はたらたらしてた時より,そっちの方が良いと思うけど。」
と言って少し笑って言われた。
それからエミは地方裁判所へと連れて行かれた。
ここの高等・地方・家庭裁判所は珍しく同じ敷地内にあり,エミはこの中で生活することになる。
普段,家裁に居るコウタも,同じだ。
コウタはエミがテロリストに入ると同時に,学校へ行くのを自ら止めた。
最初にエミはそこで特殊訓練を受けることになった。
あらゆる武器の使い方。
超人並の運動能力開発。
大の男でもすぐに音を上げるような訓練を,エミは驚くほど早いスピードでこなした。
さらに上へ,もっと上へ・・・強くなりたい。絶対に・・・あいつらに復讐してやる・・・!!それだけの想いが,エミをさらに強くさせた。
そして,エミはどんなに早くても半年はかかると言われている訓練を,ものの一ヶ月で合格した。
それは,実験段階の者でも勧誘された者,自ら志願した者でも,今だかつてなく,さらに先にも超えられることのない記録だった。
それからエミはすぐに暗殺部へと入ったのだった。
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