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ロリータ少女と戦姫
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戦の始まり。お願い、死なないで。
次の日からしばらく、私は繁蔵様と美弥姫と未来の話をしたり、聖花さんに作法を習ったりして過ごしていた。
繁蔵様と美弥姫はしょっちゅう軍議に行ってしまうので、時々お針子さんの所にも行った。
お針子さんたちはいつでも笑顔でむかえてくれて、色々な布や飾りを見せてくれた。
だけど、お針子さんたちも戦が迫っているのを直に感じているようで、戦の話を小声でしているのが聞こえてきた。
戦が始まったら、私はどうすればいいんだろう?
どうもできないから、ここにいるしかないことは分かっているけれど・・・。
時が来たら。
ずっとその、「時」というのを考えていた。
明日かもしれないし、一週間後かもしれないし、一年後かもしれない。
もし、そんなに長くかかって現代に帰っても、私に生きる場所なんてあるんだろうか?
そんなことを考える時もあった。
だけどその度に
生きるということは悩み続けること
美弥姫の言葉が浮かんできた。
偉人たちの名言とかに、沢山ありそうな言葉だった。
だけど、美弥姫があの場所で言ったことは今までに感じたことのないくらい私の心に響いた。
美弥姫も、悩み続けているのだろうか・・・?
私から見た美弥姫は、強くて優しくて・・・。
「志乃様?どうかなさいましたか?」
布を持ったまま考え込んでいた私に、お針子さんが心配そうに声をかけてくれた。
「いえ・・・あの・・・戦の事を考えていて・・・。」
「そうですよね。繁蔵様も、美弥姫も出陣なされますし、不安ですよね。」
お針子さんが優しく言ってくれた。
私はお針子さんにお礼を言うと、自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると力が抜けて座り込んだ。
もし、戦で負けたらどうなるんだろう・・?
加奈は、梅田城は敵に落とされたと言っていたけれど、桜野城は謀反で焼け落ちたと言っていた。
ということは戦に負けたことはないんだろうか?
だけど、それなら謀反なんて起きないんじゃ・・・・。
戦で負けるって、一番偉い人が殺されるってことだよね?
それって、繁蔵様と美弥姫が死んじゃうことで・・・。
私は色んなことをいっぺんに考えて、混乱してしまった。
「志乃姫、入るぞ。」
美弥姫が、いつもと変わらない様子で入ってきた。
「美弥姫・・・・。」
「どうした?そんなに思いつめた顔をして。」
美弥姫が、私の顔を見ながら言った。
「ねぇ・・・戦ってやめられないの?だって・・・美弥姫も、繁蔵様も死んじゃうかもしれないんでしょ?」
私の顔を見つめたまま、美弥姫がふっと笑った。
「戦は避けられぬ。戦をやめれば、こんな城簡単に落とされるであろう。そうなればもちろん私も繁蔵様も命はない。それが、この時代の生き方だ。」
「でも・・・・!」
私は言葉に詰まった。
「案じてくれるのか、私と繁蔵様の身を。」
「当たり前だよ!私、美弥姫が大好きだから!それに、繁蔵様にもお世話になってるし、死んでほしくないよ!」
私の言葉に、美弥姫は驚いた顔をした。
「死んでほしくない・・・・か。そんなことを言われたのは繁蔵様をのぞいてお前だけだ、志乃姫・・・。」
そして、美弥姫は静かに私に言った。
「前にも言ったが、私は死など恐れていない。この命は主君である繁蔵様のものだ。だが志乃姫、お前の命は誰のものだ?」
「私の命・・・?」
私の命は誰のものか・・・・。
そんなこと、考えたこともなかった。
産んでくれたお母さんのもの?
育てるためのお金を稼いでくれたお父さんのもの?
「お前の故郷では、女でも自由に生きられると話してくれたな。」
美弥姫の言葉に、私は黙ってうなずいた。
「ならば、志乃姫の命は志乃姫自身のものだ。志乃姫の主君は、志乃姫自身だということではないのか?」
「私自身・・・。」
「私は志乃姫の話を沢山聞き、考えた。もし私の主君が繁蔵様でなく私自身だったらと・・・そして戦のない世で、繁蔵様と生きられたらと。」
「うん・・・だから私、みんなで私の故郷に帰りたいって今でも思ってる。」
私の言葉に、美弥姫はかすかに笑った。
「きっと楽しいであろう。実は私はお針子に興味があってな。自分自身の着物をあつらえてみたいと思っている。」
美弥姫の意外な言葉に、私は黙り込んだ。
てっきり、美弥姫は武術以外に興味がないと思っていたから・・・。
「きっと、世継ぎの争いもなく、子が産めるであろう。人質として、我が子を差し出すこともしなくて良いのだろう。着物をあつらえ、繁蔵様と繁蔵様と私の子とつつましく暮らす。そんな幸せがあれば・・・・。そう何度考え生きてきただろう。」
「美弥姫は、ずっとそう考えて生きてきたの?」
私の言葉に、美弥姫はうなずいた。
「でも・・・美弥姫はお針子になろうと思えばなれるんじゃ・・・。」
かすかに言った私の言葉に、美弥姫は首を振った。
「前に、この時代では女は家業を継がなくてはならないと言った事があるであろう。姫である私がお針子をするなど、考えられないことだ。この城にいるお針子も女中も、皆そこそこの身分があってこの城にいる。・・・もしかしたら皆、もっと他にやりたいことがあるのかもしれないな。」
「なんだか・・・そんなの悲しいよ・・・。」
私は、下を向いた。
やっぱり、みんなで現代に帰った方が・・・
「だがな、私はここを離れるつもりはないのだ。」
「えっ・・・・?」
美弥姫の力強い言葉に驚いて、美弥姫を見た。
美弥姫は私を見つめると笑った。
「私は、繁蔵様と出会わなかったら、城下でお針子をしていたかもしれない。だが、今が幸せではないのか?否。私は繁蔵様と過ごす毎日が、この上なく幸せなのだ。」
「戦で死んじゃうかもしれないのに・・・?」
「その通りだ。何が起きても、私は自分の人生を後悔なんてしない。私の人生に色を与えてくれた、繁蔵様の為に。そして志乃姫。お前も私の人生に色を与えてくれた。」
「私が・・・?」
「そうだ。私には私の生きる道、場所がある。志乃姫は志乃姫の生きる場所がある。そこが、志乃姫自身を主君に生きていける場所なのであれば、志乃姫はなんにでもなれるし、なんでもできる。おなごが好きに生きられるならば、好きに生きれば良いではないか。自分を主君にし、自分の人生を生きれば良いではないか。」
「自分が主君・・・・。」
私は繰り返した。
美弥姫は笑ってうなずいた。
「もう間もなく戦が始まる。私はこの場所を守るために全力で戦いに挑む。そして、そんな人生を後悔などしない。」
私は・・・私には分からない・・・!
「美弥姫、お願い、聞いて!未来の文献ではね、このお城は謀反で焼け落ちたって書いてあるの!このまま戦に勝っても、このお城は・・・・!」
私は美弥姫の着物をつかむと、思わずそう言っていた。
美弥姫は一瞬驚いた顔をしたけれど、優しく私の手を握った。
「そうか。ずっとそんなことを抱え込んでいたのだな。」
「美弥姫・・・・・。」
「謀反・・・か。そうだな。繁蔵様のやり方ではいつ謀反が起きてもおかしくないだろう。だが、それを防げるよう私は私のやるべきことを精一杯やる。今は、目の前の戦だ。」
美弥姫の手に力がこもった。
「私は、私の人生を繁蔵様に捧げ生きる。たとえ何が起きようと・・・。志乃姫が故郷に誘ってくれたことは本当にうれしい。だが、私の決めた私の生きる道、分かってほしい。」
「・・・・・・・。」
私は黙って美弥姫の手を握り返した。
なぜだか涙が溢れてきた。
間もなく戦の日がやってきた。
お城の前には武装した沢山の人、人、人だった。
私は美弥姫にもらったあの髪飾りをつけてもらって、必死に美弥姫を探した。
美弥姫は先陣と呼ばれる場所で、馬に乗っていた。
その姿はとても綺麗で、私の選んだ髪飾りをつけて、二枚の布を足した綺麗な着物を着て、甲冑を体に着て大きななぎなたを持っていた。
大きな声で指示を出していた美弥姫が、私の方を見た。
私は、必死で手を振った。
「美弥姫、私、待ってるから!」
美弥姫が大きく手を振り返してくれる。
「志乃姫、必ず戦果をあげて戻ってくる!」
美弥姫の言葉に、私はうなずくことしかできなかった。
私には、もう何も言えなかった。
そして一行は、戦に向かっていったのだった。
次の日からしばらく、私は繁蔵様と美弥姫と未来の話をしたり、聖花さんに作法を習ったりして過ごしていた。
繁蔵様と美弥姫はしょっちゅう軍議に行ってしまうので、時々お針子さんの所にも行った。
お針子さんたちはいつでも笑顔でむかえてくれて、色々な布や飾りを見せてくれた。
だけど、お針子さんたちも戦が迫っているのを直に感じているようで、戦の話を小声でしているのが聞こえてきた。
戦が始まったら、私はどうすればいいんだろう?
どうもできないから、ここにいるしかないことは分かっているけれど・・・。
時が来たら。
ずっとその、「時」というのを考えていた。
明日かもしれないし、一週間後かもしれないし、一年後かもしれない。
もし、そんなに長くかかって現代に帰っても、私に生きる場所なんてあるんだろうか?
そんなことを考える時もあった。
だけどその度に
生きるということは悩み続けること
美弥姫の言葉が浮かんできた。
偉人たちの名言とかに、沢山ありそうな言葉だった。
だけど、美弥姫があの場所で言ったことは今までに感じたことのないくらい私の心に響いた。
美弥姫も、悩み続けているのだろうか・・・?
私から見た美弥姫は、強くて優しくて・・・。
「志乃様?どうかなさいましたか?」
布を持ったまま考え込んでいた私に、お針子さんが心配そうに声をかけてくれた。
「いえ・・・あの・・・戦の事を考えていて・・・。」
「そうですよね。繁蔵様も、美弥姫も出陣なされますし、不安ですよね。」
お針子さんが優しく言ってくれた。
私はお針子さんにお礼を言うと、自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると力が抜けて座り込んだ。
もし、戦で負けたらどうなるんだろう・・?
加奈は、梅田城は敵に落とされたと言っていたけれど、桜野城は謀反で焼け落ちたと言っていた。
ということは戦に負けたことはないんだろうか?
だけど、それなら謀反なんて起きないんじゃ・・・・。
戦で負けるって、一番偉い人が殺されるってことだよね?
それって、繁蔵様と美弥姫が死んじゃうことで・・・。
私は色んなことをいっぺんに考えて、混乱してしまった。
「志乃姫、入るぞ。」
美弥姫が、いつもと変わらない様子で入ってきた。
「美弥姫・・・・。」
「どうした?そんなに思いつめた顔をして。」
美弥姫が、私の顔を見ながら言った。
「ねぇ・・・戦ってやめられないの?だって・・・美弥姫も、繁蔵様も死んじゃうかもしれないんでしょ?」
私の顔を見つめたまま、美弥姫がふっと笑った。
「戦は避けられぬ。戦をやめれば、こんな城簡単に落とされるであろう。そうなればもちろん私も繁蔵様も命はない。それが、この時代の生き方だ。」
「でも・・・・!」
私は言葉に詰まった。
「案じてくれるのか、私と繁蔵様の身を。」
「当たり前だよ!私、美弥姫が大好きだから!それに、繁蔵様にもお世話になってるし、死んでほしくないよ!」
私の言葉に、美弥姫は驚いた顔をした。
「死んでほしくない・・・・か。そんなことを言われたのは繁蔵様をのぞいてお前だけだ、志乃姫・・・。」
そして、美弥姫は静かに私に言った。
「前にも言ったが、私は死など恐れていない。この命は主君である繁蔵様のものだ。だが志乃姫、お前の命は誰のものだ?」
「私の命・・・?」
私の命は誰のものか・・・・。
そんなこと、考えたこともなかった。
産んでくれたお母さんのもの?
育てるためのお金を稼いでくれたお父さんのもの?
「お前の故郷では、女でも自由に生きられると話してくれたな。」
美弥姫の言葉に、私は黙ってうなずいた。
「ならば、志乃姫の命は志乃姫自身のものだ。志乃姫の主君は、志乃姫自身だということではないのか?」
「私自身・・・。」
「私は志乃姫の話を沢山聞き、考えた。もし私の主君が繁蔵様でなく私自身だったらと・・・そして戦のない世で、繁蔵様と生きられたらと。」
「うん・・・だから私、みんなで私の故郷に帰りたいって今でも思ってる。」
私の言葉に、美弥姫はかすかに笑った。
「きっと楽しいであろう。実は私はお針子に興味があってな。自分自身の着物をあつらえてみたいと思っている。」
美弥姫の意外な言葉に、私は黙り込んだ。
てっきり、美弥姫は武術以外に興味がないと思っていたから・・・。
「きっと、世継ぎの争いもなく、子が産めるであろう。人質として、我が子を差し出すこともしなくて良いのだろう。着物をあつらえ、繁蔵様と繁蔵様と私の子とつつましく暮らす。そんな幸せがあれば・・・・。そう何度考え生きてきただろう。」
「美弥姫は、ずっとそう考えて生きてきたの?」
私の言葉に、美弥姫はうなずいた。
「でも・・・美弥姫はお針子になろうと思えばなれるんじゃ・・・。」
かすかに言った私の言葉に、美弥姫は首を振った。
「前に、この時代では女は家業を継がなくてはならないと言った事があるであろう。姫である私がお針子をするなど、考えられないことだ。この城にいるお針子も女中も、皆そこそこの身分があってこの城にいる。・・・もしかしたら皆、もっと他にやりたいことがあるのかもしれないな。」
「なんだか・・・そんなの悲しいよ・・・。」
私は、下を向いた。
やっぱり、みんなで現代に帰った方が・・・
「だがな、私はここを離れるつもりはないのだ。」
「えっ・・・・?」
美弥姫の力強い言葉に驚いて、美弥姫を見た。
美弥姫は私を見つめると笑った。
「私は、繁蔵様と出会わなかったら、城下でお針子をしていたかもしれない。だが、今が幸せではないのか?否。私は繁蔵様と過ごす毎日が、この上なく幸せなのだ。」
「戦で死んじゃうかもしれないのに・・・?」
「その通りだ。何が起きても、私は自分の人生を後悔なんてしない。私の人生に色を与えてくれた、繁蔵様の為に。そして志乃姫。お前も私の人生に色を与えてくれた。」
「私が・・・?」
「そうだ。私には私の生きる道、場所がある。志乃姫は志乃姫の生きる場所がある。そこが、志乃姫自身を主君に生きていける場所なのであれば、志乃姫はなんにでもなれるし、なんでもできる。おなごが好きに生きられるならば、好きに生きれば良いではないか。自分を主君にし、自分の人生を生きれば良いではないか。」
「自分が主君・・・・。」
私は繰り返した。
美弥姫は笑ってうなずいた。
「もう間もなく戦が始まる。私はこの場所を守るために全力で戦いに挑む。そして、そんな人生を後悔などしない。」
私は・・・私には分からない・・・!
「美弥姫、お願い、聞いて!未来の文献ではね、このお城は謀反で焼け落ちたって書いてあるの!このまま戦に勝っても、このお城は・・・・!」
私は美弥姫の着物をつかむと、思わずそう言っていた。
美弥姫は一瞬驚いた顔をしたけれど、優しく私の手を握った。
「そうか。ずっとそんなことを抱え込んでいたのだな。」
「美弥姫・・・・・。」
「謀反・・・か。そうだな。繁蔵様のやり方ではいつ謀反が起きてもおかしくないだろう。だが、それを防げるよう私は私のやるべきことを精一杯やる。今は、目の前の戦だ。」
美弥姫の手に力がこもった。
「私は、私の人生を繁蔵様に捧げ生きる。たとえ何が起きようと・・・。志乃姫が故郷に誘ってくれたことは本当にうれしい。だが、私の決めた私の生きる道、分かってほしい。」
「・・・・・・・。」
私は黙って美弥姫の手を握り返した。
なぜだか涙が溢れてきた。
間もなく戦の日がやってきた。
お城の前には武装した沢山の人、人、人だった。
私は美弥姫にもらったあの髪飾りをつけてもらって、必死に美弥姫を探した。
美弥姫は先陣と呼ばれる場所で、馬に乗っていた。
その姿はとても綺麗で、私の選んだ髪飾りをつけて、二枚の布を足した綺麗な着物を着て、甲冑を体に着て大きななぎなたを持っていた。
大きな声で指示を出していた美弥姫が、私の方を見た。
私は、必死で手を振った。
「美弥姫、私、待ってるから!」
美弥姫が大きく手を振り返してくれる。
「志乃姫、必ず戦果をあげて戻ってくる!」
美弥姫の言葉に、私はうなずくことしかできなかった。
私には、もう何も言えなかった。
そして一行は、戦に向かっていったのだった。
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