ロリータ少女と戦姫

Emi 松原

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ロリータ少女と戦姫

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戦に勝つって、喜んでいいの?

 それから私は、毎日聖花さんに作法を習って過ごしていた。
 聖花さんは、勉強以外にも色んなことを教えてくれた。
 繁蔵様が子供のころはとてもやんちゃで、城でも手がつけられなかったこと。美弥姫を妻にすると言った時の城の皆の驚き。美弥姫の破天荒な行動にみんなが戸惑ったこと。
 聞いていてとても楽しかった。聖花さんも、懐かしんで笑っていた。
 だけどその後には、二人とも黙ってしまう。
 だって、繁蔵様と美弥姫は、今命を懸けて戦に・・・・。
 戦って、いつ終わるんだろう?
 どうなったら帰れるんだろう?
 聖花さんに聞けるわけもなく、私はもっと歴史を勉強しておけばよかったと今更ながら思った。 

「大丈夫、もうすぐきっとお二人は戻られますよ。」
 聖花さんが優しく言った。
 私は黙ってうなずいた。
 するとどこからともなく
「戦の軍勢が戻られたぞ!」
「我々の勝利だ!」
 という声が聞こえてきた。

 戦が終わったの!?
 美弥姫は・・・・・!?
「あ・・・志乃様・・・!」
 聖花さんの声を後ろで聞きながら、私は城の外に走った。

 そこで私が見たのは衝撃的な光景だった。

 沢山の怪我をした兵の人々・・・・。負傷兵の人たちが・・・・・。
 みんな血に染まっていて、やつれていた。
 私は今すぐここから逃げ出したかった。怖かった。
 だけど、必死になって美弥姫を探した。
 美弥姫、生きてるよね!?
 そして色鮮やかな着物が目に飛び込んできた。
 やっと見つけた!
 私は美弥姫の近くに駆け寄った。
 でも、私はもっと衝撃を受けた。
 
 美弥姫は、血まみれで横たわっていた。
 家臣さんたちに笑顔で話しているけれど、大怪我を負っていることくらい私にでも分かった。
 傍には繁蔵様もいた。
「志乃姫!戻ったぞ!我が桜野城の勝利だ!」
 私に気が付いた美弥姫が、笑顔でなぎなたを持った手を上げた。
 生きてる・・・・でも、あんな大怪我・・・。
 私は、静かに美弥姫のもとへ行った。
「おかえりなさい・・・美弥姫、怪我が・・・。」
「このくらいなんてことない。案ずるな。」
 美弥姫が笑った。
 どうして・・・どうしてそんな大怪我を負って笑えるの・・・・?
 涙がこぼれてきた。
 美弥姫だけじゃない。みんな怪我を負っている。
 それに・・・・どうして・・・?
 どうして帰ってきた人がこんなに少ないの・・・・?

 答えは分かっていた。多くの人が、死んだんだ。

 私は、美弥姫の前で涙を流し続けた。
「志乃姫、なぜ、泣いている。」
 美弥姫が笑って言った。
「だって・・・・・・。」
「我が桜野城を守れたのだ。どうか、笑ってくれ。」
「・・・・・・。」
 私は笑うことなんてできなかった。
 そのまま、美弥姫はお城の中に運ばれていった。
 私もついて行って、手当のための道具を運んだり、手当の仕方を教えてもらったりとなんとか自分のできる手伝いをした。
 家臣さんたちが次々に美弥姫のもとにやってきて、お祝いの言葉をかけていた。
 誰も、美弥姫を心配しているように見えない。
 むしろみんな喜んでいて・・・。
 生きて帰ってきてくれただけで嬉しいのかな?一瞬そう思ったけれど、そうは見えなかった。
 そして戸惑う私に追い打ちをかけるように、声が聞こえてきた。

「今宵は勝利の宴だ!」
「我が桜野城は永久に不滅だ!」

 宴・・・?
 沢山の人が帰ってこなかったのに?
 みんな傷ついているのに?
 美弥姫はあんなに大怪我を負っているのに?
 どうしてあんなに喜べるの?
 どうして・・・・・。
 私はまた泣きそうになって、唇をかんだ。
 すると、誰かが私の肩に手を置いた。
 そこには、優しそうに笑う繁蔵様がいた。

 私は繁蔵様に促されるまま、繁蔵様の部屋にきていた。
「・・・梅田城の正道も傷を負ったが、命に別状はない。この戦は我々の勝利だ。志乃姫、どうしてそんな悲しそうな顔をしている?」
 繁蔵様は、すべてわかっているというように、優しく言った。
「・・・だって・・・みんな怪我をして・・・帰ってきた人も少なくて・・・美弥姫もあんなに大怪我をしたのに、みんなお祝いだって・・・。」
 私は、我慢できなくなってまた涙が流れてきた。
「そうだな・・・・。これが、戦だ。」
「・・・・・・。」
「私は戦が嫌いだ。皆が傷つき、私だけが守られる。」
「・・・・・・・・。」
「だが、戦をせねばこの城は落ちる。そうなれば城下もどうなるか分からない・・・我々は、生きなくてはいけないのだ。」
「・・・・分かっています・・・・。」
「志乃姫、そなたは優しいおなごだな。」
 繁蔵様が笑った。
 私は、下を向いて泣き続けた。
「これは・・・この時代に、この城で生まれた私の罪だ。どうか、私の前では気のすむまで泣いてほしい。だが、今日の夜は祝いの宴となる。側室である志乃は、酌をしなければならないだろう。それも、戦に勝った喜びに満ちた顔で・・・・できるか?」
 私は黙ってうなずいた。
 美弥姫は、自分の守りたいもののために、あんな大怪我を負って帰ってきて、それでも笑っていた。
 私がここで泣いていても、どうにもならないんだ。
 拭っても拭っても溢れてくる涙をふきながら、今日の宴では笑おうと心に決めた。

 私は、涙が止まるとお化粧を直してもらって美弥姫の所に行った。
「うっ・・・・・。」
 そこには、痛みで苦しむ美弥姫の姿があった。
「美弥姫・・・!」
 私は美弥姫に駆け寄った。
「・・・志乃姫か・・・。どうした、そんなに慌てて・・・・。」
「大丈夫?何か欲しいものとかあったら持ってくるよ。私にできることならなんでもするから・・・。」
 今はただ、美弥姫の力になりたかった。
「そうか・・・ならば、そばにいてくれ・・・。」
「えっ・・・・それだけ・・・?」
「あぁ。それが、一番嬉しい。」
「・・・・・・・。」
 私は、黙って座ると美弥姫を見つめた。
「・・・傷を負った時、人が傍にいて自分のことを案じてくれるとは、嬉しいものなのだな。」
 美弥姫が言った。
「当たり前だよ・・・だって・・・だって・・・美弥姫は私の大事な・・・・。」

 友達だから。

 その言葉を私は飲み込んだ。
 ずっと美弥姫は、友のようだと、私と一線を置いてきたのだから。
 それは、美弥姫が生きるために選んだことだと分かっているから、私からそれを超えるわけにはいかない。
「そうか・・・。今日の夜は宴であろう。私はこの通り出席できぬ。志乃姫が祝いの酒を注がなければならない・・・。できるか?」
 美弥姫の言葉に、私は笑顔を作った。
「繁蔵様にも、同じことを心配されたよ。大丈夫。私、これでも少しはこの時代になじんだと思うから。」
「・・・相変わらず、無理やり笑うのが下手だな・・・・。」
 美弥姫がかすかに笑った。
 私は、その言葉でまた涙がでそうになったけれど、ぐっとこらえて美弥姫の手を握った。
「本当に大丈夫だよ。だから、早く元気になって。そうだ、元気になったら、また城下町に連れて行ってよ。きっとみんな美弥姫を心配しているだろうし、一緒に買い物もしよう。」
 一生懸命言った私の手を、美弥姫が小さく握り返した。
「そうだな・・・・。楽しみだ・・・・。志乃姫・・・ありがとう・・・・。」
 そう言うと、美弥姫は寝息を立て始めた。
 起こしたらいけないと思って、私はそっと部屋を後にした。

 夜、私は宴の席でみんなにお酌をしてまわっていた。
 皆戦に勝ったことで高揚していて、次はどこを攻めるべきだと盛んに話している。
 私は、ただただ笑った。
 それは、私にとって不本意なことだった。だって、私は戦が嫌いだから。
 だけど、今私が美弥姫や繁蔵様のためにできることは、笑うことなんだ。
 私はチラリと繁蔵様を見た。
 家臣さんたちに囲まれて、繁蔵様も笑っている。
 だけどその笑顔は・・・・私と同じでつくって笑っているように見えた。

「志乃姫、覚悟----------!!」

 突然、広間に私の名が響いたと思うと、私の目の前に矢が迫っていた。
 ・・・繁蔵様が暗殺されそうになった時と同じだ・・・・。
 こういう時って、本当にスローモションに見えるんだ・・・・。
 私、死ぬの・・・・?
 動けるわけもなく、目も閉じることもできなかった。
「志乃!!」
 繁蔵様の声が聞こえた。

 気が付いたら、私は林之助さんに抱えられていた。
 林之助さんが助けてくれたんだ・・・・。
「あ・・・ありがとうございます・・・・。」
 私は無表情の林之助さんに言った。
「これが私の役目ですので、礼など不要です。」
 林之助さんは表情を変えずに私をおろすと、いつの間にかそばに来ていた繁蔵様の前で膝をついた。
「林之助、この手口、この前の暗殺者と同じだ。・・・内部に内通者がいるに違いない。我が姫を狙うなど、言語道断。調べつくすんだ。」
「ははっ!」
 林之助さんは、あっという間に姿を消してしまう。
「志乃、怪我は!?」
 繁蔵様が慌てている様子で私に聞いた。
「大丈夫です。」
 私はなんとか笑顔を作った。

「戦に勝った日になんてことだ・・・。」
「内通者と言っておったな・・・。」
「仕方あるまい。繁蔵様は兵力をもちながら戦を積極的に行わないのだから、反発するものもおろう・・・・。」

 広間がざわざわしていた。
 私のせいかな・・・?
 どうしよう・・・。
 そんな私の前に、繁蔵様が立った。

「皆、せっかくの勝利の美酒の最中に見苦しいものを見せてしまったな。仕切り直しだ。どんどん飲んでくれ!」
 繁蔵様が胸を張って、威厳をもって言った。
 ほどなくして、宴は再開された。
 美弥姫も、繁蔵様もすごい。
 空気を一瞬で変えてしまう。
 私は深呼吸をした。
 今、私にできること・・・・・。
 私は、お酒の入った壺を持った。
「志乃、今日はもう休んでもいいのだぞ?あんなことがあったのだから・・・。」
 心配そうに私を見た繁蔵様に向かって、私は笑顔をかえした。
「林之助さん、それに、繁蔵様が守ってくれたから、もう大丈夫です。美弥姫のため、私も何かできることをしたいんです。」
 私の言葉に、繁蔵様が微笑んだ。
「志乃は強いおなごだな。」
 私は目を見開いた。
 私が・・・強い・・・?
 繁蔵様は、私に笑いかけると元の場所に戻ってしまった。
 私は、慌ててまた笑顔でお酌をしてまわった。
 勝利の宴は、朝方まで続いた。

 目が覚めた私は、真っ先に美弥姫のもとへ向かった。
 起こしたらいけないと思って、そっと部屋の中に入る。
「志乃姫か。昨日は大変だったと聞いた・・・・。大丈夫か・・・?」
 反対側を向いて横になっていた美弥姫が私の方に体を向けながら言った。
「あ・・・ごめんね、起こしちゃった?」
「いや、痛みであまり眠れなくてな。」
「そっか。昨日、手当の方法を教えてもらったから・・・下手だけど、包帯を変えようかと思って・・・・。」
「そうか、それは有り難い。」
 私は慣れない手つきで、包帯を変えていく。
 改めて手当をしていると、美弥姫がどれだけ大怪我を負ったかが分かった。
 現代だったら、縫合とか痛み止めとかあるんだろけど・・・。
 美弥姫は、黙って耐えている。
「これでいいかな・・・・?」
 なんとか手当を終えた。
「ありがとう。志乃姫。」
 美弥姫が言った。
 私は首を振った。
「こんなこと、いくらだって・・・・・。」
「そうか。志乃姫、ここへ来て随分と強くなったんだな。」
「・・・・昨日、繁蔵様にも同じことを言われたよ。昨日、私、殺されそうになったの。」
「あぁ。聞いている。ここへ来てすぐの頃のお前だと、今日も部屋で震えていたであろう。」
「・・・・私より、美弥姫や繁蔵様のほうが・・・・・。」
 そう言った私に、美弥姫が手を伸ばしてきた。
 その手をしっかりと握る。

「暖かい手だな・・・。それに力強い。志乃姫、お前は確かに強い。私や繁蔵様と比べるのではない。己自身と比べるのだ。」

「私自身・・・・。」
「あぁそうだ。私と繁蔵様が胸を張って言おう。志乃姫、お前は強い。」
 私は美弥姫の手を握ったまま、また涙が出てきた。
 昨日の宴の後私は泣かなかった。
 だけど本当はとても怖かった。
 そんな私が強いなんて・・・・。
「私、こんなに泣き虫なんだよ?」
「それは、志乃姫が優しい証拠だ。」
 美弥姫の優しい言葉。
 美弥姫の方が辛いはずなのに・・・・。
「美弥姫も、とっても優しいよ。いつも、私の心を楽にしてくれる。」
「私が・・・優しいか・・・。そんなこと、初めて言われたな・・・・・。」
 美弥姫が微笑んだ。

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