ロリータ少女と戦姫

Emi 松原

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ロリータ少女と戦姫

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近づく時。帰る覚悟の時。

 その日から、私は毎日美弥姫のそばで手当てをして、ずっとそばにいた。
 お城の中では、現代で言う取り調べみたいなのが行われていたみたいだけれど、私にはそれを聞く余裕も暇もなかった。
 だけど、正直そんなことどうでもよかった。
 日に日に美弥姫が回復していたから、私にはそれが何よりも嬉しかった。
 美弥姫は、もう自分で起き上がれるようになっていた。
 ある日、早く体を動かさないとなまってしまうと無理矢理動こうとする美弥姫をとめて、私は美弥姫の食べた食事の片付けの為にお膳をもって廊下を歩いていた。
 すると、どこからともなく家臣さんらしき男の人の声が聞こえてきた。
 その声が怒っている様子だったから、私は思わず立ち止まった。

「今なら、この程度の城なら落とせるはずだ。なぜ繁蔵様は出撃の命を下さない!」
「その通りだ!桜野の名を広げ、一気に領土を広げる潮時ではないか!」

 ・・・・家臣さんたちが、繁蔵様に怒ってるんだ・・・・。
 でも、今やっと美弥姫が治ってきたのに、またすぐに戦をしようなんて・・・私には分からないよ・・・。

「確かに今回の戦で多くの兵を失った。だが、梅田と手を組めば、一気に攻め入ることができるというのに・・・!なんともぬるいお方だ。殿という人は、もっと残虐非道であるべきだ!!」
「・・・仕方あるまい。だが、戦嫌いの殿様ではこの乱世は生きていけぬ。唯一、美弥様が戦に熱心なことだけが救いと言えよう。だが、美弥様といい、殿様といい本当に変わっているお方だ。我々には理解できぬ。」

 理解できないのは、あなたたちだよ・・・・。
 だけど、家臣さんたちはみんな同じ考えなんだろうな・・・・。
 戦が終わった日私が殺されかけたことで、今内通者の人を探しているみたいだけれど・・・。
 これじゃあ、城のみんなが敵みたい・・・・。

 家臣さんたちの足音が聞こえてきて、私は慌てて歩き出した。

「志乃姫、また浮かない顔をしているな。」
 美弥姫が布団の上で座って言った。
「・・・・うん。」
「言ってみろ。」
「今日、家臣さんたちの話が聞こえちゃって・・・。みんな、今攻め入るべきだとか、もっと繁蔵様は残虐になるべきだって・・・・。」
「なんだ、そんなことか。」
「そんなことって・・・・。」
 笑っている美弥姫を見て、私は戸惑った。
「繁蔵様が頭首になってから、皆同じ考えであろう。乱世のこの時代に、あんな頭首など見たことがないからな。」
「でも・・・・私も戦は嫌いだよ・・・・。」
「・・・そうか。繁蔵様の気持ちを分かってくれるか。」
 私は黙ってうなずいた。
「私も、そんな繁蔵様の心を慕っている。だからこそ、私は戦姫となったのだ。先陣をきり、何ものも容赦なく切り殺す残虐非道な百戦錬磨の姫とな。」
「繁蔵様を慕ってるからこそ・・・?」
「そうだ。私が表立って繁蔵様に同意してしまうと、それこそすでにこの城はすでに陥落していよう。私が戦で戦果をあげることで、この城を保っているのだ。」
「美弥姫も、本当は戦が嫌い・・・?」
「・・・・どうだろうな。私には戦を否定することはできない。敵も味方も、多くのものをこの手で殺めてきたのだから・・・。」
「・・・・・・・私、家臣さんたちが怖いよ。」
「なぜだ?」
「だって・・・みんな繁蔵様の前では笑顔で頭を下げているのに・・・本当はみんな敵みたいで・・・。」
「・・・この乱世の時代、我々は味方など望めぬよ。」
 美弥姫は私に笑いかけながら言った。
 悲しいな・・・・。
 ・・・あの家臣さんたちの怒り方・・・本当にいつ謀反が起きてもおかしくないんだ。
 私は時がくれば元の世界に帰すと天狗が言った。
 だけど、美弥姫と繁蔵様は・・・・。
 謀反って、殺されちゃうんだよね・・・・?

「志乃姫、そんな顔をするな。」
 美弥姫が笑顔のまま言った。
「そうだ。今晩、星見にでも行こうではないか。そろそろ正道も出てくる頃だろう。体を動かさないと、このままでは退屈でしょうがない。」
「星・・・うん。行こう。でも、無理はしないでね。」
「案ずるな。こんな怪我など慣れている。」
 私は、なんとか笑顔でうなずいた。

 その日の夜、私と美弥姫は天狗岩の近くまでやってきた。
 美弥姫はなぎなたを持っている。
 天狗岩の前には、正道さんがいた。久しぶりに会う。
 正道さんの腕にも、包帯がまかれていた。
「正道、覚悟!」
「美弥、覚悟!」
 二人は同時に動いて、いつものように刀となぎなたで格闘をはじめた。
 星を見に来るって言ったのに・・・。
 だけど、私はあの二人が意味もなくやりあっているわけではないということが今さら分かっていた。
 表立っては敵同士の二人。あれが、二人の友情の形なんだ。
 私は、二人の格闘の邪魔にならないように座り込んで空を見上げた。
 この時代に来て、ほとんどお城の中で過ごしていたから、ゆっくりと星を見るのは初めてだ。
「わぁ・・・・綺麗・・・・!!」
 私は、空一面の星空に感動した。
 手を伸ばしたら星に届きそうで、思わず手を伸ばす。

「待たせたな。やはり、体がなまってしょうがない。」
 美弥姫が、私の隣に座りながら言った。
 反対側の隣には正道さんが座る。
「あの・・・怪我は大丈夫なんですか?」
 正道さんに聞いた。
「このくらい、なんてことない。俺は美弥と違って先陣をきるわけでもないからな。次の戦に向けて、万全に整えないと。」
「梅田城でも戦の話が?」
「桜野城の姫には教えられないな。」
 正道さんが笑って言った。
 そして、三人で星を見上げた。
「私、こんな満天の星空初めて見たよ。」
「志乃姫の故郷では、星が見えないのか?」
 美弥姫が私を見た。
「そんなことないよ。だけど、周りに明かりが多いから、小さな星は見えないんだ。」
「そうか。なら星見に誘ってよかったな。星などに興味はないかと心配したが、喜んでくれているようで何よりだ。」
「うん。ありがとう。美弥姫は、星を見るのが好きなの?」
 私は美弥姫に笑いかけた。
「星のことに詳しくはないが、いつも正道と刃を交えた後はこうして星を見て体を休めているのだ。」
 美弥姫がそう言った途端、風が吹き抜けた。
 木がざわざわと音を立てる。

 カラン・・・カラン・・・・

 どこからともなく、封社山で聞いた天狗の音が聞こえてきた。

「天狗か!?」
 美弥姫と正道さんがいち早く立ち上がる。
 私も急いで立ち上がった。
 もしかして、時がきたの?
 
 天狗の足音は、私たちの近くの木で止まった。

「時が来たのか?天狗よ。」
 美弥姫が私と同じ疑問を言った。

【時は近い。もう一度問おう。志乃よ、本当に帰ることを望むのだな?】

 私は、深呼吸した。
 正直に言うとここの生活に慣れてしまって、現代の生活はとても遠いものに感じるようになってしまった。
 だけど、美弥姫と話をした時のことを思い出す。
 美弥姫は美弥姫の生きる世界が、私は私の生きる世界がある。
 私は、現実から逃げたかった。それだけだった。
 美弥姫は現実を、毎日を一生懸命生きている。
 だから、私の答えはもう揺るがなかった。

「はい。私はもとの時代に帰ることを望みます。」
 私ははっきりと、天狗がいると思われる方に向かって言った。

【そうか。では三日後のこの時間、この場所に来るが良い。お前を元の時代と場所に帰してやろう。】

「は・・・はい・・・。ありがとうございます・・・。あの・・・天狗さん、聞いても良いですか?」
 私は少し控えめに、でもはっきりと言った。
 これは、前に封社山から帰ってきてから色々あって、また天狗に会ったらどうしても聞いておきたい事だった。

【言ってみろ。】

「えっと・・・私は、確かにこの天狗岩で他の世界に行くことを望みました。だけど、どうしてそれを叶えてくれたのですか?」

【見てみたかったからだ。お前がこの時代で何を思い生きるのか。】

「・・・・・・。」

 カラン・・・・カラン・・・・・

 私が何も言えないまま、天狗の足音は遠ざかって行ってしまった。
 あと三日・・・。
 ついに、現代に帰るんだ。
 私の頭の上で、残り少ない桜が散っていた。

 城に戻った私たちは、三日後に帰れることをすぐに繁蔵様と聖花さんに報告に行った。
「そうか。ついに故郷に戻れるのか。喜ばしいことだが、寂しくなるな。」
 繁蔵様が優しい笑顔で言った。
 聖花さんもうなずく。
「短い間であったが、志乃姫と出会えたことで、我々の人生はとても楽しいものとなった。どうか、故郷に戻っても元気で生きてくれ。」
 繁蔵様の言葉に、私はうなずいた。
「本当にありがとうございました。繁蔵様のおかげで、私はこの場所で生きることができました。私も、一生忘れません。」
 今度は、繁蔵様が満足そうにうなずいた。
「林之助さんにもお礼が言いたいんですけど・・・・。」
 私はそう言って辺りを見回してみた。
「林之助なら、ちゃんと聞いている。案ずるな。」
 美弥姫が言った。
「しかし、志乃姫はどこに行ったことにしましょう?」
 聖花さんが言った。
「そうだな・・。残りの三日で考えることにしよう。」
 繁蔵様が言った。
 私はもう一度繁蔵様と聖花さんにお礼を言うと、美弥姫と一緒に部屋に戻った。

「帰る決意をしたのだな。」
 美弥姫が真剣な顔をして言った。
「うん。私ね、現実から逃げたかったの。私の望みが叶う場所に行きたいって、そう思ったんだ。そしたら、天狗に連れてこられたの。」
「現実からはいつだって逃げたくなるものだ。よく決断したな。」
 美弥姫が優しい笑顔で言った。
 もう、こうして美弥姫と話すこともなくなってしまう。
 そう思うと寂しかった。だけど、私は帰ることを決めたことに後悔をしていなかった。
「美弥姫が、沢山教えてくれたんだよ。だから、私は帰る決意ができた。自分の人生を、自分の生きる場所で後悔しないように生きてみようって思ったんだよ。」
 私は美弥姫に笑いかけた。
 美弥姫が笑って、力強くうなずいた。
 そして私と美弥姫は一緒に眠りについたのだった。

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