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龍神様はチョコレートがお好き

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星蘭町~龍神の加護を持つ者~


 新学期が始まり、高校生になる前日、俺は、父親の車に、荷物をのせて、車の助手席に座り、外の景色を眺めていた。
 車は、どんどん、見知らぬ山に、入っていく。
 木ばかりで、方向感覚が、なくなっていく気がする。
 そして、その道中の、道が少し開けたところで、車が止まった。
「優矢、降りるんだ。父さんが送れるのは、ここまでだ。」
「えっ・・・。」
 俺は、問答無用で降ろされて、荷物を出しはじめた。
 すると、小さな軽トラックが、俺たちの来た、反対方向の道から、山道を、超えてきた。
 軽トラックは、俺たちの前で止まる。
 運転席の、扉が開いて、一人の、老人が、降りてきた。
 とても、威厳のある風格をしていて、白髪だけど、顔はまだまだ、若く感じる。
 父親が、その人に、頭を下げた。つられて、俺も頭を下げる。

「久しぶりだな。」
「はい・・・このたびは、ご迷惑をおかけします・・・。」
 なんて、珍しいものを、見ているんだ。父親が、しおらしくしている姿なんて、生まれて初めて見た。それだけ、この老人は、偉い人なんだろうか?
「よく決断した。・・・・その子が、優矢くんか。」
 老人の視線が、俺に移る。
「あ・・・はい。そうです。」
「優矢、この方は、龍野派道場の師範の人で、龍野武志さんだ。多くの人から、師範として慕われている。師範と呼べばいい。この人と、光龍神社の、神主さんが、今日から、お前の、親代わりだ。」
「・・・よろしくお願いします。」
 俺は、おずおずと、頭を下げた。

 そのまま、俺たち三人は、荷物を、軽トラックの後ろに運んだ。
「じゃあ・・・元気でな。メールするから。」
 父親が、今まで、見たことのない、顔をした。
 悲しみなのか、心配なのか、苦しみなのか、分からない。
「うん・・・父さんも、体に気を付けて・・・・。」
 俺は、どういう顔をしたら良いか、分からなくて、少し、下を向きながら、言った。
 そして、促されるまま、軽トラックの助手席に乗り込み、シートベルトをつける。
 師範が、運転席に、乗り込んできた。シートベルトをつけて、エンジンをかけると、軽トラックは、方向転換して、走り始めた。
 ちらりと、窓から、父親を見たけれど、車で、姿は見えなかった。

「よく来たね。慣れないことも、多いと思うが、何かあったら、なんでも言ってくれ。」
 師範が、優しく、声をかけてくれた。
「はい。ありがとうございます。」
「君は、自分の魂について、星蘭町について、どれくらいのことを、聞かされているかな?」
「いえ・・・ほとんど、何も分かりません。絵本を、読まされただけです。」
「そうか。では、星蘭町への道中、星蘭町について、少し説明しておこう。星蘭町の中心に、優矢くんが、これから通う、クラウンアカデミーが建っている。昔の、城の跡地は、全て、クラウンアカデミーの、敷地内だ。」
 ガタガタと、山道を走りながら、師範が、説明してくれる。
「そして、その場所を中心に、線で繋ぐと、星型になるように、神社が建っている。星のてっぺんにあたる場所・・・アカデミーから見て、北側に、光龍神社と、我が龍野派道場がある。全ての力の、中枢だよ。龍神様を祀っている。光龍神社は、黄色い袴で、龍野派道場は、緑色の袴が特徴だ。」
 山道が、段々と、下り坂になってきたのが分かる。
 師範は、俺が聞いているのを、チラリと確認すると、説明を続けた。
「そして、西の入り口を守っているのが、相伝神社。お稲荷様を祀っていて、橙色の袴が、特徴だ。今は、豊作の神様として、お参りする人が多い。反対の、東の入り口を守っているのが、犬神様を祀っている、翠生神社。青い袴が特徴だ。学問や、勝負事の、ご利益があると、学生がよく訪れている。星の右下・・・東南に建っているのが、礼安神社。鬼神様を、祀っている。この神社は、昔封印した、鬼を祀っていると言われていて、厄払いのご利益があり、紫の袴が特徴だ。そして最後に、南西の、黎明神社。縁結びの神様を祀っていて、ここで結ばれた縁は、強く結ばれると、言われている。桃色の袴が、特徴だよ。まぁ・・・口で言われても、あまり理解できないと思うから、生活と共に、慣れていけばいい。」
「あ・・・はい。」
「これらの神社は、昔、光龍神社を中心として、城を守り、どんな時代も、落ちることなく、城を栄えさせたと、言われている。その歴史のせいか、世で言う、「お金持ち」の人たちが、集まってくる。」
「クラウンアカデミーは、そんな人たちが、通っているんですよね?」
「あぁ、そうだよ。だから、なじむのが、難しいかもしれない。だが、うちの孫も、全ての神社の、加護を受けた者も、あの学校に、通っている。心配しなくていい。」
「そうですか・・・。」
「他に、何か、聞きたいことはあるかい?」
「あ・・・神社の袴って、普通、赤色ですよね?赤以外の、神社なんて、初めて聞くので・・・。」
 突然の問いに、俺は、なんとも間抜けな、質問をした。
 魂のことも、生活のことにも、何も関係ないのに・・・。
 だけど、師範は、優しい笑顔で、答えてくれた。
「神社の袴の色は、普通は、神社庁・神社本庁が、定めている赤だが、この町は、普通の世界と、少し離れているから、創設当時のままなんだよ。赤に定められたのも、明治時代と、言われているんだ。」
「へぇ・・・・そうなんですね。」
 俺は、間抜けな返事しか、できなかった。

 車は、山道を抜けていた。
 町が、目の前に広がる。
「わぁ・・・。」
 想像していた町と、全然違った。
 俺は、田舎の町を、想像していたんだけど、すごく、高級そうな大きな家が、沢山建っている。町自体は、山に囲まれていて、自然豊かで、閑静な町といった感じだ。
 そのまま、町の中を走る。
 ぼーっと、外の景色を見ていると、軽トラックが止まった。
「ここが、光龍神社の、正面だよ。」
「わぁ・・・すごい・・・。」
 山の中を、続く階段。
 周りを囲む、木々たち。
 風で、ざわざわと揺れている。
 そして、その先に、大きな神社があるのが分かった。
「この、正面の道は、参拝客の方々が使うから、普段は、裏道から、出入りするんだ。」
 師範が言うと、また、軽トラックが、走り始めた。
 裏の山道を通って、神社に向かって、あがっていく。
 そして、神社の裏に、軽トラックが、止まった。
 降りるように、促されて、俺は、一歩、外に出た。
 その瞬間、風が、吹き抜けた。
 なんだか、今までに、感じたことのないような・・・胸が、ざわつくような、そんな感覚がしたけれど、それは全く、嫌なものじゃなくて、なんとも言えない感覚に陥った。
「この神社の、結界は強い。優矢くんも、過ごしやすいはずだ。」
 俺を見て、師範が言った。
 そして裏口(普段はここが俺の出入り口)から、荷物を中に運ぶ。
 
「ここが、優矢くんの部屋だよ。」
「ひ・・・広いですね・・・。」
 俺の目の前には、一人部屋には、有り余るくらいの、畳の部屋が、広がっていた。
荷物を置いて、制服だけは、しわになったらいけないから、近くに用意してもらっていた、服かけに、ハンガーでかける。学園は中高一貫だから、俺は、転校生みたいな扱いなんだろうな・・・。そんなことが、頭をよぎった。
制服は、ベージュのブレザーに、ズボン。ブレザーには、立派な校章が刺繍してある。だけど、大事な式の時以外は、上着は、基本的に、自由らしい。

「必要だと思ったものは、すぐに、言ってくれ。じゃあ、少し、この近くを、案内しようか。今日は、私の孫と、明は、学校に行っているんだ。生徒会の、仕事があるらしくてね。もうすぐ、帰ってくるだろう。」
 俺の準備が、一通り終わったのを、見計らったように、師範はそう言うと、俺を、手招きした。
 俺は、無言で、師範に続く。
 長い廊下を、歩いていると、黄色い袴を着た人たちと、何人も、すれ違った。
 なんでも、この神社で、修行している人達らしい。みんな、住み込みで、修行していると、師範が教えてくれた。
「この神社は、明の兄が、正当系統者なんだ。今、その子は、ここを継ぐために、町の外の、大学に、通っているんだ。明の両親は、星蘭町の外で、あやかし退治をしながら、全国を回っている。ここを継ぐ気は、ないみたいでね。滅多に、帰ってこない。」
 そんな話をしながら、神社の後ろにある、居住スペースを、案内してもらう。
 すると、一つの部屋の前で、師範が止まった。
 他の部屋より、何かが違う、そんな雰囲気がする。重たいというか、ここにいたら、いけない気がする。そんな感覚がしていた。
 部屋の上に、【龍神の間】と書いてある。
 俺は、師範を見た。一刻も早く、ここを離れたいと、思っていたから。
「ここは、【龍神の間】。この部屋は、龍神様に、選ばれし、加護をもつものだけが、入ることを許されている。だから、何があっても、この部屋には、入らないでくれ。」
「あ・・・はい・・・。」
「今、ここに入れるのは、現神主の恒夫・・・明の祖父と、明のみなんだ。」
「え・・・正当系統者の・・・お兄さんも、入れないんですか?」
「その通りだ。この部屋には、あまり、近づかない方が、いいかもしれない。」
 そう言うと、師範は、歩き始めた。
 俺は、慌てて追いかける。
「今、恒夫は、野暮用で、しばらく留守にしているが、すぐ戻ってくるだろう。」
 師範が、言った。

 一旦、外に出た俺たちは、光龍神社の隣にある、龍野派道場に、連れてきてもらった。
 とても広い。体育館以上の大きさと言っても、過言ではない。
「ここは、一階が、道場になっていて、二階が、居住スペースに、なっているんだよ。」
 そして、さらに、裏にまわる。
 そこには、とても綺麗な、山道が広がっていた。
「この山は、龍神様の、領域の山だよ。篤森山の一部だ。あまり奥に入ると、迷ってしまうから、行き過ぎないように。」
「はい。」

 一通り案内してもらった後、俺は、みんなが集まって食事などをするという、とても広い和室で、お茶を頂いていた。
 今日から、俺は、ここで暮らすんだ・・・。
 そんな実感が、少しずつ湧いてきた。

「・・・そいつが、お殿様の、生まれ変わり?」
 突然、後ろから、女の人の声がして、俺は、慌てて振り返った。

 部屋の入り口に、制服を着た、女の人と、男の人がいた。
女の人は、胸くらいある、ストレートの髪の毛を、無造作にたらしている。白いシャツに、鮮やかな、黄色いベストを着ていて、ピンクのスカーフを、胸元で、リボンにしている。リボンの真ん中には、金色で、龍が掘ってある、飾りがついていた。少し、派手な印象だ。目元は、少しきついけれど、端正で美人だ。
 男の人は、しっかりと、ブレザーの制服を着ていて、ヒモタイをしている。その飾りは、女の人の、龍の飾りと、同じものだった。
気難しそうな、顔をしていて、少し怪訝そうな顔で、俺を見ていた。

「あぁ、おかえり。ちょうど良かった。二人とも、座りなさい。優矢くん、紹介しよう。この女の子が、明。龍神様に愛され、龍神様の加護を得た、かつて最強と言われた、巫女様の、生まれ変わりだ。今は、クラウンアカデミーで、クラス委員長をしていて、生徒会にも、所属している。そして、この男の子が、私の孫の、幸(こう)多(た)だ。光龍神社の、巫女様を守る、我が道場の、正当系統者。龍神様の、加護を受けた目を、持っておる。クラウンアカデミーでは、書記をしていて、明と同じで、生徒会にも、所属している。この二人が、普段、一番に、優矢くんを、守ることになる。」
「あ・・・・あの・・・中山・・・優矢です。・・・よろしくお願いします。」
 俺は、机を挟んで座っている、二人に、頭を下げた。
 幸多さんは、少し頭を下げて、かえしてくれた。
 明さんは、不機嫌そうな顔で、俺を見ている。
「守る・・・・ね。確かに、あんた、珍しい、不思議な魂を持っているわね。まぁ、あんまり、興味ないんだけどね。新学期から、私たちは、あんたの、世話役でもあるから。」
「・・・あ・・・お願いします・・・。」
 明さんの、不機嫌さに、俺は、少し緊張して、答えた。
「明、分かっているね。優矢くんは、今まで、外の世界で、生活してきた。様々な魂が、多く混在する、外の世界では、今まで、魂の性質は、怪現象を、引き寄せることくらいだっただろう。だが、成長するにつれ、優矢くんの魂は、強い光を発している。このままでは、その魂を欲している、欲望にかられた者たちに、その命を、狙われるだろう。それに、陰の性質を持った、あやかしたちからも、狙われる。それを守護できるのは、お前たちだけなんだ。」
「・・・・分かっています。嫌というほど、【龍神の間】で、おじいさまたちから、説明を受けましたから。」
 明さんが、フンッと、そっぽを向きながら答えた。
 おじいさま・・・たち?あの部屋には、明さんのおじいさんと、明さんしか、入ることができないはずだ。他に、誰のことを、言っているんだろう?
 そう思ったが、俺は、何も言えなかった。
「・・・学校の説明。明が、やりたがらないだろうから。」
 幸多さんが、言った。
 幸多さんの雰囲気は、なんというか、とても近寄りがたくて、近寄るのが、なぜだか、怖く感じてしまう。初対面だからかもしれないけれど、話すのも、とても怖い。それほど、威圧感があった。
「は・・・はい。よろしくお願いします。」
 幸多さんは、学校の構内の地図と、授業内容の紙を見せながら、色々と説明してくれた。
 俺は、パンフレットを見て、多少の知識はあったけど、改めて、クラウンアカデミーの、桁外れた設備に、驚いた。
 校庭は、一般の学校の何倍あるんだ、ってくらい広いし、校庭とは別に、乗馬専用の、芝生があるし、花が、沢山咲いているという、庭園まである。校舎の中も、凄い。もはやレストランの学食、研究所並みの図書館、広い音楽室に、茶室。目がまわりそうだ・・・。
授業も、普通の高校とは、全く異なっていた。一般的な勉強の他に、お茶に生け花、習字に舞踊、武術といった、和の勉強を始め、英会話に経済、テーブルマナー、絵画にソシアルダンス、馬術といった、世界の、いわゆる、セレブと呼ばれる、人間たちとの、交流に欠かせない、勉強が、沢山。俺、大丈夫か?
 でも・・・こんなに広くて、設備が整っているのに、クラスは、一学年に、一クラスしかない。
「これが、一通りの、学校の説明。」
 幸多さんが、地図を閉じた。
「後、一番重要な、校則。俺たちの学校は、学校内では必ず、苗字ではなく、名前に、さんをつけて、呼ばないといけない。例えば、俺は普段、明のことを、明って呼んでいるけれど、学校内では、明さん、と呼ばないといけない。お前だったら、優矢さん。俺は、幸多さん。いい?」
「はい。でも、どうしてですか・・・?仲が良い人同士でも、そうなんですよね?」
「この学校は、名の知れた企業や、有名な財閥、つまり、金持ちで、有名な奴が多い。ライバル企業や、自分よりランクの低い家、高い家、という人間が、必ず出てくる。そんなことが原因で、いじめとかが、起こったりしないように・・・っていう為の、校則。」
「あ・・・なるほど。ありがとうございます。」
「ねーーー。もう、そのくらいでいいでしょ。私、いつまで、ここにいればいいの?」
 明さんが、怒ったように言った。
 俺・・・この二人から、あまり、歓迎されていないようだな・・・。
 そりゃ、そうだよな、初対面の相手を、守れなんて、言われているんだから・・・。
「じゃあ、明日から、学校だから。よろしく。」
 そう言うと、幸多さんは、立ち上がった。明さんも、立ち上がる。
「よろしくお願いします・・。」
 俺は、おずおずと、言った。
 二人は、部屋から、出て行った。
「気を悪くしないでくれ。あの二人は、誰に対しても、あんな態度なんだ。それも、致し方ない。強い力を持つものは、孤独を感じるものなんだ。時間がたてば、きっと打ち解けられるよ。」
 師範が、優しく、言ってくれた。
 俺はうなずくと、その後も、しばらく、師範と、話していた。

「あいつ、どう思った?」
 廊下を歩きながら、明が、幸多に言った。
「別に何も。」
「何それ。」
「本当のことだ。」
「・・・なんか怒ってる?」
「別に。でも、不機嫌ではある。」
「なんで?」
「あいつが、お前と、一つ屋根の下に暮らすのが、気に食わないから。」
 幸多の、そっけない言葉に、明は、笑顔になると、幸多に飛びついた。
「おい。神社の中だぞ。」
「知らなーい。いいじゃん。黎明神社なんて、邪な恋愛、結婚の願いを持った人も、多く来るじゃん。」
「お前の感情も、邪か?」
 幸多の言葉に、明が、真顔になる。
「私の、幸多のへ気持ちが、そんなものだと思う?」
「思わないよ。悪かった。怒るなよ。」
「分かったなら、よろしい。」
 明は、また、笑顔になると、幸多の腕に、絡みついて、歩き始めた。
 そのまま、明の、部屋の前に、ついた。
「この後、どうする?」
 幸多が、明に聞いた。
「どうするって・・・。いつも通りで、いいんじゃない?まだ、おじいさまは、戻ってないし。私は、【龍神の間】に、行くよ。幸多は、その間に、先に、修行を始めてて。私が、【龍神の間】から戻ったら、篤森山で、一緒に修行しよう。」
「分かった。」
 そう言うと、幸多は、明に、軽く手を上げて、歩き始めた。
 それを見て、部屋の中に入る、明。

 明は、黄色い袴に着替えると、【龍神の間】へと向かった。
【龍神の間】の、襖の前で、正座をする明。
「失礼します。」
 そう言うと、頭を下げる。そのまま、襖に手をかけ、二回に分けて襖を開けた。また、頭を下げて礼をする。にじって部屋へと入り、襖を閉めて、足を揃えて立ち上がると、部屋の中央にある、座布団まで歩いた。
 正座をして、座る明。目の前の机には、本や、ノートが置かれている。八畳ほどある部屋の周りには、本棚があり、古い書物が、沢山置かれている。明は、目をつむって、精神統一を始めた。
「来たようだな。輝く魂を、持つものが。」
 ふと、誰もいない部屋から、声がした。目を開ける明。すると、明の周りを囲むように、四人の人が、立っていた。いや、正確には、人ではない。この神社に祀られている、四体の龍が、人型として、立っているのだ。
 ここは、四体の龍神様と、交信できる力を持ち、代々、認められた者だけに、受け継がれてきた、【龍神の間】。
 明に話しかけたのは、赤い色をまとった、火龍だ。他に、青い色の水龍、緑色の地龍、そして、黄色の雷龍がいる。雷龍だけが、髪の長い、女の格好をしている。
「・・・そうですね。」
「どうした。そんな、不機嫌な声を出して。」
 火龍の声が、明の心の中だけに、響く。
「今のご時世、魂の穢れを持たない方が、おかしいものです。現に、あの、お殿様の生まれ変わりも、見たことのない、不思議な魂を持っているのは、事実でしたが、穢れもありました。それに、今まで、外の世界で生きてきて、無事だったのです。それを今更、この星蘭に閉じ込めてまで、守る意味が、あるのでしょうか。」
「明。あなたは、分かっているはずです。私たちからの言葉です。それは、【動乱の幕は上がった】です。この意味、分かりますね。」
 女の恰好をした、雷龍が言った。
「外にいたとて、いずれ、その魂は狙われ、奪われるか、自分が、闇の魂を持つこととなる。この世界に、影響を与えるほどの魂。見物するのも、また一興だ。」
 火龍が、続けた。
 他の二体の龍神は、黙って、それを見守っていた。

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