龍神様はチョコレートがお好き

Emi 松原

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龍神様はチョコレートがお好き

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龍神の子供~新学期の始まり~

部屋を片付けるのも、ひと段落した俺は、暇になってしまった。
ちょっと、外を見てみようと、裏口に向かう。
外に出ると、そこには、明さんと、幸多さんがいた。
とっさに、緊張して、体が硬くなる。
明さんは、黄色い袴を着ていて、幸多さんは、緑の袴を着ていた。
「・・・何?」
 明さんが、言った。
「あ・・・いや・・・その・・・暇になったんで、外の空気でも、吸おうかと・・・。」
「ふーん。私達、今から、この山の中で、修行してくるけれど、あんたは、奥まで、入らないでよ。迷子になられても、迷惑だから。」
 明さんが、そっけなく、俺に言い返すと、幸多さんと、明さんは、目を合わせた。
 二人は、山に向かって、走り出した。一瞬で、姿が見えなくなる。
「えっ・・・?」
 突然起きた、不思議な出来事に、俺は何度も、瞬きした。
 二人の姿は、見当たらない。

「ポーー・・・・・・。」
 立ちすくんでいる、俺の耳に、動物の鳴き声かと思われる、妙な声が、聞こえてきた。
 なんだ?そう思って、周囲を探す。
「ポーー・・・・。ポーー・・・。」
 悲しそうに、鳴き続ける、何か。
 声を頼りに、大木に近づく。
「あ、あれかな?」
 大木の下に、何か、生き物がいる。
 近づいた俺は、声も出せないくらい、驚いた。
 とても小さな・・・手のひらサイズの、黄色い龍が、寂しそうに、俺を、見つめていたのだ。
「蛇・・・じゃないよな・・・・?」
「ポーーーー!」
 龍が、飛び上がった。驚いて、一歩後ずさる。
 龍は、俺の胸のあたりを、じっと見つめた後、俺の顔を、見つめた。
「ポーーー!」
 ポーと言われても、何が言いたいのか、分からない。
 そのまま、龍は俺の肩に乗っかった。
「ポーー。」
 なんだか、とても、機嫌が良さそうだ。
 懐かれたみたいだけれど、どうしよう・・・。
 その前に、この龍、みんなにも、見えるのかな?
 色々と、考えてみるけれど、答えは出ない。
「ポーーー。」
 龍が、俺のポケットに降りてきて、中のものを、出そうとする。
「あ、ちょっと待って。この中には何も・・・。」
 俺は、ポケットの中に、手を入れた。
 そこには、何粒か食べた、チョコレートの、余りが入っていた。
「え・・・これがほしいの・・・?」
「ポーーーー!」
 龍は、嬉しそうに鳴いた。
 でも、龍に、チョコレートなんて、与えていいんだろうか?
 普通、動物って、チョコレートなんて、絶対に、駄目だよな。
(パクッ)
 俺が考えている隙に、龍が、一つ、チョコレートを、食べてしまった。
「ポポポー。」
 嬉しそうに、食べている、龍。
 それを見ていると、なんだか、可愛くなってきた。
「お前、可愛いな。名前、付けた方がいいかな?ポーポー鳴くから、「ポー」でいいかな?」
「ポーーー!」
 うん、嬉しそうだ。
 ポーは、俺の肩の上を、うろちょろしている。
 でも、飼うわけには、いかないよな。俺、居候だし・・・。
 どのくらいの時間がたったのか、分からない。
 俺は、どうしようかと、ぼーっと、ポーを見つめて、考えていた。

 困って、立っていると、後ろから、明さんの、驚いた声が、聞こえた。
「あんた、それ・・・・龍神様の、子供じゃ・・・。」
 振り返ると、明さんと、幸多さんがいた。
「あ・・・あの、なんだか、懐かれて・・・。ポーって名前を、つけてみたんですけど・・・。」
 良かった。どうやら、この二人には、見えているようだ。
「懐かれた・・・!?」
 明さんが、驚きを隠せない顔で、俺と、ポーを見ていた。
 幸多さんが、小さくため息をこぼす。
「その子は、龍神様の子供だよ。子供だけど、自然神様に、変わりはない。」
 えっ?神様だって?
「ポポポー。」
 ポーが、俺の頬に、体をすりつけてきた。
 それを、明さんは、絶句して見つめている。
「あの・・・こんな状態なんですけど・・・どうしたらいいでしょう?」
 俺は、恐る恐る、二人に聞いた。
「どうしたらって・・・龍神様に、選ばれたんだから、きちんと、お世話しなさいよ。」
 明さんが、呆れたように、言った。
 そして、頭を抱えながら、神社に向かって、歩き始めた。
 幸多さんは、それ以上何も言わず、明さんに、ついていった。

「お世話しなさい・・・ってことは、一緒にいて、いいのかな。」
 俺は、ポーを撫でた。
「ポーー。」
 ポーは、嬉しそうだ。
 ポーが、龍神様だと言われても、ピンとこないけど、孤独感が、少し薄れたし、明さんも、幸多さんも、俺を、気にしてくれている様子が、分かった。
 ありがとう、ポー。
 そう思いながら、俺も、明日からの、高校生活に、備えることにした。

 広い部屋に緊張して、あまり、寝られなかった・・・。
 気が付けば、もう朝だ。
 今日から、俺の、高校生活が始まる。
 俺は、広間に行って、明さんと、神社の人達と、朝食をとっていた。
 ポーは、俺の肩で、寝ているんだけれど、明さん以外の人には、見えていないようだ。
 と、いうことは、学校の人達にも、見えないのかな?
 明さんに、聞こうとしたけれど、明さんは、朝ごはんを食べておらず、不機嫌な顔で、お茶だけを、飲んでいた。

 食事が終わり、俺は、着替えて、荷物を持つと、外に出た。
 そこには、すでに、明さんと、幸多さんが、待っていた。
「・・・おはよう。」
 不愛想に、幸多さんが、言った。
「お・・・おはようございます・・・。」
 慌てて、返す俺。
 明さんは、黙って、幸多さんの、隣にいる。
 そのまま、学校に向かうのかと思ったけれど、二人は動かない。
「・・・あの・・・。」
「何。」
 幸多さんが、俺を見る。
「学校、行かないんですか・・・?」
「行くに決まってる。今、迎えを、待ってるんだ。」
「迎え・・・?」
「明と俺の、数少ない、友人だよ。」
 そう、幸多さんが言い終えた時、車の音がした。
 俺は、向かってくる、「それ」を見て、絶句した。
 目の前に、向かってくる車は、リムジンとか、いうやつなのだ。
 なんだ、テレビでしか、見たことないけれど、確か、金持ちは、この車で、パーティーしたりするんだよな?
 そんな、訳のわからない知識が、俺の頭の中を、渦巻いた。

 車から、しっかりとした、黒いスーツ・・・タキシードっていうのか?分からないけれど、そんな恰好をした、男の人が降りてきて、俺たちに、頭を下げた。
「おはようございます。明様、幸多様。そして、優矢様ですね。はじめまして。わたくし、白川財閥の、絵里お嬢様、専用の執事、礼(れい)と申します。お話は、伺っております。どうぞ、宜しくお願い致します。」
「あ・・・はい・・・。」
 俺が、戸惑っている間に、明さんと、幸多さんは、車に、乗り込んでいる。
 俺は、礼さんに促されるまま、車へと、乗り込んだ。
なんだ・・・この空間は・・・。
 ふかふかの、ソファのような、椅子。目の前には、机。車の後ろ側には、明さんと、幸多さんが、並んで座っている。そして、俺の目の前には・・・・・。

 髪の毛は長くて、巻き髪。白いシャツに、薄い水色のカーディガン。胸元には、濃い青のスカーフを、明さんと同じように、リボンにしていて、リボンの真ん中に、二人と同じ、金色の丸い、龍が掘られた、飾りがついている。

いかにも、「清楚なお嬢様」って感じな人が、笑顔で、こっちを見ていた。

 俺は、なんというか、次元の違い?を感じて、少し圧倒された。
 言葉では、なかなか表現が難しいけれど、雰囲気から、姿勢から、笑い方・・・とにかく、本物の、お嬢様という感じだ。
「ごきげんよう。私は、白川財閥の令嬢、白川絵里です。クラスでは、副委員長をさせていただいていて、生徒会にも、所属させていただいています。優矢さん、よろしくお願いしますね。」
「あ・・・よろしくお願いします・・・。」
いつの間にか、車は、走り出していた。
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
 礼さんが、俺たちに、尋ねてきたけれど、もちろん、俺は答えられない。
「私は、いつもので。」
 明さんが、言った。
「俺は、なんでも。」
 幸多さんが、続く。
 礼さんが、俺を見た。
 固まる俺。
「優矢さんには、何か良い、ハーブティーの、ブレンドを、してあげてくださいな。私は、礼にお任せします。何か、温かくて、飲みやすいものを、お願いします。」
「承知しました。」
 礼さんが、何やら見えない所で、作業を始めたようだ。
「さて、優矢さん、二人から、私のことを、聞きましたか?」
 慌てて、首を横に振る、俺。
「あら・・・。明さん、少しくらい、説明しておいてほしかったです。」
 絵里さんが、明さんを見た。
「・・・面倒だった。」
 明さんは、外を見ている。絵里さんは、軽く、ため息をつくと、笑顔で、俺を見た。
「私は、昔、星蘭のお殿様に、愛されていたという、お姫様の、生まれ変わりです。優矢さんほどではないですが、私も、特殊な魂の持ち主です。子供の頃から、光龍神社をはじめとする、神社の方々には、とても、お世話になっています。」
「は・・・はぁ・・・。」
「学校でのことですが、優矢さん、あなたは私の、婚約者(フィアンセ)ということになっています。」
「え・・・・・えぇ!?」
 俺は、驚いた。
 初対面の人の、婚約者?
 俺は、学校で、そんな目で、見られるのか?
 俺の動揺をよそに、目の前で、絵里さんは、ニコニコしている。
 そんな絵里さんの前に、礼さんが、湯気の出ているカップを置いた。
「お嬢様には、バーベイン、ペパーミント、レモンバームをブレンドした、ハーブティーです。バーベインや、ペパーミントは、気分をすっきりとさせる働きがあり、レモンバームを加えることで、爽快感が、アップします。」
 続けて、明さんの前に、シェイクのような、少しドロドロした、茶色の液体が入った、コップを置く。太めのストローが、さしてある。
「明様には、いつもと同じ、バナナ、きなこ、ココア、卵、牛乳のスムージーです。朝、食欲のない、明様へ。朝食代わりです。」
 幸多さんには、緑の、ドロドロした液体。これ、スムージーっていうのか・・・。
「幸多様には、ほうれん草、バナナ、レモン、ヨーグルトの、スムージーを、用意しました。毎朝、早くから、修行に勤しんでいる、幸多さんに、運動すると失われやすい、鉄の補給と、疲労回復の、効果を考えて。」
 最後に、俺の前に、絵里さんと同じように、湯気の出ている、カップを置いた。
「優矢様には、オレンジブロッサム、ラベンダー、リンデン、レモンバームをブレンドした、ハーブティーを。転校初日で、不安や、心配の気持ちを、少しでも軽減できるようにと。甘い香りが楽しめる、リラックスティーになっております。」
「あ・・・・ありがとうございます・・・。」
「肩にお乗りの、龍神様には、何か、ご用意致しましょうか?」
 礼さんが、聞いてきた。
 礼さんにも、見えてるんだ・・・ということは、絵里さんにも、見えてるんだよな。
 ポーは、焦っている俺の、気持ちも知らずに、あくびをしている。
「あ・・・あの・・・昨日は、チョコレートを、喜んで食べてて・・・。」
「では、ホットチョコレートを、ご用意しますね。」
 礼さんが笑うと、一礼して、また姿を消した。
 絵里さんは、ハーブティーを飲みながら、相変わらず、ニコニコしている。
「まぁ、龍神様は、チョコレートが、お好きなのですね。」
 そんな話を、している場合ではない。
「あの・・・婚約者って・・・・。」
 困っている俺を見て、絵里さんが、真面目な顔になった。
「その方が、優矢さんの、安全の為なのです。私たちの通う学校は、目に見えない、階級があります。それは、致し方ないこと。そこで、誰かに利用される、などの問題が起きないように、私の、婚約者が転校してきた。と、いうことにするのです。それに、そうすれば、私たちが、一緒に行動できる、理由にもなります。こう見えて、白川財閥は、学校の中でも、トップの財閥なんですよ。」
 絵里さんが、にっこりと笑った。
「それに、この方法を考えたのは、明さんですしね。」
「え・・・・?」
 俺は、明さんを見た。
 明さんは、幸多さんに、もたれかかって、スムージーを、飲んでいる。
「明さんは、やる気のないように見えますが、ちゃんと、守ってくれる気は、あるんですよ。ただ、面倒くさがりなので、なんでも、私を頼ってくださいね。それこそ、前世では、恋仲だったのですから。」
 楽しそうに、絵里さんが、笑った。
 答えられないでいると、礼さんが、ホットチョコレートを、持ってきてくれた。
「ポーー!」
 ポーが、嬉しそうに、机に飛び乗った。
 やっぱり、チョコレートが、好きなようだ。
「龍神様が、チョコレートを、お好きだなんて、初耳です。明さん、知っていましたか?」
「知るわけないじゃない・・・。」
「まぁ。明さんでも、龍神様について、まだ、知らないことがあるのですね。」
「・・・・。」
 絵里さんは、笑顔で話している。
 明さんも、そっけない答えをしているけど、昨日より、雰囲気が、柔らかい。
 外に目を向けると、車が、学校の敷地に入って行っている。
 唖然としていると、車が止まった。
 いつの間にか、外に出ている礼さんが、車のドアを開けた。
 今日から、俺の通う学校・・・。
 ドラマか、映画の中に、入り込んだような、感覚になった。
 それほど、想像を絶する、大きな、外国風の、学校だったのだ。

 俺は、三人に連れられて、職員室に行った。
「では、優矢さん、また後で。」
 絵里さんは、笑顔でそう言うと、明さんと、幸多さんと共に、教室に行ってしまった。
 俺は、一人、職員室で、担任だという先生から、一通りの説明を受けていた。
 書類に、サインをしたりもする。
 担任の先生は、栄喜(えいき)先生といって、まだ若く見える、男の先生だ。
 そして、俺にずっと敬語だ。
 なんでだ・・・?
 俺は、その答えに、会話の中で、気が付いた。
 「白川財閥」「絵里さん」という言葉が、頻繁に、出てくるのだ。
 そういうことか・・・。
 俺は、絵里さんの、婚約者として、入学することに、なっている。
 それで、先生からも、こんな待遇を、されているんだ・・・。
 白川財閥、恐るべし。
 説明は、入学式の最中に、行われた。
 担任の先生が、不在でいいのかと思ったけれど、中高一貫校だし、先生の説明によると、クラス委員長達(つまり明さん達)が、仕切っているから、大丈夫なんだそうだ。
 入学式が終わった時間を、見計らって、俺は、教室に連れていかれた。
 俺は、一気に緊張した。
 転校なんて、初めてだ。
 これから、人前に、さらされるんだ。
 どうしたらいいんだ・・・・。
 そんな、俺の心情を無視して、栄喜先生は、俺を連れて、教室に入った。
 一気に、教室が静まり返る。
 何人かが、ガタガタと、自分の席に戻る音だけが、聞こえた。
 俺は、パニックになりそうだったけど、俺の目の前、教室の一番前の、真ん中に、絵里さんが座って、笑っていた。
 俺から見て、左隣が空いていて、絵里さんの右隣には、幸多さん、その隣には、明さんもいる。
 少し、安心したけれど、きっと、今から、自己紹介を、させられるに、違いない。
 何を、言えば、良いんだ?
 魂が特殊なので、この町に来ました。なんて、言えるわけがない。
「ポーー?」
 ポーが、不思議そうに、辺りを、見まわしている。
 だけど、誰も、気にしていないようだ。
 やっぱり、見えてないんだ。

「じゃあ、今日は、新しい仲間を、紹介します。優矢さん。自己紹介を、お願いします。」
 栄喜先生が、言った。
 俺の頭で、警報が、鳴り響いた。
 どうしよう・・・・クラス中の目が、俺を、見ている・・・・。
「先生、私から、説明させていただいても、よろしいでしょうか。」
 突然、絵里さんが、笑顔で、立ち上がった。
「分かりました。絵里さん、お願いします。」
 栄喜先生が、少し下がった。
 この学校、先生が、生徒に、気を使ってるんだ・・・。
 そりゃ、そうだよな。力がある人を、敵に回すと、辞めさせられたり、するのかもしれないし。
 絵里さんが、俺の隣に、立った。
 優しい笑顔で、誰もが見惚れるようなものを、発している。
「噂で、知っている方も、多いと思います。この方は、私の婚約者、優矢さんです。今、優矢さんは、自らの力を試すために、家から離れ、一般社会を学ぶために、光龍神社に住みながら、この学校に、通うことになりました。皆さん、どうぞよろしくお願いしますね。」
 絵里さんが、笑顔で、言いきった。
 凄い・・・。全くの嘘を、平然と、言っている。
「よ・・・・よろしくお願いします・・・。」
 俺は、なんとかそれだけ言うと、頭を下げた。
 そして、俺は、絵里さんの隣の、一番前の席に座らされたのだった。
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