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龍神様はチョコレートがお好き
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狙われた魂~実感する恐怖~
次の日からも、俺は、明さん達と、絵里さんの車で、学校に行った。
教室では、みんな、どこか俺を、避けている・・・というか、ヒソヒソ声で、俺のことを、話しているのが分かる。
なんていうんだろう・・・良い気分では、ない。嫉妬とか、そんな、嫌な感情を、感じてしまったから。
だけど、絵里さんが、ずっと、話しかけてくれていていたし、明さん、幸多さん、美桜さんや、達成さん、知っている人が、教室にいるだけで、心が、軽くなった。
授業は、正直、どれも、初めてのものばかりで、どうしようかと思ったけれど、絵里さんが、常に隣にいてくれて、俺に解説したり、アドバイスを、さりげなくくれた。
絵里さんが、授業中に、俺と話していても、先生たちは、何も言わなかった。
学校は、居心地が良いとは、思えなかったけれど、絵里さんのサポートがあれば、なんとか、やっていけそうだ。だけど、絵里さんは、なんで、こんなに俺に、良くしてくれるんだろう?絵里さんは、俺を、守らないといけないわけじゃ、ないのに・・・・。
そんな考えも、浮かんだけれど、今は、絵里さんに、甘えることにした。
お昼ご飯は、絵里さん、明さん、幸多さんと、屋上で食べている。礼さんが、全て世話をしてくれて、本当に、至れりつくせりだ。
屋上には、あまり人が来ないから、気兼ねなく、話ができるらしい。
その日も、俺たちは、屋上で、昼食をとろうとしていた。
「お嬢様には、オレンジピール、オレンジブロッサム、レモングラスをブレンドした、ハーブティーです。オレンジは、太陽の光を沢山、浴びています。その力が、気分を明るくし、元気にする、一杯になっています。」
礼さんが、テーブルの上の、絵里さんの目の前に、カップを置く。
屋上には、大きなテーブルも、椅子もあって、普通の屋上だと、思えない。
「明様には、レモングラス、レモンバーベナ、レモンバームを、ブレンドしました。精神を強壮して、元気にする効果のある、三種類のシトラス系ハーブの、ブレンドです。フレッシュハーブを、たっぷり使っています。」
なんだか、今日は、いつもより、明さんの機嫌が、良さそうな気がする。
明さんは、クラス委員長として、みんなの前で発言したり、まとめたりすることも、多いけれど、いつも、不機嫌なことが分かったので、以前のような、怖さは、なくなった。
だけど、今日は、本当に、機嫌が良さそうだ。
「幸多様には、ヒソップ、ペパーミント、ローズマリーを、ブレンドしました。血液の循環を促し、脳を活性化する働きや、全身に対する、強壮効果があります。生命力を満たし、無気力にならないように、働きかける、ブレンドです。」
幸多さんは、相変わらず、雰囲気は怖いけれど、段々と、これが幸多さんの普通だと、分かってきて、話も、できるようになってきた。
「優矢様には、バジル、バーベイン、ペパーミントの、ブレンドです。緊張や、ストレスをやわらげ、神経系を強壮する働きのある、バーベインを中心としました。疲れ切っているときや、気力がわかないときにも、おすすめです。」
俺の前にも、礼さんが、ハーブティーを、置いてくれる。
礼さんの、ハーブティーを飲むと、本当に落ち着く。俺は、礼さんにも、とても助けられていた。
「龍神様には、フランスから、チョコレートを、取り寄せました。」
ポーの前には、高級チョコレートの山。
ポーは、授業中は、いつも、興味なさそうに、俺の肩で寝ている。車や、お昼に、礼さんが出してくれる、チョコレートの山を、とても楽しみにしているようだ。
正直、とても、神様だとは、思えない。
「そういえば、今日は、随分と機嫌が良いようですね、明さん。」
食事後の、デザートを食べているとき(初めて食事後に、デザートが出てきたときは、驚いた)絵里さんが、笑顔で、明さんに、言った。
明さんが、少し、笑顔になった。
「おじいさまから、連絡があってね。早ければ、今日には、帰ってきてくれるって。」
「まぁ。それで、そんなに、ご機嫌なのですね。明さんは、おじいさまが、大好きっ子ですものね。」
明さんは、答えずに、デザートを、食べている。
「しかし、明さんのおじいさまが、しばらく、留守にしていたということは、何か、大変な、問題が、あったのですか?」
絵里さんが、少し心配そうに、言った。
首をかしげる、明さん。
「さぁ。まだ調査段階だから、なんとも言えないって、言われてる。だけど、帰ってきたら、教えてくれるって。」
明さん、本当に、嬉しそうだ。顔は不機嫌だけれど、声が、いつもより明るいし、口数も、多い。
「明さんのおじいさまには、子供の頃から、本当に、お世話になっているんですよ。私、子供の頃から、魂取りさんに、狙われたり、嫉妬や、妬みの、強い念を、受けていましたから。」
絵里さんが、俺に、笑顔で言った。
俺は、何にも、言えなかった。
俺も、確かに、子供の頃から、怪奇現象に、悩まされてきた。だけど、ここに来るまで、なんとか、無事に、過ごしていたし、今、ここでは、皆や結界に、守ってもらっている。
きっと、絵里さんは、俺よりも、苦労したんだろうな・・・。
もしかして、絵里さんが、俺のことを、気にかけてくれるのは、そんな、苦労が、あったからだろうか。
そんなことを、考えた。
学校が終わり、絵里さんに、光龍神社まで、送ってもらう。
車を降りると、黄色い袴を着た、一人の、若々しい、おじいさんが、立っていた。
明さんの、不機嫌な顔が、パッと変わって、笑顔になる。
そのまま、おじいさんに、飛びつく、明さん。
「おじいさま!おかえりなさい!」
どうやら、この人が、明さんの、おじいさんのようだ。
明さんのおじいさんが、明さんの、頭を撫でながら、俺を見た。
「こんにちは。優矢くんだね?すまなかったね。しばらく、留守にしていて。君がきてからのことは、武志・・・師範から、聞いているよ。」
明さんのおじいさんが、笑って言った。
俺は、少し微笑んで、頭を下げた。
なんだか、いつも不機嫌で、そっけない、明さんの、意外な一面を、見れたから。
「さて、明、幸多。今日も、修行だね?明、【龍神の間】で大事な話があるから、【龍神の間】に、来なさい。優矢くんは、いつもは、どうしているんだい?」
明さんのおじいさんが、心配そうに、俺に、聞いてくれた。
「あ・・・幸多さんが、道場で、修行をしているときは、それを、見学させてもらっています。」
「そうか、それなら、安心だ。」
おじいさんが、うなずいた。
「じゃあ、行こうか。」
幸多さんが、すたすたと、道場に向かって、歩き出した。
慌てて、後を追う俺。
幸多さんは、道場の一角で、いつも、修行をしている。
明さんが、一緒の時は、篤森山で、修行をしているけれど、危ないからと、俺はまだ、篤森山に、入ったことがない。
袴に着替えた、幸多さんが、準備を整えていた。
俺は、邪魔にならないように、隅に座って、修行を、見させてもらう。
幸多さんの修行は、とても迫力があるから、つい怖さを忘れて、見入ってしまうのだ。
この日も、師範が、何枚かのお札を投げると、幸多さんの周りを、五人の人が囲んだ。
片目ずつ、色の違う幸多さんが、一斉に向かってくる、五人を、迎え打つ。
相手の攻撃を、素早い動きでかわして、一瞬の隙をついて、攻撃する。
さすがだ。
俺は、アクション映画を、間近で見ているような、感覚になっていた。
【龍神の間】
「久方だな、恒夫。」
火龍の声が、恒夫と、明の心に、響く。
「お久しぶりです。どうやら、なんの変りもないようで、何よりです。」
恒夫が、言った。
「変わりが、ないか。あの、輝く魂を持ったものが、来たんだ。変わりがないわけ、ないだろう。」
火龍が、茶化したように言う。
「そうですね。明、それで、優矢くんは、お前に、どう見えるんだい?」
恒夫が、明に、向き直る。
「・・・最初は、不思議な魂だとは、思いましたが、穢れも見えたので、星蘭に、閉じ込める意味が、あるのかと、考えました。だけど、しばらく、一緒に過ごしてみて、分かりました。彼が、本当に、特殊な魂を持っていると。いつも、私たちと、一緒にいますし、ここにも、学校にも、強い結界が張ってあるので、今のところ、危険はありませんが。だけど、あの魂は、いずれ必ず、キラ研に、狙われるでしょう。」
明の言葉に、恒夫が、うなずく。
「明、その通りだ。」
「それで、おじいさまは、何をなさっていたのですか?」
「実はな・・・。星蘭町の、結界の外の世界で、魂が取られるという事件が、相次いでいたんだ。それ自体は、決して、珍しいことではないが、調査を続けていると、どうやら、星蘭町に入るために、沢山の、魂食いを行っているようでね。」
「それは・・・魂食いを、沢山しないと、その犯人だけの力じゃ、星蘭町に、入れないということですか?」
「その通りだ。すでに、多くの魂食い事件の、報告が、相次いでいる。表向きでは、違う事件として、扱われているが・・・。もしかしたら、もう星蘭町に、入るだけの力を、身につけているかもしれない。警戒が必要だ。どうやって、星蘭町のことを知ったのかは、まだ、分かっていない。魂食いをして、力がついて、星蘭町に、目を付けたのかも、しれない。」
恒夫の言葉に、素直に、うなずく明。
「今、星蘭町で、一番に目が付く魂は、あの少年の魂だ。放っておいても、向こうから、現れるだろう。」
水龍が、冷静に、言った。
「そうですね。戦いは、避けられないでしょう。」
雷龍が、続ける。
「明、相手が、どこに潜んでいるのか、いつ狙ってくるか、分からない。いつも以上に、注意するんだよ。それに、相手はすでに、多くの能力者の魂を、魂食いしている。それだけの、能力を、身につけているだろう。」
明は、黙ってうなずいた。
幸多さんの修行を、見学していると、黄色い袴を着た、明さんが、道場に入ってきた。
丁度、幸多さんは、師範から出される課題を、クリアしたところだ。
明さんは、無言で近づいてくる。一瞬、明さんが、光に包まれたかと思ったら、明さんの目は、黄色く輝いていて、手には、修行で見た時と同じ、あの大きな、槍のような武器を、持っていた。
「幸多、勝負しよ。」
「あぁ、良いよ。」
疲れた様子もなく、明さんに、幸多さんが、答える。
明さんは、いつもの、不機嫌な、明さんだけど・・・。幸多さんに、勝負を挑むところなんて、初めて見る。
だけど、師範は、動揺していなかったから、きっと、よくあることなのだろう。
明さんと、幸多さんが、向かい合う。二人の武器が光る。
師範が、前に出た。
「始め!」
師範の声と共に、明さんが、一気に、幸多さんに距離を詰めて、槍を振り下ろす。
幸多さんは、それを刀でいなすと、明さんに攻撃する。よける、明さん。
どちらも、一歩も引かない。
・・・今、気が付いたけど、あれ、本物の武器だよな?あんな、本気の戦いをしたら、危ないんじゃ・・・。
そう思ったけれど、二人は、止まる気配も、手加減する様子も、ない。
明さんの槍が、黄色く光る。同時に、幸多さんの刀が、赤く光った。
ぶつかり合う、二つの力。その力が、どれだけ大きいか、俺は、なんとも言えない、感覚で、分かった。
明さんが、積極的な、攻めに転じている。何度も、振り下ろされる槍。
幸多さんは、攻撃をいなしながら、攻撃をかわす。
そして、一瞬、ほんの一瞬だけ、明さんに、隙ができたようだ。(俺には、分からなかった)
幸多さんが、一気に、攻撃に転じる。
明さん相手でも、一切容赦なく、刀を、振るう。
段々と、明さんが、追い詰められていく。
明さんは、隙を見て、お札のようなものを、投げた。
二人の間に、光が走る。
その瞬間に、明さんが、幸多さんの後ろを取った。
だけど、幸多さんは、それを読んでいた。
幸多さんの蹴りに、吹き飛ばされる、明さん。
そこに間髪いれず、明さんに、刀を突きつける、幸多さん。
「そこまで!」
師範の声。
明さんが、悔しそうに、床を殴った。
そして、怒ったように、立ち上がると、そのまま、道場を、出て行ってしまった。
幸多さんが、軽く、ため息をついた。
「幸多、今日の、道場での修行は、これまで。」
師範は、それだけ言うと、道場に、通ってきている人を見に、歩いて行ってしまった。
「・・・ちょっと、俺、篤森山に、行ってくるから。適当に、過ごしてて。」
元の目に戻った、幸多さんが、俺の方を向いて、言った。
「はい・・・。」
明さんの所へ、行くのだろうか?
それにしても、二人の戦いは、凄い。だけど、突然、明さんは、どうしたのだろう。
そう思いながらも、俺は、大人しく、部屋で、宿題をすることにした。
【篤森山】
「何があったんだよ。そんなに焦って。」
岩の上に座って、小さな川に足をつけている明に、幸多が、声をかけた。
そのまま、明の隣に、座る。
「・・・・あのね・・・・。」
明は、【龍神の間】での話を、幸多に話した。
「それで、自分の力が、不安になったって?」
「別に、不安になんか・・・。」
「じゃあ、なんで、あんなに焦ってた?」
「・・・正直、怖いのよ。」
「怖い?魂取りごときが?」
「違う。水龍様が、おっしゃったの。星蘭町で、一番目につくのは、優矢の魂だって。・・・星蘭町は、ただでさえ、みんな、何かの、能力を、持っているのよ。その中で、一番目につくと、はっきり言われた。【動乱の幕は上がった】って言葉、やっと実感してきた。今までの、戦いのようには、きっと、いかなくなるんだろうなって、思ったら・・・。」
「・・・あのな、俺は、お殿様の魂なんか、知ったこっちゃないんだよ。俺が守るのは、お前だけだ。お前の望みを、叶えるのが、俺の役目だ。だから、俺は、誰にも負けない。当たり前だけど、お前にも。」
幸多は、そう言うと、黙って、明の手を握った。
その手を、握り返す明。
「・・・さっきの話、みんなにもしなきゃ。絵里さんに、明日、召集かけてもらう。」
「おう。」
明は黙って、頭を、幸多にもたれかかせた。
やっと、宿題が終わった・・・。
もう、夕食を食べる時間だ。
そう思って、部屋を出ようとした時、携帯電話が、鳴った。
父親からの、メールだ。
生活や、学校での生活を、心配するものだった。
俺は一言だけ、「大丈夫」と、返した。
これが、母親にだったら、沢山、話したいことがある。
不思議な人たち、不思議な修行、現実離れした、学校生活の話を。
だけど、母親は、もういない。
たった一人、俺を、信じていてくれていた、母親は。
そんなことを考えながら、俺は、夕食へ、向かった。
次の日の帰り、また、全ての神社の人達が、車に乗っていて、驚いた。
「明から、何も聞いてないの?」
驚いている俺に、志乃さんが、聞いてくれた。
「は、はい。」
「明・・・せめて、優矢さんには、一番に情報を教えて、注意してもらわないと。」
志乃さんの目が、明さんにいく。
「・・・どうせ、私たちから、そう遠くに、離れることも、ないんだから、昨日でも、今日でも、変わらないでしょ。」
そっけない、明さんの、言葉。
「それでぇ、大事な話って、なんですかぁ?」
美桜さんが、不思議そうに、聞いた。
大事な話?そのために、皆、集まったのか・・・。
すると、珍しく、明さんが、しゃべり始めた。
外での、魂食い事件・・・。星蘭町を、狙っている・・・。必ず、俺を狙うことに、なるだろう・・・。
俺は、黙って、聞いていた。
「そんなに多くの、魂食いをして、その人、自我が、残ってるのかしら。そうだったら、やっかいな敵ね。」
志乃さんが、言った。
「自我が、なくなって、暴走されても、対処が大変だろ。」
達成さんが、前と同じように、くっついている美桜さんを、押しのけながら、言った。
「だけど、星蘭町に、入っているかどうかも、わからないんだよねー。その人、魂食いのしすぎで、とっくに、死んじゃったんじゃないのー?」
成二さんが、さらっと、怖いことを、言った。
「どちらにしろ、注意が必要ですわね。私や、優矢さんは、魂取りさんにとって、カモさんのような、存在ですから。」
絵里さんの言葉に、皆が、うなずく。カモさんって・・・。
「それで、その魂食いと、キラ研の、関係はどうなの?」
志乃さんが、明さんに、聞いた。
黙って、首を横に振る、明さん。
それを見て、誰も、何も言わなかった。
結局、話は、明日から、解決するまでは、全員で帰ること。そして、全員、何かあったら、すぐに駆けつけられる場所にいること。という話で、終わった。
その日から、二日後。
朝、俺の下駄箱に、手紙が、入っていた。
内容を要約すると、学校の、皆がいる所では、俺に、話しかけづらい。だけど、俺と、白川財閥についてや、将来のことを、話してみたい。だから、放課後、時間が欲しい。だった。
手紙を読んでいると、真っ先に、絵里さんが、覗き込んできた。
「あら、ラブレターですか?いけませんよ、私がいますのに。」
「ち・・・違うよ!」
なんだ、このやり取り・・・。これじゃ、まるで、本物の、婚約者じゃないか。
差出人の名前は、男の人の、ようだった。
「この方なら、知っていますよ。高校三年生の、ここの生徒です。確かに、白川財閥と、関係のある、某会社の、ご子息ではありますが・・・。」
絵里さんは、そこまで言うと、黙って後ろで見ていた、明さんと、幸多さんに、向き直った。二人とも、怪訝そうな、顔をしている。
「どうも、うさんくさいわね・・・。」
明さんが、俺から、手紙を無理矢理奪って、読んでいる。
「ですが、その方は、確かに、この学校の、生徒ですわ。」
「・・・・・。」
「良いこと、考えました。私も、一緒に行きます。」
悩んでいる俺たちに、絵里さんが、笑顔で言った。
「えっ・・・。行くの?」
俺は少し、戸惑った。
なんせ、俺は、身分を偽っているわけだし、明さん達だって、もしかしたら、罠かもしれないって、思っているだろう。
そんな、危ない所に・・・。
「もちろん、近くで、明さん達には、待機してもらって、こっそり、観察してもらいますわ。もし、この方が、本当に、優矢さんと、お話がしたいだけならば、私が、誤魔化せますし、仮に、魂取りさんであっても、近くに、みなさんがいれば、安心ですわ。」
笑顔のままの、絵里さん。
明さんが、ため息をついた。
「そうするしかないわね・・・。」
そう言うと、明さんは、手紙を俺に投げると、教室に、行ってしまった。
放課後
俺と、絵里さんは、指定の場所である教室に、向かった。
すぐ近くに、明さん達が、待機してくれているはずだ。
正直、本当に話すのであっても、罠でも怖い。
俺は、この学校で、嘘をついている。
絵里さんが、一緒だと、心強いけれど、相手は、白川財閥と、関係のある会社だと言っていた。誤魔化せるのか?
罠だとしたら、もっと怖い。
心なしか、いつも肩で寝ているポーが、なんだかせわしなく、俺の肩の上を、走り回っている。気のせいだろうか。
緊張しながら、普段は、使われていない、教室の、ドアを開ける。
そこには、俺達と同じ制服を着た、男の人が、立っていた。
良かった・・・。どうやら、罠ではなかったみたいだ・・・。
俺たちは、教室に入った。
「お久しぶりです。私も、ご一緒させていただきました。」
絵里さんが、笑顔で言った。
その時、突然、ポーが飛び上がった。
「ポーーー!!ポーー!!」
怒ったような声で、俺の前を、飛び回っている。
どうしたんだろう?
絵里さんは、何も見えていないふりをしてくれていて、男の人と、挨拶を交わしている。
「いやぁ、あんな、突然、変な呼び出し方をして、本当に、申し訳なかったです。でも、嬉しいです。」
男の人が、言った。
良かった・・・。やっぱり、魂取りじゃない・・・。
でも、ここからが、問題だ。
なんとか、俺のことを、誤魔化さないと・・・。
「こんなにも、珍しく、質の良い魂が、二人も、釣れたのだから。」
えっ・・・・?
今、なんて・・・・?
「優矢さん、下がってください!」
絵里さんが、俺の前に立った。
その途端、教室の周りが、一気に暗くなった。
「優矢さん、早く外へ!」
絵里さんの声で、我に返った俺は、ドアに向かおうとした。
だけど、何もない所で、見えない壁のようなものに、ぶつかった。
なんなんだ・・・?
「無駄、無駄。ここはもう、俺の・・・いや、私の力で、空間分離されたのだから。」
空間・・・分離?
恐る恐る、振り返った俺は、衝撃的なものを、見た。
男の人が、その姿を、どんどん、変えていって・・・・。
ポーが、姿が、変わっていく相手に、怒った声で、叫ぶように、鳴いている。
俺は、目を見開いた。
男の人は、女の人に、変わっていた。服も、真っ赤な、ワンピースに、変わっている。
俺の目には、何重にも、色んな人の、顔が見えた。
魂取り・・・・!!
どうやら、俺たちは、閉じ込められている!
俺は、明さんに、連絡するため、携帯電話を、手にとった。だけど、学校内のはずなのに、電波が立っていない!
「無駄、無駄、何をやっても、無駄よぉ。」
女の人が、笑いながら、近づいてくる。
どうしよう、怖い・・・。明さん達にも、伝えられない!
俺は、ここで、魂を取られて、死ぬのか?
「あなたは、魂取りさんだったのですね。」
全く、動揺していない様子で、絵里さんが、言った。
驚く俺をよそに、絵里さんは、胸元の金の、龍が掘ってある飾りを、手に取った。
そして、その飾りを、相手の女の人に向けて、かざした。
飾りが、強い光を発した。
驚いて、目をつぶった俺だったが、すぐに、目を開けた。
「れ・・・・礼さん・・・!?」
俺は、自分の目を、疑った。
俺と、絵里さんの前には、確かに、礼さんが、立っているのだ。
「お嬢様、優矢様と共に、お下がりください。明様達が来るまで、時間を稼ぎます。」
礼さんが、そう言うと、絵里さんは、うなずいて、俺の手を取って、少し後ろに、下がった。
絵里さんの、手のぬくもりが、混乱していた俺を、少し、冷静にしてくれた。
礼さんが、魂取りに向かって、ナイフを投げた。
それを笑顔で、素手で、キャッチする、魂取り。
「無駄、無駄、無駄ぁ!この世の全ては、無駄なのよぉ!」
魂取りが、叫んだ瞬間、俺はさらに、恐ろしいものを見た。
魂取りの前を、幽霊のような人たちが、俺たちを向いて、沢山立っていたのだ。
礼さんが、また、ナイフを投げる。
幽霊の一人に、あたった。でも、実態があるようだ。
ということは、幽霊ではない・・・?
俺は、成二さんの、言っていたことを、思い出した。
魂をとられると、傀儡にされる・・・・。
傀儡たちが、俺達に迫る。
ポーが、礼さんの、隣に、飛んでいった。
「あ・・・ポー!」
とっさに、ポーを呼んだけれど、ポーは、無視して、魂取り達に向かって、「ポーーーー!」と叫びながら、火を噴いた。
傀儡が、焼けたと思ったけれど、まだ、動いている。
どうしよう・・・。なんとか、明さんに、連絡を・・・。
そう思った瞬間、両側の壁に、亀裂が、入った。
「ガシャン!」という、大きな音と共に、左側から、明さん、幸多さん、志乃さん。右側から、達成さん、成二さん、美桜さんが、飛び込んできた。
「うわー。大変なことになってるねー。」
成二さんが、少しも、動じていない様子で、言った。
・・・皆が、来てくれた・・・。
でも、どうして、異変に、気が付いたんだ・・・?
考えている暇は、なかった。
今度は、俺達全員を閉じ込めるように、黒い壁ができたのだ。
「ふーん。空間分離ね。結界とは、比べ物にならない、空間自体を切り離す、能力か。どうりで、壊すのが、厄介だったはずだ。遅くなって、ごめん。」
明さんが、絵里さんに向かって、言った。
絵里さんは、微笑んでいる。
なんで、この状況で、冷静なんだ・・・。
「あらぁ・・・能力者の、魂が、わんさか、わんさか・・・。」
魂取りは、笑いながら、手を動かす。
傀儡が、俺達全員に、飛びかかってくる。
「美桜は、絵里さんと、優矢を、守って!成二は、できる限り、陽動!傀儡は、達成と、幸多に、任せる。志乃と、私で、魂取り本体を、潰す!」
明さんが、素早く、指示を出した。
全員が、一斉に動く。
俺と、絵里さんの前に、美桜さんが、立つ。
「せっかくのご縁ですが、このご縁、断たせていただきますぅ!」
美桜さんの武器の、杖のようなものの先にある、大きな玉が光った。
そのまま、その光は、俺と、絵里さんを、守るように、包み込んだ。
成二さんの腰についている、沢山の玉が、空中で、光を放ちながら、飛び回っている。
どうやら、傀儡たちは、それを、追いかけているようだ。
その傀儡を、達成さんと、幸多さんが、攻撃している。
「私は、多くの力を、手に入れたのよぉぉぉ!無駄、無駄、無駄ぁぁ!」
傀儡が、黒い力を、達成さんと、幸多さんに向かって、放った。
二人は、無言だったけれど、達成さんの武器は、青く、幸多さんの武器は、赤く光っていて、黒い力を跳ね返した。
そして、そのまま、傀儡を倒していく。
礼さんも、後ろから、ナイフを投げて、援護していた。
「あんた、体も精神も、もう限界でしょ。これだけの、魂食いをして、耐えられるわけがない。引け。引かないと、自らを、滅ぼすぞ。」
明さんが、魂取りに、言った。
「無駄、無駄、無駄ぁぁぁ!この・・・世の・・・全ては・・・・!」
魂取りは、明さんを見ずに、叫んでいる。
「・・・完全に、自我を、失ってる。志乃、一気に決めるよ!」
「まかせて!封印せよ!!」
志乃さんが、手をスライドさせると、何枚ものお札が、魂取りを、取り囲んだ。
「ぎゃぁぁ!む・・・だ・・・無駄・・・・。」
「これで、終わりだ。」
明さんが、大きな槍を、上に突き上げた。
「我、龍神の加護を、受けるものなり。龍神よ、この罪深きものの罪を、断罪したまえ!奪われた者の魂に、安らぎを、与えたまえ!」
そう叫ぶと、槍をまわして、柄の部分を、床にたたきつけた。
その瞬間、黄色い光と、緑の光が、雷のように、魂取りに、降りかかった。
「う・・・うぎゃぁぁぁぁ!むだぁぁぁぁぁ!!」
魂取りが、その場に、倒れた。
それと同時に、傀儡と、黒い壁が消えた。
俺たちは、元の教室に、戻っていた。
美桜さんが、武器をおろす。
俺たちを守っていた、光が消えた。
全員、いつもの皆に、戻っていた。
ただ一人、倒れている、魂取りの、女の人・・・。
「大丈夫?」
明さんが、絵里さんに、聞いた。
「えぇ。みなさんが、守ってくださいましたから。私と、優矢さんは、無事ですよ。」
「良かったですぅ!空間分離を壊すのに、少し時間がかかってしまってぇ・・・。間に合わなかったら、どうしようかと、思いましたぁ。」
美桜さんが、笑顔で言った。
「やっぱり、自我を、失ってたようだねー。俺たちが、手を出さなかったら、そのまま、死んでいただろうねー。」
成二さんが、いつものように、さらりと、怖いことを言う。
いつの間にか、ポーは、俺の肩に戻っていて、俺に、体をこすりつけている。
そういえば・・・・。
「あの・・・。明さん・・・。実は・・・明さん達が、来てくれる前に、ポーが・・・。その・・・。火を噴いて・・・・・。」
「・・・あんたを、守ろうとしたのよ。子供でも、龍神様に、変わりはないんだから。火くらい、噴いても、おかしくない。」
明さんが、ぶっきらぼうだけど、答えてくれた。
「それで、この魂取りはどうする?奪った魂は、明の力で浄化されているし、この人自身にも、もう力はないと思うけど・・・。」
志乃さんが、全員を見渡しながら、言った。
「おじいさまと、師範に、連絡して、引き渡す。ここからは、まだ、私たちは、手をだしたらいけないって、言われているから。」
明さんの言葉に、全員がうなずいた。
そこからの記憶は、少し曖昧だけれど、俺は、気が付いたら、絵里さんの、車に、乗っていた。目の前に、湯気の立っている、カップが置かれた。
「パッションフラワー、リンデンのフラワー、ローズマリーの、ブレンドです。神経系をリラックスさせる効果の高い、パッションフラワーとリンデン、強壮効果のある、ローズマリーを、ブレンドしました。皆さまの疲れを癒して、元気になれるように。」
礼さんが、順番に、カップを置いていく。
・・・・まてよ・・・・?あの時・・・、なんで、礼さんが・・・・。
「あの・・・礼さん・・・。どうして、あの時・・・・。」
俺は、恐る恐る、礼さんに、聞いた。
答えたのは、絵里さんだった。
「あら、言ってませんでしたかしら。礼は、人間じゃないのですよ。」
「へ・・・・?」
に・・・人間じゃない!?どういうことだ!?
俺は、間抜けな声しか、出せなかった。
「礼は、明さんに仕えている、陽のあやかしです。よほどのことがない限り、人間の姿をしています。大分前に、明さんが、私の、守護をする者として、授けてくださったのですよ。普段は、私の執事を、こなしてくれていますが、同時に、私を守ってくれている存在でも、あるのです。」
明るい笑顔で、絵里さんが言う。
「そ・・・そうなんですか・・・・。」
俺は、そう答えながら、チラリと、礼さんを見た。
どこからどう見ても、普通の、人間だ。
どうやら、理解するのに、時間が、かかりそうだ・・・。
「それにしても、思ったより早く、魂取り事件の、解決ができて、良かったわね。」
志乃さんが、ため息をつきながら、言った。
「すげー奴だったな。あんな大量に、魂食いしてる奴、初めて見ただろ。」
達成さんが、腕を組んで、険しい顔をしながら、言った。美桜さんが、くっついているが、疲れているのか、相手にしていない。
「自我は、とっくに、失っていたようだけどねー。結局、何が目的だったのかなー。」
成二さんは、どこか楽しそうに、クスクス笑っている。
「詳しいことは、おじいさまと、師範から、また、教えてもらえると思う。だけど、見る限り、キラ研との関係は、ないと思う・・・けどね。」
明さんが、幸多さんの膝を、枕にして、目をつむったまま、言った。
「確かにね。キラ研が、あんな雑な、方法をとるとは、思えないもの。」
志乃さんが、うなずきながら、答える。
「一番の驚きは、学校に、侵入されたことですねぇ。学校の結界は、とても、強いのにぃ。生徒の、魂を奪って、その生徒の、皮を被るなんてぇ・・・。」
美桜さんが、達成さんにくっついたまま、だけど、真剣な声で、言った。
え・・・あの生徒の魂は、取られていたのか?
だったら、あの生徒は・・・。これは、大問題になるんじゃ・・・・。
多分、そんな俺の心が、顔に出ていたんだと思う。
「大丈夫ですよ。明さんたちは、魂取りさんが、奪った魂を、雑に扱うことなんて、しませんから。奪われて、長い時間が経っていなければ、きちんと、元の持ち主に戻ります。あの傀儡たちは、魂を取られた人たちをかたどった、別の、あやかしのような、ものですから、心配いりませんわ。」
絵里さんが、俺に優しく、笑ってくれた。
少しだけど、俺は安心した。
それにしても、本当に、怖かった・・・。
明さん達が、来てくれなかったら・・・。
俺は、自分が、いかに危険な目にあったのか、再確認するように、さっき起こったことを、何度も何度も、考えていた。
光龍神社についた。
師範と、明さんのおじいさんは、まだ、戻っていないようだ。
幸多さんに、挨拶をして、明さんと、広間に、帰ってきた。
「あの・・・明さん・・・。今日は、本当に、ありがとうございました・・・。俺、何もできなくて・・・。その・・・すみません・・・。」
俺は、明さんに向かって、頭を下げた。
本当は、皆にも、お礼を言いたかったけれど、車では、タイミングが、つかめなかったのだ。
せめて、明さんだけには・・・。そう思った。
「別に、あんたが、謝る事じゃないでしょ。絵里さんと同じで、あんたも、好きで、その魂に、生まれたわけじゃ、ないんだから。それに、あんたは、一般人として、生活してきたんだから、何もできないのが、当り前。」
明さんは、そっけなかったけれど、俺を見ながら、そう言ってくれた。
「は・・・はい・・・・。」
俺は、うつむいた。俺は、分かっていたけれど、何も、できなかったのだから。
「少しは、自分が狙われて、危ないって、実感湧いた?」
明さんが、俺に、聞いてきた。
「えっ・・・・。は・・・はい・・・。かなり・・・。」
うつむいたまま、俺は、答えた。
「そう・・・。」
そう言いながら、明さんが、俺に近づいて、俺の胸の真ん中に、手を当てた。
「あんたの魂は、目立ちすぎるのよ・・・!こんな魂が、うろうろしていたら、魂取りなら誰でも目を付ける・・・・!!」
明さんが、手に、力を込めた。
その瞬間、俺は、激しい眩暈に、襲われた。
胸の中が、ぐにゃぐにゃして、気持ちが悪い。激しい、動機もする。
「うわぁぁぁ!」
思わず、叫んだ。
明さんが、俺から、手を放した。
俺は、膝から、崩れ落ちた。
呼吸を、一生懸命、整える。
恐る恐る、明さんを、見たけれど、明さんは、広間を、出ようとしていた。
「それが、魂を取られる、感覚よ。覚えておきなさい。そうならないように、師範や、おじいさまと、対策を、考える事ね。」
後ろを向いたまま、明さんは、そう言うと、広間から、出て行った。
俺は、しばらく動けずに、そのまま、固まっていた。
次の日からも、俺は、明さん達と、絵里さんの車で、学校に行った。
教室では、みんな、どこか俺を、避けている・・・というか、ヒソヒソ声で、俺のことを、話しているのが分かる。
なんていうんだろう・・・良い気分では、ない。嫉妬とか、そんな、嫌な感情を、感じてしまったから。
だけど、絵里さんが、ずっと、話しかけてくれていていたし、明さん、幸多さん、美桜さんや、達成さん、知っている人が、教室にいるだけで、心が、軽くなった。
授業は、正直、どれも、初めてのものばかりで、どうしようかと思ったけれど、絵里さんが、常に隣にいてくれて、俺に解説したり、アドバイスを、さりげなくくれた。
絵里さんが、授業中に、俺と話していても、先生たちは、何も言わなかった。
学校は、居心地が良いとは、思えなかったけれど、絵里さんのサポートがあれば、なんとか、やっていけそうだ。だけど、絵里さんは、なんで、こんなに俺に、良くしてくれるんだろう?絵里さんは、俺を、守らないといけないわけじゃ、ないのに・・・・。
そんな考えも、浮かんだけれど、今は、絵里さんに、甘えることにした。
お昼ご飯は、絵里さん、明さん、幸多さんと、屋上で食べている。礼さんが、全て世話をしてくれて、本当に、至れりつくせりだ。
屋上には、あまり人が来ないから、気兼ねなく、話ができるらしい。
その日も、俺たちは、屋上で、昼食をとろうとしていた。
「お嬢様には、オレンジピール、オレンジブロッサム、レモングラスをブレンドした、ハーブティーです。オレンジは、太陽の光を沢山、浴びています。その力が、気分を明るくし、元気にする、一杯になっています。」
礼さんが、テーブルの上の、絵里さんの目の前に、カップを置く。
屋上には、大きなテーブルも、椅子もあって、普通の屋上だと、思えない。
「明様には、レモングラス、レモンバーベナ、レモンバームを、ブレンドしました。精神を強壮して、元気にする効果のある、三種類のシトラス系ハーブの、ブレンドです。フレッシュハーブを、たっぷり使っています。」
なんだか、今日は、いつもより、明さんの機嫌が、良さそうな気がする。
明さんは、クラス委員長として、みんなの前で発言したり、まとめたりすることも、多いけれど、いつも、不機嫌なことが分かったので、以前のような、怖さは、なくなった。
だけど、今日は、本当に、機嫌が良さそうだ。
「幸多様には、ヒソップ、ペパーミント、ローズマリーを、ブレンドしました。血液の循環を促し、脳を活性化する働きや、全身に対する、強壮効果があります。生命力を満たし、無気力にならないように、働きかける、ブレンドです。」
幸多さんは、相変わらず、雰囲気は怖いけれど、段々と、これが幸多さんの普通だと、分かってきて、話も、できるようになってきた。
「優矢様には、バジル、バーベイン、ペパーミントの、ブレンドです。緊張や、ストレスをやわらげ、神経系を強壮する働きのある、バーベインを中心としました。疲れ切っているときや、気力がわかないときにも、おすすめです。」
俺の前にも、礼さんが、ハーブティーを、置いてくれる。
礼さんの、ハーブティーを飲むと、本当に落ち着く。俺は、礼さんにも、とても助けられていた。
「龍神様には、フランスから、チョコレートを、取り寄せました。」
ポーの前には、高級チョコレートの山。
ポーは、授業中は、いつも、興味なさそうに、俺の肩で寝ている。車や、お昼に、礼さんが出してくれる、チョコレートの山を、とても楽しみにしているようだ。
正直、とても、神様だとは、思えない。
「そういえば、今日は、随分と機嫌が良いようですね、明さん。」
食事後の、デザートを食べているとき(初めて食事後に、デザートが出てきたときは、驚いた)絵里さんが、笑顔で、明さんに、言った。
明さんが、少し、笑顔になった。
「おじいさまから、連絡があってね。早ければ、今日には、帰ってきてくれるって。」
「まぁ。それで、そんなに、ご機嫌なのですね。明さんは、おじいさまが、大好きっ子ですものね。」
明さんは、答えずに、デザートを、食べている。
「しかし、明さんのおじいさまが、しばらく、留守にしていたということは、何か、大変な、問題が、あったのですか?」
絵里さんが、少し心配そうに、言った。
首をかしげる、明さん。
「さぁ。まだ調査段階だから、なんとも言えないって、言われてる。だけど、帰ってきたら、教えてくれるって。」
明さん、本当に、嬉しそうだ。顔は不機嫌だけれど、声が、いつもより明るいし、口数も、多い。
「明さんのおじいさまには、子供の頃から、本当に、お世話になっているんですよ。私、子供の頃から、魂取りさんに、狙われたり、嫉妬や、妬みの、強い念を、受けていましたから。」
絵里さんが、俺に、笑顔で言った。
俺は、何にも、言えなかった。
俺も、確かに、子供の頃から、怪奇現象に、悩まされてきた。だけど、ここに来るまで、なんとか、無事に、過ごしていたし、今、ここでは、皆や結界に、守ってもらっている。
きっと、絵里さんは、俺よりも、苦労したんだろうな・・・。
もしかして、絵里さんが、俺のことを、気にかけてくれるのは、そんな、苦労が、あったからだろうか。
そんなことを、考えた。
学校が終わり、絵里さんに、光龍神社まで、送ってもらう。
車を降りると、黄色い袴を着た、一人の、若々しい、おじいさんが、立っていた。
明さんの、不機嫌な顔が、パッと変わって、笑顔になる。
そのまま、おじいさんに、飛びつく、明さん。
「おじいさま!おかえりなさい!」
どうやら、この人が、明さんの、おじいさんのようだ。
明さんのおじいさんが、明さんの、頭を撫でながら、俺を見た。
「こんにちは。優矢くんだね?すまなかったね。しばらく、留守にしていて。君がきてからのことは、武志・・・師範から、聞いているよ。」
明さんのおじいさんが、笑って言った。
俺は、少し微笑んで、頭を下げた。
なんだか、いつも不機嫌で、そっけない、明さんの、意外な一面を、見れたから。
「さて、明、幸多。今日も、修行だね?明、【龍神の間】で大事な話があるから、【龍神の間】に、来なさい。優矢くんは、いつもは、どうしているんだい?」
明さんのおじいさんが、心配そうに、俺に、聞いてくれた。
「あ・・・幸多さんが、道場で、修行をしているときは、それを、見学させてもらっています。」
「そうか、それなら、安心だ。」
おじいさんが、うなずいた。
「じゃあ、行こうか。」
幸多さんが、すたすたと、道場に向かって、歩き出した。
慌てて、後を追う俺。
幸多さんは、道場の一角で、いつも、修行をしている。
明さんが、一緒の時は、篤森山で、修行をしているけれど、危ないからと、俺はまだ、篤森山に、入ったことがない。
袴に着替えた、幸多さんが、準備を整えていた。
俺は、邪魔にならないように、隅に座って、修行を、見させてもらう。
幸多さんの修行は、とても迫力があるから、つい怖さを忘れて、見入ってしまうのだ。
この日も、師範が、何枚かのお札を投げると、幸多さんの周りを、五人の人が囲んだ。
片目ずつ、色の違う幸多さんが、一斉に向かってくる、五人を、迎え打つ。
相手の攻撃を、素早い動きでかわして、一瞬の隙をついて、攻撃する。
さすがだ。
俺は、アクション映画を、間近で見ているような、感覚になっていた。
【龍神の間】
「久方だな、恒夫。」
火龍の声が、恒夫と、明の心に、響く。
「お久しぶりです。どうやら、なんの変りもないようで、何よりです。」
恒夫が、言った。
「変わりが、ないか。あの、輝く魂を持ったものが、来たんだ。変わりがないわけ、ないだろう。」
火龍が、茶化したように言う。
「そうですね。明、それで、優矢くんは、お前に、どう見えるんだい?」
恒夫が、明に、向き直る。
「・・・最初は、不思議な魂だとは、思いましたが、穢れも見えたので、星蘭に、閉じ込める意味が、あるのかと、考えました。だけど、しばらく、一緒に過ごしてみて、分かりました。彼が、本当に、特殊な魂を持っていると。いつも、私たちと、一緒にいますし、ここにも、学校にも、強い結界が張ってあるので、今のところ、危険はありませんが。だけど、あの魂は、いずれ必ず、キラ研に、狙われるでしょう。」
明の言葉に、恒夫が、うなずく。
「明、その通りだ。」
「それで、おじいさまは、何をなさっていたのですか?」
「実はな・・・。星蘭町の、結界の外の世界で、魂が取られるという事件が、相次いでいたんだ。それ自体は、決して、珍しいことではないが、調査を続けていると、どうやら、星蘭町に入るために、沢山の、魂食いを行っているようでね。」
「それは・・・魂食いを、沢山しないと、その犯人だけの力じゃ、星蘭町に、入れないということですか?」
「その通りだ。すでに、多くの魂食い事件の、報告が、相次いでいる。表向きでは、違う事件として、扱われているが・・・。もしかしたら、もう星蘭町に、入るだけの力を、身につけているかもしれない。警戒が必要だ。どうやって、星蘭町のことを知ったのかは、まだ、分かっていない。魂食いをして、力がついて、星蘭町に、目を付けたのかも、しれない。」
恒夫の言葉に、素直に、うなずく明。
「今、星蘭町で、一番に目が付く魂は、あの少年の魂だ。放っておいても、向こうから、現れるだろう。」
水龍が、冷静に、言った。
「そうですね。戦いは、避けられないでしょう。」
雷龍が、続ける。
「明、相手が、どこに潜んでいるのか、いつ狙ってくるか、分からない。いつも以上に、注意するんだよ。それに、相手はすでに、多くの能力者の魂を、魂食いしている。それだけの、能力を、身につけているだろう。」
明は、黙ってうなずいた。
幸多さんの修行を、見学していると、黄色い袴を着た、明さんが、道場に入ってきた。
丁度、幸多さんは、師範から出される課題を、クリアしたところだ。
明さんは、無言で近づいてくる。一瞬、明さんが、光に包まれたかと思ったら、明さんの目は、黄色く輝いていて、手には、修行で見た時と同じ、あの大きな、槍のような武器を、持っていた。
「幸多、勝負しよ。」
「あぁ、良いよ。」
疲れた様子もなく、明さんに、幸多さんが、答える。
明さんは、いつもの、不機嫌な、明さんだけど・・・。幸多さんに、勝負を挑むところなんて、初めて見る。
だけど、師範は、動揺していなかったから、きっと、よくあることなのだろう。
明さんと、幸多さんが、向かい合う。二人の武器が光る。
師範が、前に出た。
「始め!」
師範の声と共に、明さんが、一気に、幸多さんに距離を詰めて、槍を振り下ろす。
幸多さんは、それを刀でいなすと、明さんに攻撃する。よける、明さん。
どちらも、一歩も引かない。
・・・今、気が付いたけど、あれ、本物の武器だよな?あんな、本気の戦いをしたら、危ないんじゃ・・・。
そう思ったけれど、二人は、止まる気配も、手加減する様子も、ない。
明さんの槍が、黄色く光る。同時に、幸多さんの刀が、赤く光った。
ぶつかり合う、二つの力。その力が、どれだけ大きいか、俺は、なんとも言えない、感覚で、分かった。
明さんが、積極的な、攻めに転じている。何度も、振り下ろされる槍。
幸多さんは、攻撃をいなしながら、攻撃をかわす。
そして、一瞬、ほんの一瞬だけ、明さんに、隙ができたようだ。(俺には、分からなかった)
幸多さんが、一気に、攻撃に転じる。
明さん相手でも、一切容赦なく、刀を、振るう。
段々と、明さんが、追い詰められていく。
明さんは、隙を見て、お札のようなものを、投げた。
二人の間に、光が走る。
その瞬間に、明さんが、幸多さんの後ろを取った。
だけど、幸多さんは、それを読んでいた。
幸多さんの蹴りに、吹き飛ばされる、明さん。
そこに間髪いれず、明さんに、刀を突きつける、幸多さん。
「そこまで!」
師範の声。
明さんが、悔しそうに、床を殴った。
そして、怒ったように、立ち上がると、そのまま、道場を、出て行ってしまった。
幸多さんが、軽く、ため息をついた。
「幸多、今日の、道場での修行は、これまで。」
師範は、それだけ言うと、道場に、通ってきている人を見に、歩いて行ってしまった。
「・・・ちょっと、俺、篤森山に、行ってくるから。適当に、過ごしてて。」
元の目に戻った、幸多さんが、俺の方を向いて、言った。
「はい・・・。」
明さんの所へ、行くのだろうか?
それにしても、二人の戦いは、凄い。だけど、突然、明さんは、どうしたのだろう。
そう思いながらも、俺は、大人しく、部屋で、宿題をすることにした。
【篤森山】
「何があったんだよ。そんなに焦って。」
岩の上に座って、小さな川に足をつけている明に、幸多が、声をかけた。
そのまま、明の隣に、座る。
「・・・・あのね・・・・。」
明は、【龍神の間】での話を、幸多に話した。
「それで、自分の力が、不安になったって?」
「別に、不安になんか・・・。」
「じゃあ、なんで、あんなに焦ってた?」
「・・・正直、怖いのよ。」
「怖い?魂取りごときが?」
「違う。水龍様が、おっしゃったの。星蘭町で、一番目につくのは、優矢の魂だって。・・・星蘭町は、ただでさえ、みんな、何かの、能力を、持っているのよ。その中で、一番目につくと、はっきり言われた。【動乱の幕は上がった】って言葉、やっと実感してきた。今までの、戦いのようには、きっと、いかなくなるんだろうなって、思ったら・・・。」
「・・・あのな、俺は、お殿様の魂なんか、知ったこっちゃないんだよ。俺が守るのは、お前だけだ。お前の望みを、叶えるのが、俺の役目だ。だから、俺は、誰にも負けない。当たり前だけど、お前にも。」
幸多は、そう言うと、黙って、明の手を握った。
その手を、握り返す明。
「・・・さっきの話、みんなにもしなきゃ。絵里さんに、明日、召集かけてもらう。」
「おう。」
明は黙って、頭を、幸多にもたれかかせた。
やっと、宿題が終わった・・・。
もう、夕食を食べる時間だ。
そう思って、部屋を出ようとした時、携帯電話が、鳴った。
父親からの、メールだ。
生活や、学校での生活を、心配するものだった。
俺は一言だけ、「大丈夫」と、返した。
これが、母親にだったら、沢山、話したいことがある。
不思議な人たち、不思議な修行、現実離れした、学校生活の話を。
だけど、母親は、もういない。
たった一人、俺を、信じていてくれていた、母親は。
そんなことを考えながら、俺は、夕食へ、向かった。
次の日の帰り、また、全ての神社の人達が、車に乗っていて、驚いた。
「明から、何も聞いてないの?」
驚いている俺に、志乃さんが、聞いてくれた。
「は、はい。」
「明・・・せめて、優矢さんには、一番に情報を教えて、注意してもらわないと。」
志乃さんの目が、明さんにいく。
「・・・どうせ、私たちから、そう遠くに、離れることも、ないんだから、昨日でも、今日でも、変わらないでしょ。」
そっけない、明さんの、言葉。
「それでぇ、大事な話って、なんですかぁ?」
美桜さんが、不思議そうに、聞いた。
大事な話?そのために、皆、集まったのか・・・。
すると、珍しく、明さんが、しゃべり始めた。
外での、魂食い事件・・・。星蘭町を、狙っている・・・。必ず、俺を狙うことに、なるだろう・・・。
俺は、黙って、聞いていた。
「そんなに多くの、魂食いをして、その人、自我が、残ってるのかしら。そうだったら、やっかいな敵ね。」
志乃さんが、言った。
「自我が、なくなって、暴走されても、対処が大変だろ。」
達成さんが、前と同じように、くっついている美桜さんを、押しのけながら、言った。
「だけど、星蘭町に、入っているかどうかも、わからないんだよねー。その人、魂食いのしすぎで、とっくに、死んじゃったんじゃないのー?」
成二さんが、さらっと、怖いことを、言った。
「どちらにしろ、注意が必要ですわね。私や、優矢さんは、魂取りさんにとって、カモさんのような、存在ですから。」
絵里さんの言葉に、皆が、うなずく。カモさんって・・・。
「それで、その魂食いと、キラ研の、関係はどうなの?」
志乃さんが、明さんに、聞いた。
黙って、首を横に振る、明さん。
それを見て、誰も、何も言わなかった。
結局、話は、明日から、解決するまでは、全員で帰ること。そして、全員、何かあったら、すぐに駆けつけられる場所にいること。という話で、終わった。
その日から、二日後。
朝、俺の下駄箱に、手紙が、入っていた。
内容を要約すると、学校の、皆がいる所では、俺に、話しかけづらい。だけど、俺と、白川財閥についてや、将来のことを、話してみたい。だから、放課後、時間が欲しい。だった。
手紙を読んでいると、真っ先に、絵里さんが、覗き込んできた。
「あら、ラブレターですか?いけませんよ、私がいますのに。」
「ち・・・違うよ!」
なんだ、このやり取り・・・。これじゃ、まるで、本物の、婚約者じゃないか。
差出人の名前は、男の人の、ようだった。
「この方なら、知っていますよ。高校三年生の、ここの生徒です。確かに、白川財閥と、関係のある、某会社の、ご子息ではありますが・・・。」
絵里さんは、そこまで言うと、黙って後ろで見ていた、明さんと、幸多さんに、向き直った。二人とも、怪訝そうな、顔をしている。
「どうも、うさんくさいわね・・・。」
明さんが、俺から、手紙を無理矢理奪って、読んでいる。
「ですが、その方は、確かに、この学校の、生徒ですわ。」
「・・・・・。」
「良いこと、考えました。私も、一緒に行きます。」
悩んでいる俺たちに、絵里さんが、笑顔で言った。
「えっ・・・。行くの?」
俺は少し、戸惑った。
なんせ、俺は、身分を偽っているわけだし、明さん達だって、もしかしたら、罠かもしれないって、思っているだろう。
そんな、危ない所に・・・。
「もちろん、近くで、明さん達には、待機してもらって、こっそり、観察してもらいますわ。もし、この方が、本当に、優矢さんと、お話がしたいだけならば、私が、誤魔化せますし、仮に、魂取りさんであっても、近くに、みなさんがいれば、安心ですわ。」
笑顔のままの、絵里さん。
明さんが、ため息をついた。
「そうするしかないわね・・・。」
そう言うと、明さんは、手紙を俺に投げると、教室に、行ってしまった。
放課後
俺と、絵里さんは、指定の場所である教室に、向かった。
すぐ近くに、明さん達が、待機してくれているはずだ。
正直、本当に話すのであっても、罠でも怖い。
俺は、この学校で、嘘をついている。
絵里さんが、一緒だと、心強いけれど、相手は、白川財閥と、関係のある会社だと言っていた。誤魔化せるのか?
罠だとしたら、もっと怖い。
心なしか、いつも肩で寝ているポーが、なんだかせわしなく、俺の肩の上を、走り回っている。気のせいだろうか。
緊張しながら、普段は、使われていない、教室の、ドアを開ける。
そこには、俺達と同じ制服を着た、男の人が、立っていた。
良かった・・・。どうやら、罠ではなかったみたいだ・・・。
俺たちは、教室に入った。
「お久しぶりです。私も、ご一緒させていただきました。」
絵里さんが、笑顔で言った。
その時、突然、ポーが飛び上がった。
「ポーーー!!ポーー!!」
怒ったような声で、俺の前を、飛び回っている。
どうしたんだろう?
絵里さんは、何も見えていないふりをしてくれていて、男の人と、挨拶を交わしている。
「いやぁ、あんな、突然、変な呼び出し方をして、本当に、申し訳なかったです。でも、嬉しいです。」
男の人が、言った。
良かった・・・。やっぱり、魂取りじゃない・・・。
でも、ここからが、問題だ。
なんとか、俺のことを、誤魔化さないと・・・。
「こんなにも、珍しく、質の良い魂が、二人も、釣れたのだから。」
えっ・・・・?
今、なんて・・・・?
「優矢さん、下がってください!」
絵里さんが、俺の前に立った。
その途端、教室の周りが、一気に暗くなった。
「優矢さん、早く外へ!」
絵里さんの声で、我に返った俺は、ドアに向かおうとした。
だけど、何もない所で、見えない壁のようなものに、ぶつかった。
なんなんだ・・・?
「無駄、無駄。ここはもう、俺の・・・いや、私の力で、空間分離されたのだから。」
空間・・・分離?
恐る恐る、振り返った俺は、衝撃的なものを、見た。
男の人が、その姿を、どんどん、変えていって・・・・。
ポーが、姿が、変わっていく相手に、怒った声で、叫ぶように、鳴いている。
俺は、目を見開いた。
男の人は、女の人に、変わっていた。服も、真っ赤な、ワンピースに、変わっている。
俺の目には、何重にも、色んな人の、顔が見えた。
魂取り・・・・!!
どうやら、俺たちは、閉じ込められている!
俺は、明さんに、連絡するため、携帯電話を、手にとった。だけど、学校内のはずなのに、電波が立っていない!
「無駄、無駄、何をやっても、無駄よぉ。」
女の人が、笑いながら、近づいてくる。
どうしよう、怖い・・・。明さん達にも、伝えられない!
俺は、ここで、魂を取られて、死ぬのか?
「あなたは、魂取りさんだったのですね。」
全く、動揺していない様子で、絵里さんが、言った。
驚く俺をよそに、絵里さんは、胸元の金の、龍が掘ってある飾りを、手に取った。
そして、その飾りを、相手の女の人に向けて、かざした。
飾りが、強い光を発した。
驚いて、目をつぶった俺だったが、すぐに、目を開けた。
「れ・・・・礼さん・・・!?」
俺は、自分の目を、疑った。
俺と、絵里さんの前には、確かに、礼さんが、立っているのだ。
「お嬢様、優矢様と共に、お下がりください。明様達が来るまで、時間を稼ぎます。」
礼さんが、そう言うと、絵里さんは、うなずいて、俺の手を取って、少し後ろに、下がった。
絵里さんの、手のぬくもりが、混乱していた俺を、少し、冷静にしてくれた。
礼さんが、魂取りに向かって、ナイフを投げた。
それを笑顔で、素手で、キャッチする、魂取り。
「無駄、無駄、無駄ぁ!この世の全ては、無駄なのよぉ!」
魂取りが、叫んだ瞬間、俺はさらに、恐ろしいものを見た。
魂取りの前を、幽霊のような人たちが、俺たちを向いて、沢山立っていたのだ。
礼さんが、また、ナイフを投げる。
幽霊の一人に、あたった。でも、実態があるようだ。
ということは、幽霊ではない・・・?
俺は、成二さんの、言っていたことを、思い出した。
魂をとられると、傀儡にされる・・・・。
傀儡たちが、俺達に迫る。
ポーが、礼さんの、隣に、飛んでいった。
「あ・・・ポー!」
とっさに、ポーを呼んだけれど、ポーは、無視して、魂取り達に向かって、「ポーーーー!」と叫びながら、火を噴いた。
傀儡が、焼けたと思ったけれど、まだ、動いている。
どうしよう・・・。なんとか、明さんに、連絡を・・・。
そう思った瞬間、両側の壁に、亀裂が、入った。
「ガシャン!」という、大きな音と共に、左側から、明さん、幸多さん、志乃さん。右側から、達成さん、成二さん、美桜さんが、飛び込んできた。
「うわー。大変なことになってるねー。」
成二さんが、少しも、動じていない様子で、言った。
・・・皆が、来てくれた・・・。
でも、どうして、異変に、気が付いたんだ・・・?
考えている暇は、なかった。
今度は、俺達全員を閉じ込めるように、黒い壁ができたのだ。
「ふーん。空間分離ね。結界とは、比べ物にならない、空間自体を切り離す、能力か。どうりで、壊すのが、厄介だったはずだ。遅くなって、ごめん。」
明さんが、絵里さんに向かって、言った。
絵里さんは、微笑んでいる。
なんで、この状況で、冷静なんだ・・・。
「あらぁ・・・能力者の、魂が、わんさか、わんさか・・・。」
魂取りは、笑いながら、手を動かす。
傀儡が、俺達全員に、飛びかかってくる。
「美桜は、絵里さんと、優矢を、守って!成二は、できる限り、陽動!傀儡は、達成と、幸多に、任せる。志乃と、私で、魂取り本体を、潰す!」
明さんが、素早く、指示を出した。
全員が、一斉に動く。
俺と、絵里さんの前に、美桜さんが、立つ。
「せっかくのご縁ですが、このご縁、断たせていただきますぅ!」
美桜さんの武器の、杖のようなものの先にある、大きな玉が光った。
そのまま、その光は、俺と、絵里さんを、守るように、包み込んだ。
成二さんの腰についている、沢山の玉が、空中で、光を放ちながら、飛び回っている。
どうやら、傀儡たちは、それを、追いかけているようだ。
その傀儡を、達成さんと、幸多さんが、攻撃している。
「私は、多くの力を、手に入れたのよぉぉぉ!無駄、無駄、無駄ぁぁ!」
傀儡が、黒い力を、達成さんと、幸多さんに向かって、放った。
二人は、無言だったけれど、達成さんの武器は、青く、幸多さんの武器は、赤く光っていて、黒い力を跳ね返した。
そして、そのまま、傀儡を倒していく。
礼さんも、後ろから、ナイフを投げて、援護していた。
「あんた、体も精神も、もう限界でしょ。これだけの、魂食いをして、耐えられるわけがない。引け。引かないと、自らを、滅ぼすぞ。」
明さんが、魂取りに、言った。
「無駄、無駄、無駄ぁぁぁ!この・・・世の・・・全ては・・・・!」
魂取りは、明さんを見ずに、叫んでいる。
「・・・完全に、自我を、失ってる。志乃、一気に決めるよ!」
「まかせて!封印せよ!!」
志乃さんが、手をスライドさせると、何枚ものお札が、魂取りを、取り囲んだ。
「ぎゃぁぁ!む・・・だ・・・無駄・・・・。」
「これで、終わりだ。」
明さんが、大きな槍を、上に突き上げた。
「我、龍神の加護を、受けるものなり。龍神よ、この罪深きものの罪を、断罪したまえ!奪われた者の魂に、安らぎを、与えたまえ!」
そう叫ぶと、槍をまわして、柄の部分を、床にたたきつけた。
その瞬間、黄色い光と、緑の光が、雷のように、魂取りに、降りかかった。
「う・・・うぎゃぁぁぁぁ!むだぁぁぁぁぁ!!」
魂取りが、その場に、倒れた。
それと同時に、傀儡と、黒い壁が消えた。
俺たちは、元の教室に、戻っていた。
美桜さんが、武器をおろす。
俺たちを守っていた、光が消えた。
全員、いつもの皆に、戻っていた。
ただ一人、倒れている、魂取りの、女の人・・・。
「大丈夫?」
明さんが、絵里さんに、聞いた。
「えぇ。みなさんが、守ってくださいましたから。私と、優矢さんは、無事ですよ。」
「良かったですぅ!空間分離を壊すのに、少し時間がかかってしまってぇ・・・。間に合わなかったら、どうしようかと、思いましたぁ。」
美桜さんが、笑顔で言った。
「やっぱり、自我を、失ってたようだねー。俺たちが、手を出さなかったら、そのまま、死んでいただろうねー。」
成二さんが、いつものように、さらりと、怖いことを言う。
いつの間にか、ポーは、俺の肩に戻っていて、俺に、体をこすりつけている。
そういえば・・・・。
「あの・・・。明さん・・・。実は・・・明さん達が、来てくれる前に、ポーが・・・。その・・・。火を噴いて・・・・・。」
「・・・あんたを、守ろうとしたのよ。子供でも、龍神様に、変わりはないんだから。火くらい、噴いても、おかしくない。」
明さんが、ぶっきらぼうだけど、答えてくれた。
「それで、この魂取りはどうする?奪った魂は、明の力で浄化されているし、この人自身にも、もう力はないと思うけど・・・。」
志乃さんが、全員を見渡しながら、言った。
「おじいさまと、師範に、連絡して、引き渡す。ここからは、まだ、私たちは、手をだしたらいけないって、言われているから。」
明さんの言葉に、全員がうなずいた。
そこからの記憶は、少し曖昧だけれど、俺は、気が付いたら、絵里さんの、車に、乗っていた。目の前に、湯気の立っている、カップが置かれた。
「パッションフラワー、リンデンのフラワー、ローズマリーの、ブレンドです。神経系をリラックスさせる効果の高い、パッションフラワーとリンデン、強壮効果のある、ローズマリーを、ブレンドしました。皆さまの疲れを癒して、元気になれるように。」
礼さんが、順番に、カップを置いていく。
・・・・まてよ・・・・?あの時・・・、なんで、礼さんが・・・・。
「あの・・・礼さん・・・。どうして、あの時・・・・。」
俺は、恐る恐る、礼さんに、聞いた。
答えたのは、絵里さんだった。
「あら、言ってませんでしたかしら。礼は、人間じゃないのですよ。」
「へ・・・・?」
に・・・人間じゃない!?どういうことだ!?
俺は、間抜けな声しか、出せなかった。
「礼は、明さんに仕えている、陽のあやかしです。よほどのことがない限り、人間の姿をしています。大分前に、明さんが、私の、守護をする者として、授けてくださったのですよ。普段は、私の執事を、こなしてくれていますが、同時に、私を守ってくれている存在でも、あるのです。」
明るい笑顔で、絵里さんが言う。
「そ・・・そうなんですか・・・・。」
俺は、そう答えながら、チラリと、礼さんを見た。
どこからどう見ても、普通の、人間だ。
どうやら、理解するのに、時間が、かかりそうだ・・・。
「それにしても、思ったより早く、魂取り事件の、解決ができて、良かったわね。」
志乃さんが、ため息をつきながら、言った。
「すげー奴だったな。あんな大量に、魂食いしてる奴、初めて見ただろ。」
達成さんが、腕を組んで、険しい顔をしながら、言った。美桜さんが、くっついているが、疲れているのか、相手にしていない。
「自我は、とっくに、失っていたようだけどねー。結局、何が目的だったのかなー。」
成二さんは、どこか楽しそうに、クスクス笑っている。
「詳しいことは、おじいさまと、師範から、また、教えてもらえると思う。だけど、見る限り、キラ研との関係は、ないと思う・・・けどね。」
明さんが、幸多さんの膝を、枕にして、目をつむったまま、言った。
「確かにね。キラ研が、あんな雑な、方法をとるとは、思えないもの。」
志乃さんが、うなずきながら、答える。
「一番の驚きは、学校に、侵入されたことですねぇ。学校の結界は、とても、強いのにぃ。生徒の、魂を奪って、その生徒の、皮を被るなんてぇ・・・。」
美桜さんが、達成さんにくっついたまま、だけど、真剣な声で、言った。
え・・・あの生徒の魂は、取られていたのか?
だったら、あの生徒は・・・。これは、大問題になるんじゃ・・・・。
多分、そんな俺の心が、顔に出ていたんだと思う。
「大丈夫ですよ。明さんたちは、魂取りさんが、奪った魂を、雑に扱うことなんて、しませんから。奪われて、長い時間が経っていなければ、きちんと、元の持ち主に戻ります。あの傀儡たちは、魂を取られた人たちをかたどった、別の、あやかしのような、ものですから、心配いりませんわ。」
絵里さんが、俺に優しく、笑ってくれた。
少しだけど、俺は安心した。
それにしても、本当に、怖かった・・・。
明さん達が、来てくれなかったら・・・。
俺は、自分が、いかに危険な目にあったのか、再確認するように、さっき起こったことを、何度も何度も、考えていた。
光龍神社についた。
師範と、明さんのおじいさんは、まだ、戻っていないようだ。
幸多さんに、挨拶をして、明さんと、広間に、帰ってきた。
「あの・・・明さん・・・。今日は、本当に、ありがとうございました・・・。俺、何もできなくて・・・。その・・・すみません・・・。」
俺は、明さんに向かって、頭を下げた。
本当は、皆にも、お礼を言いたかったけれど、車では、タイミングが、つかめなかったのだ。
せめて、明さんだけには・・・。そう思った。
「別に、あんたが、謝る事じゃないでしょ。絵里さんと同じで、あんたも、好きで、その魂に、生まれたわけじゃ、ないんだから。それに、あんたは、一般人として、生活してきたんだから、何もできないのが、当り前。」
明さんは、そっけなかったけれど、俺を見ながら、そう言ってくれた。
「は・・・はい・・・・。」
俺は、うつむいた。俺は、分かっていたけれど、何も、できなかったのだから。
「少しは、自分が狙われて、危ないって、実感湧いた?」
明さんが、俺に、聞いてきた。
「えっ・・・・。は・・・はい・・・。かなり・・・。」
うつむいたまま、俺は、答えた。
「そう・・・。」
そう言いながら、明さんが、俺に近づいて、俺の胸の真ん中に、手を当てた。
「あんたの魂は、目立ちすぎるのよ・・・!こんな魂が、うろうろしていたら、魂取りなら誰でも目を付ける・・・・!!」
明さんが、手に、力を込めた。
その瞬間、俺は、激しい眩暈に、襲われた。
胸の中が、ぐにゃぐにゃして、気持ちが悪い。激しい、動機もする。
「うわぁぁぁ!」
思わず、叫んだ。
明さんが、俺から、手を放した。
俺は、膝から、崩れ落ちた。
呼吸を、一生懸命、整える。
恐る恐る、明さんを、見たけれど、明さんは、広間を、出ようとしていた。
「それが、魂を取られる、感覚よ。覚えておきなさい。そうならないように、師範や、おじいさまと、対策を、考える事ね。」
後ろを向いたまま、明さんは、そう言うと、広間から、出て行った。
俺は、しばらく動けずに、そのまま、固まっていた。
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