龍神様はチョコレートがお好き

Emi 松原

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龍神様はチョコレートがお好き

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花の呪い~笑っていて欲しい~

「そういえば、まだ、優矢さんを、私の家に、お招きしたことが、なかったですわね。」
 あの事件から、しばらく経った日の、昼食時、突然、絵里さんが、言った。
「えっ・・・。」
 俺は、固まった。
 当たり前だ。
 俺は、女の人の家になんて、行ったことがない。
 女友達でさえ、転校するまで、いなかったのだ。
「今日は、また、みなさんでの、修行の日ですよね?今日は、私も、お邪魔させていただきたいと思っているので、時間まで、優矢さんを、招待いたしますわ。もちろん、明さんと、幸多さんも。」
「絵里さんの家には、なんでもあるから、最高の、暇つぶしね。」
 明さんが、少し楽しそうに言った。
「便利屋さんみたいですね。」
 絵里さんが、クスクスと笑う。
「明が行くなら、俺も、お邪魔するよ。」
 幸多さんも、うなずいた。
「実は、明さんに、見てもらいたいものが、あるのです。」
 絵里さんが、明さんに向かって、真顔で言った。
 明さんは、何かを察したのか、黙って、うなずいた。
 こうして、放課後、俺達は、絵里さんの家に、行くことになったのだった。

「で・・・・でかい・・・・・。」
 放課後、俺は、絵里さんの家の前で、立ちすくんでいた。
 なんだ・・・ここは・・・。
 城か・・・?
 車で、家の前まで来たけれど、敷地内に入ってからも、車は走っていた。
 敷地内で、迷子になるっていう、伝説的なことが、本当に、起こるんじゃないのか?
 そんな俺を無視して、三人は、中に入っていく。
 慌てて、追いかける。
 家の中も、映画かよ、と突っ込みたくなるくらい、豪華だった。
 それに、大量の、使用人の方々が、俺たちを、出迎えてくれた。
 俺は、どういう振る舞いをしたらいいのか、分からなくて、小さくなって、絵里さんの後ろを、ついていった。
「ここが、私の、プライベートルームです。」
 絵里さんに、笑顔で招き入れられた部屋は、光龍神社の、広間くらいある、とにかく、一人の部屋だとは、思えない広さだった。
 部屋は、青で統一されていて、落ち着いた感じがする。
 部屋の端に、大きな、ベッドがあった。
 あそこで、絵里さんが、寝てるんだ・・・って、何を考えているんだ。俺は。
 絵里さんに、促されて、ソファに座る。ふ・・・ふかふかだ・・・・。ふかふかというより、ふかんふかんだ・・・・。
 机を挟んで、俺の前には、絵里さんと、明さん。
 隣に、幸多さんが、座った。
「皆さま、学業、お疲れ様です。」
 そう言いながら、いつものように、湯気の出ているカップを、礼さんが、置いていく。
「ハイビスカスと、ローズヒップのブレンドです。ハイビスカスに含まれる、クエン酸と、ローズヒップに含まれる、ビタミンCの働きで、疲労回復が期待できます。ルビー色の、酸味があるティーになっています。」
 そして、ポーの前には、チョコレートの山。今日は、色とりどりだ。
「ポー?ポー!」
 一瞬、不思議そうに見ていたポーだったが、バクバクと、美味しそうに、食べ始めた。
「それで、見せたいものって?」
 明さんが、礼さんが持ってきてくれた、おやつに手を伸ばしながら、言った。
 絵里さんが、礼さんに、目配せをした。
 部屋から出て行った礼さんだったが、すぐに、戻ってきた。
 その手には、花束のようなものを、持っている。
 礼さんが、その花束を、俺たちに、見せる。
 なんだろう・・・。なんの花か、全然分からないけれど、なんだか、綺麗なのに、黒いもので、覆われているような・・・変な、感覚がする。
 ポーが、突然、花束に向かって、怒ったように鳴いた。
「さすが、龍神様。わかってらっしゃるのね。」
 明さんが、ポーを見ながら、言った。
「・・・これが、今日の朝、家の前に、置かれていましたの。」
 絵里さんが、少し、沈んだ声で、言った。
 こんな、絵里さんを見るのは、初めてだ。
「ふーん。まさに、宣戦布告って感じね。優矢、あんたにはこれ、どう見えるの?」
 突然、聞かれて、俺は戸惑った。
「あの・・・俺は、花に詳しくないですが・・・。なんだか、花束全体を、黒いもの・・・靄(もや)みたいなものが、覆っているような・・・。」
 見えたままを、俺は、正直に言った。
「へー。やっぱり、あんたも、能力者だね。」
 よく分からないけれど、明さんが、納得したように、言った。
「私にも、優矢さんと、同じように見えます。それに、この花束・・・春の花でつくられていますが・・・。赤紫色のアザミ、花言葉は、「独立、報復」そして・・・。」
 絵里さんが、俺にも分かりやすく、花を指さしながら、説明してくれる。
「カーネーションの黄色、花言葉は、「軽蔑」。セイヨウダマキの紫、花言葉は、「愚か」。キンセンカの黄色、花言葉は、「悲しみ、嘆き、失望」。そして、白いチューリップ・・・花言葉は、「失われた愛」・・・・。」
 絵里さんが、少し、暗い声で、言い終えた。
「花言葉には、色々な解釈が、ありますから・・・。と、言いたいですが、ここまで、花言葉で、訴えられていると、何も言えなくなりますね。」
 絵里さんが、悲しそうに笑った。
 確かに・・・。軽蔑とか、失望とか、言ってたもんな。でも・・・。
「あの・・・花自体は、とても綺麗ですよね・・・。もしかしたら差出人は、花言葉を知らないで、送ったんじゃ・・・。」
 俺は、いつも、俺を、フォローしてくれる、絵里さんに、お返しがしたくて、必死で言った。
「そうだとしても、家の前に置くなんて、非常識にもほどがあるでしょ。それに、あんたにも、黒い靄が見えてるじゃない。これ、呪詛が、かけられてる。」
「呪詛・・・・!?」
 俺は、驚いた。
 呪詛のイメージって、なんていうか・・・。暗い部屋で、魔方陣を、書いたりするような、そんなことしか、思いつかなかったから。
「やはりそうでしたか・・・。礼に、一時的に、封印をしてもらったので、今日は、何事もなかったのですが・・・。」
 絵里さんが、ため息をつく。
「それで、差出人は?」
 明さんが、おやつを食べる手を止めずに、言った。
「この、カードしか・・・。」
 絵里さんが、礼さんに、目配せすると、礼さんが、一枚のカードを出した。
 黒いカードに、「絵里様へ、Mより。」とだけ、書いてある。
「花束が、置いてあったのは、家の、結界の外でした。白川財閥は、大きな財閥ゆえに、恨まれることも、多々あります。ですが・・・。」
 そこまで言って、絵里さんは、明さんを見た。
 うなずく、明さん。
「結界は、破れなかったようだね。だけど、この呪いは、プロだよ。誰かが、プロに依頼したのか、自身がやったのか、分からないけれど。相手の情報が、波動からも、読み取れない。情報が少なすぎ。でも、これ、一般の人が送られたら、すぐに、何か起こって、大変なことになる。」
 明さんが、手を置いて、真面目に言った。
「とりあえず、この呪いの、波動を覚えて、呪いは、解除する。」
 そう言うと、明さんは、花に、手をかざした。
 すると、どんどん、黒い靄が、消えていく。
 明さんが、手を離した時には、黒い靄は、消えていて、綺麗な花束に、なっていた。
「これは、応急処置だから。しばらくは、要注意。一度きりのものだと、良いけれど。」
 明さんの言葉に、絵里さんが、深くうなずいた。
「ありがとうございます。さすが、明さんですわ。」
 絵里さんが、やっと、いつものように笑った。
 どうしてだろう。いつも、絵里さんに、助けられているからか、俺は、絵里さんが、笑っていないと、なんだか、苦しくなった。

 今日は、また皆で、修行するらしい。絵里さんも、一緒だから、なんだか、前より安心だ。そう思いながら、俺は、車から降りた。
 道場の前には、もう皆が、集まっていた。
 師範と、明さんのおじいさんもいる。
 なんだか、皆、表情が、暗いような・・・・。
「ただいま帰りました。」
 明さんの言葉に、全員が、俺たちを、振り返る。
 やっぱり、皆、表情が、暗い・・・。
「・・・みなさん、何かあったのですか?」
 絵里さんが、皆を、見渡した。
「・・・来る途中に、これを、見つけたの。裏口の方の、結界の外に、あったわ。」
 志乃さんが、俺たちに、見せたのは・・・。
 絵里さんの所に、置かれていたものと同じ、花束だった。
 俺の肩で、寝ていたポーが、突然起きて、また怒ったように、花束に向かって鳴いた。
「あぁ、それ。絵里さんの所にも、同じものがあったよ。」
 明さんの言葉に、皆が、驚いた顔をする。
「で、私宛?」
 なんてこともないように、明さんが言った。
 明さんと、俺たちは、皆のそばに、近づいた。
「それが・・・・。」
 志乃さんが、少し、口ごもった。
「隠してもしょうがないでしょー。お殿様宛てだよー。」
 成二さんが、不気味に、笑いながら言った。
 俺・・・・・?
 なんで、俺に・・・・?
 明さんのおじいさんが、明さんに、黒いカードを手渡した。
 絵里さんに、送られたものと、同じだ。
 明さんが、カードを、俺と、絵里さん、幸多さんに、見せた。
 そこには・・・・。 

「優矢様へ。Mより。」

 俺は、何も言えなかった。俺にも、呪いが・・・?
「絵里さんに、送られたものと、全く同じ、呪詛ね。差出人も同じ。波動だけは、覚えたよ。絵里さんの方は、その後、処理した。」
 明さんが、皆に、言った。
「そうか・・・。」
 師範が、考え込むように、うつむいた。
 俺も、どうしたらいいか分からなくて、黙って、うつむいていた。
「優矢さんを、私の、本当の、婚約者だと思っている方では、ないでしょうか。」
 絵里さんが、心配そうに、言った。
「ごめん、私たちにも、これだけじゃ、何も分からなくて・・・。プロが、相手だと、相手を特定できなくて・・・。」
 志乃さんが、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさぁい。こういう波動をたどるのは、縁結びの加護がある、私が、一番得意なはずなのですがぁ・・・。何も分からなくてぇ・・・。」
 美桜さんが、泣きそうになりながら、言った。
「俺たちは、こういうの、得意じゃないもんな。なぁ、幸多。」
 達成さんが、幸多さんに、言った。
黙って、うなずく幸多さん。
「おじいさまは、どう思われますか?」
 明さんが、明さんのおじいさんの方向を向いて、聞いた。
「・・・何かを決めるには、情報が足りない。加護を受けている者たちは、全員、この波動を、覚えておくように。今は、それだけにする。さぁ、修行の準備をするんだ。この前の、魂取りについても、話さないといけない。」
 明さんのおじいさんが、そう言うと、皆、一斉に、動き出した。

 皆が、準備している間、道場には、俺と、絵里さん、師範、そして明さんのおじいさんがいた。
「優矢くん、何か、変わったことは、なかったかい?」
 師範が、優しく、聞いてくれた。
 俺は、黙って、首を横に振った。
「そうか・・・。何かあったら、遠慮なく、言っておくれ。」
 師範の、優しい言葉に、俺は、うなずいた。
 そして、待っている間、疑問に思ったことを、聞こうと思った。
「あの・・・波動って・・・なんですか?」
「波動は、人間一人一人が発している、オーラと言われるようなものだよ。オーラより、もっと正確で、波動を読み取ることで、訓練されている者は、それが誰なのか、どういう想いかが、分かったりするんだ。」
「へぇ・・・そうなんですね・・・。」
 波動・・・。
 俺には、説明されても、よく分からなかった。
 絵里さんが、考え込むように、下を向いている。
 声をかけようかと、考えたけれど、なんて言えば良いのか、分からない・・・。
 だけど、なぜか、心がとっても、モヤモヤして・・・。
「あの・・・!俺に、花束が届いたのは、絵里さんのせいじゃ、ないから・・・!」
 俺は、必死で、それだけ言った。
 絵里さんは、驚いたような顔をして、こっちを見たけれど、すぐに、笑ってくれた。
「ありがとうございます。優矢さんは、優しいお方ですね。」
 俺は、少し恥ずかしくなって、黙って、うつむいてしまった。

 丁度その時、準備をした皆が、道場に、入ってきた。
 前と、同じように、並んで、正座をする。
 絵里さんも、その場で、正座をしたから、俺も、真似して、正座をした。
 師範と、明さんのおじいさんが、立ったまま、全員を見渡すと、明さんのおじいさんが、話し始めた。
「まず、この前の、魂取りの件だ。よくやった。魂を取られていた生徒は、無事だ。」
 明さんのおじいさんの言葉に、俺は、少し、安心した。
「どうやら、あの魂取りは、子供の頃から、霊能力を持っていたようだ。だが、現実主義者の、厳しい親が、それを理由に、虐待していたらしい。お前は、無駄な人間だと。どこで、魂食いの仕方を覚えたのか、分からないが、魂食いをして、強くなることで、自分の生きている、この世界を、破壊したいと考えた。その途中で、星蘭町のことを知ったようだ。キラ研との、関係はなかった。今は、星蘭町の外の病院にいる。もう、戻ってはこられない。」
 俺は、なんだか、複雑な気持ちになった。
 同情なのだろうか。分からないけれど、なぜか、悲しくなった。
 魂食いをする人は、皆、恐ろしい、「悪」だと、思っていた。
 実際、とても恐ろしかったし、皆がいなかったら、俺は、どうなっていたか。
「次に、今日の、呪いがかけられた、花束のこと。結界の外に、置いてあったところを見ると、結界を破ることは、できなかったと思われる。だが、皆も分かっての通り、明らかに、プロの仕業だ。絵里さんの、財閥を恨むものか、魂取りか、キラ研かは、分からない。波動を忘れずに、十分に注意して、絵里さんと、優矢くんにも、気を配ること。」
「はい。」
 明さんのおじいさんの言葉に、袴を着た六人が、うなずきながら、返事をした。
「では、今日の、修行を始める。」
 師範が、空気を変えるように、張り詰めた声で言った。

 今日の修行は、俺と、絵里さんが、離れた場所にいて、同時に、襲われた時を、想定して、行われた。
 相変わらず、激しい修行だったけれど、俺は、どこか、心ここにあらず、だった。
 それは、魂取りの人のことを、考えていたからかもしれないし、呪いのことを、考えていたからかもしれない。
 絵里さんも、元気がないように、見える。俺の、思い過ごしだろうか。
 だけど、俺は、その姿を見て、なんとも言えない、感情になった。
 何かしてあげたい。そう思った。
 だけど、俺に、何ができる?
 守ってもらうばかりの、この俺に・・・。
 一生懸命考えた末、俺は、あることを、思いついた。
 だけど、実行に、うつせるだろうか・・・。
 そんなことを、考えているうちに、今日の、修行が終わった。

 俺は、布団の中で、必死に、携帯電話を使って、検索を、していた。
 きっと、少しでも、絵里さんの気持ちを、楽にする方法が、あるはずだ。
 絵里さんは、自分が、婚約者だと言っているせいで、呪いがかけられたと、思っていると思う。
 もし、そうだとしても、それは、俺を守るためだ。
 だから、絵里さんには、いつものように、余裕の顔で、笑っていて欲しい。
「あ・・・あった・・・。」
 思わず、大声を出しそうになった。
 目当てのものを、見つけた俺は、寝ようと思って、携帯電話を置こうとしたら、丁度、父親からの、メールが届いた。
 内容は、前と同じ。俺の生活を、心配するものだった。
 だけど今更、父親に、魂取りだとか、呪いだの、話す気はない。
 俺は、また、大丈夫とだけ送った。

 幸多の部屋
「ねぇ、生まれ変わっても、私と、一緒にいたい?」
 幸多のベッドに座った、明が、言った。
「なんだよ、突然。」
 床に座っていた、幸多が、答える。
「いや、私、前世でも、幸多のことが好きだったって、記述があるし。今世でも、恋人同士なわけでしょ。だから、次も、好きになるかなって。」
「前世なんか、関係ねぇよ。俺は、明が好きなんだ。」
「じゃあ、生まれ変わっても、また一緒に、なってくれる?」
「なに、今が、不満か?」
「そういうわけじゃないもん・・・。」
 明が、むすっとした、顔をする。
「何をまた、不安になってるんだ?」
 幸多が、明の目を、見た。
 布団に潜り込む、明。
 そのまま、顔と、腕だけ出して、ポンポンと、ベッドを叩いて、無言で、幸多を呼ぶ。
「寝るなら、自分の部屋で寝ろよ。送って行ってやるから。」
「なんで。」
「夜、一緒に寝たなんてばれたら、俺が、恒夫さんと、じじいに、殺されるだろ。」
「ばれなきゃいい。」
 明は、そう言うと、さっきより強く、ベッドを、叩いた。
 観念して、布団に入る、幸多。
「・・・幸多、ありがとね。いつも、傍にいてくれて。」
 明が、静かな声で、言った。
「俺が、決めたんだ。巫女様を守るとか、家の役目が、どうとかじゃなくて、明自身を、俺が、必ず守るって。だから、何を考えているのかは、知らないけど、心配するな。」
 幸多が、明の手を握った。その手を、握り返す、明。
「うん・・・。」
 明は、素直にうなずくと、そのまま、穏やかな寝息を立て始めた。

 次の日の朝、広間に行くと、明さんと、明さんのおじいさんが、難しい顔をして座っていた。
 机の上には・・・。
 ・・・・・昨日と同じ、花束だ。
「あぁ、おはよう、優矢くん。」
 明さんのおじいさんが、俺に気が付いて、笑って、言った。
「おはようございます・・・あの・・・また・・・?」
 俺は、その場で、立ったまま、言った。
「その通りだ。付いていた、カードも、全く同じだった。」
 明さんのおじいさんが、うなずきながら、答えてくれた。
「・・・絵里さんの所にも、朝、同じものが、置いてあったって。今、昨日、花束が置かれた場所に、設置したらしい、監視カメラを、解析してもらってる。」
 明さんが、続ける。
 監視カメラ・・・それなら、どんな人が置いたか、分かるだろう。
 少し安心した。だけど・・・・。
 また、花束が届いているから、きっと、絵里さんは、辛いだろうな・・・。
 俺は、昨日考えた、自分にもできそうなことを、絶対に、成功させたいと思った。

 いつものように、車で登校していたけれど、誰も、呪いについては、触れなかった。
 ただ、学校に着いたとき、絵里さんが、明さんに、
「監視カメラの解析結果は、分かり次第、お知らせしますわ。」
 と、言っていた。
 下駄箱で、靴を履き替える前に、俺は、絵里さんに、声をかけた。
「あ・・・あの・・・絵里さん・・・ちょっと、いいかな・・・?」
 緊張して、声が、うらがえる。
「あら、どうかされましたか?」
 絵里さんが、俺を振り返って、言った。
「あの・・・ちょっと・・・一緒に、行きたい場所があって・・・・。授業には、間に合うから・・・・。」
 声がうらがえりながらも、なんとか、要件を伝える。
「えぇ、もちろん。」
 絵里さんは、そう言ってくれると、明さん達に、何か合図をした。
 ため息をつく、明さん。
「・・・・学校の、敷地外には、勝手に、出ないでよ。」
 それだけ言うと、明さんは、幸多さんと一緒に、教室に行ってしまった。

 俺が、絵里さんを、連れてきたのは、庭園のスペースだった。
 地図を、思い出しながら、目的の花を探す。
 絵里さんは、何も聞かず、ついてきてくれた。
「あ・・・これだ・・・・。」
 俺は、目的の、花を見つけた。
 本当は、いけないことだって、分かっているけれど、花を一つ、摘んだ。
 そのまま、絵里さんの方へ、向き直る。
 黙って、少し震えながら、俺は、その花を、絵里さんに、差し出した。
「あ・・・あの・・・花壇の花で、申し訳ないんだけど・・・・これ・・・。」
 絵里さんが、驚いた顔を、している。
「これを・・・私に、ですか・・・?」
 俺は、黙って、うなずいた。
 絵里さんは、それこそ、プレゼントなんて、もらいなれているだろう。
 それに、こんな、花壇から、摘んだ花じゃ、怒られるかもしれない。
「あの・・・昨日、花言葉とか、調べて・・・・。」
 言い訳のように、言う俺。
 すると、絵里さんが、にっこりと笑った。
「カンパニュラですね。花言葉は、「感謝、誠実さ」・・・・。」
「う、うん・・・。俺、絵里さんには・・・本当に、感謝してるから・・・。」
 絵里さんが、俺の手から、カンパニュラの花を、受け取った。
「ありがとうございます。とっても、嬉しいですわ。」
 絵里さんが、笑ってくれている。
 俺は、とても、ほっとした。
 絵里さんは、カンパニュラの花を、カーディガンの、胸ポケットに、さした。
「どうですか?」
 笑いながら、絵里さんに、聞かれた。
「え・・・あの・・・すごく・・・似合ってると・・・・。」
 俺は、それだけ、なんとか答えた。
「私・・・。今まで、何度も、花を頂きましたが・・・。こんなに嬉しいのは、初めてかもしれません。」
 絵里さんが、少し、はにかんだ笑顔で、言った。
 俺には、その笑顔が、とてもまぶしくて、嬉しかった。

 放課後
 絵里さんの家の、防犯カメラの、解析ができたということで、また、皆が、車に、集まっていた。
 俺は、朝のことがあったから、とても気持ちが軽くて、あまり、前より、呪いが怖いとは、思っていなかった。
 監視カメラの映像を、見るまでは。
「こちらが、昨日、急遽設置した、監視カメラの映像です。」
 礼さんが、タブレッドを、机の、真ん中に置いた。
 全員が、黙って、画面を見た。
 しばらく、なんの変化もなかった、画面だけれど、突然、砂嵐のように、映像が、おかしくなった。
 壊れたのか・・・?
 だけど、誰も、何も言わなかったから、黙って、画面を、見つめた。
 数分後、画面が、元に戻った。
 そこには・・・・。

 呪いの花束だけが、ポツンと、置いてあった。

「この、監視カメラは、最新式です。このような、壊れ方をするとは、考えにくかったのですが、念のため、調べてみました。しかし、なんの異常も、ありませんでした。」
 礼さんの言葉に、俺は、言葉を失った。
「へー。怪奇現象って感じだねー。怖いねー。」
 全然、怖くなさそうに、成二さんが、言った。
「だけど、分かったこともあるわね。」
 志乃さんが、言った。
 俺以外の、皆がうなずく。
 なんだろう・・・分かったことって・・・・。
「呪いをかけた主は、自分で、もしくは誰かを使って、実態で、花を置きに来ている。だから、監視カメラの、映像を止めた。式神とかを使うなら、わざわざ、監視カメラを止める必要は、ないもの。」
 志乃さんが、言った。なるほど・・・。
 でも、どうやって、監視カメラを、止めたんだ・・・?
「機械類は、霊的なものに、反応しやすいから。ある程度の、実力があれば・・・ましてや、プロなら、壊すのも簡単・・・。機械類に、頼れそうにないわね。」
 志乃さんが、続ける。
「さてー。どうしようかー。」
 成二さんは、やっぱりどこか、楽しそうだ。
「毎日、処理するのも、面倒だしね。」
 明さんが、いつものように、幸多さんの膝枕で、目をつむったまま、言った。
「これ、呪いが、解除されてるって、相手は、気が付いてねぇんじゃないの?」
 達成さんが、明さんの真似をして、膝枕をしてこようとしている、美桜さんを、押しのけながら、言った。
「その可能性もあるわね。花を、普通に、部屋に持って帰っていると思って、呪いを続けているのかもしれない。」
 志乃さんが、うなずく。
「白川財閥のほうではぁ、なにか、収穫がありましたかぁ?」
 美桜さんの言葉に、絵里さんが、首を横に振った。
「礼に、白川財閥に、恨みをもっているかもしれない会社、個人を含めて、徹底的に、調べてもらいました。ですが、「M」という文字が付く方は、いませんでした。」
「なんにもわからないねー。実力行使するー?」
 成二さんが、少し、笑顔で言った。
「それしかないね。花束が置かれている場所は、二日とも同じだった。分からないように、式神を、近くに配置させる。一番良いのは、犯人を捕らえること。」
 明さんが、言った。
「だったら、二つのグループに、分けましょうか。絵里さんの家と、光龍神社の、二つ分の、式神を、つくるため。」
 志乃さんが、うなずきながら、言った。
 結果、明さん、志乃さんが、光龍神社。達成さん、成二さん、美桜さんが、絵里さんの家の、式神を、つくることになった。

 助けてくれ・・・・!
 俺は、黒いものに、追われていた。
 黒いものが、俺を、捕まえる。
「助けてくれー!!」
 そう叫んだ瞬間、俺は、目が覚めた。
 ・・・夢か・・・。
 ここに来てから、こんな夢を見るのは、初めてだ。
 まだ夜中だけれど、俺は、目が覚めてしまった。
 俺は、携帯電話を手に取ると、暇つぶしに、夢占いのサイトを開く。
「えーっと、追いかけられる・・・あ、あった。」
 追いかけられて捕まる・・・あなたの行く手を、はばむ障害に、立ち向かうべきだと、告げる夢・・・。
 呪いに、立ち向かえってことかな?
 次に、「叫ぶ」というキーワードで、調べた。
 この夢を見たときは、あなた自身の力では、どうにもならない状況に置かれている。その結果として、不運に見舞われることも、暗示する夢。
 ・・・なんだか、当たっていて、驚いた。
 俺の力では、何もできない。だけど、それに立ち向かえって、夢か・・・?
 そんなことを、考えていると、俺は、また、眠ってしまった。

【龍神の間】
「そうか、式神を、使うことにしたか。」
 恒夫が、明に、言った。
「はい。何かしらの、痕跡が残れば、波動を追えますし、縁さえ繋がれば、美桜が、その縁を、たどることができます。」
 明が、真剣な顔で、恒夫に返す。
「うむ。上出来だ。良く、やっている。ところで、優矢くんの、メンタルは、大丈夫だろうか。この前は、魂取りに襲われ、今回、突然、呪いの品が、送られたのだ。一人でここに下宿しているし、心配だ。」
「おじいさま、彼は、思っていたより、芯が強い、人間のようです。学校でも、絵里さんの助けを得て、なんとかやっています。心配は、無用です。」
 明が、少し微笑んで、言った。
「母のことを、知っても、芯の強さを保てるか。あの魂が暴走すると、厄介だぞ。」
 火龍が、どこか、明を、試すように、言った。
「・・・そのことは、知る必要が、ありません。教える気も、ありません。」
 明が、火龍に、はっきりと返す。
「力は、使い方を、ほんの少しでも間違えると、大きな過ちになる。勿論、お前たちも含めてだ。この部屋に、入るだけの力を、持つ者よ。」
 水龍が、静かに言った。
「はい。心得ています。」
 明が、真剣な顔で、言った。
「優矢くんの魂は、想像以上に大きな力を持っている。だからこそ、慎重に、考えなければならない。」
 恒夫が、明に言った。明が、うなずく。
「動乱は、明が生まれる前から、始まると、お告げをされていた。明、お前たちは、その困難に、立ち向かう為、辛い修行も、こなしてくれた。絵里さんとも、幼いころからの、信頼関係で、守護を授けることが、できている。だが、優矢くんは・・・。」
 恒夫が、少し苦しそうな顔で、言った。
「お前は、あの時、優矢の父と、母に、忠告した。行動を選んだのは、彼ら自身。気に病む必要などない。」
 地龍が、低く太い声で、恒夫に言った。
「過去を振り返っても、何も変わりません。変えるべきは、未来です。未来が、全ての生き物にとって、より良い世界になるように、あなた達が、居るのです。今、世界は、岐路に立たされています。私たちからの、新たな言葉です。【動乱は、混乱により、さらに大きくなる】です。」
 雷龍の言葉に、恒夫と、明が、無言で頭を下げた。

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