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帰宅する人形
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「……っていう相談がね……」
いつもの場所。安明の家の庭で、陽一が目に涙を浮かべて言った。
陽一のことだ。どんなに怖くても、困っている人を放っておけなかったのだろう。そんな陽一と違って、少し楽しそうにしているのが、安明だ。
「へぇ。お寺に預けても駄目だったんだ。そのお寺が侮ったか、余程相手が強いか、どっちだろうね。久しぶりに、虎ちゃんの、拳の方が見れるかな?」
「ねー、そんなに楽しそうにしないでよ。川から戻ってくるレベルなんだよ? それで、僕の親と、やっすんのとこのおじさんにも連絡して、やっすんのおじさんに、お寺の名前で預かってもらって、夜は僕たちが見ておくことになったから。もー、虎ちゃん! 今日は絶対、僕の側から離れないでよ!」
「む? なんだ、ヨーくん。まだ夜に一人でトイレに行けなかったのか。漏らす前に起こすんだぞ」
「やめてよ!! その話はしないで!! 今はもう行けるから!!」
虎之助は、首をかしげながら、プロテインを飲んでいる。多分、今の話もあまり聞いていなかったのだろう。
「なんだかなぁ。虎ちゃんがこの調子なら、そこまでって感じでもあるんだけどなぁ」
安明が、少し考え込むように、虎之助を見ながら言った。虎之助は、次の筋トレに移っている。
虎之助は、六畳一間のアパートで一人暮らしをしている為、ダンベルなどのトレーニング器具を置くスペースがない。その為、部屋が余っていて、三人のたまり場でもある、安明の家に置かせてもらっているのだ。
「実物を見るまで、虎ちゃんは動かないんじゃない?」
「そうかもな。人形が戻ってくる、まではよくある話でもあるし。でも、他の寺や、供養に出したのに戻ってくる、までは初めて聞いたけど」
「そこなんだよぉ……。僕の結界だけじゃ、封じ込められる自信はないからね!! やっすんと、虎ちゃんが頼りだからね!!」
陽一の言葉に、安明がニヤリと笑う。
「ヨーくんが持って来た案件なのに?」
安明の言葉に、陽一が頬を膨らませた。
「ごめんごめん。それで、ヨーくん。ちょっと真面目に聞いておくとさ。ヨーくん的に、今回の話を聞いてどうなの? 供養の場に持っていっても、戻ってくるって」
安明の言葉に、陽一は、少し首をかしげて、難しそうな顔をした。
「んー、正直ね、理屈だけだったら、別におかしい事じゃないんだよ。さっき、やっすんが言ったでしょ? 戻ってくることはよくあることって。勿論、川に捨てたり、お寺に預けたりしたのにってところを見たら怖いけれどね。でも、お寺の供養も、すぐにお炊き上げをしなかったら、その間は保管でしょ。保管中に、封印をしっかりしておくなりして閉じ込めておかないと、お寺だろうが関係ないと思うよ」
「んじゃ、封印さえしっかりしておいて、お炊き上げを終えてしまえば問題ないってこと?」
「そこも難しいよね。その人形がどういう状況になっているのかは分からないけれど、例えば、人形の中に誰かの魂が入ってたとするでしょ? お炊き上げをして供養しても、その魂が、何をしても行くべき場所に行くことを拒否したら、結局依り代を別の物に変えるか、魂だけの存在になるかだもん。勿論、《人形として》戻ることはなくなるけど」
「なるほどね。閉じ込めておけば良いってもんでもないってことか」
安明が、納得したように頷いた。聞いているのかいないのか、虎之助は、筋トレを続けていたのだった。
※※※
夜。三人は、安明の実家である寺の一室で、人形と対面していた。と言っても、虎之助だけは、筋トレ道具の雑誌から目を離していない。
「これが、その人形ねぇ。確かに古くはあるけれど、いかにもな日本人形でもないし、なんなら、結構可愛い部類の人形だと思うけどなぁ」
安明が、人形をまじまじと見ながら言った。
「う……ん。正直、僕も驚いたな……。ほんと怖い人形を想像してたから……。見た目もだし、雰囲気も。とらちゃんが全く気にしてないのが、その証拠だよね」
「だよな。時間とかで、雰囲気が一気に変わるとか、動き出すってやつかもしれないな。結界は、二人で二重にしておこう。ヨーくんは人形をとにかく外に出さないことに集中して」
「了解だよ。それにしても、虎ちゃん、凄く楽しそうだね」
二人は、苦笑して、虎之助を見る。虎之助は、子供のように目を輝かせて、食い入るように雑誌を見つめていた。
「虎ちゃんがこういう顔をしていると、なんだか嬉しいな。で、とらちゃん、何か良いのあった?」
安明の言葉に、虎之助は、雑誌から目を離さずに頷いた。
「うむ。やっすんのおじさんが、俺が今日バイトに出られなかったのが悪かったと、普段は高いから買わない種類の筋トレ雑誌をくれたのだ。凄いぞ。いつも読んでいる最強マッスルも楽しいが、器具のレベルが桁違いだ。それに、やっすんのおばさんが、晩ご飯に、筋トレに良いという俺専用メニューも作ってくれたしな!!」
「あぁ。虎ちゃんってよく食べるから、お袋が喜ぶんだよね。普段からもっと食べに来れば良いのに」
「嬉しいが、バイトの時間があるのだ」
虎之助はそう言うと、雑誌をめくる。安明と陽一は、ひとまず安心した。虎之助がこの様子ならば、今のところ危険は少なそうだ。
深夜になった。ガタンッという音と共に、安明と陽一は、一気に警戒態勢に入る。
「なんだ。ヨーくん、トイレか?」
一人寝ていた虎之助も、目をこすりながら布団から起きてくる。
「違うよ! 虎ちゃん、人形が動き始めたよ!」
「ヨーくん、早く行かないと漏れるぞ」
虎之助の言葉に、陽一は諦めて、安明を見た。安明は真剣な顔をして頷くと、二人で人形を見つめる。
《帰らなきゃ……帰らなきゃ……おうちに、帰らなきゃ……》
フワッと、人形から薄暗い光が出たと思うと、人形が、宙に浮いた。
「うわぁぁ!! 浮いたよ!! もう嫌だぁ!!」
陽一が、悲痛な叫びを声を上げながらも、結界を強化する。
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