お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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帰宅する人形

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「そうか。人形。ちょっと待て」
 そう言うと、虎之助は、鞄からプロテインを取り出し、部屋の冷蔵庫から牛乳を出して、専用のカップを振ってプロテインを作ると、人形に差し出した。
「人形。そういうことだ。餞別だ」
《ふふっ……。これ、筋肉をつける飲み物でしょ? お供え物には向かないわよ》
「む。詳しいんだな」
《ずっと、かりん達の家で生きてきたから、多少はね》
「そうか。飲んだら、筋トレをすると良いぞ。引き締まった体は、今以上に魅力が増すぞ」
《私、一応日本人形の部類だから、ちょっと……。でも、あなた、とても面白いわね。言っていることはずれているのに、とてつもない霊力を秘めているでしょ。勿論、ここの二人もだけれど、あなただけ、ずば抜けているわ》
「うむ。この能力で、俺は子供の頃、忌み嫌われていた。だが、俺の見えるもの、感じるものが伝わる相手がいたのだ。それが、やっすんとヨーくんだ」
《えぇ。二人とも、とても良い人ね。……ねぇ、安明さんと言ったわね。お願いがあるの》
「はい。できる限り、叶えたいと思います」
《私ね、まだ、この体のままで居たいの。だから、ここに置いて貰えたら嬉しいんだけれども……。お寺で静かにしていれば、問題ないでしょ?》
「そうですね……。松子さんが、周りに害を与えなければ、可能かと思います」
「だったら、俺と一緒に住めば良いじゃないか」
「へっ!?」
 突然の虎之助の言葉に、陽一が思わず叫ぶ。安明も、驚いて虎之助を見ていた。
「やっすんのお寺は、いわば、最後の駆け込み寺だ。害もなく、しかも感情がある人形ならば、俺の家でも良いじゃないか。やっすんが俺の物をほとんど預かってくれているからな。人形分くらい、場所はある」
《それは、とても面白そうね。でも、あなた、これからもそうやって、私みたいな人形を受け入れていくの? それは無理なことよ?》
「分かっている。だが、俺は、お前のような境遇の奴らが、どうすれば居場所ができ、幸せになれるか考えたいのだ。俺を、やっすんとヨーくんが幸せにしてくれたように」
《……分かった。じゃあ、あなたの場所でお世話になるわ》
 二人の会話に、安明も、陽一も、何も言わず、頷いたのだった。

 しばらくして、《キカイ》の新たな噂が流れた。
 《キカイ》のメンバーに、人形が加入したと。その人形は、どうやら喋るらしいと。
 こうして、《キカイ》は、ますます《奇怪》に思われるのである。

※※※

《本当に、何もない部屋ね》
「む? 布団があれば生きていけるではないか。人形、お前も布団派か?」
《私は、その辺に座っていれば良いわ。後、私には、ちゃんと松子って名前があるの》
「そうか。松子だな。俺はこの後、トレーニングジムでのバイトに行くぞ。昼間は大学だ」
《ジムには興味がないわね……。虎之助みたいなのが多そうだし。大学には行ってみたいわ》
「む……。そうか。じゃあ、一緒に来れば良い」

 周りの目を全く気にしない虎之助は、次の日、いつものように、朝ご飯を安明の家で陽一も含めて食べ、その時に松子を大学に連れて行くことを二人に話すと、そのまま大学へと向かった。

「ふむ。ここに座っていれば、授業が見えるだろう」
 そう言いながら、虎之助は、松子を机の上に置く。
「えっ、その人形、どうしたの!? 凄く可愛い!!」
 虎之助の近くに座っていた、西条 音羽が、声をかけてきた。虎之助の大学は、専門的な授業や学科が多い。その為、少し変わり者も多く、虎之助も馴染めているのだ。
「うむ。一緒に住んでいる、松子だ」
「へぇ、松子ちゃんって言うのね。……ねぇ、もしかして、この子、着せ替えタイプなの!?」
「む? よく分からんが」
《そうよ》
「そうらしいぞ」
「やっぱり!?」
 虎之助がよく分からないことを言うことに慣れている級友たちは、人形の声が聞こえなくてもなんとも思わない様子だ。
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