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捨てられた白蛇
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「音羽先輩、この布で良いですか?」
サークルの部室で、耕也は音羽に声をかけた。
耕也は、音羽の高校の後輩で、共に服飾が好きだった。最初、耕也は、アルバイトを多く入れるため、サークルに所属していなかったのだが、音羽に誘われて行った展示会で、音羽達の作った和服を着た人形を見て、どうしてもこのサークルに入りたくなったのだ。
「うん、これで良いよ! もう少ししたら、モデルの松子ちゃんが来る予定だから。あ、松子ちゃんって、この前の展示会でモデルをしてくれた人形さんね。今はこのサークルの専属モデルをしてくれているんだ」
まるで、人形が自らの意思でここにやってくるかのように言う音羽に、耕也は苦笑して返した。
元々、音羽はどこか不思議な人だったが、この大学には、音羽と同じように、いや、もっと不思議な人たちが集まっている。だからこそ毎日が刺激的だし、楽しいのだが。
《バタン!!》
勢いよく部室の扉が開いて、耕也は驚いて後ずさった。そこには、あの展示会で見た人形を抱いた、タンクトップでマッチョの男が立っている。
「虎之助くん、松子ちゃん、いらっしゃい! 松子ちゃん、新しい服の仮縫いができたから、何着か合わせてみてほしいの。髪も綺麗にしてあげるわね」
《ありがとう、音羽。すごく嬉しいわ》
「む。音羽、松子が嬉しいと礼を言っている」
「どういたしまして。でも嬉しいのは私だよ。松子ちゃんの服を作ってるとね、ほんと、どんどんイマジネーション沸いちゃって。楽しくてしょうがないの。展示会もだし、活動報告の写真でも、すごく評判が良いんだよ」
「松子にプロテインを勧めているんだが、見向きもしない。モデルたるもの、筋肉美を鍛えるのは当然だと思うのだが。俺のバイト先でも、女性の会員は多いし、皆プロテインを愛用しているんだぞ」
虎之助と呼ばれた男の言葉に、音羽が声を上げて笑う。
耕也は、かみ合っているようでかみ合っていない、不思議な会話を、部屋の端で聞いていた。虎之助の威圧感に、動けなかったのだ。
「えーっと、まず、これ。女の子らしさを全面的に出してみて、洋風テイストも入れてみたんだ。もう一着が、こっち。こっちも洋風テイストを入れたんだけれど、大人っぽい感じを出したくて、形は同じだけれど、色味を抑えたの。決まったら、飾りや小物を作るわ。次の展示会は前より少し大きい会場だから、きらびやかな衣装が多いかも。松子ちゃん、どっちが良い?」
《二着目の方が良いわ。でも、もう少し明るい色が良いわね。同じ色味で明るくできないのかしら?》
「二着目で、同じ色味でもう少し明るくして欲しいそうだ」
虎之助の言葉に、音羽は笑顔で頷きながら、メモをとる。
なんなんだ……? この、まるで、人形と話しているかのような、この人は……。それに普通に対応している音羽先輩もだが……。耕也は驚いたが、何も言えない。
「ありがとう、じゃあ、これで進めるね。あ、紹介するね、新しくサークルのチームに加わった、耕也くん。一年生で、私の後輩なの」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
耕也は、慌てて虎之助に頭を下げる。虎之助は、無言でじっと耕也を見つめると、背負っていたリュックを下ろし、何かの粉をカップに入れている。
どうして良いか分からず音羽を見たが、自分の世界に入ってしまっているようで、黙って待っていると、虎之助は耕也の目の前の机に、黄色い液体の入ったカップを置いた。
「バナナ味のプロテインだ。あいにく蛇が好みそうな味がなくてな。これで勘弁して欲しい」
「えっ……。今、なんて……」
「む? バイトの時間だ。松子、帰るぞ」
虎之助はそう言うと、またリュックを背負い、松子を抱えて、部室を出て行く。
「ふふっ、不思議な人でしょ、驚いた?」
「は、は……い……」
音羽の言葉に、耕也は曖昧に頷く。なぜ、あの人は、蛇だと……? いや、そもそもあの白蛇は、夢の中に出てくるだけのものなのに。ましてや、誰にも言ったことなんてないのに。
「《キカイ》の一人なんだよ、彼。だから、ちょっと変わっているけれど、面白い人だから。怖がらないであげてくれたら嬉しいな」
《キカイ》……。高校生の時に、その名は何度も聞いた。ネットでの都市伝説なのか、脚色されたものなのか分からなかったが。
あの人には、何か見えたのだろうか?
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