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捨てられた白蛇
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しおりを挟む「白蛇様、お言葉をかけることをお許しください。私は、藤江 陽一と申します。神主の見習いとして修行をしております。今回、この、畑中 耕也さんから相談を受けました。何か、お伝えしたいことがありましたら、仲介させて頂きたいと思っています」
陽一は、椅子から床に座り直すと、そう言って、耕也の後ろの白蛇様に向かって頭を下げた。
《我を……忘れた……朽ちるが良い、滅びればよい》
「お言葉を返して頂き、ありがとうございます」
陽一は、もう一度白蛇様に頭を下げると、その場に座ったまま、耕也を見る。
「白蛇様は、自分が忘れられたとお怒りになられているんだ。一般的な言葉に直すと、祟られてるって言ったら分かりやすいかな。忘れたってことは、元々は信仰されていた方なんだと思うけれど、心当たりはある? お家が白蛇様を信仰していたとか」
陽一の最後の言葉に、耕也は、目を見開いた。
勝手に閉まっていた記憶の扉が、開いた感覚がしたのだ。
「あのっ、お婆ちゃん……父方の祖母が、この家は、白蛇様が守ってくれていると言っていました……!! それで、家の裏に小さな祠があるんですけれど、そこにいつも手を合わせていて。俺も一緒に、手を合わせるようになったんです。お供え物もちゃんとしていたし……。でも、祖母が死んでからは……」
「なるほど。家に来て頂いて、守って頂いていた神様を、おろそかにしているんだね。今は、そのお家と祠は……?」
「家の裏に、変わらずあるはずです。でも、父も母も……」
耕也は、そこまで言って下を向いた。
いつもは控えめな陽一が、今回は前に出る。
「えっと、傷つけたら申し訳ないんだけれど……。お父様もお母様も、白蛇様の祟りを直に受けているね。お金使いがおかしくなったりっていうのは典型なんだ。でもね、これは、白蛇様をおろそかにしてしまった、君たち家族の責任なんだ。家に来て頂いた神様は、最後まで家についていてくださるんだ。きちんと祈り、正しい行いをしている限り、その家を守り繁栄させてくださる」
陽一の言葉に、耕也は、ゆっくりと顔を上げる。
「お婆ちゃんにも……同じようなことを言われました……。どの位前からか分からないけれど、白蛇様が、ずっと自分たちを守ってくださっているからって……。それで、それをちゃんと理解できるのが、俺しかいないとも……」
耕也の言葉に、陽一がしっかりと頷く。
「直接的に悪い方向に向かってしまっているご両親と違って、耕也さんの後ろに白蛇様はついていて、ずっとメッセージを送っていたんだと思う。今ならまだ、間に合うかもしれない。ちゃんと、謝罪して、感謝して……白蛇様の今後を決めなくちゃ。このままだと、憎しみにとらわれて、関係のない人にも悪影響を持つ神様になってしまうかもしれないから」
「その祠に行かないといけないってこと? 許してもらえたとして、その後はどうするの?」
陽一に向かって、安明が聞いた。
「一番良いのは、きちんと耕也さんが管理して、前のような関係が築けることだけれど……現実的に、今後を考えたら……。アパートにでも向かい入れる方法はあるけれど、この先もずっとちゃんと管理できるのかとかさ……。元々おられた神社を探して、帰って頂くしか……」
陽一の声が、どんどん小さくなる。
家に来て守ってくれと迎えておきながら、必要なくなったら帰れという人間に対し、神が怒らない訳がないのだ。
人の手が及ばぬこと、それを、陽一も安明も、そして虎之助も分かっている。
「ご実家に帰ることはできますか? もし、耕也さんに、謝罪の気持ちと感謝の気持ちがあるのなら、できる限りですが、お手伝いはしようと思います」
陽一の言った言葉に、安明が軽くため息をついた。本来なら、関わるべきではない。だが、白蛇様のことも、耕也のことも放っておけないのが、陽一の優しさなのだ。
「はい。すぐ調整をして、次の休みにでも帰ります。お願いします、助けてください……!!」
「ねぇ、耕也くんのご実家、私の実家の近くなんだけれど、私も一緒に行って良い? ここまで聞いちゃったから、心配で」
黙って聞いていた音羽が、陽一達に向けて言った。陽一が、嬉しそうに頷く。
「地域柄の可能性もあるから、助かります」
こうして、全員で耕也の実家に行くことになったが、虎之助はずっと何も言わず、黙ってプロテインを作り、机の上に置いたのだった。
※※※
「思ったより田舎でしょ?」
耕也と音羽の地元の駅に降り立つと、音羽が明るい声で言った。
虎之助達三人と松子は、夜はビジネスホテルに泊まることにしているので、そのまま耕也の実家へと向かう。
「ご実家に、お仏壇とかありますか? 今まで白蛇様をまつっていたご先祖様もいるだろうし、ご挨拶できたらしようかと思いまして」
安明の言葉に、耕也は歩きながら暗い顔をして少しうつむいた。
「実は……仏壇も、両親が処分してしまって……」
「どこかのお寺に頼んで閉めたんですか?」
「いえ、そのままゴミに……」
「そうですか……。もしかしたら、白蛇様に隠れているだけで、見守ってくださっている方もいるかもしれませんので、協力を頼めたら頼んでみましょう」
「はい、ありがとうございます」
安明が、気にしないでくれというように、微笑んで頷く。
《虎之助は、ここしばらくずーっと黙っているわね。なぜか筋トレの量が増えたのよ》
「虎ちゃんは、考え込んでいる時に筋トレが増えるよね」
松子の言葉に、陽一が少し心配そうに返すと、虎之助を見た。
虎之助は、いつものリュックを背負い、松子を抱き、黙々と歩いている。
そんな虎之助を、安明、陽一、松子は、心配そうに眺めるのだった。
「ここが、俺の実家です。裏手に回れば、すぐに祠があります」
「上がって、おじさんとおばさんにご挨拶しなくて良いの?」
音羽の言葉に、耕也は苦笑して首を横に振った。今の両親を、他人に合わせたくなかったのだ。
家の裏手に回ると、小さな祠があるのがすぐに分かった。しかし、その周りは、家のゴミで埋め尽くされている。
「これは……ここまで……?」
耕也が、落胆した声を上げた。自分の両親が、ここまで無頓着になってしまったことが今でも信じられなかった。だが……。思い返せば、いつも家のことは祖母が行っていた。 両親に今回のことを話したが、変な宗教に入るなと一蹴されただけだった。
「……まずは、周りを綺麗にして清めましょうか」
陽一の言葉に、全員が動き出す。
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