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捨てられた白蛇
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しおりを挟むその中でも、虎之助は、松子を抱いたまま、重い粗大ゴミをどんどん運ぶ。
《虎之助、悲しいの? 私と出会った時みたいに》
「筋肉は、一部分だけ鍛えても意味がないのだ。一つの筋肉をまた別の筋肉が支えている。だから、全体の筋肉を鍛える必要がある。そこが筋トレの難しいところだ」
《最近、あなたの言いたいことが少し分かるようになったわ。あなたがとても優しくて、人や、私達の痛みが分かることも知ってる》
松子の言葉に、虎之助は何も答えず、黙々とゴミを運ぶ。
《でもね、人にできることが限られているのも事実よ。私のような人形を、全員受け入れることができないように》
「筋肉の力は無限大だ。時には筋トレをする為の器具を頼り、プロテインでサポートし、食生活で必要な栄養素を補う。そうして筋肉は無限大に鍛えられるのだ」
《ふふっ、あなたの良いところよ。周りを頼ることができるのは》
「松子ちゃん、虎ちゃんと暮らしてるお陰で、凄く虎ちゃんのことを理解してくれているんだね。良かったよ、虎ちゃんのすぐそばに、松子ちゃんがいてくれて」
二人の会話を聞いていた安明が微笑んだ。
掃除が終わり、耕也が祠の前に立つ。その隣に、陽一が並び、後ろに安明、虎之助、音羽が立った。
陽一が挨拶をして、祠を開けた。そこには、白蛇の小さな置物が置いてある。
「これがここのご神体だね。白蛇様、今日は謝罪と感謝の気持ちを伝えに参りました」
そう言うと、陽一は、耕也の背中を軽く押す。
「あのっ……白蛇様、本当に、本当にごめんなさい。俺、ここに来る前に色々思い出したんです。婆ちゃんが、白蛇様について色んなことを教えてくれたのを。この地域では、昔から白蛇様をまつっていて、いつも大事にして祈っていると必ず答えてくれると。だから辛いときも悲しいときも、楽しいときも嬉しいときも、ここに話に来るんだよって。子供の頃の俺は、ここで話すのが大好きだったのに。婆ちゃんが死んで、生活に追われて、全部忘れてしまっていました。ごめんなさい。そして、本当にありがとうございます」
耕也が、土下座する形をとって言葉を紡いだ。
その様子に、陽一達は驚いたが、耕也の気持ちの中での大きな想いがあることは伝わってきた。
《末の子よ。やっと我のことを思い出したか》
「白蛇様、お言葉ありがとうございます。未熟者ですが、私が仲介役を務めさせて頂きます」
陽一がそう言うと、白蛇様の声を耕也に伝える。
陽一と安明は、少し安心していた。神様関係は、本来なら手を出すべきではない大きな案件だが、これなら無事終わるかもしれない、と。
だが、それは甘い考えだった。神が人に怒るというのは、それ相応のことがあってのことなのだから。
「耕也!! 変な宗教はやめてって言ったでしょ!? 何が白蛇よ! お金は足りないし、お父さんも女のところから帰ってこないし! そんなものがあるから悪いのよ!!」
後ろから女性の叫び声が聞こえたと思うと同時に、派手なブランド品に身を包んだ女性が、耕也に詰め寄る。
「母さん……でも……」
耕也の母親は、勢いよく耕也を突き飛ばすと、白蛇様のご神体を持ち、振り上げた。
「駄目だ……!!」
陽一の叫びもむなしく、その手は振り下ろされ、ガシャン、と音を立てて、ご神体がボロボロに砕け散る。
一瞬、空気が止まった。世界の全ての時間が、止まった気がした。
「な、なに、気持ちわる……」
耕也の母親が、口元を押さえて、家の中に駆け込んで行った。辺りには、激しい風が吹き、耕也や陽一にまとわりつく。
陽一が、慌てて耕也を掴むと、一緒に土下座する形をとる。
《我を、ここまで、愚弄するか》
怒りが頂点に達した神に対して、陽一と耕也はとにかく謝罪を繰り返す。
安明は、音羽を守る為に音羽を連れて少し下がり、これ以上ことが悪化しないよう見守るしかできない。
そんな中、虎之助は、いつものように、プロテインをつくり、砕かれたご神体のそばに置くと、ご神体のかけらを集め始めた。
その行動を、白蛇様は一瞬見たが、怒りが収まるはずもない。だが、置かれたプロテインには見覚えがあった。
そう。耕也と虎之助が初めて出会った時、虎之助はプロテインを供えたのだ。お供え物とは、神様への献上品であり、毎日供えるものは食事でもある。水、塩、米、酒などが基本だが、家に招いた神の場合、気持ちが入っていれば、他のものでも十分伝わるのだ。かといって、プロテインを供えられた神は少ないだろうが。
「俺は昔、神を呪った。親に捨てられ、周りに忌み嫌われ。だが、そんな俺を救ったのが、やっすんとヨーくん、その家族だった。ヨーくんのところの神様は厳しいが、いつも見守ってくれている。困ったときの神頼みだと怒られたこともある。普段は見向きもしないのに、困ったときだけ神様助けてくれと騒ぎ立てるなと。ヨーくんのところの神社も、やっすんのところのお寺も、俺の心の支えだ。きっと白蛇様もそうだったはずだ」
虎之助はそう言うと、松子を安明に渡し、その場で筋トレを始める。二人は土下座し、一人は筋トレをする異常でカオスな光景が広がった。
《お前の心は清い。だが、許すわけにはいかないのだ。我の分身をここまでないがしろにされ、我の存在を忘れたもの達を》
白蛇様が、虎之助に言う。そしてその怒りの目を、耕也に向けた。その目には、悲しみも浮かぶ。
「耕也、いい加減にしなさいよ!!」
吐き戻してきたのか、耕也の母親が靴も履かずに飛び出してきて、耕也に詰め寄る。だが、白蛇様の存在を感じていた耕也は、動こうとしない。
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