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捨てられた白蛇
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しおりを挟む周りから見たら、耕也は変な宗教にはまった人間に見えるだろう。だが、信じて手を合わせていた神様に対し、終わらせるときには礼儀を尽くす。それは神でも人との関係においても同じだ。
白蛇様の怒りが、耕也の母親を見て膨れ上がった。周りに強く押しつけるような空気が広がる。耕也の母親は、また口元を押さえ、家へ飛び込んだ。
陽一は耕也を庇い、安明は音羽と松子を庇う。虎之助だけは、筋トレを続けていた。
「……このままだと、白蛇様の怒りが俺たちや音羽さんにまで……」
陽一は焦っていた。耕也の謝罪と感謝で、確かに白蛇様は耳を傾けてくれていた。だが、それすら崩され、今の状態では周りに危害が及ぶ可能性もある。かといって、耕也を置いて逃げるわけにはいかない。できることはすると、約束した。それにこの白蛇様だって、放っておけない。でも、どうすれば……。
陽一は、自分の未熟さを実感し、涙が出てきた。自分は、神社の跡取りとして、常に神様と共に生きてきた。他の地域の神とはいえ、その怒りを向けられることは、耐えがたいことだ。
安明もまた、自分の弱さを恨んだ。いつも自分が先頭に立ち、行動してきた。陽一と虎之助を誰よりも守りたいからだ。それなのに、今、分野の問題だとはいえ、陽一を一番危険な場所に置いている。虎之助の気持ちが分かっているのに、何もできない。寺の跡取りとして、常に人に寄り添うはずの自分が、いかに無力か、叩きつけられた気がする。
虎之助もただひたすらに筋トレを続け、何も言わない。
全員が押しつぶされそうになったその時。
「まだまだ、甘いな」
男の人の声と同時に、空気が変わる。
「父さん……!? なんで……!?」
「親父……!? まさか、隠れて見てたのか!?」
陽一と安明は顔を上げて、驚いて声を上げた。自分達の父親が、目の前に立っていたのだから。それも、自分たちを守るような空気が辺りを覆っていて、気持ちが楽になる。
陽一の父親は、細めの体で、背が高く、優しく穏やかな顔。安明の父親は、鍛えられたがっしりとした体に、少しお坊さんのイメージとはかけ離れたいかつい顔をしている。
そんな二人は、誰よりも前に立ち、二人で頭を下げた。
「白蛇様、我らが息子達が、白蛇様に対して行ったこと、親としてお詫び申し上げます。白蛇様、あなたのお怒りは、微力ながら、私どもが全て受け止めたいと思っております。白蛇様、あなたを慕い、手を合わせた末の子供だけは、どうか受け入れてやってくれないでしょうか。その後は、もしよろしければ、我が神社に来て頂けると私共としてはとても喜ばしいと思っています。我が神社は、自然神様を奉っております。少し時間を頂きますが、敷地内に社も作らせて頂きたいと思っています」
陽一の父親が、穏やかに言う。その周りに漂う空気は、とても柔らかく、全てを包み込むように広がっていく。
《もう人間など》
「白蛇様、あなたは素晴らしい神であります。ここの家に生きてきた方々が、いかにあなた様を大事にし、またあなた様に愛されてきたか、ひしひしと感じております」
安明の父親が、陽一の父親に続く。
力強く、頼もしい空気が、陽一の父親の出す空気と混ざり、心地の良い風が吹いていた。
そのまま、静かに時間が流れ、白蛇様はゆっくりと口を開いた。
《末の子だけは、その気持ちに免じて謝罪を受け入れよう。だが、この家の他の者は、もう終わりだ。我の分身を壊したものは、朽ちていくが良い。お前。我の社を作ると言ったな。我はもう人間に容赦ない。お前の働き次第でお前の息子共がどうなるか肝に銘じておけ。後、そこの者。……なかなか美味かったぞ》
白蛇様が、陽一の父親に向けて言い、最後に虎之助を見た。
「有り難きお言葉、感謝致します。では、仮の宿としてこちらを」
陽一の父親が、見えないように、手に何かを持っている。そしてその言葉を聞いた瞬間、全ての空気が軽くなり、白蛇様の気配が消えたのだった。
※※※
「さて、わしらは観光して帰るか」
安明の父親が、《キカイ》の三人が止まる予定の、ビジネスホテルの前で明るく言った。
だが、三人の顔は沈んでいる。自分たちには、何もできなかったのだから。
耕也は、感謝の言葉を述べてくれて、これからは親に頼らず生きていけるよう努力し、陽一の神社にも参りに行くと言ってくれた。
音羽も、体験させてくれてありがとう、自分の家にもそんな神様がいるかもしれないから、家族で話してくると言ってくれた。
それでも。それでも。
「修行も足りぬガキ共が、何を一丁前に悩んでいる。悩む暇があったら、己を鍛えろ。己と戦え。そして守る力をつけていけ」
安明の父親が、ガハハと豪快に笑う。
「ゆっくりで良いんだ。今回だって、悪い対応はとっていなかった。日々、成長だ」
陽一の父親が、優しく微笑む。
自分たちはまだまだだ。【最強】で【最凶】の虎之助でさえ。
まだ近づけそうにない背中を見送りながら、三人はビジネスホテルに入ったのだった。
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