お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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オカルトサークルの降霊術 宝石箱編

1-6

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「だってそうですもんね? 外見を綺麗に見せても、所詮は欲に溺れた獣ですもんね」
「なっ……!! 《彼女》になんてことを……!!」
「あなた、本当に分からないんですか? しっかり見てください。彼女の中を。認めたくありませんが、オカルトサークルのその方面の知識量は本物でしょう?」
 安明がさとすように、それなのにどこか挑発する不思議な言い方で、秀樹を見る。
「扉の外で聞こえましたけれど、ロベリアって、花の名前ですよね。花言葉は、「悪意」「謙遜」。これって、どういう意味でしょうね?」
 安明が、仏スマイルをやめて、ニッコリと笑った。
「貴様らは、何を……!! 貴様らなら分かるはずだ、この方が、どれだけ偉大な……」
 そう言いながらも、秀樹の言葉の歯切れが悪くなっていく。
 秀樹は、オカルトサークルの部長になり得た人物だ。《キカイ》が本物だということは、十分分かっている。でも、自分の見ているものは……。

「ひぃっ……!?」

 ロベリアに目を向けた秀樹が、悲鳴を上げた。
 さっきまで、いや、今の今まで、《彼女》は神のような存在だと信じていたし、誰よりも美しい女性に見えていた。それなのに、今見えている《彼女》は、よだれを垂らし、欲にまみれた目をした、毛むくじゃらの、まさに獣だ。
「どういう、ことだ……。降霊術は成功したはず!! お前ら、《彼女》に何をした!!」
「何もしていませんよ。あなたが、正気を取り戻そうとしているだけです。降霊術で最も気をつけないといけないことくらい、俺たちより知っているでしょう?」
 安明の言葉に、秀樹は目を見開く。
「オカルトサークルの人ってさ、知識がある分やらかしてくれるよね。楽しむレベルにしていたら、何も問題はないし、むしろ凄い人たちなのに」
 小さく陽一がつぶやいたが、その声は秀樹に聞こえていない。
「俺の降霊術に、低級霊が引き寄せられた……?? それとも、宝石箱に低級霊が憑いていた……??」
 秀樹が絞り出すように言った言葉に、安明がまたニッコリと笑った。
 そう。降霊術で最も気をつけなければならないこと。それは、「別の悪意を持ったもの」を降霊してしまうことだ。
 いつの時代も、降霊術というものは名を変えて流行る。それは、こっくりさんだったり、キューピットさんだったり。
 では本当に、呼んだものが降りてくるのだろうか?
 降霊術という行為は、何かに降りてきて欲しいという意思表示になる。それに反応した獣や魔物、低級霊が降りてくる可能性が高いというのは、基本的な知識だ。
 それに加えて、今回は曰く付きの宝石箱を媒体に使った。曰く付きとは、必ず何か理由があるからこその曰く付きなのだ。それに憑いているものが、噂されるものとは限らない。
「そんな、嘘だ。嘘だ。ロベリア様……」
 もう一度ロベリアを見た秀樹が、膝から崩れ落ちた。
 秀樹の目には、もう美しいロベリアは見えない。見えるのは、おぞましい獣だけ。
「筋肉は、一度傷ついて大きく強くなる」
 虎之助が、いつの間にか作っていたプロテインを、崩れ落ちて座り込んでいる秀樹の前に置いた。そして、ロベリアを見る。
「貴様にも何か理由はあるのだろう。だが、俺は俺の大切なものに手を出すことは、何があっても許さぬ。さぁ、選べ。ここを去りこいつを解放するか、俺の《拳》を受けるか」
 虎之助の言葉に、ロベリアはかん高い笑い声を上げた。
《人間ごときが、我に指図するか!!》
 そう言うと、ロベリアは虎之助に襲いかかろうと動く。
「終わったな」
「……終わりだね」
「マッーーーースッル!!!!」
 安明と陽一、そして虎之助の言葉が口から出たのは同時だった。
 虎之助はロベリアに、いや、宝石箱に向けて一直線に正拳突きをし、宝石箱は砕け散った。ロベリアは叫ぶ間もなく、消え去ったのだった。

※※※

《良かったの? あの人達、警察に突き出さなくて》
 いつもの庭。いつもの場所で、少し不満そうに松子が言った。
「低級霊に魅入られて人を襲おうとしたなんて、誰も信じないよ。あの部長以外のメンバーは何も覚えていないようだったし」
「少しでも、反省してくれたら良いのに」
 安明の言葉に、音羽が小さくつぶやいて返した。
「これで懲りてくれたら良いんだけれどね……」
 陽一がため息をつき、音羽が頷いて返す。
 そんな中で、「マッスル! マッスル!」のかけ声が響き渡っていた。
 三人と松子は、少し呆れたように、でも嬉しそうな笑みがこぼれた。
 虎之助がこの調子なら、きっと《今は》何事もなく平和な日々が過ごせるだろう、と。

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