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オカルトサークルの降霊術 古本編
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「わぁ……全身筋肉痛だぁ……。私、すっごい運動不足だったのね……」
音羽が、いつもの場所で体を伸ばしながら言った。松子がケラケラと笑う。
《だって音羽、今まで運動なんて全くしていなかったじゃない》
「どう? アルバイトには慣れた?」
「うん! アルバイトの後に、スタジオのプログラムに参加しているの。有酸素運動だね。筋肉をつけるには無酸素運動が良いんだけれど、まずは楽しく運動して体力をつけようと思って。エアロビや、ベリーダンスや、音楽に合わせた格闘技エクササイズをやっているんだ」
安明の言葉に、音羽が笑った。部室にこもることの多かった音羽は、運動を始めてから前よりもますます元気になっている。
「俺たちも運動不足っちゃ運動不足だよねぇ……。最低限の修行しかしていないし……」
陽一の言葉に、安明が苦笑して頷いた。
そんな中、虎之助が、何かを考え込むように、じっと空を見上げている。
「虎ちゃん? どうかしたの?」
陽一が不思議そうに聞くが、虎之助は筋トレの手も止めて、無言で空を見続ける。
《虎之助がボーッとするなんて、初めて見るわ》
「子供の頃は、ああやってよく空を見ていたんだけれどね。突然どうしたんだろう」
松子と安明も、心配そうに言うが、虎之助には聞こえていないようだ。
音羽が立ち上がり、隣に歩いていくと、虎之助の隣に静かに立った。
「虎之助くん、何か考えているの?」
「む? 音羽か。空の表情は毎日違うと子供の頃から思っていた。大人はみんな当たり前だと言った。雨の日も晴れの日も、曇りの日もあるんだからと。だが、そういう意味ではないのだ。空は、いつも俺たちを見ている。俺たちが見れば、いつも大事なことを教えてくれるんだ。だが……」
虎之助が言葉を切って、また無言で空を見る。
音羽は黙って、虎之助の続きの言葉を待った。
「あの時、恐怖を感じた空と同じでな」
「恐怖?」
「あぁ。俺の力では敵わぬ何かが動いている、そんな空だ」
虎之助の言葉に、安明と陽一が反射的に顔を見合わせる。
虎之助が空に恐怖を感じて泣いていた時。それは、《拳》を使えるようになる前、動物達が殺されて魔物になっていた時だ。
最近、また同じ場所で動物が殺されていることと……?
安明と陽一は同時にそう思ったが、何かが違う気がする。
今の虎之助は、初めて《拳》を習得した時からかなり強くなっているのだから、敵わないなんてことがあるはずない。
「動物達の死の裏で、何かがあるってこと……?」
陽一の言葉に、安明は何も言わず、黙って虎之助達を見た。
「音羽。お前に護身術を教える。対人間に対しても、別のものにもつかえるものだ」
虎之助の突然の言葉に、音羽も、安明も陽一も、そして松子も驚いて何も言えなくなった。虎之助が筋トレ以外のことを進めてくるどころか、決定事項として言うことなんて、今までなかったからだ。
「難しいのでなければ……」
今まで見たことのないくらい真剣な顔で言う虎之助に、音羽は、頷きながら答えると、安明達に目をやる。安明達も、肯定するように頷いた。
その日から、音羽は格闘技エクササイズの動きをベースに、虎之助から護身術を習い始めた。
対人間に対しても使えると虎之助は言ったが、一対一でなければ全く役に立たないだろう。むしろ、《人間じゃないもの》に対して、何か警戒している。そう感じ取っていた音羽は何も言わず、虎之助の言うとおりに体を動かす。
安明達は、やはりあの動物について気になると、色々と調べて回っていた。
「うむ。音羽は筋が良いな。正拳突きは、どんな時にも使える。もっと簡単にする時は、拳を作らず、手を開き、そこからしっかりと向こうをはねのけるように突き出すんだ。できれば腰をしっかりおろすと、威力が増すぞ」
「ふぅ、結構、汗をかくんだね」
「この動きは筋肉をしっかり使うからな。ダイエットにも向いている。格闘技エクササイズの良いところはそこだ」
虎之助は手で合図をすると、休憩を促し、音羽は縁側に座って松子の隣で水分補給をする。
「む? やっすんとヨーくんはいないのか?」
《今日は孤児院に行ったわよ。情報を集めるって》
「そうか……。では俺は、己を鍛えるとしよう」
そう言うと、虎之助はストレッチをして、自分の筋トレを始めたのだった。
※※※
「その昔、私達はオカルトサークルを立ち上げ、世界の真理を見てきた。そして偉大な方を降霊することができ、全てが上手くいっていた。それなのに……」
一人の女が、窓の外を見ながら静かに言った。
オカルトサークルの部室には、秀樹と、この前の男、それに複数人の男女がいた。年齢は皆秀樹より高く、現役のメンバーは秀樹だけだ。
「それなのに、あいつらが……。《キカイ》の二人が、私達の邪魔をしたせいで、全てが台無しになってしまったのよ。その後もあいつらは、ことあるごとに私達の邪魔をした。そしてその子供達が、うちの末の子までも……」
「母様……」
「初代様……」
秀樹に続いて、先代と呼ばれていた男が女に跪く。
「でもね、流石私の子よ。改善点はあれど、あそこまで降霊に成功したのだから。だから、また私達は集まったの。私達の悲願を達成するために。私達の邪魔をした、あいつらを消すために」
優しそうに笑いながら秀樹の頭をなでる女に、部屋にいた全員が同時に頭を下げた。
「さぁ、今晩、世界は変わるのよ。準備を進めてちょうだい」
「母様、必ずあいつらが来ると思うのですが……」
秀樹の不安そうな声に、女は秀樹の肩を抱く。
「安心しなさい、可愛い我が子。あの時だって、あいつらはギリギリの戦いを強いられたのよ。今回は、人数も物も、質も経験も、全てこちらが上回っているのよ」
女の声に安心して頷くと、秀樹も準備に加わったのだった。
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