2 / 26
共に生きるため
しおりを挟む
千歳 夢華〈ちとせ ゆめか〉は10歳の少女だ。
楠木小学校の5年生で140㎝と小柄な体だ。そろそろ体重が気になりだし、本人しかその数値は知らない。長い髪の毛を後ろの高めでくくり、その色は光の反射でうす茶色に見える。
“ちとせ”は“せんさい”と書くため、彼女のあだ名は「せんちゃん」と呼ばれている。性格はいたって明るく、好奇心旺盛でその人なつっこい笑顔は大人も子供も引き込む力を持っていた。
彼女が通う楠木小学校はドがつくほど田舎の小さな学校で、全校生徒14人のとても学校とは言えない人数だった。ちなみに五年生は二人。夢華と南河 道哉〈みなみかわ みちや〉という近所に住む幼なじみだ。身長は150㎝と夢華よりも10㎝たかい。体重は40㎏と軽く、夢華と違い多少小心者の所があるが、心優しい少年だ。人口も子供も少ないこの村で、夢華と道哉は毎日のように一緒に遊んでいた。たんぼのおたまじゃくしやかえるをを捕まえたり、水深20㎝ほどの川へ行って笹舟を競争させたり、とにかく毎日遊びで忙しかった。二人が特によく訪れたのは、小学校から山へ向けて5分ほど歩いた所にある神社の境内だ。
その日もいつもと変わらず、二人は神社で遊んでいた。
「ね~今日は何する?くつとばし飽きたし、竹馬も気分じゃないんだよね~。そろそろ川も寒いし、たんぼに行ってもみんな冬眠の準備でなんにも居ないんだよね。」夢華がめんどくさそうに言った。
「じゃあさ、キャッチボールでもしないか?俺、野球に憧れてんだ。中学校に入ったら,野球やりてぇし。」
道哉が答えた。
「え~なんかびっみょ~~う!どうせやるならどっちが長い距離投げれるか競争しようよ。負けたら駄菓子屋で五円チョコ!!」
「よっしゃ、乗った。ちょうど二個ボールあるし。せんちゃんより背だって高いしその分腕も長いんだから、負けないかんな!」
そう言うと,夢華に一つボールを渡した。
「言ったな!じゃあ、せーので同時に投げようね。・・・・・・せ~~~~の!!」
【 ヒュッッッ!!】
道哉の投げたボールは、神社の裏に飛んで行き、そのまま見えなくなった。
「わ~道哉すごい!!しょうがないから五円チョコおごったげるよ☆」
勝ったわりに、道哉はあまり嬉しそうな顔ではない。少し動揺したような顔をしている。
「道哉、どうしたの?ボール取りに行ってきなよ。・・・具合でも悪いの?」
「いや・・・そういうわけじゃ・・・なあ、一緒にボール取りに行こうぜ。なーんか神社の裏って不気味なんだ。」
「なんだ、そんなことなの。道哉ったら、なにびびってんの?」
「だってよう、裏って山と雑木林あるだろ?ここ神主とか普段居ないから、だいぶ荒れてるし・・なんか、異世界というか・・・一回入ったらもう出られないんじゃないのかとか思うんだよな。」
「何それ?そんなことあるわけないでしょ。異世界なんて、ほんとにあるんなら行ってみたいよ。道哉って度胸ないよね。いいよ、行こっ!」
二人は神社の裏へと回った。
「どこまで飛んだかな~もうちょっと向こうかな?」
「別になくなって困るもんじゃないんだから、あんま遠くに行くなよ。神社の奥には入るなって大人から言われてるし・・・」
「もぉ~大丈夫だって!!あっ!みっけ!!」
夢華がボールを拾い上げてふと前を見ると、雑木林が少ない、道のような場所がある。
「ねぇー道哉、道哉!これって何かな?なんか道みたい。」
「あぁ、獣道じゃねーの?」
道哉は気が気でない顔で答えた。
「けものみち・・・?」
「なんかさ、じぃちゃんが言ってたんだけど、鹿やイノシシが通ったりして自然にできた道を獣道って言って、まだ山に動物が居たとき、その道をたどって狩りをしたんだってよ。」
「すっごい荒れてるね。」
「そりゃもう何十年も前の話だし、今は動物も居ないからこんなとこにくる人も居ないだろ。そんなことより、ボールは見つけたんだから戻ろうぜ」
とにかく早く戻ろうと,道哉は必死の様子だ。
「ねぇ・・・なんか探検してみたくない?」
茶目っ気たっぷりに夢華が言った。
道哉の顔が凍り付く。
「えぇ!?また始まったよ・・・せんちゃんの好奇心旺盛な所はいいんだけどさ、さすがにここは危ないよ。それに・・・日も暮れてきたし・・・迷ったら怖いし・・・。そろそろ行こうぜ。駄菓子屋行くんだろ?」
精一杯強がった道哉が言った。そのまま,背を向けて歩き出す。
「あ~待ってよ~」
夢華もあわてて,少し不満そうに後を追った。
「あーもうそろそろ肌寒いな・・ぐしゅっ!!」
二人はそのまま駄菓子屋に寄り、帰宅した。しかしその夜布団に入っても夢華の頭のなかからは獣道が離れなかった。
(母さんか父さんに獣道のこと聞いてみようかな・・・けど、また危ないことするなって叱られるんだろうな。・・・異世界か・・・ほんとにあるのかな・・・あったら行ってみたい・・・)
そんなことを考えているうちに、夢華は眠ってしまった。
次の日の朝・・・
【リリリーン・リリリーン】
夢華の家の電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし」
夢華の母が電話に出ているとき、夢華は朝食を食べていた。
「はい、はい、分かりました。どうぞお大事に。」
【ガチャ】
「電話誰から~?」
「南河さんから。道哉くん、風邪引いちゃったんだって。大したことはないみたいだけど、今日一日は学校休むらしいわよ」
「え~じゃあ今日は一人かぁ」
「しょうがないわよ。夢も風邪引かないようにね。さぁ、そろそろ準備しないと」
「はぁ~い」
「危ないことしちゃだめよ。今日は道哉君も居ないんだし、早く帰るのよ。」
「わかったわよ。行ってきまあす。」
その日の授業は、特別長く感じられた。
放課後・・・
(あ~あ、一人だとつまんない。家に帰るのもな・・・そうだ!ちょっとだけあの獣道に行ってみようかな。いいよね、道がなくなりかけたら戻ればいいんだし。だいたい道哉や母さんは心配症なのよ。若いうちは冒険しなきゃ!)
夢華は獣道へと向かった。
(さってと着いた。さぁ獣道を探検よ!)
生き生きと夢華は獣道へと足を踏み入れた。そしてどんどん進んでいく・・・。
(さすがにあれてるなぁ。前に進みにくい・・・まぁもう少しくらい大丈夫だよね)
だんだんと道らしき道はなくなっていった。それでも進んでいくと突然、木や草に阻まれていた視界が開けた。視界の先には小さな公園ほどの草原が広がっている。その真ん中に一本の大きな木。
(へぇ~、獣道を抜けたところにこんな場所があったんだ~今度道哉とお弁当もってこよっと)
夢華は木に近づいた。
「これ、楠木かな?・・・あれっ??」
ふと気がつくと、木の反対側に誰か居る。そっと覗いてみると、寝ているようだ。
夢華と同い年くらいか少し上の面もちの少女で、肩に着くか着かないかのストレートな髪の毛は綺麗な赤色をしている。
夢華はこの村で生まれ育った。住民の顔は把握している。しかしその少女にまったく見覚えはなく、ましてはここは獣道から抜けてきた場所である。住人以外が来られるわけがない。
「う・・・・ん・・・」
しばらく見ていると,その少女が目を覚ましたようだ。
「あ~よく寝た。やっぱ、こっちの世界の方がなんか気持ちいいよな」
「こっちの世界・・・・・????」
その言葉で、少女は夢華に気がついた。
「おめぇ誰だ??人間だろ??なんであたいが見える??」
少女は夢華を見つめ,明らかに動揺した声で質問をあびせた。
自分のことをあたいって・・・。と夢華は思った。
「???そっちこそ誰よ?この村の住民じゃないわね?それに見えるってなによ。見えてるに決まってるじゃない。」
夢華の言葉に,少女は息をのんだ。そして一呼吸置いて語りだした。
「・・・だって、あたいは妖精だ・・・普通の人間に見えるはずがない。妖精が見えるのは、本当に純粋な心を持った人間だけだ!!」
「え~~!?なによそれ?そんなの信じられないよ!!人のことからかってんの!?」
度肝を抜かれた夢華だったが,少女のまとう明らかに人間とは思えない雰囲気を,知らず知らずのうちに感じ取っていた。
にらみつける夢華を見ながら,ふぅと息を吐いた少女が続ける。
「・・・おめぇ、名前なんてんだ?」
「・・・千歳 夢華」
「へぇ、いい名前もってんじゃん。あたいは秋美〈あけみ〉。夢、信じられないなら、見せてやるよ。ちょうど仕事するとこだったんだ。」
「えっ・・・?」(なんかあだ名つけてるし・・・)
秋美はそう言うと、楠木の前に立ち両手を広げて目を閉じた。そして静かにつぶやきだした。
「・・・・・大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。この木の葉、紅葉の葉ごとく赤く染めよ。秋使わし我の名は、紅葉の紅葉〈こうよう〉秋美なる!!」
【サァァ・・・】
秋美が言い終えると同時に、楠木の葉がみるみるうちに赤く染まり始めた。
夢華が目を見開く。一瞬にして疑いがとれたようだ。
「きゃぁぁ!!すっごい!!!!なんで!?どうやったの!?」
「あたいは秋の妖精だ。一年に一度、秋になったらこの木を赤く染めるんだ。そしたらそれを合図に、ほかの木々も秋の形になるんだ。紅葉が赤く染まったり、栗の実や木の葉が落ちたり・・・」
「へぇぇ!!!まさか、本当だったとは!妖精に会ったのなんて初めて!!!もっと色々教えてよ!」
夢華は興奮していた。
「おしえてと言われても・・・それより、信じるの早いな・・。・・・まぁ、あたいは普段は妖精の国に住んでるんだ。そこには色んな妖精が住んでる。あたいの仕事仲間は三人。春美、夏美、冬美だ。まっ言わなくてもなんの精かは分かるだろ??」
熱心に聞く夢華を見て、秋美は意気揚々と話し出した。
「あたいら四人の・・・まあ実際は四人じゃないんだけど、季節の妖精をまとめてるのが、四季の精霊だ。ほかにも草木に関わる妖精をまとめてるのが緑の精霊だったり・・・まぁとにかく色んなのがいるんだ。あたいら季節の妖精は、その季節になったらここにきて、この木をその季節の色に変えるんだ。そんで昼間はこの木と共に生きている。そしたらさっきも言ったけど、その季節が訪れる。たまに季節が違うのに咲いてる花とかあるだろ??それは、見習いの妖精が実地練習で失敗したときに起こるんだ。」
「うわぁ・・・・すごい、信じられない!私、妖精の友達なんて初めてだよ!」
夢華の言葉に,秋美は面食らったようだ。
「と・・・友達!?・・・いつのまに??なるのはえぇな・・・まぁそんな純粋なやつだからあたいが見えたんだろうけど。」
「ねぇねぇ、ほかには?もっと聞かせて!!」
秋美の言葉に一切耳を貸さず、夢華はマシンガンのように質問を続けた。
「と言われても・・・ん~・・自然には、たった一輪の花にも妖精が居るんだ。あたいは一応秋だから、秋の植物全部に関わりがあるけどな。でも人間と違って受け持ちが違うだけで妖精どうし身分の差なんてない。妖精の一つ上の階級で、グループごとに妖精を取り仕切ってるのが精霊。その上が大精霊。その大精霊のなかでも特に力があるのが、まぁこの世界で言う大統領・総理大臣にあたる奴がいる。一番上は神だけど、神は全ての世界をまとめているから妖精の世界には居ないけどな。」
秋美は一気に話し終えた。
「ねぇ!!あたしも、妖精の国に行ってみたい!だって、すごく興味あるもん!それに見てみたい。異世界がほんとにあるなんて!」
夢華は無邪気にそう言った。未知のものに遭遇したという恐怖は、微塵にも感じられない。ほんの軽い気持ちだった。
「そりゃべつに連れて行ってもいいんだけど・・・ただ、妖精にもいいやつばっかじゃない。人間の世界と同じで、悪いのもいる。しかも最近その悪いのが活発になってきてるみたいだし・・・・・」
秋美は考えていた。
「大丈夫!!自分の身は自分で守れるよ。あ・・・でも時間が・・・」
夢華は空を見ながら言った。そろそろ赤みが濃くなってきている。
「それは心配無用。妖精の世界の一日は、こっちの世界では一分にも満たないから。・・・そんなに行きたいなら、一緒に行くか!!」
秋美が明るい笑顔を見せた。
「やったぁ!でもどうやって??」
「この楠木がゲートになってるんだ。全国各地にゲートはあって、その地域ごとに妖精も違う。ゲートをくぐるには、妖精と手をつながなきゃいけないんだ。まっ、どっかふれてればいいんだけどな」
秋美が手を差し出しながら言った。
夢華がその手をとった。
「よっし!んじゃ行くぜ!!」
秋美が一歩を踏み出した。夢華は目をつぶってそれに従う。
楠木小学校の5年生で140㎝と小柄な体だ。そろそろ体重が気になりだし、本人しかその数値は知らない。長い髪の毛を後ろの高めでくくり、その色は光の反射でうす茶色に見える。
“ちとせ”は“せんさい”と書くため、彼女のあだ名は「せんちゃん」と呼ばれている。性格はいたって明るく、好奇心旺盛でその人なつっこい笑顔は大人も子供も引き込む力を持っていた。
彼女が通う楠木小学校はドがつくほど田舎の小さな学校で、全校生徒14人のとても学校とは言えない人数だった。ちなみに五年生は二人。夢華と南河 道哉〈みなみかわ みちや〉という近所に住む幼なじみだ。身長は150㎝と夢華よりも10㎝たかい。体重は40㎏と軽く、夢華と違い多少小心者の所があるが、心優しい少年だ。人口も子供も少ないこの村で、夢華と道哉は毎日のように一緒に遊んでいた。たんぼのおたまじゃくしやかえるをを捕まえたり、水深20㎝ほどの川へ行って笹舟を競争させたり、とにかく毎日遊びで忙しかった。二人が特によく訪れたのは、小学校から山へ向けて5分ほど歩いた所にある神社の境内だ。
その日もいつもと変わらず、二人は神社で遊んでいた。
「ね~今日は何する?くつとばし飽きたし、竹馬も気分じゃないんだよね~。そろそろ川も寒いし、たんぼに行ってもみんな冬眠の準備でなんにも居ないんだよね。」夢華がめんどくさそうに言った。
「じゃあさ、キャッチボールでもしないか?俺、野球に憧れてんだ。中学校に入ったら,野球やりてぇし。」
道哉が答えた。
「え~なんかびっみょ~~う!どうせやるならどっちが長い距離投げれるか競争しようよ。負けたら駄菓子屋で五円チョコ!!」
「よっしゃ、乗った。ちょうど二個ボールあるし。せんちゃんより背だって高いしその分腕も長いんだから、負けないかんな!」
そう言うと,夢華に一つボールを渡した。
「言ったな!じゃあ、せーので同時に投げようね。・・・・・・せ~~~~の!!」
【 ヒュッッッ!!】
道哉の投げたボールは、神社の裏に飛んで行き、そのまま見えなくなった。
「わ~道哉すごい!!しょうがないから五円チョコおごったげるよ☆」
勝ったわりに、道哉はあまり嬉しそうな顔ではない。少し動揺したような顔をしている。
「道哉、どうしたの?ボール取りに行ってきなよ。・・・具合でも悪いの?」
「いや・・・そういうわけじゃ・・・なあ、一緒にボール取りに行こうぜ。なーんか神社の裏って不気味なんだ。」
「なんだ、そんなことなの。道哉ったら、なにびびってんの?」
「だってよう、裏って山と雑木林あるだろ?ここ神主とか普段居ないから、だいぶ荒れてるし・・なんか、異世界というか・・・一回入ったらもう出られないんじゃないのかとか思うんだよな。」
「何それ?そんなことあるわけないでしょ。異世界なんて、ほんとにあるんなら行ってみたいよ。道哉って度胸ないよね。いいよ、行こっ!」
二人は神社の裏へと回った。
「どこまで飛んだかな~もうちょっと向こうかな?」
「別になくなって困るもんじゃないんだから、あんま遠くに行くなよ。神社の奥には入るなって大人から言われてるし・・・」
「もぉ~大丈夫だって!!あっ!みっけ!!」
夢華がボールを拾い上げてふと前を見ると、雑木林が少ない、道のような場所がある。
「ねぇー道哉、道哉!これって何かな?なんか道みたい。」
「あぁ、獣道じゃねーの?」
道哉は気が気でない顔で答えた。
「けものみち・・・?」
「なんかさ、じぃちゃんが言ってたんだけど、鹿やイノシシが通ったりして自然にできた道を獣道って言って、まだ山に動物が居たとき、その道をたどって狩りをしたんだってよ。」
「すっごい荒れてるね。」
「そりゃもう何十年も前の話だし、今は動物も居ないからこんなとこにくる人も居ないだろ。そんなことより、ボールは見つけたんだから戻ろうぜ」
とにかく早く戻ろうと,道哉は必死の様子だ。
「ねぇ・・・なんか探検してみたくない?」
茶目っ気たっぷりに夢華が言った。
道哉の顔が凍り付く。
「えぇ!?また始まったよ・・・せんちゃんの好奇心旺盛な所はいいんだけどさ、さすがにここは危ないよ。それに・・・日も暮れてきたし・・・迷ったら怖いし・・・。そろそろ行こうぜ。駄菓子屋行くんだろ?」
精一杯強がった道哉が言った。そのまま,背を向けて歩き出す。
「あ~待ってよ~」
夢華もあわてて,少し不満そうに後を追った。
「あーもうそろそろ肌寒いな・・ぐしゅっ!!」
二人はそのまま駄菓子屋に寄り、帰宅した。しかしその夜布団に入っても夢華の頭のなかからは獣道が離れなかった。
(母さんか父さんに獣道のこと聞いてみようかな・・・けど、また危ないことするなって叱られるんだろうな。・・・異世界か・・・ほんとにあるのかな・・・あったら行ってみたい・・・)
そんなことを考えているうちに、夢華は眠ってしまった。
次の日の朝・・・
【リリリーン・リリリーン】
夢華の家の電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし」
夢華の母が電話に出ているとき、夢華は朝食を食べていた。
「はい、はい、分かりました。どうぞお大事に。」
【ガチャ】
「電話誰から~?」
「南河さんから。道哉くん、風邪引いちゃったんだって。大したことはないみたいだけど、今日一日は学校休むらしいわよ」
「え~じゃあ今日は一人かぁ」
「しょうがないわよ。夢も風邪引かないようにね。さぁ、そろそろ準備しないと」
「はぁ~い」
「危ないことしちゃだめよ。今日は道哉君も居ないんだし、早く帰るのよ。」
「わかったわよ。行ってきまあす。」
その日の授業は、特別長く感じられた。
放課後・・・
(あ~あ、一人だとつまんない。家に帰るのもな・・・そうだ!ちょっとだけあの獣道に行ってみようかな。いいよね、道がなくなりかけたら戻ればいいんだし。だいたい道哉や母さんは心配症なのよ。若いうちは冒険しなきゃ!)
夢華は獣道へと向かった。
(さってと着いた。さぁ獣道を探検よ!)
生き生きと夢華は獣道へと足を踏み入れた。そしてどんどん進んでいく・・・。
(さすがにあれてるなぁ。前に進みにくい・・・まぁもう少しくらい大丈夫だよね)
だんだんと道らしき道はなくなっていった。それでも進んでいくと突然、木や草に阻まれていた視界が開けた。視界の先には小さな公園ほどの草原が広がっている。その真ん中に一本の大きな木。
(へぇ~、獣道を抜けたところにこんな場所があったんだ~今度道哉とお弁当もってこよっと)
夢華は木に近づいた。
「これ、楠木かな?・・・あれっ??」
ふと気がつくと、木の反対側に誰か居る。そっと覗いてみると、寝ているようだ。
夢華と同い年くらいか少し上の面もちの少女で、肩に着くか着かないかのストレートな髪の毛は綺麗な赤色をしている。
夢華はこの村で生まれ育った。住民の顔は把握している。しかしその少女にまったく見覚えはなく、ましてはここは獣道から抜けてきた場所である。住人以外が来られるわけがない。
「う・・・・ん・・・」
しばらく見ていると,その少女が目を覚ましたようだ。
「あ~よく寝た。やっぱ、こっちの世界の方がなんか気持ちいいよな」
「こっちの世界・・・・・????」
その言葉で、少女は夢華に気がついた。
「おめぇ誰だ??人間だろ??なんであたいが見える??」
少女は夢華を見つめ,明らかに動揺した声で質問をあびせた。
自分のことをあたいって・・・。と夢華は思った。
「???そっちこそ誰よ?この村の住民じゃないわね?それに見えるってなによ。見えてるに決まってるじゃない。」
夢華の言葉に,少女は息をのんだ。そして一呼吸置いて語りだした。
「・・・だって、あたいは妖精だ・・・普通の人間に見えるはずがない。妖精が見えるのは、本当に純粋な心を持った人間だけだ!!」
「え~~!?なによそれ?そんなの信じられないよ!!人のことからかってんの!?」
度肝を抜かれた夢華だったが,少女のまとう明らかに人間とは思えない雰囲気を,知らず知らずのうちに感じ取っていた。
にらみつける夢華を見ながら,ふぅと息を吐いた少女が続ける。
「・・・おめぇ、名前なんてんだ?」
「・・・千歳 夢華」
「へぇ、いい名前もってんじゃん。あたいは秋美〈あけみ〉。夢、信じられないなら、見せてやるよ。ちょうど仕事するとこだったんだ。」
「えっ・・・?」(なんかあだ名つけてるし・・・)
秋美はそう言うと、楠木の前に立ち両手を広げて目を閉じた。そして静かにつぶやきだした。
「・・・・・大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。この木の葉、紅葉の葉ごとく赤く染めよ。秋使わし我の名は、紅葉の紅葉〈こうよう〉秋美なる!!」
【サァァ・・・】
秋美が言い終えると同時に、楠木の葉がみるみるうちに赤く染まり始めた。
夢華が目を見開く。一瞬にして疑いがとれたようだ。
「きゃぁぁ!!すっごい!!!!なんで!?どうやったの!?」
「あたいは秋の妖精だ。一年に一度、秋になったらこの木を赤く染めるんだ。そしたらそれを合図に、ほかの木々も秋の形になるんだ。紅葉が赤く染まったり、栗の実や木の葉が落ちたり・・・」
「へぇぇ!!!まさか、本当だったとは!妖精に会ったのなんて初めて!!!もっと色々教えてよ!」
夢華は興奮していた。
「おしえてと言われても・・・それより、信じるの早いな・・。・・・まぁ、あたいは普段は妖精の国に住んでるんだ。そこには色んな妖精が住んでる。あたいの仕事仲間は三人。春美、夏美、冬美だ。まっ言わなくてもなんの精かは分かるだろ??」
熱心に聞く夢華を見て、秋美は意気揚々と話し出した。
「あたいら四人の・・・まあ実際は四人じゃないんだけど、季節の妖精をまとめてるのが、四季の精霊だ。ほかにも草木に関わる妖精をまとめてるのが緑の精霊だったり・・・まぁとにかく色んなのがいるんだ。あたいら季節の妖精は、その季節になったらここにきて、この木をその季節の色に変えるんだ。そんで昼間はこの木と共に生きている。そしたらさっきも言ったけど、その季節が訪れる。たまに季節が違うのに咲いてる花とかあるだろ??それは、見習いの妖精が実地練習で失敗したときに起こるんだ。」
「うわぁ・・・・すごい、信じられない!私、妖精の友達なんて初めてだよ!」
夢華の言葉に,秋美は面食らったようだ。
「と・・・友達!?・・・いつのまに??なるのはえぇな・・・まぁそんな純粋なやつだからあたいが見えたんだろうけど。」
「ねぇねぇ、ほかには?もっと聞かせて!!」
秋美の言葉に一切耳を貸さず、夢華はマシンガンのように質問を続けた。
「と言われても・・・ん~・・自然には、たった一輪の花にも妖精が居るんだ。あたいは一応秋だから、秋の植物全部に関わりがあるけどな。でも人間と違って受け持ちが違うだけで妖精どうし身分の差なんてない。妖精の一つ上の階級で、グループごとに妖精を取り仕切ってるのが精霊。その上が大精霊。その大精霊のなかでも特に力があるのが、まぁこの世界で言う大統領・総理大臣にあたる奴がいる。一番上は神だけど、神は全ての世界をまとめているから妖精の世界には居ないけどな。」
秋美は一気に話し終えた。
「ねぇ!!あたしも、妖精の国に行ってみたい!だって、すごく興味あるもん!それに見てみたい。異世界がほんとにあるなんて!」
夢華は無邪気にそう言った。未知のものに遭遇したという恐怖は、微塵にも感じられない。ほんの軽い気持ちだった。
「そりゃべつに連れて行ってもいいんだけど・・・ただ、妖精にもいいやつばっかじゃない。人間の世界と同じで、悪いのもいる。しかも最近その悪いのが活発になってきてるみたいだし・・・・・」
秋美は考えていた。
「大丈夫!!自分の身は自分で守れるよ。あ・・・でも時間が・・・」
夢華は空を見ながら言った。そろそろ赤みが濃くなってきている。
「それは心配無用。妖精の世界の一日は、こっちの世界では一分にも満たないから。・・・そんなに行きたいなら、一緒に行くか!!」
秋美が明るい笑顔を見せた。
「やったぁ!でもどうやって??」
「この楠木がゲートになってるんだ。全国各地にゲートはあって、その地域ごとに妖精も違う。ゲートをくぐるには、妖精と手をつながなきゃいけないんだ。まっ、どっかふれてればいいんだけどな」
秋美が手を差し出しながら言った。
夢華がその手をとった。
「よっし!んじゃ行くぜ!!」
秋美が一歩を踏み出した。夢華は目をつぶってそれに従う。
0
あなたにおすすめの小説
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる