共に生きるため

Emi 松原

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共に生きるため

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千歳 夢華〈ちとせ ゆめか〉は10歳の少女だ。
楠木小学校の5年生で140㎝と小柄な体だ。そろそろ体重が気になりだし、本人しかその数値は知らない。長い髪の毛を後ろの高めでくくり、その色は光の反射でうす茶色に見える。
“ちとせ”は“せんさい”と書くため、彼女のあだ名は「せんちゃん」と呼ばれている。性格はいたって明るく、好奇心旺盛でその人なつっこい笑顔は大人も子供も引き込む力を持っていた。
彼女が通う楠木小学校はドがつくほど田舎の小さな学校で、全校生徒14人のとても学校とは言えない人数だった。ちなみに五年生は二人。夢華と南河 道哉〈みなみかわ みちや〉という近所に住む幼なじみだ。身長は150㎝と夢華よりも10㎝たかい。体重は40㎏と軽く、夢華と違い多少小心者の所があるが、心優しい少年だ。人口も子供も少ないこの村で、夢華と道哉は毎日のように一緒に遊んでいた。たんぼのおたまじゃくしやかえるをを捕まえたり、水深20㎝ほどの川へ行って笹舟を競争させたり、とにかく毎日遊びで忙しかった。二人が特によく訪れたのは、小学校から山へ向けて5分ほど歩いた所にある神社の境内だ。

その日もいつもと変わらず、二人は神社で遊んでいた。

「ね~今日は何する?くつとばし飽きたし、竹馬も気分じゃないんだよね~。そろそろ川も寒いし、たんぼに行ってもみんな冬眠の準備でなんにも居ないんだよね。」夢華がめんどくさそうに言った。
「じゃあさ、キャッチボールでもしないか?俺、野球に憧れてんだ。中学校に入ったら,野球やりてぇし。」
道哉が答えた。
「え~なんかびっみょ~~う!どうせやるならどっちが長い距離投げれるか競争しようよ。負けたら駄菓子屋で五円チョコ!!」
「よっしゃ、乗った。ちょうど二個ボールあるし。せんちゃんより背だって高いしその分腕も長いんだから、負けないかんな!」
そう言うと,夢華に一つボールを渡した。
「言ったな!じゃあ、せーので同時に投げようね。・・・・・・せ~~~~の!!」
【 ヒュッッッ!!】
道哉の投げたボールは、神社の裏に飛んで行き、そのまま見えなくなった。
「わ~道哉すごい!!しょうがないから五円チョコおごったげるよ☆」
勝ったわりに、道哉はあまり嬉しそうな顔ではない。少し動揺したような顔をしている。
「道哉、どうしたの?ボール取りに行ってきなよ。・・・具合でも悪いの?」
「いや・・・そういうわけじゃ・・・なあ、一緒にボール取りに行こうぜ。なーんか神社の裏って不気味なんだ。」
「なんだ、そんなことなの。道哉ったら、なにびびってんの?」
「だってよう、裏って山と雑木林あるだろ?ここ神主とか普段居ないから、だいぶ荒れてるし・・なんか、異世界というか・・・一回入ったらもう出られないんじゃないのかとか思うんだよな。」
「何それ?そんなことあるわけないでしょ。異世界なんて、ほんとにあるんなら行ってみたいよ。道哉って度胸ないよね。いいよ、行こっ!」
二人は神社の裏へと回った。
「どこまで飛んだかな~もうちょっと向こうかな?」
「別になくなって困るもんじゃないんだから、あんま遠くに行くなよ。神社の奥には入るなって大人から言われてるし・・・」
「もぉ~大丈夫だって!!あっ!みっけ!!」
夢華がボールを拾い上げてふと前を見ると、雑木林が少ない、道のような場所がある。
「ねぇー道哉、道哉!これって何かな?なんか道みたい。」
「あぁ、獣道じゃねーの?」
道哉は気が気でない顔で答えた。
「けものみち・・・?」
「なんかさ、じぃちゃんが言ってたんだけど、鹿やイノシシが通ったりして自然にできた道を獣道って言って、まだ山に動物が居たとき、その道をたどって狩りをしたんだってよ。」
「すっごい荒れてるね。」
「そりゃもう何十年も前の話だし、今は動物も居ないからこんなとこにくる人も居ないだろ。そんなことより、ボールは見つけたんだから戻ろうぜ」
とにかく早く戻ろうと,道哉は必死の様子だ。
「ねぇ・・・なんか探検してみたくない?」
茶目っ気たっぷりに夢華が言った。
道哉の顔が凍り付く。
「えぇ!?また始まったよ・・・せんちゃんの好奇心旺盛な所はいいんだけどさ、さすがにここは危ないよ。それに・・・日も暮れてきたし・・・迷ったら怖いし・・・。そろそろ行こうぜ。駄菓子屋行くんだろ?」
精一杯強がった道哉が言った。そのまま,背を向けて歩き出す。
「あ~待ってよ~」
夢華もあわてて,少し不満そうに後を追った。
「あーもうそろそろ肌寒いな・・ぐしゅっ!!」
二人はそのまま駄菓子屋に寄り、帰宅した。しかしその夜布団に入っても夢華の頭のなかからは獣道が離れなかった。
(母さんか父さんに獣道のこと聞いてみようかな・・・けど、また危ないことするなって叱られるんだろうな。・・・異世界か・・・ほんとにあるのかな・・・あったら行ってみたい・・・)
そんなことを考えているうちに、夢華は眠ってしまった。

次の日の朝・・・
【リリリーン・リリリーン】
夢華の家の電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし」
夢華の母が電話に出ているとき、夢華は朝食を食べていた。
「はい、はい、分かりました。どうぞお大事に。」
【ガチャ】
「電話誰から~?」
「南河さんから。道哉くん、風邪引いちゃったんだって。大したことはないみたいだけど、今日一日は学校休むらしいわよ」
「え~じゃあ今日は一人かぁ」
「しょうがないわよ。夢も風邪引かないようにね。さぁ、そろそろ準備しないと」
「はぁ~い」
「危ないことしちゃだめよ。今日は道哉君も居ないんだし、早く帰るのよ。」
「わかったわよ。行ってきまあす。」


その日の授業は、特別長く感じられた。


放課後・・・
(あ~あ、一人だとつまんない。家に帰るのもな・・・そうだ!ちょっとだけあの獣道に行ってみようかな。いいよね、道がなくなりかけたら戻ればいいんだし。だいたい道哉や母さんは心配症なのよ。若いうちは冒険しなきゃ!)
夢華は獣道へと向かった。
(さってと着いた。さぁ獣道を探検よ!)
生き生きと夢華は獣道へと足を踏み入れた。そしてどんどん進んでいく・・・。
(さすがにあれてるなぁ。前に進みにくい・・・まぁもう少しくらい大丈夫だよね)
だんだんと道らしき道はなくなっていった。それでも進んでいくと突然、木や草に阻まれていた視界が開けた。視界の先には小さな公園ほどの草原が広がっている。その真ん中に一本の大きな木。
(へぇ~、獣道を抜けたところにこんな場所があったんだ~今度道哉とお弁当もってこよっと)
夢華は木に近づいた。
「これ、楠木かな?・・・あれっ??」
ふと気がつくと、木の反対側に誰か居る。そっと覗いてみると、寝ているようだ。
夢華と同い年くらいか少し上の面もちの少女で、肩に着くか着かないかのストレートな髪の毛は綺麗な赤色をしている。
夢華はこの村で生まれ育った。住民の顔は把握している。しかしその少女にまったく見覚えはなく、ましてはここは獣道から抜けてきた場所である。住人以外が来られるわけがない。
「う・・・・ん・・・」
しばらく見ていると,その少女が目を覚ましたようだ。
「あ~よく寝た。やっぱ、こっちの世界の方がなんか気持ちいいよな」
「こっちの世界・・・・・????」
その言葉で、少女は夢華に気がついた。
「おめぇ誰だ??人間だろ??なんであたいが見える??」
少女は夢華を見つめ,明らかに動揺した声で質問をあびせた。
自分のことをあたいって・・・。と夢華は思った。
「???そっちこそ誰よ?この村の住民じゃないわね?それに見えるってなによ。見えてるに決まってるじゃない。」
夢華の言葉に,少女は息をのんだ。そして一呼吸置いて語りだした。
「・・・だって、あたいは妖精だ・・・普通の人間に見えるはずがない。妖精が見えるのは、本当に純粋な心を持った人間だけだ!!」
「え~~!?なによそれ?そんなの信じられないよ!!人のことからかってんの!?」
度肝を抜かれた夢華だったが,少女のまとう明らかに人間とは思えない雰囲気を,知らず知らずのうちに感じ取っていた。
にらみつける夢華を見ながら,ふぅと息を吐いた少女が続ける。
「・・・おめぇ、名前なんてんだ?」
「・・・千歳 夢華」
「へぇ、いい名前もってんじゃん。あたいは秋美〈あけみ〉。夢、信じられないなら、見せてやるよ。ちょうど仕事するとこだったんだ。」
「えっ・・・?」(なんかあだ名つけてるし・・・)

秋美はそう言うと、楠木の前に立ち両手を広げて目を閉じた。そして静かにつぶやきだした。
「・・・・・大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。この木の葉、紅葉の葉ごとく赤く染めよ。秋使わし我の名は、紅葉の紅葉〈こうよう〉秋美なる!!」
【サァァ・・・】
秋美が言い終えると同時に、楠木の葉がみるみるうちに赤く染まり始めた。
夢華が目を見開く。一瞬にして疑いがとれたようだ。
「きゃぁぁ!!すっごい!!!!なんで!?どうやったの!?」
「あたいは秋の妖精だ。一年に一度、秋になったらこの木を赤く染めるんだ。そしたらそれを合図に、ほかの木々も秋の形になるんだ。紅葉が赤く染まったり、栗の実や木の葉が落ちたり・・・」
「へぇぇ!!!まさか、本当だったとは!妖精に会ったのなんて初めて!!!もっと色々教えてよ!」
夢華は興奮していた。
「おしえてと言われても・・・それより、信じるの早いな・・。・・・まぁ、あたいは普段は妖精の国に住んでるんだ。そこには色んな妖精が住んでる。あたいの仕事仲間は三人。春美、夏美、冬美だ。まっ言わなくてもなんの精かは分かるだろ??」
熱心に聞く夢華を見て、秋美は意気揚々と話し出した。
「あたいら四人の・・・まあ実際は四人じゃないんだけど、季節の妖精をまとめてるのが、四季の精霊だ。ほかにも草木に関わる妖精をまとめてるのが緑の精霊だったり・・・まぁとにかく色んなのがいるんだ。あたいら季節の妖精は、その季節になったらここにきて、この木をその季節の色に変えるんだ。そんで昼間はこの木と共に生きている。そしたらさっきも言ったけど、その季節が訪れる。たまに季節が違うのに咲いてる花とかあるだろ??それは、見習いの妖精が実地練習で失敗したときに起こるんだ。」
「うわぁ・・・・すごい、信じられない!私、妖精の友達なんて初めてだよ!」
夢華の言葉に,秋美は面食らったようだ。
「と・・・友達!?・・・いつのまに??なるのはえぇな・・・まぁそんな純粋なやつだからあたいが見えたんだろうけど。」
「ねぇねぇ、ほかには?もっと聞かせて!!」
秋美の言葉に一切耳を貸さず、夢華はマシンガンのように質問を続けた。
「と言われても・・・ん~・・自然には、たった一輪の花にも妖精が居るんだ。あたいは一応秋だから、秋の植物全部に関わりがあるけどな。でも人間と違って受け持ちが違うだけで妖精どうし身分の差なんてない。妖精の一つ上の階級で、グループごとに妖精を取り仕切ってるのが精霊。その上が大精霊。その大精霊のなかでも特に力があるのが、まぁこの世界で言う大統領・総理大臣にあたる奴がいる。一番上は神だけど、神は全ての世界をまとめているから妖精の世界には居ないけどな。」
秋美は一気に話し終えた。
「ねぇ!!あたしも、妖精の国に行ってみたい!だって、すごく興味あるもん!それに見てみたい。異世界がほんとにあるなんて!」
夢華は無邪気にそう言った。未知のものに遭遇したという恐怖は、微塵にも感じられない。ほんの軽い気持ちだった。
「そりゃべつに連れて行ってもいいんだけど・・・ただ、妖精にもいいやつばっかじゃない。人間の世界と同じで、悪いのもいる。しかも最近その悪いのが活発になってきてるみたいだし・・・・・」
秋美は考えていた。
「大丈夫!!自分の身は自分で守れるよ。あ・・・でも時間が・・・」
夢華は空を見ながら言った。そろそろ赤みが濃くなってきている。
「それは心配無用。妖精の世界の一日は、こっちの世界では一分にも満たないから。・・・そんなに行きたいなら、一緒に行くか!!」
秋美が明るい笑顔を見せた。
「やったぁ!でもどうやって??」
「この楠木がゲートになってるんだ。全国各地にゲートはあって、その地域ごとに妖精も違う。ゲートをくぐるには、妖精と手をつながなきゃいけないんだ。まっ、どっかふれてればいいんだけどな」
秋美が手を差し出しながら言った。
夢華がその手をとった。
「よっし!んじゃ行くぜ!!」
秋美が一歩を踏み出した。夢華は目をつぶってそれに従う。

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