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リノット
しおりを挟む疲労したポロットを背負った橙夜は森を進んだ。
ポロットはゴブリンに捕まってから飲まず食わずで四日くらいほおって置かれたようで、消耗はかなり激しい。
だがハーフリングの性か、掠れた声で流れる様に言葉を紡ぐ。
「……だから、ボク達兄妹はみんなの知らない薬草の力を調べていたんだポロ」
「へえ、薬草」対してジュリエッタは冷淡だ。
彼女は薬草の類は信じていないようだ。現代日本にも漢方があるから橙夜は一概に否定しないが、ジュリエッタは頭からインチキだと決めつけている。
「昔ね、あたしが熱を出した時、修道院の奴らが薬だと薬草を買わせて来たんだけど……全く効かないで、それからしばらく苦しんだわ」
「それは人間に知識が広がっていなかったからポロ」
弱々しいがはっきりとポロットは否定する。
「人間の薬草学は滅茶苦茶ポロ。そもそも医学の考え方が滅茶苦茶なんだポロ、薬草は確かな物を選べばきくんだポロ」
「言ってくれるわね」ジュリエッタは少し気分を害したようだ。
「ともかく、ボクの体力も薬草で回復できるポロよ」
ここで橙夜はあっと声を出した。
「なら、犬の……シャドードッグが弱っているんだけど、何とか出来る?」
ポロットは橙夜の背中で大きく首肯する。
「勿論ポロ、おやすい御用さ」
ポロットが指定した場所は確かにそれ程遠くではなかった。
森の開けた場所に色とりどりの花畑があり、その奥に小さな丸太小屋が建っていた。
ここで足利橙夜はようやくジュリエッタの家が大きいのだと理解した。
ポロットの家は丸太で組み、窓はガラスなど無く木の板を木のつっかえ棒で開け、屋根に暖炉と繋がっているのだろう煉瓦の煙突がある。そこまではほぼジュリエッタのとほぼ変わらない。
大きさだ。
ジュリエッタの家は隣に家畜小屋を併設していて、二階建てで、ポロット達の小屋の三倍以上はあり、作りもかなり立派だ。
……ジュリエッタって何者なんだ?
橙夜はそんな疑問に今更たどり着いたが、背中のポロットが大声を出したから忘れた。
「リノットー! 帰ったポロよー!」
ばたんと扉が開き、可愛らしいお下げの女の子が顔を出す。
どうやらリノットらしい。
女の子はそばかすの浮いた顔をぐしゃぐしゃに歪めて駆け出す。
「ポロット! 兄さん! どこに行ってたリノ? 心配したリノよ」
橙夜は背中からポロットを降ろしてやる。
二人は花畑で抱き合った。
「大変だったポロ。ゴブリンに捕まっていたポロ。親切な人に助けられたポロ」
「まあ、大変だったリノね、その親切な人達にお礼をしようリノ」
二人のまん丸の目が、橙夜達に向いた。
「いやー、いいわよ。私達もまあまあ儲かったし」
ジュリエッタは遠慮したが、橙夜はそう言うわけにはいかなかった。
「じゃあ、シャドードッグを助けてくれ、かなり衰弱しているんだ」
「任せるポロ」
紆余曲折あったが、何とか当初の目的は達成されそうだ。
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