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医療
しおりを挟むタロはむしゃむしゃとウサギにかぶりついている。
言うだけあってポロットの腕は抜群だった。タロを一目見るなり、「この子は雌で三歳くらいポロ、まだ若いポロ」とタロの概況を一目で見抜き、色々と薬湯などを飲ませた。
結果、時を経ずタロは立ち上がり自ら獲物を狩って戻ってくるようになった。
そう戻ってくる。
タロはどうやらすっかり橙夜に懐いたようで、彼が間借りしているジュリエッタの家に住み着いていた。
「いい子リノね」リノットがタロの頭を撫でる。
「シャドードッグは元々頭がいいポロ。この子も誰が恩人か分かっているポロよ」
すっかり元気になったタロを一応診察しながら、ポロットとリノットが話している。
橙夜は安堵した。これでタロはいつでも元の生活に戻れるだろう。
だとしたら次は自分達だ。
赤い髪のエルフを探し出して、元の世界に帰らないとならない。
何せ澄香が着たきりの服について不満を漏らし始めた。
この世界ではどうやら洗濯はあまり頻繁にしないらしい。澄香はセーラー服から着替えた服のままずっと過ごしている。
女の子としてかなりフラストレーションが溜まっているようだ。
橙夜はだから敢えて澄香をスルーする。こんな時の女の子は男の欠点ばかりを探しているからだ。
丁度アイオーンが窓側で本を読んでいた。鼻の眼鏡のずれを何度も直している。
彼女が窓際で本を読むのには理由がある。小屋が暗い。
電灯がない世界、昼間は太陽を光源として頼む。だがジュリエッタの家の窓は恐らく『死の冬』対策なのだろう少なく、故に昼間でも窓際以外暗い。アイオーンが窓の横に椅子を置くのも無理はない。
ちなみに夜は蝋燭を灯す。ただしこの蝋燭は獣脂で出来ているらしく酷く獣臭い。街には高価な蜜蝋の蝋燭があるらしいが、冒険者の最大の敵は贅沢なのだ。
「そう言えば」橙夜は辺りを見回す。
「ジュリエッタはどこに行ったんですか? また冒険?」
アイオーンは本から目を離さず、
「ジュリちゃんはぁ、妹さんのところぉ」
と答える。
驚いた。あのジュリエッタに妹がいるとは……さぞかし姉について苦労しているだろう。
「あらぁ、トウヤ君泣いているぅ? よく分かったわねぇ、ジュリちゃんのぉ妹マーゴットちゃんはぁナイトヒートとかぁ呼ばれている大病を患っているのぉ」
「そうなんですか」意外な展開に彼が口に出来るのはこれだけだ。
「ナイトヒート? どんな病気ですか?」
苛々していた澄香が口を挟む。興味を引かれたのだろう。
「ええ、何でもぉ、夜に熱が出てぇ、徐々に消耗して行くらしいのぉ。だから今日はジュリちゃん街へ行っているわぁ、治療を受けさせるんですってぇ」
「治療ポロ? ナイトヒート?」
ポロットが突然割って入る。
「どんな治療ポロか?」
「ううん?」とアイオーンは本を閉じる。
「瀉血と水銀薬よぉ」
「え!」橙夜は澄香と同時に驚いていた。
瀉血と水銀……歴史に疎い彼も知っている。昔、人々は病気が体の中の悪い血によるものだと信じて血を抜いたそうだ。当然間違った医療だ。それによって逆に体を悪くして沢山の人が亡くなった。
水銀……これは猛毒だ。錬金術師を名乗るペテン師が広めたデマで、体を治すどころか水銀中毒にさせ、患者を死に至らしめる。
「それはダメポロ!」
ポロットも知っているのか、大きな身振りで否定した。
「どちらも人体に悪い影響を与えるポロ! すぐ辞めさせるポロ」
だがアイオーンは首を傾げる。
「ええぇ、でもぉ、医学のぉ常識だよぉ」
「違う!」橙夜も叫んでいた。
「僕等の世界ではここより医学が発達しているから、断言出来ます! 瀉血と水銀は体に毒です」
澄香も大きく頷く。
「私はそれについて少し前に調べたんですけど、結局それらの治療で治った人はいないの。治ったと主張する人は結局自分の力で病気が完治しただけ」
澄香は目に強い光を宿した。
「今すぐ辞めさせないと」
「でもぉ、医学はぁ」アイオーンはまだ何か主張したいようだが、橙夜は構わなかった。
「街はどこですか?」
「ボクが知っているポロ。ここからなら多分セルナルの街ポロ」
「わんっ」とタロが鳴いて同行を申し出るが、さすがに街にシャドードッグはやばいだろうと判断し、「タロ、アイオーンさんとここで待っていてくれ」と命じた。
「えぇ、私もお留守番?」
アイオーンは不本意そうだが、少しでもこの世界の医療を認めている者を連れて行きたくなかった。
橙夜はポロットと澄香と外に飛び出した。
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