エルドリア王戦記~いつも俺の物を横取りする幼馴染が、俺の好きな人に告白しようとしている時に異世界に三人とも飛ばされちゃった。

イチカ

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 マーゴットは日に日に良くなっていった。

 ポロットの薬も、解熱剤から強壮剤だけになる。彼女自身も液化した食べ物から固形の物を欲しがった。

「なんだか久しぶり、こんなに体が気持ちいいのは」

 マーゴットの顔色は改善された。まだ少し青みがかっているが、最初の頃とは比べ物にならない程輝いている。

 しかし、そうなれば問題が持ち上がる。

「マーゴットを森の小屋に? どうして?」

 橙夜は眉をひそめて聞き返した。どう考えても病人の彼女には街の中のこの家の方がいい。

 ジュリエッタは渋い顔をしている。

「仕方ないの。決められたことだから……」

 珍しく、彼女の声に力はなかった。

「大丈夫よ、お姉ちゃん」歩いて動けるようになったマーゴットは事も無げに答える。
「もう私元気だよ? 頭痛も吐き気も無くなったし、むしろ外に出たい気分」
「…………」マイヤは何も言わない。ただ痛ましそうに見つめているだけだ。
「でも、やっぱりここにいた方が……」澄香は橙夜と同意見らしく、控えめに提案する。
「ダメなのよ……むしろ、今までが特別だったの。私達姉妹には」
「どうして? 何で?」

 橙夜には理解できない。だがどうやらジュリエッタの泣きそうな表情には意味があるのだろう。

 結局、マーゴットはジュリエッタの森の小屋に向かうこととなった。

 彼女らを縛る理由は深刻らしい。
 

 小屋への道中、橙夜達はマーゴットの体調に酷く気に掛けた。

 だが当人は久しぶりの外に興味津々で、リスのようにくるくると動き回っている。

 最後には「まだあまり無理してはダメポロ」とポロットに窘められた。

 数日ぶりの小屋に入った途端、橙夜は息が止まった。

 アイオーンに強く抱きしめられたのだ。

「使い魔でぇ、見てたしぃ、聞いてたよぉ。トウヤ君、ありがとうぅ君のお陰だわぁ」
「ち、違いますよ、アイオーン」

 橙夜は意外に強いエルフの腕力から抜け出すと、ポロット達を指す。

「ポロットが薬師だったのが良かった。彼がいなかったら瀉血とかは止められたかも知れないけれど、ここまでマーゴットちゃんを治せなかった」

「でもぉ、命を賭けてぇ無謀な医療を止めたんでしょお? すごいわぁ」

 タロも同意するように後ろ足で立ち、甘えてくる。

「あ! 犬だ!」

 タロに気付いたマーゴットが駆け寄り、橙夜が何かを言う前にしゃがんで背中を撫でた。

 一瞬彼は緊張したが、タロは敵と見なさなかったようで、マーゴットの頬を舐める。

「きゃははは」とマーゴットの笑い声が弾け、皆の緊張は解けた。

「ちょっと」ジュリエッタが橙夜、澄香、ポロットに話しかけてきたのは、しばらくくつろいで疲れを癒やした時だった。

 ……何だろう。

 と橙夜達がジュリエッタの背中を追い外に出ると、彼女は振り向いて急に跪いた。

「え!」と驚く橙夜の前で、彼女は涙をぼろぼろ流した。

「本当に、本当にごめんなさい……あたし、とんでもない事をしたし言ったし、許して何て言いません」

 ジュリエッタはそのまま深々と頭を下げる。

 まるで土下座だ。

 慌てて澄香が彼女の頭を押さえた。

「ちょっと、ジュリエッタ止めて! 私達は怒っていないから」
「そうだポロ。ボクは何とも思っていないポロ。何せその前に助けて貰っているからね」

 ポロットに頷き、橙夜もゆっくりとかがんでジュリエッタの肩に手を置く。

「君に罪はないよ、責めるべきは嘘医学だ。ポロットの言うとおり、僕等は皆君に助けられているんだ、せめてこれくらいしないと」
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