エルドリア王戦記~いつも俺の物を横取りする幼馴染が、俺の好きな人に告白しようとしている時に異世界に三人とも飛ばされちゃった。

イチカ

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長い一日

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 背後で澄香が息を飲むが聞こえた。

「ボクも殺すポロ。ボクは自分の薬草を信じるポロ」

 ジュリエッタは無言で落ちているレイピアを拾うと、切っ先を橙夜の首に向けた。

「その言葉、忘れないでね……マーゴットに何かあったら、本当に殺すわ」
「ああ」

 しゃきん、と彼女はレイピアを鞘に戻す。

「ジュリエッタ様!」驚いたのはマイヤだ。彼女にしてみれば、訳の分からない連中に騙されたようにしか見えなかったのだろう。

「いけません! 早くバロード様の所へマーゴット様を」

 ジュリエッタは唇を噛む。

「ごめんね、マイヤ……でもあたしも信じたくなっちゃった。だって騙すためにここまでする?」

 彼女はぼろぼろになりながら立っている橙夜を指す。

「でも、嘘だったら、マーゴットに何かあったら……その時は」

 ジュリエッタの眼差しに冷たい決意があった。

「……で、あたしはどうしたらいいの?」

 ポロットは忙しく行動を開始する。

「まず、その子をベッドに横にするポロ、なるべく温かくして、栄養のある食事……消化しやすいように柔らかくしてあげるポロ」

 彼は鞄の中をごそごそかき混ぜて、瓶を取り出す。

「これはツユクサを煎じた解熱剤ポロ、これを飲ませるポロ。次にコウホネも飲ませるポロ」

 ジュリエッタ不満顔だが、ポロットの指示に従う。

 突如エアポケットの中にでも入ったかのように蚊帳の外に置かれた橙夜は、はあっと血の臭いのする息を吐いた。

「橙夜君」と澄香が手を出す。

「治癒しようか」 

 橙夜は笑顔で固持した。ここで傷を奇跡で治してしまうのは狡いと考えたからだ。

 長い一日が始まった。

 マーゴットの熱は何度か上がり、その度にポロットは水を飲ませ額に絞った布を乗せ、解熱剤と強壮剤を決まった回数彼女に投薬した。

 橙夜は静かにだが断固として立ち続ける。使命のように。

 澄香は数回彼に話しかけようとしたようだが、断念して傍らで何か……恐らく彼女が出会った地母神に祈りだした。

 立ちっぱなしの橙夜の足の感覚が消え、冷えだした頃、どこからか声が上がった。

 橙夜は思わず身構える。

 少なくとも瀉血やらは間違っていると分かっているが、ポロットの薬草とマーゴットの容態は分からない。

 最悪の事態もあり得るのだ。

 ジュリエッタがマーゴットのベッドがある部屋から出てきた。

 疲れ切った顔を涙でくしゃくしゃにしている。

 橙夜が何かを言う前に、彼女は彼に抱きついた。

「マーゴットが、マーゴットの熱が下がったわ……」

 安堵で橙夜はようやくその場に座り込んだ。

 酷使していた足が悲鳴を上げている。

「……今まで見たこと無い、あの子があんなに穏やかな顔をしているの」

 ジュリエッタは橙夜にしがみついたままむせび泣き始める。

「僕がやったんじゃないよ、ポロットとマーゴットが頑張ったのさ」 

 橙夜は優しくジュリエッタを抱きしめる。

「違うわ……あんたが無理に私を止めてくれたからよ……本当はね、私ダメだと思っていた、だってナイトヒートにかかった人はみんな死んでたもの……でも違ったんだね、医療法が間違っていたんだね」

 彼女はまだ涙に濡れる顔を上げ、どうしてか複雑な表情の澄香に掠れる声をかけた。

「お願いスミカ、トウヤを治してあげて」
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