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輪廻転生。
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私は月が好きだ。もうずっと、夜のままでもいいとすら思える。けれど、私はやらなくてはいけない。役目というのは、いつか必ず果たさなくてはならないもの。今回、たまたまその役目が、私に回ってきたというだけのこと…
「テルヨ、今日はもう寝たほうがいいよ。」
私の隣にいた男が言った。この男の名は政則。この、地球という星の絵描きだ。
「ええ、そうですね。」
私は重い着物を脱ぎ、寝巻きに着替える。
私と政則は一緒に寝る。少し窮屈だが、別にいい。私は政則が好きだ。政則はとてもいい匂いがする。地球に来てから、何人かの男の匂いを嗅いだが、こんなにも落ち着く匂いの男は、政則だけだ。
政則は、私が地球に来て間もない頃、食べるものも着るものも、住む場所さえ無かった私を拾ってくれたのだ。私は、政則に感謝してもしきれない。何か、恩返しがしたい。
「私が死ぬ前に…」
暗い天井を見上げたまま、私は言った。
「またその話か…テルヨが月から来たなんて信じないよ。」
政則はあきれた様子だ。初めて私が、政則の家に来た時。私は、自分が月から来たこと。そして、使命を果たして死ぬことを言った。けれど、政則は信じなかった。まぁ、普通なら信じないだろう。
「死ぬ前に恩返しがしたいです。私は政則が好きだから。」
「僕は、テルヨが死ぬなんて信じない。」
政則は目をつぶったまま、今にも寝てしまいそうだ。
「信じなくていい。でも…政則が私のこと嫌いじゃないなら…私の話を聞いてください。」
政則は何も言わなかった。寝てしまったのかもしれない。それでも、私は話し出した。
「初めて政則の家に来た時は驚いたわ。だって、凄く立派なんですもの。門が凄く大きくて、部屋もいくつもあって。」
私は、政則の家に来た頃のことを、一つ一つ思い出した。
「初めて一緒にお食事した時も驚いたわ豪華な料理が、どんどん出てきて…あんなに美味しいもの、月にもありませんでした。」
(あの後…お腹が痛くなって、動けなかったのよね。)
「政則は色々な所にも連れて行ってくれました。一番楽しかったのは海。あの時、海から見た月は、本当に綺麗でした。」
政則は私に色々なものをくれた。目に見えるものだけじゃない。目に見えないものまで。
「それから…それからですね…」
気づけば、私は泣いていた。政則が隣で、いびきをかいて寝ている。何やら、いい夢を見てるような顔だった。
「言えません…言いたくないです…」
とても急だが、私は明日死ぬ。月の巫女としての役目を果たし、朝焼けに散る。月の巫女に選ばれた時から、私には分かっていた。月の巫女が地球に来てから四年。それが、朝を迎える日だ。その四年の内、政則と過ごしたのは二年。たった二年だ。
「明日で全部終わってしまうなんて…悲しいです。」
私の頬を、涙が伝う。
「悲しいです…悲しいです…悲しいです…」
死にたくない。ずっと政則といたい。けれど、それは叶わぬ願い。役目を果たさなくても、私は死ぬ。それが、巫女に選ばれた時にかけられる呪いだ。
「起きてください。政則。」
私は、いびきをかいて寝ている政則を起こした。政則は、まだ半分夢の中にいるようだった。
「海へ行きましょう。」
最後の時を政則と過ごしたい。私は、あくびをする政則の、腕を引っ張った。
「私と初めて会った時のこと、覚えてらっしゃる?」
海へ向かう途中、私は政則に聞いてみた。政則は相変わらず眠そうに、あくびをしながら答えた。
「覚えてるよ。」
波の音が近づいてくる。月は今日も綺麗だ。
「初めて会ったのも海でしたね。私が浜辺で倒れていたのを、政則が助けてくれた。」
政則は跳ねた髪を直しながら聞いていた。
「あの時、私は凄く救われた気持ちになった。本当にありがとうございます。」
私と政則は浜辺を並んで歩く。
「あの時、政則が私を見てなんて言ったか覚えてらっしゃる?私は覚えていますよ。」
政則は恥ずかしそうに頭をかく。
「美しいって言ってくれました。とても美しい白髪だって。」
私は涙をこらえていた。けれども、もう我慢できなかった。
私は泣いた。自分でも、その涙を止められなかった。いきなり泣きだした私を見て、政則は驚いていた。
「テルヨ!どうしたんだ⁉︎」
息苦しい。気分も悪い。もうすぐ、私は死ぬ。
「えっ… テルヨ⁉︎」
私は血を吐いた。これも呪いだろう。早く夜明けの歌を歌わなければ。でも、最後に…
「政則…今の私…美しいですか?」
口の周りの血をぬぐい、私は言った。涙と血で、私の顔はぐちゃぐちゃだっただろう。
「あぁ…美しいよ。この世で一番美しい。」
政則も泣いていた。
「私はもう、行かなければなりません。今まで、ありがとうございました。」
私は、海へ向かって歩き出す。風が、私の髪を揺らす。
「待ってくれ!」
そう言って、政則はどこかへ走って行った。
程なくして、政則は浜辺に戻ってきた。政則は、絵描き道具を持っていた。
「テルヨの絵が描きたい。」
私はゆっくり頷く。
「綺麗に書いてくださいね?」
小さく息を吸い、覚悟を決めた。私は歌いだす。夜明けの歌を歌いだす。
政則と過ごした日々。その全てが私の大切な宝物。お別れは辛いけど…
泣きながら歌った。時々歌えなくもなった。それでも、なんとか最後まで歌いきることができた。
海の向こうから、日が昇る。人々が、長らく望んだ夜明けが、今訪れる。その光は、月よりも眩しく、暖かかった。
(太陽の下を、政則と歩きたかったなぁ。)
私は政則がいる方を振り向く。
「政則は、生まれ変わりって信じますか?私は信じます。だって、素敵じゃないですか。死んでもまた、好きな人と巡り会えるかもしれないなんて…」
それは何年、何百年、何千年先かも分からない。そもそも、生まれ変わりなんて、あるのかどうかも分からない。
「テルヨ…行かないでくれ!」
政則が私の手を握った。とても暖かかった。
「政則…」
私も、政則の手を握った。
「私は、生まれ変わっても政則が好きです。」
月が砕け、銀色に輝く破片が海に散る。
「だから…政則は、長生きしてください。」
視界がぼやけていく。政則が見えなくなっていく。
「生まれ変わって…政則を待ってます。」
何年、何百年、何千年先でもいい。
また、あなたと巡り会えますように…
「テルヨ、今日はもう寝たほうがいいよ。」
私の隣にいた男が言った。この男の名は政則。この、地球という星の絵描きだ。
「ええ、そうですね。」
私は重い着物を脱ぎ、寝巻きに着替える。
私と政則は一緒に寝る。少し窮屈だが、別にいい。私は政則が好きだ。政則はとてもいい匂いがする。地球に来てから、何人かの男の匂いを嗅いだが、こんなにも落ち着く匂いの男は、政則だけだ。
政則は、私が地球に来て間もない頃、食べるものも着るものも、住む場所さえ無かった私を拾ってくれたのだ。私は、政則に感謝してもしきれない。何か、恩返しがしたい。
「私が死ぬ前に…」
暗い天井を見上げたまま、私は言った。
「またその話か…テルヨが月から来たなんて信じないよ。」
政則はあきれた様子だ。初めて私が、政則の家に来た時。私は、自分が月から来たこと。そして、使命を果たして死ぬことを言った。けれど、政則は信じなかった。まぁ、普通なら信じないだろう。
「死ぬ前に恩返しがしたいです。私は政則が好きだから。」
「僕は、テルヨが死ぬなんて信じない。」
政則は目をつぶったまま、今にも寝てしまいそうだ。
「信じなくていい。でも…政則が私のこと嫌いじゃないなら…私の話を聞いてください。」
政則は何も言わなかった。寝てしまったのかもしれない。それでも、私は話し出した。
「初めて政則の家に来た時は驚いたわ。だって、凄く立派なんですもの。門が凄く大きくて、部屋もいくつもあって。」
私は、政則の家に来た頃のことを、一つ一つ思い出した。
「初めて一緒にお食事した時も驚いたわ豪華な料理が、どんどん出てきて…あんなに美味しいもの、月にもありませんでした。」
(あの後…お腹が痛くなって、動けなかったのよね。)
「政則は色々な所にも連れて行ってくれました。一番楽しかったのは海。あの時、海から見た月は、本当に綺麗でした。」
政則は私に色々なものをくれた。目に見えるものだけじゃない。目に見えないものまで。
「それから…それからですね…」
気づけば、私は泣いていた。政則が隣で、いびきをかいて寝ている。何やら、いい夢を見てるような顔だった。
「言えません…言いたくないです…」
とても急だが、私は明日死ぬ。月の巫女としての役目を果たし、朝焼けに散る。月の巫女に選ばれた時から、私には分かっていた。月の巫女が地球に来てから四年。それが、朝を迎える日だ。その四年の内、政則と過ごしたのは二年。たった二年だ。
「明日で全部終わってしまうなんて…悲しいです。」
私の頬を、涙が伝う。
「悲しいです…悲しいです…悲しいです…」
死にたくない。ずっと政則といたい。けれど、それは叶わぬ願い。役目を果たさなくても、私は死ぬ。それが、巫女に選ばれた時にかけられる呪いだ。
「起きてください。政則。」
私は、いびきをかいて寝ている政則を起こした。政則は、まだ半分夢の中にいるようだった。
「海へ行きましょう。」
最後の時を政則と過ごしたい。私は、あくびをする政則の、腕を引っ張った。
「私と初めて会った時のこと、覚えてらっしゃる?」
海へ向かう途中、私は政則に聞いてみた。政則は相変わらず眠そうに、あくびをしながら答えた。
「覚えてるよ。」
波の音が近づいてくる。月は今日も綺麗だ。
「初めて会ったのも海でしたね。私が浜辺で倒れていたのを、政則が助けてくれた。」
政則は跳ねた髪を直しながら聞いていた。
「あの時、私は凄く救われた気持ちになった。本当にありがとうございます。」
私と政則は浜辺を並んで歩く。
「あの時、政則が私を見てなんて言ったか覚えてらっしゃる?私は覚えていますよ。」
政則は恥ずかしそうに頭をかく。
「美しいって言ってくれました。とても美しい白髪だって。」
私は涙をこらえていた。けれども、もう我慢できなかった。
私は泣いた。自分でも、その涙を止められなかった。いきなり泣きだした私を見て、政則は驚いていた。
「テルヨ!どうしたんだ⁉︎」
息苦しい。気分も悪い。もうすぐ、私は死ぬ。
「えっ… テルヨ⁉︎」
私は血を吐いた。これも呪いだろう。早く夜明けの歌を歌わなければ。でも、最後に…
「政則…今の私…美しいですか?」
口の周りの血をぬぐい、私は言った。涙と血で、私の顔はぐちゃぐちゃだっただろう。
「あぁ…美しいよ。この世で一番美しい。」
政則も泣いていた。
「私はもう、行かなければなりません。今まで、ありがとうございました。」
私は、海へ向かって歩き出す。風が、私の髪を揺らす。
「待ってくれ!」
そう言って、政則はどこかへ走って行った。
程なくして、政則は浜辺に戻ってきた。政則は、絵描き道具を持っていた。
「テルヨの絵が描きたい。」
私はゆっくり頷く。
「綺麗に書いてくださいね?」
小さく息を吸い、覚悟を決めた。私は歌いだす。夜明けの歌を歌いだす。
政則と過ごした日々。その全てが私の大切な宝物。お別れは辛いけど…
泣きながら歌った。時々歌えなくもなった。それでも、なんとか最後まで歌いきることができた。
海の向こうから、日が昇る。人々が、長らく望んだ夜明けが、今訪れる。その光は、月よりも眩しく、暖かかった。
(太陽の下を、政則と歩きたかったなぁ。)
私は政則がいる方を振り向く。
「政則は、生まれ変わりって信じますか?私は信じます。だって、素敵じゃないですか。死んでもまた、好きな人と巡り会えるかもしれないなんて…」
それは何年、何百年、何千年先かも分からない。そもそも、生まれ変わりなんて、あるのかどうかも分からない。
「テルヨ…行かないでくれ!」
政則が私の手を握った。とても暖かかった。
「政則…」
私も、政則の手を握った。
「私は、生まれ変わっても政則が好きです。」
月が砕け、銀色に輝く破片が海に散る。
「だから…政則は、長生きしてください。」
視界がぼやけていく。政則が見えなくなっていく。
「生まれ変わって…政則を待ってます。」
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