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最悪だ……
つい出てしまいそうになる言葉を何とか飲み込んだ加奈。
まさか自分が加害者になるとは思いもしなかっただけに、この事態は人生最大のピンチとも言えるだろう。
相手が相手なだけに、加奈は自分の立ち振る舞いなどに酷く困ってしまった。
霧島加奈にとって最大にして最悪な日常の始まりだった……
事が出来事はほんの二時間前……
自宅のあるアパートから徒歩十分圏内にある加奈の勤め先は、五十階建てビルの三十階にある。その他の階には他の会社が入っており、四十階から最上階までは三社の外資系会社が占拠している。また、十階フロアにはカフェやそば・うどんなど各種店舗が入っており、お昼時になると各階の会社が集まる。一種の交流スペースのような感じだ。
中でもカフェは加奈のお気に入りで、よく利用させてもらっている。ここのカフェにはオープンテラスもあり、春になるととても居心地がいい。
大学卒業後して早三年。まだまだ仕事にムラがありながらも充実した毎日を送っている。今日も午前の業務を終え、昼食時にこのカフェにやって来た。加奈のお気に入りはサンドイッチとカフェオレで、それをテラス席で食べた。
だが今日はいつもよりもゆっくりとした時間を過ごしたようで、時計を見ると十二時五十分。午後の業務が始まるまで後十分だ。
(やばっ!化粧直す時間ない!)
慌てた加奈は、持ってきていた雑誌を片手にエレベータの方へと急いだ。このビルにはエレベータが数機ある。今からエレベータに乗って職場のある三十階に行ったとしても五分で行けるだろう。そう踏んだのだが、そういう日に限ってどのエレベータもなかなか十階に来ない。
「あぁもう……最悪!」
待っていたら時間を過ぎると思った加奈は、滅多に使わない階段を上って行くことにした。運がよければ途中で乗れる。そう思ってダッシュした。
このビルには世の中の禁煙傾向もあり、喫煙所を積極的に設けていない。なので大体五階置きくらいに非常階段の側で喫煙者は皆喫煙をしている。
(臭い服に着くっ!)
十五階辺りで一つ目の喫煙所にて昼食後の喫煙サラリーマンと遭遇。どこの会社の人達なのかはさっぱりわからないが、皆パリッとした品のいいスーツを着ている。首から下げられたパスケースに赤と黒のクロスが見えた。
(あぁ……外資の人達か……)
上層階にある外資系三社の内、ちょっと名の知れた会社の人達だ。見分け方はパスケースに赤と黒のクロスが入っている事。とはいえそんな悠長な事を思っていられるほど加奈には時間がなかった。少し余所見をしてしまったが、階段を勢いよく駆け上がる加奈は、ドンッと思いっきり何かにぶつかった。
「すみま……って、うわぁ!」
足元がもつれ、身体が宙に浮く感じがした。
やばいっ!
そう思ったのも刹那。このまま階段から落ちる事は免れないと覚悟した。案の定、凄まじい電撃が背中の方からビリビリと来た。
「おっ、おい!南条!大丈夫か?」
喫煙していたサラリーマン達がここぞとばかりに声をかけるが、それはどれも南条と呼ばれる相手に対してた。自分の名前は霧島で……しかも自分の事を心配してくれてないのか?そう思っていた加奈は、ふと階段から落ちた時の衝撃がさほどない事に気が付く。
おかしい……
何かがおかしいと思った瞬間、自分の下で男の唸るような声が聞こえてきた。
つい出てしまいそうになる言葉を何とか飲み込んだ加奈。
まさか自分が加害者になるとは思いもしなかっただけに、この事態は人生最大のピンチとも言えるだろう。
相手が相手なだけに、加奈は自分の立ち振る舞いなどに酷く困ってしまった。
霧島加奈にとって最大にして最悪な日常の始まりだった……
事が出来事はほんの二時間前……
自宅のあるアパートから徒歩十分圏内にある加奈の勤め先は、五十階建てビルの三十階にある。その他の階には他の会社が入っており、四十階から最上階までは三社の外資系会社が占拠している。また、十階フロアにはカフェやそば・うどんなど各種店舗が入っており、お昼時になると各階の会社が集まる。一種の交流スペースのような感じだ。
中でもカフェは加奈のお気に入りで、よく利用させてもらっている。ここのカフェにはオープンテラスもあり、春になるととても居心地がいい。
大学卒業後して早三年。まだまだ仕事にムラがありながらも充実した毎日を送っている。今日も午前の業務を終え、昼食時にこのカフェにやって来た。加奈のお気に入りはサンドイッチとカフェオレで、それをテラス席で食べた。
だが今日はいつもよりもゆっくりとした時間を過ごしたようで、時計を見ると十二時五十分。午後の業務が始まるまで後十分だ。
(やばっ!化粧直す時間ない!)
慌てた加奈は、持ってきていた雑誌を片手にエレベータの方へと急いだ。このビルにはエレベータが数機ある。今からエレベータに乗って職場のある三十階に行ったとしても五分で行けるだろう。そう踏んだのだが、そういう日に限ってどのエレベータもなかなか十階に来ない。
「あぁもう……最悪!」
待っていたら時間を過ぎると思った加奈は、滅多に使わない階段を上って行くことにした。運がよければ途中で乗れる。そう思ってダッシュした。
このビルには世の中の禁煙傾向もあり、喫煙所を積極的に設けていない。なので大体五階置きくらいに非常階段の側で喫煙者は皆喫煙をしている。
(臭い服に着くっ!)
十五階辺りで一つ目の喫煙所にて昼食後の喫煙サラリーマンと遭遇。どこの会社の人達なのかはさっぱりわからないが、皆パリッとした品のいいスーツを着ている。首から下げられたパスケースに赤と黒のクロスが見えた。
(あぁ……外資の人達か……)
上層階にある外資系三社の内、ちょっと名の知れた会社の人達だ。見分け方はパスケースに赤と黒のクロスが入っている事。とはいえそんな悠長な事を思っていられるほど加奈には時間がなかった。少し余所見をしてしまったが、階段を勢いよく駆け上がる加奈は、ドンッと思いっきり何かにぶつかった。
「すみま……って、うわぁ!」
足元がもつれ、身体が宙に浮く感じがした。
やばいっ!
そう思ったのも刹那。このまま階段から落ちる事は免れないと覚悟した。案の定、凄まじい電撃が背中の方からビリビリと来た。
「おっ、おい!南条!大丈夫か?」
喫煙していたサラリーマン達がここぞとばかりに声をかけるが、それはどれも南条と呼ばれる相手に対してた。自分の名前は霧島で……しかも自分の事を心配してくれてないのか?そう思っていた加奈は、ふと階段から落ちた時の衝撃がさほどない事に気が付く。
おかしい……
何かがおかしいと思った瞬間、自分の下で男の唸るような声が聞こえてきた。
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