王様のいいなり!

まぁ

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「私は……」
「なんだ?」
「正直わからない。逃げようと思えば逃げる事だってできたのに……なのに逃げられないし、いつもあんたの言葉に翻弄されるし。なのに……」
 最後まで言い切れなかった。自分は何を言いたかったのか?もうわからなくなるほど頭の中が混乱していた。明人はまたも加奈の唇を塞ぐ。次のキスは触れるだけのものではなく深く、そして舌を絡ませる濃厚なものだった。
「っふ、ん……」
 初めは嫌だったキスも、いつしか慣れてしまった。それだけでなく、される度に加奈の中で感じたこともない衝動が身体の中を駆け巡った。
「ふあっ!……っ……」
 口内の粘膜が擦れ合う淫靡いんびな音が部屋中に響き渡る。もっとしてほしいと身体がせがんでいる。
「んっ……はふっ……」
 だが加奈の思いと裏腹に、明人の唇は加奈から離れた。
「ならこれから確かめていけばいい。今はそれで許してやるよ」
「……明人……?」
「そうだな?これからお試し期間でどうだ?」
「お試し?」
「そうだ。お前が俺に溺愛しているとわかるまではキスだけで我慢してやるさ。けど、俺に溺愛しているとわかった時点でお前の身体もらうからな」
 話がてんで思わぬ方向に行ってしまったと思った。だが、加奈はその案にコクリと頷いた。それを見て明人はクスッといつもの嫌味満載の笑みを見せる。
「これでも俺なりに譲歩してやってる。本当ならすぐにでもセックスしたいとこだが、ありがたく思えよ」
「んなっ!」
 カーッと頭に血が上る。それを見て明人はさらに意地悪い笑みを浮かべた。
「よし、これで下僕生活は確保。そして川田とかいう男は諦めろよ」
「あんたねぇ……」
「どうせお前は俺以外好きになれないさ」
 どこからそんな自身が溢れるのだろうか?完全に加奈の気持ちなど無視なのは相変わらずとして、綺麗に明人のペースに巻き込まれた自分がとても情けなく思えた。
「し、仕方ないから、あんたの我がままに付き合ってあげるわよ……」
 本当に自分は馬鹿だと思った。これでは明人のいいなりだ。
 加奈の言葉を聞いた明人が加奈の鼻を摘まむ。摘ままれた加奈は「んぎゃ!」と情けない声を漏らした。
「何気取ってやがる。どこのツンデレだ」
「う、うるさい……」
 いつもならかんかんに怒るところだが、明人の気持ちを聞いたのでとりあえずはよしとする事にした。
「そうだ!小峰さんって人から書類預かってるんだった」
 バックの中から書類の入った封筒を取り出し明人に渡した。
「ったく、相変わらず色気のないやつだな」
 そう言いながら袋を手にした明人は、袋の中の書類に目を通した。
「そうだ!ご飯作らなきゃ!」
 いそいそと立ち上がった加奈は夕食の準備に取り掛かることにした。
 明人とこれから恋人としてお試し期間付き合う。なんだか今までにないケースに加奈は拍子抜けしつつも、自分が明人のような押しに弱い事に壁々としてしまった。
(これからどうなるんだろ……)
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