王様のいいなり!

まぁ

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「本当に川田君と付き合うつもりでいたの。けど、ちゃんと言えなくて……本当にごめんなさい!」
「……わかりました。でも、一つ聞いていいですか?」
「なんなりと!」
「霧島さんは南条さんの事、好きなんですか?」
 そう聞いてくるのはわかっていたが、加奈は正直に「わからない」と答えた。
「最初は嫌だったけど……それも慣れてくると、嫌いとか好きってのがわからなくなって」
「それでお試し期間で付き合うと?」
「はい。中途半端なやつだよね?ホント殴ってくれてもいいよ!」
「いや、女性に対してそんな事しませんよ。けど、お試しとはいえ、霧島さんの気持ちはまだ定まっていない。つまり俺が入り込む余地あるって事ですよね?」
「へっ?」
 川田の言葉は予想していなかったので、加奈は目を点にしたまま川田を見た。
「俺にもチャンスあるなら、俺も真剣に霧島さんの事口説きますね」
「えっ、あの……」
「好きなんです。霧島さんの事。あぁ後、もう南条さんとはキスしましたか?」
 何故それを聞いてくるのだ?加奈は恥ずかしくなってうつむいた。すると川田の手が加奈の肩に乗ったので、ハッとして顔を上げた。
「んなっ……!」
 手の甲で口元を抑えた時には遅かった。川田の唇が加奈の唇に重ねられた後だったのだ。
「俺も男です。本気出させてもらいますから」
 スッと立ち上がった川田は「失礼します」と言ってその場を後にした。何が起こったのか反芻はんすうする加奈は、まだ残る川田の唇の感触をそっと手で触れて確認した。
「うっそでしょ……」
 一瞬の事だったので何の感情も湧き起こらない。明人の時とはまた違うキスに呆気にとられたまま、加奈はしばらく公園にいた。


「やっと戻ったか」
「えっと、ただいま……」
 マンションに戻ると、いつも通り明人が玄関で仁王立ちしている。だが、先ほどの事もあり明人の顔を直視できないでいた。そんな様子のおかしい加奈を「おい」と言って顔を上げさせた。
「ごめん。誰かさんのせいで今日は疲れてるの……」
「誰かさんとは誰の事だ?」
 あなたですよ……といつもなら言うのだが、もうその気力すら起きない。加奈はリビングに向かうとソファに座り込み目を閉じた。すると明人はそんな加奈の口を塞いだ。
「ちょっと!何するのよ!」
「お前がご主人様を無視するからだろ?それより何があったか言え」
「あのねぇ……はぁ、原因を作った人がこれだから今日は大変な目にあったってのに」
「なんだ?俺とお前が付き合う事など事実だろ?」
「お試し期間でしょ?」
「どちらも他人からしたら変わらないと思うがな」
 御尤もだ。周りからしたらそれは付き合ってる事と同じ。だが川田だけは違った。彼は加奈を諦めるどころか、変なスイッチが入ってしまったらしく、加奈にこれから本気のモーションをかけるそうだ。
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