十年目の恋情

まぁ

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 あともうひと押し……
 そうすればコウちゃんは俺を好きになってくれる。それは態度からもわかってるんだけど、そうならないのには何かある。きっと離婚した原因、あるいは前の職場での出来事なんだと思う。
 ただの離婚なら別に地元に戻って来るほどでもないし、職場でパワハラ被害とかにあったのなら、こっちに戻った時に引きこもりになってるか鬱診断で病院にかかっているはずだろう。けど、そのどちらでもない。
 コウちゃんの気持ちをせき止めてるものって何だろうか……
 俺にはそれがわからない。だからコウちゃんが本当に嫌がる事は出来ない。
 多少の押しは必要だけど、押してばかりでも意味がないから、適度に引いてみる。こんなのは恋愛する上での常識だ。
 でも、俺とコウちゃんに大切なのはセックスをする事じゃない。
 コウちゃんにとって俺が信頼できる人物であり、必要だと思ってもらう事だ。だから俺は知りたいんだ。コウちゃんの心に引っかかっている事を……
「はぁ……」
  憂鬱な授業が終わり、昼休みになった瞬間、ついついため息が漏れた。
 国語や数学、英語に社会。工業高校の普通授業はどれもが中学の延長上にある簡単なものだ。その代り専門教科には力が入っている。週に二度の実習授業があるが、ほとんどの生徒はこの実習を遊んでいる。
 俺は別に遊びはしないが、どの教科も簡単なので、テスト前に教科書を眺める程度で簡単に点数も取れる。この学校に来たのはテニスでの成績を認められたから。そしてコウちゃんの通っていた学校だったのもある。
 将来は有名大学に入って一流企業に入る。そういう普通の高校生と俺は違う立場にいる。もちろん部活の特待生としてここに来なければ、地元にある偏差値の高い普通高にでも行って、大学受験の為に日々勉強をしていただろう。
 でも俺にとってはそういう将来や未来は二の次だった。
 今も昔も俺の頭にはコウちゃんの事以外ない。
 こんな事をコウちゃんや両親、先生に話せば、将来舐めてるのか?もう少し考えろ!って言われるのがオチだろうけど、正直言って将来したい事はない。だからこのまま普通に就職してしまうのもありかと思ったが、俺は大学へ行くためにこれから勉強もしなくてはいけない。
 これだけは両親との間で決めた事だ。
 特別テニスがしたいわけでもなかったが、テニスで頑張りたいからという理由でこの学校を行くことにした。両親からは、ならその代りに大学だけは行ってくれと言われたので、俺もそれで納得する事にした。
「伊織ん!どうかしたのか?」
 声をかけてきたのはクラスメイトの吉崎だった。こいつとは中学からの友達で、高校進学してもその交流は続いている。
「別に」
「何だよ。すんげぇ悩んでますって顔してるぞ」
 案外こいつは細かい所に気が付くタイプだ。俺が女の子と付き合ってた時だって、「伊織んってあの子の事、本気で好きじゃないよね?」なんて言ってきたくらいだ。
 俺にとって女子と付き合うのは表面上だけだ。そこに心まではない。こう言うと付き合ってきた女子には悪いとは思うが、これもコウちゃんと将来を見越しての事だ。コウちゃんは女慣れしているのもあって、初心者の状態でコウちゃんを抱こうとしても綺麗に突っぱねられるだけだろう。だから抱く為のスキルは必要だった。その程度だ。
「何だよ何だよ。もしかして次の生贄候補が厄介なのか?」
「そういうんじゃない。それに俺はもうそういう事しないし……」
「へぇ、本命出来た?きっと俺以外から見たら普通に爽やか少年に見える伊織んでも、本当はただの酷い男だったのに、ついに卒業か?」
「お前ホントうるさい……」
 吉崎から見たらこれまで付き合ってきた女子は俺の生贄らしい。たしかにそれはあながち間違ってないだろう。けど俺は恙なく付き合ってきたつもりだが、吉崎には通用しなかったみたいだ。
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