聖女陥落〜この恋は罪ですか?〜

まぁ

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 誰も見ていない。そう思って大きなため息を漏らしたエリサ。するとそれを見ていた従業員のサーシャが不安そうな声でエリサを気遣った。
「エリサさん大丈夫ですか?なんかお疲れっぽいですけど」
「あ、大丈夫です。ちょっと朝からバタバタしてたので」
「そうですか?無理しないで下さいね」
 ありふれた嘘だが、真実を言うわけにもいかないのでそういう事にしておいた。
 マルディアスといい妻のフェリシアといい、どうして自分に関わるのか。そもそもフェリシアは自分とマルディアスの関係は知らないはずなので、旦那の知り合いとして声をかけてきた可能性は高い。
 知らないからこそ声をかけてきたとしても、エリサとしては複雑な気分だ。
 マルディアスにしてもそうだ。奥さんもいるのだ。もう関わらないでほしい。だがその反面、まだ何かしらの心残りでもあるのか。ちゃんと自分以外も愛する事が出来たんだという気持ちにもなった。
 結局前に進んでいるようで進んでいないのは自分なのかもしれない。
「ダメダメ。変な事考えないで仕事しなきゃ!」
 溜まった仕事を捌きつつ、園の事も見ていかなくてはいけない。マルディアスについては忘れよう。


「うん。今のところ順調な経営をしているみたいね」
 今日はルフェリア城に赴き、長女オルカに顔見せをしに来た。オルカはエリサが子供を産んだ事も、離婚した事も、現在施設運営をしている事も知っている。むしろ家出騒動以降、オルカ自身もエリサを心配していたようで、月に一度でもいいので顔を見せるように言われていた。
「貴女自身の精神も落ち着いてきたように見えるけど、その後変わりは?」
「特にはないです」
「そう……」
 ティーカップを手に取り紅茶を飲むオルカ。さすがにマルディアスに会ったことなど口には出来ない。そこについて黙っていると、オルカはエリサに提案を持ちかけた。
「貴女自身が落ち着いてきたなら、そろそろ聖女としての役職も戻るかしら?」
「えっ?」
「当番制ではあるけど、聖女の職につくのは人が多いわけではないわ。一人でもいてくれた方がありがたいのだけど、どうかしら?」
「でも私は聖女の地位を剥奪されたのでは?」
「剥奪とまでは言ってません。貴女自身が落ち着けばそのうち戻すつもりではいました。答えは急ぎません。貴女も新しい生活を始めたばかりです。ゆっくり考えなさい」
「はい……」
 まさかもうする事がないと思っていた聖女の祈り。確かに今は忙しく余裕はない。今後こちらをどうするかも課題となるのだ。
「それとレーエンスブルに身がない以上、貴女もミリアもエデンワースの人間。ミリアにもいずれは聖女の道を歩んでもらいますからね。それは頭に入れて起きなさい」
 聖女の血を引く者の因果とも言えよう。当事者のエリサには普通の人と自分の違いなど全くわからない。むしろ同じで、ただ祈っているだけでこの国を守れるのだから未だ不思議だ。


 城を後にしたエリサは、歩いて帰ることにした。その際、大聖堂に寄って久々に中を見渡した。
 自分は今までここにいたのだと実感する。
「もう一度聖女に……」
 オルカには元のエリサに戻っているように見えたのだろうが、本当に自分が戻ってもいいのかは迷った。それは未だ心にマルディアスの存在があるからだ。
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