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「フェリシアさん……何か誤解してますが、私はもうマルディアス様の事は……」
「嘘を言わないで。貴女はまだマルディアスに気があるはずよ。マルディアスを遠ざけるなんてやり方はいろいろあるわ」
 確かにフェリシアの言う通りだ。遠ざける方法はあるのに、それを相談する事も、しようとする事もしないのはエリサの傲りだ。
「私は貴女が嫌いよ。消えてくれたらとても嬉しいわ」
「そ、それでフェリシアさんは満足なのですか?」
「そうよ。そうすればマルディアスは貴女をあきらめてくれるはず」
 その言葉を聞いて、マルディアスがまだエリサに未練がある事にも気がついているのだろう。それにフェリシアの言い分だと、夫婦仲は上手くいっていないと見受けられる。
 エリサが原因なのもあるが、薔薇の炎上しかり、マルディアスの心はどんどん遠ざかっていっているのだ。
「例え私が消えたとして……今のフェリシアさんではマルディアス様の心を捉える事は難しいのでは?」
「何ですって!人の夫に手を出しておいてよく平然とそんな事……」
 激昂したフェリシアが我が子の乗ったベビーカーを放り出し、身を乗り出してエリサに手を挙げようとした時だった。
「ご婦人が街中で声を荒げていては周りの迷惑だ」
「貴方には関係ないわ!」
 突然降り注いだ声。フェリシアはその声の主に反論したが、エリサはその主を見て目を丸くした。
「確かに関係はないが、公衆の面前。いい見世物になったいるが恥ずかしくないのか?それに子供がいて、その子供の前でよく叫び声をあげられるな」
 その人物の言い分が正論だと思ったのか、フェリシアは黙り込みそのままその場を後にした。
 残されたエリサとその人物。エリサの方は声がなかなか出なかった。
「久しぶりだな」
「フ、フリーク様……」
 まさかの相手に何を言えばいいのかもわからない。こうして顔を合わせる事などいつぶりか。もう遠い昔のようにも思えた。
「別にお前だったから助けたわけではない。歩いていたらうるさかったからだ。それじゃあな」
「ま、待って下さい!」
 そのまま去ろうとしていたフリークを突如呼び止めたエリサだが、正直話す事などなかった。
「あの、ありがとうございました……」
 一瞬だけ足を止めたが、フリークは振り返る事なくその場を去って行った。
 久しぶりであってもエリサに対して感情の一欠片も見せてはくれない。だがフェリシアとの争いを止めてくれた事だけは感謝しかなかった。


 怒りを抱えたまま帰宅したフェリシア。どうやら先にマルディアスが帰ってきていたようなので、一転して態度を軟化させて。
「お帰りなさいませ。先に戻られていたのですね」
 だがマルディアスは何も言うことなくフェリシアを無視して書斎の方へと引きこもった。
 エリサとの再会で二人の仲は拗れつつあったが、今は完全に冷え切っている。こうなってしまった原因はフェリシアにあった。
 大切に育て、そしてルフェリア国一とも謳われる薔薇の咲き誇る庭園を燃やしたのだ。もちろん希少種というだけではない。その薔薇達にはマルディアスとエリサの想い出もある。
 だがそれに関してフェリシアは全く知らなかったのだ。
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