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 荒れていた時の事故とはいえ、フェリシアに対してはいろいろと違和感を覚えていた。
 マルディアスは情報屋を呼んである事を命じた。その調べがいつマルディアスの元に来るかはわからないが、それまでは夫婦というものを演じようと思った。
 そこに初めから愛などない。フェリシアはひたすらにマルディアスの愛を求めた。
(まるで私はあの時のフリーク氏のようだ。フリーク氏も今の私と同じ気持ちだったのかな?)
 かつてエリサの旦那であり他の女性を愛したフリーク。彼の行動をマルディアスは非難出来ないし、する気もない。
 愛とは唐突だ。例え親の決めた結婚であっても、した後でも、この人という運命に出会えば男も女も関係なく逃れられないのだ。
 おそらく大半は理性を働かせるのだろう。だがマルディアスには理性などない。愛した女性を必ず自分の手の元にに置きたい。
 差し当たってフェリシアはマルディアスとエリサの思い出の場所でもあるあの薔薇の庭園に土足で入り込んだのだ。
 あの手この手で離縁を逃れようと必死だが、マルディアスも好きにさせていたが、もう限界だ。スキャンダルは確かにルディアースではご法度だ。そうならない為の対策を今現在講じている。


 火災騒ぎからしばらく、フェリシアは良き妻としてマルディアスに寄り添おうと必死だが、マルディアスはそれを徹底的に避けた。
 書斎に引きこもり書類整理をしていた時だった。
「入ってどうぞ」
 扉をノックする音が聞こえたので、中に入るよう促すと、「失礼します」と言って執事が中に入って来た。
「旦那様。レーエンスブル卿からのお手紙です」
「私に?」
「はい。使いの者から渡されました」
 一体今更何の手紙だろうかと思った。執事から手紙を受け取り、中を開いた。
 そこにはフリークらしく、相変わらず中身もなく場所と日時だけを記した手紙だった。
「どうやら話がしたいらしい。私は今から出てくる」
「今からですか?」
「あぁ」
 マルディアスはフリークからの手紙を暖炉で燃やすと、その足で屋敷を後にした。


 フリークから指定があったのは個室カフェ。こんな時間でもやっているのかと思ったが、夜になるとバーになるらしい。これは初めて知った。
「時間通りだな」
「こんな時間に呼び出して何ですか?また資金ぶりにお困りでも?」
 悠然と椅子に腰掛けているフリーク。出会った頃と何一つ変わらない態度には安心すらもした。
「生憎と事業は順調だ。近いうちにお前の所で借りた金も返せるだろう」
「それはそれは何よりで。それで?ここに私を呼び出した用件は?」
「別にどうって事ない。先日久々にエリサに出会った」
「ほう。前妻になど興味がないのでは?」
「たまたまだ。それに興味はないが興味深い事はあったな」
「フリーク氏がエリサ様絡みで興味を持つなど気になりますね」
「あぁ。何せお前の所にいる女がエリサに詰め寄っていたからな。それも公衆の面前で」
 それを聞いた瞬間、マルディアスの表情が一転する。
「エリサ様にうちのフェリシアが?」
「そうだ。それも一方的にな。随分とヒステリックな女を嫁にしたもんだな」
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