創られし命と灰の研究者

都丸譲二

文字の大きさ
50 / 65
第5巻 帝国編・後編 ー灰の心臓ー

第3章 理の再起動

しおりを挟む
 ――風が、言葉を持ち始めていた。

 灰原を渡る風が、ただの音ではなかった。
 ざらついた灰粒が擦れ合うたび、微かな律動が響く。
 それはまるで、遠い誰かの囁きのようだった。

 リュミナは足を止め、胸に手を当てた。
 灰核が脈を打ち、空気の波と同調している。
 アーレンは符盤を開き、波形を解析した。

「……灰流の周期が変わってる。
 周波数が、“人の声”の域に近い。」

「声……って、誰の?」
 ノアが小さく呟く。

「わからない。だが、言葉のような波がある。
 理そのものが、形を持とうとしているのかもしれない。」



 灰の丘を下ると、地下へ続く裂け目があった。
 灰の層が剥がれ落ち、まるで呼吸するように微かに開閉している。
 その隙間から、かすかな光が漏れていた。

「……中に、何かある。」

 アーレンは符盤を投げ入れ、光の反射波を読み取る。
 内部には巨大な空洞――円形の構造物が存在していた。
 自然の洞窟ではない。理式で刻まれた、人工の“核室”だ。

「まるで、灰を封じるための“心臓”みたい……」
 リュミナが呟く。

「いや、逆だ。」
 アーレンの声が低くなる。
「封じるんじゃない。――ここが、“生み出している”。」



 彼らが足を踏み入れると、空気が変わった。
 灰は液体のように揺れ、壁面の符文が淡く光る。
 その符は帝国式でも、リゼノス式でもない。
 まるで、理そのものが“自分で記した”ような線だった。

 リュミナが近づくと、灰核が共鳴する。
 壁の符文が反応し、光が走る。

 ――《観測者、応答セヨ》。

 音にならない言葉が、空間を満たした。
 ノアが思わず耳を塞ぐ。
 だがアーレンは、その響きを逃すまいと目を閉じた。

「観測者……って、俺たちのことか?」

「違う。」
 リュミナが首を振る。
「“理”が、わたしたちを“次の観測者”として呼んでる。」

 その瞬間、床の灰が波を立てた。
 中心に、淡い光の円が浮かぶ。
 それはまるで“眼”のように、彼らを見上げていた。



 アーレンはゆっくりと膝をつき、符盤をかざした。
 波形が同調し、符面に言葉が現れる。

 《記録ハ終焉セズ。命ノ名ヲ、再ビ刻メ。》

「……記録を再び、刻め……?」

 リュミナが息を呑む。
「それって、“創造”のこと……?」

 アーレンは答えず、ただ光を見つめていた。
 灰の中で生まれたその声は、恐ろしくも穏やかで、
 “理そのものの意志”を感じさせた。



 一方そのころ、帝国首都ヴァルシュタイン。

 灰理局中央塔の観測室では、封印解除後の理流解析が進められていた。
 報告官たちが慌ただしく符盤を操作し、数値を読み上げる。

「北部灰域の中心部より、強力な理波を感知!
 形式不明の符構造が展開、観測不能領域を形成しています!」

 エルシア・ファロウ局長は沈黙のまま立ち上がった。
 符盤の波形を凝視する。
 それは明らかに“人為”ではなかった。

「……やっぱり、理は“呼びかけている”。
 観測されることを恐れていない……むしろ、“選んでいる”。」

 隣の副官が震える声で尋ねる。
「選ぶ……とは、誰を、ですか?」

 エルシアは静かに目を閉じた。
「――“次の創造者”を。」



 灰の心臓の奥で、アーレンたちはその呼び声を聞いていた。
 灰が脈を打つ。
 その鼓動は、世界の記憶のように深く、優しく響いていた。

「……理は、“生まれ変わろう”としている。」

 リュミナが目を細めた。
 その瞳の奥で、金の光がゆらめく。
 まるで、灰の意思が宿ったように。

 アーレンは静かに呟いた。
「なら、俺たちは――その“誕生”を見届ける。」

 灰が応えるように、微かな声で囁いた。

 ――オマエタチハ、ナニヲ、創ル。

 その言葉は、世界全体の鼓動のように響いた。


 ――灰が、映し出していた。

 光でも影でもない。
 ただ、灰そのものが“記録”として形を取り始めていた。
 空間の中央に淡い粒子が舞い、やがて人の姿を成していく。

 それは、笑う人々。
 かつての街。
 理を学び、語り合い、祈りを忘れた者たちの記録だった。

「……これ、リゼノス……?」
 ノアが呟く。

 街の輪郭、王立学院の尖塔、見覚えのある石畳。
 けれど、そこに生きる人々は誰も“現実”にはいなかった。
 灰が描く幻影――“記録”だけが残っていた。

 アーレンはゆっくりと歩み寄る。
 手を伸ばすと、灰の人影が一瞬だけ揺れた。
 まるで懐かしい友人に手を振るように、笑って消える。

「……観測記録じゃない。
 これは、“記憶”そのものだ。」



 リュミナの灰核が共鳴する。
 光が胸元から広がり、灰の像がさらに鮮明になる。
 子どもたちの声、街角の音、鐘の響き。
 すべてが、灰の粒の中から蘇っていた。

「理が、これを……覚えていたの?」
「いや、理は記録するだけだ。
 “思い出そうとしている”のは――世界のほうだ。」

 アーレンの声はどこか遠かった。
 まるで自分の罪を見せられているように。



 灰の街の中に、一つの影が現れる。
 白衣をまとった青年――かつての自分。
 研究棟の机に向かい、必死に符盤を叩く姿。

 リュミナが息を呑む。
「アーレン……これ、あなた……?」

 青年の口が動く。
 灰の粒が形づくる言葉。

『――命は、理を超えられるか。』

 そして、符盤の光。
 “創造”の瞬間。
 世界が震え、すべてが灰に変わっていく映像。

 ノアが泣きそうな声で言った。
「……これが、理災の記録……。」



 アーレンは静かに目を伏せた。
 灰が彼の手の中で零れ落ちる。
 それは冷たくも温かく、まるで血のように重かった。

「……理は、俺たちを責めてるんじゃない。
 “同じ過ちを繰り返すな”って、言ってる。」

「それでも……あなたはまた、“創る”の?」
 リュミナの声は震えていた。

 アーレンは答えなかった。
 ただ、灰に映る過去の自分を見つめていた。
 あの時の彼は、確かに“奇跡”を信じていた。
 だが今の彼は、その代償を知っている。



 灰の街が崩れる。
 建物も、声も、光も、音も――すべてが灰へ還る。
 そして、最後に一つの言葉だけが残った。

 ――《創造ハ、赦シト共ニアレ》。

 灰の光が消え、静寂が戻る。

 リュミナが小さく呟く。
「……赦し、って……理が、そう言ったの?」

 アーレンは顔を上げた。
 灰の流れが、今度は“北”ではなく、“下”――地の奥へ向かっている。

「理は……赦すために、記録を残したんだ。
 “理解されるために”。」



 その頃、帝国灰理局・観測塔。

「局長、反応値が変化しています!
 灰域北部の理流、下降を開始! 深部構造へ――!」

 エルシアは静かに息を吐いた。
「……始まったわね。灰が、再び“自らの記録”を探している。」

 副官が問いかける。
「局長、どうされます? 再調査を?」

「いいえ。今は動かさない。
 これは“生まれる”瞬間。人の手で触れちゃいけない。」

 エルシアはバルコニーへ出て、遠く灰雲の向こうを見つめた。
 彼女の瞳に映るのは、静かに灯る灰光。
 それは、世界の鼓動のようだった。

「……アーレン。
 あなたが“創った命”が、今度は世界を赦そうとしている。
 それが、“理の赦し”なのね。」



 灰原の地下で、アーレンは立ち尽くしていた。
 灰の光が彼の指先を包み、まるで“導くように”動いている。
 地の底から、微かな声が響いた。

 ――……オマエハ、創造者カ。
 ――ナラバ、答エヨ。何ノタメニ命ヲ創ル。

 アーレンは、ゆっくりと目を開けた。
 その表情には、恐れではなく静かな決意が宿っていた。

「……“理を赦すため”だ。」

 灰が震え、光が弾けた。

 世界は、再び語り始めていた。



 ――帝国首都ヴァルシュタイン。
 灰理局・中央観測塔。

 塔の上層では、封印後しばらく沈黙していた理導管が再び光を帯びていた。
 導管の中を流れる理流は、静かなはずの封印層を逆流している。
 符盤群が淡い光を放ち、空間全体が“息づく”ように振動していた。

「局長、理封式の下層波が上昇を続けています! 流量、封印限界値の三倍!」
 観測員の報告が響く。
 だが、エルシアは眉ひとつ動かさなかった。
 符盤を見つめたまま、低く呟く。

「……これは封印破りじゃない。理そのものが“覚醒”してる。」

 符盤上の波形は、明らかに“呼吸”していた。
 均等な脈動――理が再び世界と同期を始めている証だった。

「北部灰域からの干渉波は確認できる?」
「はい。理波位相が複数点で上昇していますが、すべて人為の域を超えています。」

 エルシアは目を閉じた。
「――“灰の心臓”が動き出したのね。」



 会議層。
 壁面には灰色の紋章が並び、各部局の代表者たちが席に着いていた。
 その中央に立つのは、灰理局の次席・カルディス。
 かつてエルシアの副官であり、現在は軍参謀府と局の連絡役を務める男だ。

「……局長。封印解除後、理波の上昇は異常です。
 このまま放置すれば、再び“理災”の再現を招く危険がある。」

 エルシアは沈黙を貫いた。
 カルディスは一歩踏み出し、声を強める。

「我々は理を観測する国家です。
 制御を失えば、この帝都そのものが崩壊しかねない!
 ――第三干渉計画を発動すべきです。」

 その言葉に、議場がざわめいた。
 第三干渉計画――“理封以降”の最終兵装計画。
 理そのものを「観測」ではなく「再定義」するための極秘兵器。
 理を上書きし、灰域の“記録”を書き換える装置。



 エルシアは、ゆっくりと顔を上げた。
 その表情は静かだが、声には明確な怒りがあった。

「あなたたちは、まだ“理を制御できる”と思っているのね。」

 カルディスが冷たく答える。
「制御ではなく、上書きです。理は法であり、法は書き換えられる。
 それが文明というものだ。」

「……理は人の手では書けない。
 あなたたちは、観測と理解の違いをまだ分かっていない。」

 静寂。
 だがカルディスの口角がわずかに上がった。

「では、あなたはどうするつもりです?
 放っておけば、理が再び“応答”する。
 世界が“命”を拒めば、また灰に沈むだけだ。」

「それでも、理は“命を観ている”。
 拒んでいるのは、いつだって人間のほうよ。」



 議場の空気が冷える。
 老評議員が口を開いた。

「……局長。あなたの理念は崇高だが、国は理想で動かぬ。
 第三干渉計画の承認はすでに上層評議で決定している。
 あなたは現場執行権を持つ者として、実行を補佐せよ。」

 エルシアの瞳に、一瞬だけ光が走った。
 それは怒りではなく、悲しみの色だった。

「……“理を封じた”者たちが、また“書き換え”を試みるのね。」

「我々が手を下さねば、また滅びる。
 この国は、理を観測することで生きてきた。
 それをやめるというなら、帝国は存在意義を失う。」



 エルシアは静かに椅子を押しのけた。
 白衣の裾が揺れ、彼女は振り返らずに言った。

「……なら、あなたたちは理に殺される。」

 その言葉に、会議室の誰もが息を呑んだ。
 だがエルシアはもう歩き出していた。
 扉の前で、彼女は一度だけ立ち止まり、低く呟く。

「“理の心臓”が動いている。
 今度は、人を滅ぼすためじゃない。
 ――世界が、生き返るために。」

 その言葉は、誰にも届かなかった。
 だが、塔の最上層で眠る符盤が、わずかに光を返した。



 その夜。
 帝都の空に、ひと筋の光柱が立ち上った。
 灰ではない、純粋な“理光”だった。

 カルディスが観測塔の窓辺で息を呑む。
 彼の傍らで副官が叫ぶ。

「理封層が共鳴しています! 出力、制御不能!」
「理脈が……“呼応”している……?」

 塔全体が低く唸りを上げ、空気が震えた。
 まるで、理そのものが帝都の存在を確かめるように。

 そして、符盤の中央に淡く文字が浮かぶ。

 ――《創造ノ地脈、反応開始》。



 同時刻、灰域北部。

 アーレンたちは灰の丘を進みながら、北の空に浮かぶ光柱を見上げていた。
 灰ではない、まっすぐに伸びる純白の光。
 その中心で、灰が震え、地が低く鳴っている。

「……始まったな。」
 アーレンは呟いた。
 その声には、恐れと同時にどこか懐かしさが混じっていた。

「理が……目を覚ました。」
 リュミナの灰核が共鳴する。
 その光が、彼女の胸を透かして脈動していた。

 世界が再び、灰の記録を語ろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...