赤色灯の証言

都丸譲二

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第4章 赤色灯の証言

エピローグ

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 桐ノ宮署の駐車場に並ぶ白バイの列。
 朝の光を浴びて、機械の白いボディが鈍く輝いていた。
 その一角に、西條美由紀の姿があった。

 県議会前での告発から二週間。
 庁内では懲戒処分や異動の噂が渦巻いたが、結論は意外にも「続投」だった。
 組織の論理からすれば彼女は厄介な存在だ。
 しかし、事故の遺族や市民の声、さらには現場隊員たちの静かな支持が、彼女を守ったのだ。

 署内の空気は一変していた。
 無言のまま視線を逸らす者もいれば、短く「お疲れさま」と声をかける者もいる。
 それでも、美由紀が席に戻った時、机の上には磨き込まれた白バイの写真が置かれていた。
 差出人は記されていない。
 だがそれは、黙して支える仲間の存在を物語っていた。

 ⸻

 エンジンをかけると、鼓動がそのまま機械に伝わる。
 振動とともに胸の奥が高鳴る。
(私はまだ、この場所に立っている)

 加瀬が隣でヘルメットを直し、ぼそりと言った。
「……残ったな、西條」
「はい」
「正直、もう飛ばされると思ってたぜ」
「私も、覚悟していました」
「けど、現場はお前を欲しがってる」

 短いやりとりに、互いの信頼がにじんでいた。

「加瀬さん」
「なんだ」
「……あの日、言ってくれた言葉。覚えてます」
「どの言葉だ」
「“人情に負けるな。けど、人情がなきゃ走れねえ”」
「……ああ」
 加瀬は少し照れたように笑い、シールドを下ろした。
「忘れるなよ。あれは、俺たちにしか言えねえ言葉だ」

 ⸻

 市街地へ出ると、朝の交通はもう混み始めていた。
 信号待ちの車列の横で、子どもが指を差し「白バイだ!」と叫ぶ。
 母親が慌てて頭を下げ、美由紀も軽く会釈で返した。

 その一瞬に、胸の奥が熱くなる。
 人は誰しも過ちを犯す。
 だが守られるべき命がある。
 そして、それを守るために走る者がいる。

 赤色灯を点ける。
 昼の光の中でも、確かな赤が街を染めた。

 ⸻

 副隊長の声が無線に入る。
「桐ノ宮から交機隊、国道21号篠原台付近で接触事故発生。至急確認されたし」
「交機隊了解」

 加瀬が横目で笑う。
「ほらな。走る暇をくれねえ街だ」
「いいじゃないですか」
「西條、行くぞ!」
「了解!」

 二台の白バイが、同時にアクセルをひねった。
 赤色灯の光が前方を照らし、桐ノ宮の街へと溶け込んでいく。

 春の風を切り裂きながら走るその姿は、もう消されることはなかった。
 赤色灯の残光は、確かに人々の心を照らしていた。
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