異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件

コペルニクス

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レベル2.女騎士と日常

6.女騎士と文房具

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 ある日。

「マスター、何を書いてるのだ?」

 ちゃぶ台で作業していると、不意にリファが横から覗き込んできた。

「お前についての書類だよ。ここで暮らす以上、いろいろ役所に提出しなくちゃいけないものがあるから」

 俺は広げられた紙類にペンを走らせながら答えた。
 それらは国民年金の加入申込みや、国民健康保険の申込みの用紙である。
 死者処理事務局は必要最低限の資料(住民票やマイナンバーカード)は用意してくれたが、こういうのは自分でやれとのお達しだ。
 面倒だけど重要なものだからな、後に引き伸ばすのは良くないとのことで、今こうしてせっせと書き込んでいるのである。

「役所に? よくわからんが、そんなに大量の紙面が必要なものなのか?」
「この国の人間として認めてもらわなくちゃいけないから、色々手続きが必要なの。そうしないと、国から補助とか援助を受けられなくなる」
「ほじょ……? ワイヤードでは確かに私のような騎士や貴族にはある程度はそういうのはあったけれども……平民や奴隷はそんなものなかったぞ?」
「この世界は身分制度はないって言っただろ。この日本に住む人間であれば、誰もが等しく支援を受ける資格があるの。当然お前にだってある」
「そ、そうか……器がでかい国なのだな、にほんというのは。ありがたい」

 お前さんの国が偏ってるだけです。と俺は心の中で突っ込んだ。
 必死に汗水たらして納税して、そんで見返りに援助も福祉もないんじゃやってられないよまったく。

「それはともかく礼を言うぞマスター。いろいろ私の代わりにやってくれているのだな」
「別にいいよ、これくらい」

 ひらひらと手を振りながら言って、俺は作業を再開した。
 えーっと、次の資料は……。

「……」

 じ~っ、と。
 横を見たらまだリファが興味深そうにこちらを見つめてきていた。

「どうしたよ、別にこんなもん見ててもつまんないぞ? 同じようなこと何回も書いてるだけだし」
「うぇ? あ、や、違くてだな……その……」

 違う? 一体何が?
 わけを尋ねてみると、女騎士は言いにくそうにとあるものを指さした。

「その……文字を書いている道具のことなのだが」
「え?」

 俺は思わず自分が今までせわしなく動かしていたボールペンを見つめた。
 なんだ、気になってたのって書類じゃなくて筆記具の方だったのか。
 別に至って普通のペンだが、何がそんなにおかしいんだ? と、一瞬思ったが。そっか、彼女は異世界人……技術も文化も全く違うところから来たんだ。こういう道具一つとっても、きっと彼女にとっては向こうにはない珍しい物体であるということだろう。

「これはボールペンっていって、この世界の一般的な筆記用具だよ。使ってみる?」
「か、かたじけない」

 ぎこちなくそれを受け取ったリファに、俺は適当なメモ用紙を一枚取って渡した。
 彼女は恐る恐るその上にペン先を置いて、力を込めて線を引いていく。
 するとその後に0.5ミリの細い黒色がぴーっ、とペンの足跡を描いていった。

「おお」
「な? っつってもただこれだけの道具なんだけどね」

 苦笑しながら言っても、リファは紙に何本も線を引きながら目を丸くしていた。

「さすが異世界……驚いたな、元素封入器エレメントもなしに文字が書けるとは……」
「え? エレメント?」

 思わず耳を疑った。
 元素封入器エレメント。異世界に存在する魔法のようなもの。あちこちに存在する元素を魔具カプセルという器具に封じ込めたもの。異世界人にとっては切っても切れない生活必需品。
 今までの説明からして水道、ガス、電気等のインフラの代わりに使われるエネルギーだということは聞いていたが、筆記にまで使われるもんなのか……。
 でも一体それを使ってどうやって文字を書くというのだろう。

「そりゃもう、土の元素を使って、あとはブワーってやったらスラスラーっとだな……」

 お前の例えはわかりにくい。

「むぅ、やはり実演してみるのが一番だな。ちょっと待ってろ」

 リファはポケットからペットボトル大のガラス瓶のような容器を取り出す。
 魔具カプセル
 彼女が転生する際に持ちこんできたものだ。それを持って彼女は一旦外に出ていったかと思うと、ものの一分で戻ってきた。

「これで準備よし」

 空だったはずのその魔具には、鮮やかな茶色をした何かがびっしりと詰まっていた。どうやら土を集めに行っていたようだ。
 それをブンブンとシェイクしながらリファは再び俺の隣に座す。

「マスター、なにか汚れてもいい棒状のものはないか?」
「棒状のもの? ………割り箸でいい?」
「おお、ぴったりだな。では遠慮なく使わせてもらうぞ」

 食器棚から持ってきたそれを受け取ると、彼女は元素封入器エレメントを構えた。
 そして……。

元素付与エンチャント

 呪文のようなものを唱えた途端、銀色の派手な装飾が施された蓋がパカっと開き、中のエネルギー体が射出された。
 細かい茶色の粉が意思を持ったかのように蠢き、一本の箸の先端へと纏わりついていく。ある程度の量が付着した頃を見計らい、リファは蓋を閉じた。
 出来上がったのは、瘤のような土の塊が先端に付着した割り箸……さながら焦がしたマシュマロを指した串みたいだ。

「これでよし。あとは書くだけだ。ほれ」

 と、女騎士はその得体の知れない物体を差し出してきた。
 これで書いてみろ、ということだろうか。マジかよ、こんなんで本当にできるのか?
 半信半疑だったが、物は試しだ。先入観はよくない。
 俺は新しいメモ用紙を目の前に広げ、一回深呼吸。
 そして書道で使う極太筆の容量で、サッサッとそこに文字を連ねた。
 するとそこには……。

 「八 王 子」

 なんということでしょう、自分でも驚くくらいの鮮明で黒々とした文字が記されているではありませんか。 

「おお、達筆だなマスター」

 目を輝かせながらリファが賞賛の言葉を送ってくれる。
 確かにすごい。そういう使い方もあるんだな……発想の転換というやつか。
 しかもちゃんと紙に染み込んでいるのか、払っても消えないし手にも付かなかった。

「土の元素は質さえ選ばなければ、どこにでもあるものだからな。単に落書きや板書に使うだけなら困ることもないし」
「で、筆記に使えそうなもんがあれば、なんでもペンにできちゃうってことか。だったらこのボールペンよりも数倍便利だな」
「どういうことだ?」

 怪訝そうな顔でリファが訊いてくる。
 俺はボールペンを軽く分解して中身を彼女に見せてやった。

「この中にはインクって言って、まぁ土のエレメントの液体版みたいなのが詰まってるんだ。それを先端から染み出させて文字を書くんだ」
「ほぉ~」
「だけど、これは店で買うことでしか手に入らないから、他のものでは代用できない。魔具と土があればできるお前らのとは違って、『元素吸引アブゾーブ』なんてもんもできないし」
「補充ができないのか? じゃあ中のいんく……が無くなったら?」
「そうなりゃ文字通り無用の長物だ。店で新しいのを買うしかない」
「そうであったか……」

 感慨深そうな顔をして、リファはしばらくそのボールペンを見つめた。
 かと思ったら突然フッ、と鼻笑い。

「言っちゃ悪いが、私達のよりこっちの世界の技術の方がゴミみたいなところもあるんだな」
「自宅警備隊という社会のゴミみたいな奴が何言ってやがる」

 言い方はアレだが、劣っているというのは確かにそうだ。
 リファの話からしてワイヤードの技術や文化はこっちの世界での18,19世紀程度のものとばかり思ってた。
 だが元素封入器エレメントという概念があるとなしでは大きくその差は縮まる部分がある。少なくともこういったアナログ的な道具に関しては向こうの方が有用性も利便性も高いということなのだろう。単に時代の違いではないから、一概にどっちの世界が暮らしやすいとか言えないところが難しいよな。

「てっきり俺は、羽ペンみたいなもので済ましてるもんだと思ってたんだけどなぁ」
「はねぺん?」

 反応を見る限り、案の定存在はしていないみたいだな。
 俺はその割り箸製即席ペンをくるくると回しながら説明を開始。

「こういうボールペンとかが広まる前に出てきた筆記用具だよ。鳥の羽の根の部分に、インクをちょっと浸して書くっていう」
「ふーむ……それって画家が使う絵筆や塗料のようなものか?」
「!?」

 耳を疑った。
 筆? 塗料? 今そう言った? 
 ってことは何? 元素封入器エレメントに頼らないで書いている人もいるってこと? でもなぜ?

「そんなの決まっているだろう。色だ」
「いろ?」
「そう。土のエレメントを使う以上、その色は黒とか茶色のものに限られる。だが絵や塗装をする場合は、多彩な色をつけることが要求される。それはエレメントの力ではどうにもならない」
「そっか……」

 確かにモノクロならなんとかなるけど、青色や黄色の土なんてあるわけないからなぁ。

「塗料は植物の実をすり潰したり、魔物の体液から採取したりして調達する。色によって多少差異はあるが、全体的に手間がかかるから結構な高級品だったのだ」
「へぇ……」
「まぁ画家でもなければそういうのを必要とするような暮らしはしておらんから、別に困りはしないのだがな」

 そうだったのか。こっちは絵の具なんて子どもの小遣いでも買えるというのに。やっぱりこうして比べてみると色々違うんだなぁ。
 ……ん? 色?

「リファ。ボールペンの上のとこに赤いボタンあるだろ。そこ押してからもう一度文字書いてみ?」
「赤いとこ? ああここか」

 カチッ、と彼女がそれを訝しげに親指で押し下げると、黒のスイッチが上がってペン先が変更された。
 そしてまたスイスイと紙に線を引いてみると……。

「おわっ!? なんだこれは、文字が赤くなったぞ!」

 女騎士さんびっくり仰天。
 さっきとは打って変わって慌てふためいたように、ペンを振ったり先端を凝視したりしている。

「え? え? なにこれ、どういう仕組みだ? 一体何が起きて……」
「そこには黒のインクだけでなく、赤のインクも一緒に詰まってるんだよ。で、そのスイッチで自由に切り替えられるってわけ」
「ええ? そんな絡繰りが……? ど、どうやら緑や青のスイッチもあるが……もしかしてこれも?」
「ああ。同じ色が出るようになる」

 俺が言うとリファは恐る恐るスイッチを切り替えて残りの色も試してみる。
 そして、紙には黒、赤、緑、青の四色のカラフル線が蜘蛛の巣のようにびっしりと描かれることとなった。キュビズムっぽい絵画を完成させた女騎士はやりきったように肩で息をしながら改めてボールペンを見つめる。

「す、すごい……こんな道具があったなんて……」
「な? こっちの筆記具もそんな捨てたもんじゃないだろ。ゴミだけに」
「何を言う! こんなとてつもなく便利な道具がゴミなわけないだろう、そんな罰当たりなこと言う奴の方がよほどゴミというものだ!」
「ようゴミ」

 清々しいくらいの掌返しをかましたリファは、うっとりとしながらカチカチとスイッチを押しまくる。どうやらよほど気に入ったみたいだな。

「素晴らしい……本来ならいくつも絵筆や絵の具を用意せねばならぬものを……一本で何でもできるとは。ワイヤードのペンよりもよほどこっちのほうが汎用性高いぞ」
「まぁ生活に於いては結構重宝するタイプだからな」
「それにこれ、そこまで高価ではないのではないか? おそらくそのへんの『こんびに』や『ひゃっきん』とかで買えるものだと踏んでいるのだが」
「おうよ。大体3、400円……まぁおにぎりやパン数個分の値段で手に入るな」
「やっぱりな。しっかし、これはまたいい道具を知ったぞ……ぼーるぺん、か。ふーむ、中はこういう仕掛けか」

 分解して内部のギミックを調べたりしながら、リファは色々分析を進めた。

「それに、これだけ使ってもインクも全然減ってないみたいだし……結構長持ちしそうだな」
「ワイヤードのペンって長くは使えないのか?」
「ああ。元素付与エンチャントはいつまでも効力を持つわけじゃない。時が経てば強制的に解除され……消滅する」

 ぽろり。と軽い音がして、何かが床に落ちる。
 見てみると、割り箸の先端についていた土瘤が粉々に砕け散っていた。形を失い、顆粒状になったそれらは小さな煙を立てて、まるで蒸発でもするかのように跡形も無く消えてしまった。
 なんと……五分も持たなかったか。まぁ永久にできるわけがないとは思ってたけど、ちょっと短いかな。

「それに比べてこれはどこでも安く買えて、おまけに長持ち。うん、やはりこっちのほうが断然便利だ」

 すっかりボールペン一色に染まっちゃったな。四色だけど。
 でも、この先筆記具に触れる機会なんて何度も訪れるだろう。ここで一度勉強しておいて損はないはずだ。

「リファ。実はこの世界には、ボールペン以外にも筆記用具って沢山あるんだぜ」
「えぇ!?」

 ポロッとリファは驚きのあまりボールペンを手からこぼした。
 そんな彼女に、俺はペンケースの中をまさぐりとあるモノを引っ張り出して見せた。

「? それは……? ボールペンと同じ形のもののようだが……」
「シャープペンシルさ。まぁ基本的にはボールペンの黒と同じようなものだよ。ただしこっちは黒鉛っていう炭を細長く削ったものを使うんだ」

 サラサラとなめらかな手付きで俺はメモ用紙に線を引いていく。

「ただ決定的な違いは……消せることができるという点だ」
「けせる?」

 小首を傾げる女騎士に、俺は人差し指を一本立てて説明した。

「文字書いてるときに字を間違えたりとかすることよくあるだろ? でもさっきの土ペンやボールペンは一度書いたらそれっきりだから修正が効かない」
「確かにそうだが……そうなったら線を引いて訂正すればいいのではないか? もしくは別の紙に書き直すでもいいし」
「まぁそれもありなんだけどさ。例えば手紙とか他人に見せるものに訂正線とか引いちゃうと見栄えも悪くなるじゃん? 書き直すとなるとそれはそれで面倒だし。そんなとき、手軽に修正できればって思わない?」
「……言われてみれば」
「だけど、それができちゃうんだな。シャーペンと……これがあれば」

 と言って取り出しましたるは……手のひらサイズ白い直方体の形をした物体。
 その名も……。

「消しゴムさ」
「けし……ごむ?」
「そ。これをこうして……」

 ゴシゴシゴシゴシ。
 と、シャーペンで引いた線の上から消しゴムを押し当てて、やや強めにこすっていく。
 するとあら不思議。たちまちそれらは消え失せ、元のまっさらなメモ用紙に逆戻りした。
 小学生の内から見るような普通の現象だが、手品や奇術でも見たかのように一際驚く者が約一名。

「!? な、何が起きたのだ!?」

 目を丸してリファはその復元済みのメモ用紙を食い入るように見つめた。

「あれ? あれれ? 確かにここに線があったのに……もしかして白色の塗料で上書きしたのか? その妙な道具も同じ白だし」
「違うよ。ただ単にこれで擦り取っただけ。インクは紙に染み込むからどうしても消せないけど、シャーペンは炭を紙面上にこびりつけてるだけだから、落とすのも容易なんだ」
「ちょ、ちょっと貸して貸して! 私もやりたい」

 興奮しながら必死に俺の持つシャーペンへ手を伸ばす女騎士。なんだか、友達の持ってる玩具を欲しがる子どもみたいだな。
 俺はほくそ笑むと、二つ返事で彼女に二つの道具を渡した。

「かたじけない! ようし、早速……」

 舌なめずりをしながら、沸き立つ胸の鼓動を抑えて深呼吸。
 背筋をぴんと伸ばして目をカッと見開くと、素早くメモ用紙へシャーペンを走らせた。 


『マスターのバーカ』


 おい。

「あとはこの『けしごむ』とやらで……んしょっと……おお!! すごいすごい! 全部綺麗さっぱり消えたぞ!!」

 うん書いた事実は未来永劫消えないからね? ボクの脳にこれ以上無いくらい深く刻まれちゃったからね?
 己の家主に向けての悪口を本人前にして書くなんて、よくそんなこと躊躇なく実行に移せますね。嫌味なの? それともただのポンコツなの?
 ため息をこぼす俺には目もくれず、リファはキャイキャイと一人で大はしゃぎ。

「様々な色が使えるペンに、一度書いた後消せるペン……いやはや、こんな多様性に富んだ筆記具が存在しているとは……さすが異世界。ペンよりも剣を握ってることのほうが多かった私でも、さすがにこれは心が躍るなぁ!」

 ……。
 ま、本人が満足ならそれでいいか。
 俺は軽く方を竦めて、楽しそうにしている女騎士を見守った。

「マスターマスター! このぼーるぺん、としゃーぷぺんしる、以外にも筆記具ってあるのか?」
「あるよ……見たい?」
「ぜひともっ!」

 ずいっ、とリファは即答して顔を俺に急接近させてきた。ものすごい好奇心だ。
 だが、それが旺盛であることに越したことはない。未知なる技術や文化を積極的に学んでいく姿勢こそ、この世界で生きていくために必要な心構えだからな。
 しゃあない、こうなったらとことん付き合ってやりますか!
 俺はペンケースをひっくり返して、中に詰め込んでいた様々な文房具の見本市を開いた。

「これはマジックペン。ボールペンよりも太い線がかけるから、大きな文字を書きたいときに便利だな」
「なるほどなるほど」

「こっちは蛍光ペン。半透明で結構目立つ色をしてるから、文字に上塗りしたりして強調したりする役割を持つんだ」
「なんと! 文字や絵を書く以外の用途にも使うものがあったのか! それにすごくきれい……」

「後は色鉛筆。これは全般的にお絵かき用だな。鉛筆ってのはシャーペンとは違って――」
「すごーい! ボールペンより沢山の色が揃ってるぞ! 何個あるんだろ。ひい、ふう、みい……」

 そんなこんなで、俺達はワイワイと賑やかに筆記具の勉強を続けた。

 十分後。

「はぁー、奥が深いなぁ!」

 一通りの説明を聞き終えたリファは、大満足で床に寝そべった。
 そんな彼女に、俺は机の上の文具を片付けながら言う。

「確かに種類は多くて覚えるのは大変だろうけど、すぐ慣れるよ。いずれイヤってほど経験することだし」
「そうだな。この世界で暮らしていく以上、文字や絵を書く場面は多々あるはずだ。そのときにいつまでもマスターに任せきりにするわけにはいかん」

 ぴょん、とバネのように跳ね起きて女騎士はそう元気よく意気込む。

「よし、そうと決まれば今日から特訓だ! 種類や用途を覚えても、実際に使いこなせなければ意味がないからな! マスター、今見せてもらった筆記具を貸してもらえないか?」
「お、殊勝な心がけだな。いいよ、好きに使いな」

 了承してペンケースごと差し出すと、彼女は嬉々とした表情でそれを受け取った。

「かたじけない。だが時間は取らせん。このリファレンス・ルマナ・ビューア……すぐにこの世界の筆記具を極めて見せようぞ」
「おう、頑張ってな」

 こうして、本日よりリファによる文房具の使い方強化期間が開始したのである。
 どんな化学反応が起きるか楽しみだが、まぁ期待せずに待つとしよう。  

 ○

 翌朝。


「マスターマスター、ほら見てくれ! とうとう極めたぞ、筆記具の使い方!」
「……」
「どうだすごいだろ? 昨夜から寝ないで頑張ったんだぞ。おかげでもうかんっぺきに使い方は大丈夫だ!」
「そうか……よく頑張ったね」
「ふっふーん、この程度ワイヤード騎士団兵長の腕にかかれば造作も無いわ!」

 えへん、と自慢気に胸を張って鼻を高くするリファ。
 確かに彼女にしてはすごく頑張ったと思う。好きこそものの上手なれ、とはこのことだろうか。
 これなら一般的な事務手続きくらいは任せても大丈夫……かもしれない。次からは自分でやらせてみよう。
 なにはともあれ、これにて文具の使い方は免許皆伝といったところかな。
 さて、それじゃあ使い方も身についたことだし……。

 ぽん。
 と俺はリファの肩に軽く手を置いて、静かに言った。





「この部屋中に描いてくれた壮大な壁画……二人で消そうか」
「あい」
「……次からは紙に書いてね?」
「……あい」

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