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第五章

060︰詩庵の嚥獄デビュー

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「よし、ここからは俺の出番だな!」


 パーティとして嚥獄にダイブしていたが、ぶっちゃけ俺がやったことはキャンプの設営くらいしかまだしていない。
 なので、個人としてはここからが嚥獄デビューと言ってもいいだろう。


「では、私はサポートに回ります」

「あぁ、何かあったら頼むな」


 黒衣は静かに首肯して、俺たちの少し後ろに移動する。
 21階層まで黒衣は、俺たちのサポートをしてくれるのだ。

 サポートの役割は、主に2つある。
 メインで戦っているメンバーが打ち損じた魔獣や、戦いの最中に新たに現れた魔獣を倒すことが一つ目。
 あとは、メインが戦いやすいように指示を送ったりすることが役割となっている。
 もち治癒術を使えるメンバーがいる場合は、傷付いた人の回復に回ることもある。


「詩庵、よろしくね。ここから頑張りましょう」

「あぁ、よろしくな」


 俺と瀬那は拳で軽くタッチをして、下の階層に行く階段を探し始めた。



 ―



 時は約1時間前に遡る。
 詩庵たちが配信を開始したと同時に、ダンジョンプレイには多くのオーディエンスが集まってきた。
 先日の配信だけではなく、テレビにも紹介されたのが大きかったのだろう。
 影響力は以前に比べて落ちているとはいえ、マスメディアの力はまだ健在ということだ。
 先日の配信でもチャットの流れるスピードは早かったのだが、今日のチャットの流れるスピードは異常なほどだった。



 ―



【清澄の波紋:嚥獄ダイブ2日目】

 1:名無しのハンター
 2日目の配信がまた始まったな
 それにしても、チャットの流れ速すぎて笑ったw

 2:名無しのハンター
 昨日配信が終わった後に、SNSでめちゃくちゃ盛り上がってたしな
 内容はほぼ黒衣ちゃんと瀬那ちゃんのことだったけど

 3:名無しのハンター
 掲示板も盛り上がってるよな
 ここ以外にもアンチスレや黒衣ちゃん、瀬那ちゃんの個人スレも立ってるし

 4:名無しのハンター
 まぁ、ここは普通に会話をするスレってことで楽しむことにしましょ

 5:名無しのハンター
 おっ、そろそろ10階層に到着しそうだぞ

 6:名無しのハンター
 嚥獄の10階層目のボスってヨルムンガンドだっけ?

 7:名無しのハンター
 >6
 そう
 でっかい蛇みたいな魔獣だな

 8:名無しのハンター
 流石にボス戦は3人で戦うっしょ
 つか、それでも人数少なすぎるくらいだし

 9:名無しのハンター
 取り敢えず俺の黒衣ちゃんが傷付けたら詩庵のこと叩きまくるわ


 ・
 ・
 ・


 89:名無しのハンター
 あー、なんだ
 余裕でぶっ倒したな……

 89:名無しのハンター
 嚥獄って実は大したことないんじゃね……

 90:名無しのハンター
 詩庵の出番は本当になかったな
 まさか、ボス戦まで2人でやるとは思わなかった
 しかも完封だし……

 91:名無しのハンター
 >89
 それAランク以上に聞かれたら消されるぞ、お前

 92:炎夏
 >89
 潰す!

 93:名無しのハンター
 今日も炎夏さんが降臨したぞ!

 94:名無しのハンター
 現役Aランクパーティのリーダーが解説してくれるのはこのスレッドだけ!

 95:名無しのハンター
 >94
「○○先生の漫画読めるのはジャンパーだけ!」みたいな感じで言うな!

 96:名無しのハンター
 炎夏さんマジですみませんでした!!!!!!!

 97:名無しのハンター
 >96
 クソ雑魚すぎてワロタ

 98:炎夏
 まぁ、別に気にしてないから
 つか、俺もリアタイで見てたけど、あいつらヤバすぎだな……

 99:名無しのハンター
 やっぱそうなんですか?

 100:炎夏
 当たり前だろ?
 嚥獄のボスを短時間で、しかも2人で完勝とか有り得ないだろ……

 101:名無しのハンター
 やっぱりそうっすよね……
 あの2人はやっぱりSランク級ってことか

 102:名無しのハンター
 ちょっ!!!
 詩庵のやつ黒衣ちゃんと瀬那ちゃんの頭撫でてやがる!!!!

 103:名無しのハンター
 ふざけんなっ!!!!
 あいつ何もしてないくせに何ご褒美もらってるんだよ!!!!!

 104:名無しのハンター
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 105:名無しのハンター
 取り敢えず、今からSNSで叩きに行ってきまーす!

 106:名無しのハンター
 あぁ、なんで黒衣ちゃんも瀬那ちゃんもうっとり顔してるんだよ……

 107:名無しのハンター
 これがNTRなのか……
 脳が破壊された……

 108:炎夏
 確かにあの2人はかなり可愛かったなぁ
 だけど、お前ら諦めろって
 あの2人は最初から詩庵しか見てないから

 109:名無しのハンター
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

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 149:名無しのハンター
 やっと11階層目か

 150:名無しのハンター
 嚥獄ってガチで広いんだな
 つか、地下にこんな広大なスペースがどうやってできたんだよ……

 151:名無しハンター
 今更ダンジョンのこと考えても仕方ないだろ
 それよりもいよいよ詩庵が戦うな
 本当にパラサイトなのか、それともSランクの実力があるのか注目しようぜ

 152:炎夏
 その通りだな
 俺もあいつの戦いを見てないから、どんな戦いをするか楽しみだわ



 ―



「さすが詩庵ね」


 魔獣を斬り伏せると、黒衣と並んでいる瀬那が俺にそう声を掛けた。
 俺と一緒にメインで戦うはずの瀬那が、なぜ黒衣と一緒に並んでいるかというと、ウォーミングアップを兼ねて11階層は俺一人で戦わせて欲しいとお願いをしたからだ。
 11階層目に現れるのはゴブリンだった。
 このゴブリンは、低ランクのダンジョンに比較的多く現れる、いわゆるザコなのだが嚥獄にいるゴブリンは、一体がかなり強化されているにも関わらず、群れで襲ってくるのでかなりの脅威だと言われている。

 しかし、俺の敵ではなかった。
 11階層目に着いて早々30体のゴブリンの群れに襲われたのだが、一瞬のうちに全てを両断してやったのだ。
 その姿を見た瀬那が、さすがだと褒めてくれたというわけだ。


「まだ弱いから大丈夫だけど、俺は2人に比べて連携がまだ甘いから油断しないようにしないとな」

「そうだね。私たち3人での連携もまだまだだし、やることはたくさんね」

「お二人の言う通りです。なので、戻ったら思いっきり修行をしましょう」


 そういう黒衣は、うっすらと笑みを浮かべて「ふふっ」と笑っている。
 その表情を見た俺は瀬那の顔を見ると、少し怯えたような表情をしていた。
 そう。
 俺たちは知っているのだ。
 修行モードに入った時の、黒衣の厳しさを……。


「それよりもまずは嚥獄の30階層を突破することを目指しましょう」

「あぁ、そうだな……」

「う、うん。が、頑張ろうね、詩庵」


 俺と瀬那は近いうちに訪れるだろう、あのハードな日々に目を背けるように目の前のダンジョンに意識を向けたのだった。
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