10 / 59
裏切りと決別
第10話:尾行
しおりを挟む
【奏の視点】
今頃はゆーくんがあの2人に急遽合同練習になったことを伝えている頃だろう。これから合同練習は確かに行われるのだが、実は最初から決まっていたことだった。あの2人には合同練習のことを伝えずに、試合があるからとだけ言って来てもらったのだ。
ちなみにその合同練習には私は最初から参加しないで、ゆーくんは途中で抜けることを監督もチームメイトも知っている。もちろんその理由を正直に伝えることはしていない。
そして、私は今何をしているかというと、出口付近に身を隠してあの2人が出てくるのを待っているのだ。なぜそんなことをしているのかというと、これからあの2人を尾行するためだ。
実はこの学校がある駅前付近は、大人が愛を語らい合うお城、つまりラブホがたくさんあることで有名だった。それをあの2人が知らない訳がない。そして、降って湧いて来た2人きりになれるチャンスを見逃すとも思えなかった。だから私とゆーくんは2人のことを罠に嵌めて、ラブホから出て来たところを現行犯で捕まえようとしているのだ。
もしラブホに入らなくても、動画をネタに呼び出してしまえばいいし、どちらにせよ今日中にゆーくんと私は決着をつけるつもりだった
(はぁ、今日のゆーくん本当にかっこよかったなぁ。まさかあのチーム相手にあそこまで無双するなんて思ってもみなかったよ)
私は2人を待ってるのが退屈で、今日のゆーくんの活躍を思い出して、一人でキュンキュンしていた。すると会場出口付近から、見慣れた2人が歩いてくるのが見えた。私はキュンキュンモードで心がポカポカしていたのに、あの2人を視界に入れた途端に血が冷え切ったのが分かった。
(やっぱりあの2人のことは許せない。ゆーくんを裏切ったあの2人を許せる訳がないよ)
私は楽しそうに話している2人のことを、憎しみがこもった目で睨みつけながら後を追った。
-
仲良さそうに歩いている2人は、ラブホが密集しているエリアを抜けて、駅に向かって歩いていた。
(あれ? 今日は何もしないのかな?)
当てが外れたと一瞬思ったが、2人は改札の方に向かわずに逆の出口に向かっている。そこで私は、反対出口にも何個かラブホがあるのを思い出した。こっち側の出口にあるラブホに入ると、練習終わりのゆーくんたちと鉢合わせる可能性があったから別の出口にあるラブホを選んだということか……。
どっちのアイデアか分からないが、その冷静な判断が私を苛々とさせる。
それにしても改めてあの2人が歩いているところを見ると、誰がどう見てもカップル以外の何者でもない。何を話しているかまでは分からないけど、光輝くんが何かを言うと、羽月ちゃんは手で口元を隠してクスクスと笑っているのだ。そして、反対側出口を抜けたくらいから、羽月ちゃんは光輝くんに腰を抱かれていた。あれがカップルじゃなかったら何なのだろう。
私はゆーくんと羽月ちゃんのそういう後ろ姿を何度も見たことがあるし、その度に羽月ちゃんを羨望の目で見ていた。しかし、今日の羽月ちゃんを見る私の目には、軽蔑と侮蔑が入り混じった感情しか篭っていない。
(なんで。なんでゆーくんがいるのに、別の男に腕を回されてあんなに幸せそうな顔をしてるのよ)
私には信じられなかった。今まで美しいと思っていた羽月ちゃんのことが、醜くて悍しい何かにしか見えなくなっている。
-
2人は駅からちょっと離れたラブホに入った。外にある看板を見ると、『休憩(最大3時間)5,500円~』と書かれている。私はラブホのちょっと先にあった喫茶店に入って窓際の席に座った。ラブホの出入り口がしっかりと見えるし、良いところに喫茶店があって感謝した。さすがにラブホの前で女の子が3時間くらいずっと立ってるなんて怖すぎるもんね。
RINEでゆーくんに現在地を伝えると、私はやることがなくて、ただ窓の外をぼんやりと眺めていた。1時間ほどそんな感じでいると、店内にゆーくんが入って来た。
「悪りぃ。待たせちゃったな」
「ううん。良いんだよ。ゆーくんも試合の後に練習もやってお疲れ様だよ」
「ありがとな。けど、ぶっちゃけ練習に身が入らなくてさ。心ここに在らず状態だったよ」
無理して明るく話すゆーくんの顔を見て、私はチクリと胸が痛んでしまう。
「まぁ、これからのことを考えたら仕方ないよ。だって私もここで何もせずにただぼんやりとしてただけだもん」
「そっか。それでも感謝だよ。つか、それよりも奏もあいつらとの話し合いに付いてくるって本気なのか? 俺たちは確かに幼馴染みだけど、奏はこのゴタゴタに直接的に関係はしてないだろ?」
「そんな寂しいこと言わないでよ。私にだって関係あるもん。だって、羽月ちゃんも光輝くんも信頼してた友達なんだよ? それに、ゆーくんを一人であんな2人の前に行かせる訳にはいかないよ。だって、多分ゆーくんたくさん傷ついちゃうもん」
ゆーくんは私の言葉を聞いて、ちょっと苦しそうな表情をしたけど、すぐに笑顔になって「ありがとな」って言ってくれた。一番苦しいのはゆーくんなのに、何でそんなに優しいの? 本当はあなたのことを傷つけたくない。これ以上苦しめたくない。私はあなたの隣に立って、あなたの苦しみの一端を背負うんだ。
(私があなたを絶対に救ってみせる)
-
ゆーくんが喫茶店に来て2時間後くらいに、あの2人がラブホの出口から出て来た。飲み物を飲みすぎた私たちは、お腹をタプタプさせながら急いでお会計をして、あの2人のことを追う。そして追った背中が眼前に迫ったときに、ゆーくんは2人に声をかけた。
「よう。こんなところで奇遇だな。ところでラブホから出てきたみたいだが、お前ら2人で何してたんだよ?」
今頃はゆーくんがあの2人に急遽合同練習になったことを伝えている頃だろう。これから合同練習は確かに行われるのだが、実は最初から決まっていたことだった。あの2人には合同練習のことを伝えずに、試合があるからとだけ言って来てもらったのだ。
ちなみにその合同練習には私は最初から参加しないで、ゆーくんは途中で抜けることを監督もチームメイトも知っている。もちろんその理由を正直に伝えることはしていない。
そして、私は今何をしているかというと、出口付近に身を隠してあの2人が出てくるのを待っているのだ。なぜそんなことをしているのかというと、これからあの2人を尾行するためだ。
実はこの学校がある駅前付近は、大人が愛を語らい合うお城、つまりラブホがたくさんあることで有名だった。それをあの2人が知らない訳がない。そして、降って湧いて来た2人きりになれるチャンスを見逃すとも思えなかった。だから私とゆーくんは2人のことを罠に嵌めて、ラブホから出て来たところを現行犯で捕まえようとしているのだ。
もしラブホに入らなくても、動画をネタに呼び出してしまえばいいし、どちらにせよ今日中にゆーくんと私は決着をつけるつもりだった
(はぁ、今日のゆーくん本当にかっこよかったなぁ。まさかあのチーム相手にあそこまで無双するなんて思ってもみなかったよ)
私は2人を待ってるのが退屈で、今日のゆーくんの活躍を思い出して、一人でキュンキュンしていた。すると会場出口付近から、見慣れた2人が歩いてくるのが見えた。私はキュンキュンモードで心がポカポカしていたのに、あの2人を視界に入れた途端に血が冷え切ったのが分かった。
(やっぱりあの2人のことは許せない。ゆーくんを裏切ったあの2人を許せる訳がないよ)
私は楽しそうに話している2人のことを、憎しみがこもった目で睨みつけながら後を追った。
-
仲良さそうに歩いている2人は、ラブホが密集しているエリアを抜けて、駅に向かって歩いていた。
(あれ? 今日は何もしないのかな?)
当てが外れたと一瞬思ったが、2人は改札の方に向かわずに逆の出口に向かっている。そこで私は、反対出口にも何個かラブホがあるのを思い出した。こっち側の出口にあるラブホに入ると、練習終わりのゆーくんたちと鉢合わせる可能性があったから別の出口にあるラブホを選んだということか……。
どっちのアイデアか分からないが、その冷静な判断が私を苛々とさせる。
それにしても改めてあの2人が歩いているところを見ると、誰がどう見てもカップル以外の何者でもない。何を話しているかまでは分からないけど、光輝くんが何かを言うと、羽月ちゃんは手で口元を隠してクスクスと笑っているのだ。そして、反対側出口を抜けたくらいから、羽月ちゃんは光輝くんに腰を抱かれていた。あれがカップルじゃなかったら何なのだろう。
私はゆーくんと羽月ちゃんのそういう後ろ姿を何度も見たことがあるし、その度に羽月ちゃんを羨望の目で見ていた。しかし、今日の羽月ちゃんを見る私の目には、軽蔑と侮蔑が入り混じった感情しか篭っていない。
(なんで。なんでゆーくんがいるのに、別の男に腕を回されてあんなに幸せそうな顔をしてるのよ)
私には信じられなかった。今まで美しいと思っていた羽月ちゃんのことが、醜くて悍しい何かにしか見えなくなっている。
-
2人は駅からちょっと離れたラブホに入った。外にある看板を見ると、『休憩(最大3時間)5,500円~』と書かれている。私はラブホのちょっと先にあった喫茶店に入って窓際の席に座った。ラブホの出入り口がしっかりと見えるし、良いところに喫茶店があって感謝した。さすがにラブホの前で女の子が3時間くらいずっと立ってるなんて怖すぎるもんね。
RINEでゆーくんに現在地を伝えると、私はやることがなくて、ただ窓の外をぼんやりと眺めていた。1時間ほどそんな感じでいると、店内にゆーくんが入って来た。
「悪りぃ。待たせちゃったな」
「ううん。良いんだよ。ゆーくんも試合の後に練習もやってお疲れ様だよ」
「ありがとな。けど、ぶっちゃけ練習に身が入らなくてさ。心ここに在らず状態だったよ」
無理して明るく話すゆーくんの顔を見て、私はチクリと胸が痛んでしまう。
「まぁ、これからのことを考えたら仕方ないよ。だって私もここで何もせずにただぼんやりとしてただけだもん」
「そっか。それでも感謝だよ。つか、それよりも奏もあいつらとの話し合いに付いてくるって本気なのか? 俺たちは確かに幼馴染みだけど、奏はこのゴタゴタに直接的に関係はしてないだろ?」
「そんな寂しいこと言わないでよ。私にだって関係あるもん。だって、羽月ちゃんも光輝くんも信頼してた友達なんだよ? それに、ゆーくんを一人であんな2人の前に行かせる訳にはいかないよ。だって、多分ゆーくんたくさん傷ついちゃうもん」
ゆーくんは私の言葉を聞いて、ちょっと苦しそうな表情をしたけど、すぐに笑顔になって「ありがとな」って言ってくれた。一番苦しいのはゆーくんなのに、何でそんなに優しいの? 本当はあなたのことを傷つけたくない。これ以上苦しめたくない。私はあなたの隣に立って、あなたの苦しみの一端を背負うんだ。
(私があなたを絶対に救ってみせる)
-
ゆーくんが喫茶店に来て2時間後くらいに、あの2人がラブホの出口から出て来た。飲み物を飲みすぎた私たちは、お腹をタプタプさせながら急いでお会計をして、あの2人のことを追う。そして追った背中が眼前に迫ったときに、ゆーくんは2人に声をかけた。
「よう。こんなところで奇遇だな。ところでラブホから出てきたみたいだが、お前ら2人で何してたんだよ?」
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる