最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中

文字の大きさ
48 / 59
それぞれ

【優李】第2話:半同棲計画

しおりを挟む
 大学に合格してから早くも約2年の月日が経ち、来年の4月には俺たちは大学3年生に進級することになる。そろそろ本気で将来に向けて、色々と考えなくてはいけない時期が迫ってきたが、その前に俺たちには重大なミッションがあった。

 実は、2ヶ月後の翌年2月頭から俺たち仲良し4人組は大学の最寄り駅で一人暮らしをすることが決まっているのだ。暮らすところもみんな同じマンションにして、いつでも行き来できるようにしようと計画している。



 -



 みんなで一人暮らし計画が議題に上がったのは、蝉が元気いっぱい鳴き始めた7月末のことだった。

 俺たち4人は、夏休みの計画を立てようとファミレスに集合したのだが、席につくなり悟が大きなため息をついたのだ。このパターンは、俺には今悩みがあるから、「どうしたの?」って聞いても良いんだよ、のため息である。
 俺は悟の思惑にまんまと乗っかるのが嫌だったが、このままだと話が先に進まないので、「どうした、悟?」と言ってやった。俺ってなんて優しいんだろうか。


「聞いてくれよ、優李。実はさ、どうしても1限に間に合う時間に起きることが出来なくてさ、このままだと卒業までに単位取り切れるか不安なんだよ」

「朝起きれない問題だったか……」

「山岸くんからも言ってあげてくれないかな。私が頑張って電話とかかけても全然起きてくれないんだよ」

「うーん。だからと言って、目覚ましつけろよ、くらいしか言えないよな。後は夜更かしするなよ、とか?」

「そうなんだよね。私が電話して出たとしても、切ったら二度寝しちゃうんだもん。……私嫌だよ、悟を残して卒業するなんて」

「うぅ……梢ぇ~。俺を見捨てないでくれぇ~」


 悟がそんな茶番を繰り広げているときに、奏はずっと何かを考えているようだった。そして答えがまとまったのか、全員に向かって提案をした。


「前々から考えてたんだけどさ、来年は3年生になるじゃない? そのタイミングの4月からみんなで一人暮らししない?」

「それが悟の起きれない問題と何の関係があるんだ?」

「もっと近くに住んだら、今だと遅刻する時間に起きても、距離が近くなった分遅刻しなくなるんじゃない?」

「いや、悟の場合は、『睡眠時間が増えたぞ、やったー』って思って同じことを繰り返すと思うぞ」

「あっ、なんか想像つくかも……」

「お前らもっと真剣に考えてくれよ!」


 悟が若干涙目になっていたが、その隣で田貫さんが「うん。それ良いかも」って一人で納得していた。驚いた俺たちは、田貫さんのその心を尋ねる。


「えっとね、普通の一人暮らしだったら多分山岸くんの言うように、結局寝る時間が増えただけになると思うんだ。だけど、同じマンションに一緒に住んだらすぐに起こせるなって思って。合鍵もらっちゃえば、寝てても乗り込んでいけるしね」

「あぁ、それなら確かに」

「しかも、女の子の一人暮らしはちょっと怖いけど、彼氏さんが近くにいてくれたら安心じゃない?」


 田貫さんは「ね?」と言いながら、悟に向けてウィンクをする。
 そんな田貫さんの提案に悟は興奮気味に話を続けた。


「それじゃあさ、優李たちも同じマンションで一人暮らししようぜ!」

「そうしたら、いつでも集まれるし最高じゃん!」

「うん、良いと思う! ゆーくんはどうかな?」


 いつか一人暮らしをしたいな、とは思っていたが、まだいつとは決めていなかったので俺は一瞬逡巡してしまう。なので、場が盛り下がるのを覚悟して思っていることを伝えることにした。


「俺もいつかは一人暮らしをしたいと思っていたが、まだ親にも何も伝えてないし金だってそんなにないからな、今すぐにOKはちょっと出せないな。なんか盛り下げるようなこと言って悪い」

「多分大丈夫じゃないかなって思うんだ。だって、この間ゆーくんのママに聞いたら、『別に良いわよ。大学3年生ならもう20歳にもなるし一人暮らしも良い経験よね』って言ってたもん」


 さ、さすが奏だ。俺に提案する前に、ちゃんと外堀を埋めてるところは昔から変わってない。って言うか、一人暮らし大丈夫なのかよ! 引っ越し費用のことや、生活していく上で必要なお金のことなど、調べないといけないことはあるけど、親が大丈夫っていうなら俺も一緒に一人暮らししたいな。


「改めて親に確認してみるけど、もし大丈夫って言うなら俺は問題ないよ。何だったら今すぐにでも一人暮らししたいくらいだわ」

「私も実際には親にちゃんと確認を取らないとだから、とりあえずは近日中にみんな確認をして改めて報告しましょ」


 俺たちは田貫さんの言葉に頷くと、その後は直近の夏休みをどうやって過ごすかという話題にシフトした。だが、一人暮らしをするとなるとお金が必要になってくるので、あまり遊びすぎずにバイトした方が良いのではないかという現実的な話でまとまってしまった。

 うーん、どうやら今年の夏はバイト三昧になりそうだな……。



 -



「あれからゆーくんバイトめちゃくちゃ頑張ったよね!」

「あぁ、せっかく親から大丈夫って言ってもらったんだから、お金がなくて出来ませんでした、ってことにはしたくなかったからな」


 あの日家に帰って親に一人暮らしのことを聞いてみたら、奏が言うように
「別に良いわよ」とあっさりと許可をもらってしまった。だが、「けど家賃込みの仕送りはするけど、それ以上のところに住むなら自分の稼がないとダメだからね」と言う釘も同時に刺されてしまう。

 なので、俺はバイトのシフトを増やして、学業とバイトを必死に両立していたのだ。そのお陰で奏と遊ぶ時間が減ってしまったが、学校ではほぼ毎日あっているので問題はなかった。


「けど、あの努力があったから、奏と同じマンションで一人暮らしできるようになるんだから全然大変じゃなかったよ」

「私もちゃんとお金貯めたし、もっと近くで一緒にいられるの嬉しいね」

「あぁ、本当に嬉しいよ」


 ちなみに俺たちは、駅前のロータリーの前に立っていた。
 これから物件をどうするか、みんなで話し合いをするために、これから駅近にあるイタリアン料理店に行こうとしているのだ。高校生の時はファミレスばかりだったのに、俺たちも小洒落たお店に行くようになったもんだな。


「よー! お待たせー!」


 俺の背後から忍び寄ってきた悟が、俺の背中に飛びついてきた。


「こんな街中でやめろって、恥ずかしいだろ」

「んだよ、照れるなって! これから同じマンションに住もうとしてる仲じゃないかよ」

「それとこれは関係ないだろ!」


 そんないつもの俺たちのやり取りを見て、奏はクスクスと笑い、田貫さんは呆れ顔をしている。


「山岸くんを困らせたらダメだよ、悟。そんなウザ絡みしてたらいつか本当に見捨てられちゃうんだから」

「うそぉ! 優李、お前がいなくなったら色々と困るから頼む、見捨てないでくれ!」

「いや、見捨てはしないけど、放置くらいはするかもな。って言うか早く降りろ!」


 俺がそう言うと、「勘弁してくれぇ」と言いながら、さっきよりも強く悟はしがみついてくる。全く、こいつはいつまで経っても悟のまんまだな。俺は若干呆れながらも、変わらない悟に安心感を覚えていた。

 そしてなんとか悟引き摺り落として奏の方を向くと、ボーッとどこか遠くを見ている。


「あっちの方に何かあるのか?」

「あっ、ううん。何もないよ。なんか見たことがある人たちがいるなぁって思ったんだけど、多分人違いだと思う」

「そっか。まぁ、取り敢えず寒い中ずっと外にいるのも微妙だし、そろそろお店に行こうぜ!」

「うん! 私お腹がペコペコになっちゃったよぉ」

「俺も腹へった! 今日は何を食おうかな、この間はハンバーグだったから今日はパスタにしようかな?」

「全く。お店に着いたら考えれば良いでしょ。ほら、置いていくわよ」


 俺たちは、来年からの新しい生活にワクワクしながら、イタリアン料理店へ向かって足早に歩き始めた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...