転生女騎士と前世を知らぬふりする元カレ~二度目の人生で、愛する君は敵だった

アニッキーブラッザー

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第24話 トリックプレー

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 盤面は、まるで戦場だった。  
 互いの手筋が交錯し、読み合いが続く。
 
「これ……本当に遊戯なのか?」 
「いや、これ……戦争だろ……」 
「隊長とアマンス……まるで、魂で戦ってるみたいだ……」
 
 銀翼隊の面々は、誰もが言葉を失っていた。
 
「こ、こんな展開……私の時とはまるで違う……!」

 セラフィナは、椅子の肘掛けを握りしめていた。

(……カノって、こんなに強かったのか)
 
 アマンスは、盤面を見つめながら、静かに息を吐いた。
 その思いが、胸の奥で静かに広がっていく。

(……もし、あの頃……)

 アマンスは、ふと考えた。

(もし、あの頃……カノとArcSigilを一緒にやってたら……)

 きっと楽しかっただろう。
 絶対にもう二度と戻らない前世の名残に、アマンスは顔出てしまいそうになった。
 口惜しさが、胸を締めつけた。
 今は立場が違う、牢の外と牢の中での対局。
 盤面の上で、彼女と戦っている。
 互いに、容赦なく。 互いに、全力で。
 
「……やるではないか」

 せめて、顔に変な想いが滲み出る前に、言葉にしてアマンスはラヴィーネの力を認めた。
 一方で……

「あなたも、流石だは。もっとも、あなたの力は姫様との練習を何度も見せてもらったから十分に分かっていたけれど」

 ラヴィーネの声は冷静だった。 
 だが、その瞳には、わずかな揺らぎがあった。

(アマンスが強いのは分かっていた。けれど……)

 ラヴィーネは、盤面を見つめながら、ふと考えた。

(いざ自分でこうして対峙して打ってみると……どこか、やはり大翔っぽく感じるわ)

 その思いが、胸の奥で静かに広がっていく。

(ずっと大翔の対局を、大翔に内緒でこっそりスマホで観戦して……そうよ、この……彼の打ち筋……彼の癖……彼の間……)

 そのことを思いながら、ラヴィーネには前世の記憶がまた、今目の前にいる男の手筋と、重なって見えた。

(バカね、私は……また、私は彼を……)

 ラヴィーネは、頭を振った。  
 そんなはずはない。  
 そんなこと、あるはずがない。
 だが、どうしても、それが気になってしまった。

(だけど……ッ……そうだわ! もし、彼が……大翔なら……)

 だから、ラヴィーネは少し試してみることにした。
 姫とアマンスの対局。今まで見てきた定石。  
 それらとは、まったく違う打ち方。

「これはどうかしら?」

 盤面の一角に、ラヴィーネは“幻影騎兵”を配置した。  
 その位置は、通常の布陣ではありえない。  
 だが、それは――

「……ッ!?」

 その瞬間、アマンスの手が止まった。
 そして同時に
 
「え? な、なにそれ?」

 セラフィナが、思わず声を上げた。
 扇を口元に当てたまま、目を見開いて盤面を凝視する。

「ちょっと待って……その配置、意味あるの? え? え?」

 彼女の声は、困惑と焦りが混ざっていた。  
 盤面に置かれた“幻影騎兵”の位置が、どう見ても孤立しているように見えたのだ。
 一方、銀翼隊の面々もざわついていた。

「隊長……何考えてんだ?」 
「いや、あれ……普通に見たらミスだろ?」
「でも、隊長がそんな初歩的なミスするか?」
 
 そう、その配置は、誰もが見たことのないものだった。  
 定石から外れ、姫との対局でも見られなかった奇妙な布陣。  
 駒の位置も魔紋の流れも、まるで常識を逸脱していた。

「………………」

 アマンスも盤面を見つめたまま、動かない。
 その姿に、セラフィナがさらに頭を押さえる。

「あらら、アマンスまで驚いて手が止まっていますわ……せっかく面白い一局でしたのに台無しですわ」

 と、セラフィナはラヴィーネの手を「失着」と判断した。
 一方でアマンスは、盤面を見つめながら、静かに呟いた。

「……まさか、こんなところでその手が来るとはな」

 その声は、驚きと、どこか懐かしさを含んでいた。

(……この手筋、見覚えがある……そう、俺が世界ランカー一桁のやつに思わず振り回された……)

 通常の布陣ではありえない。  
 だが、それはかつてArcSigilの世界ランカーが使っていたトリックプレーだった。

(まさか、カノが……世界ランカーのやつと同じようなトリックプレーしてくるとはな……だけど!)

 アマンスは驚きはしたが、内心ではほくそ笑んだ。
 何故なら、初見なら確実に振り回される。  
 だが、もうその対処法を知っていたからだ。

(……今なら、分かっている)

 アマンスは、静かに駒を動かした。
 そして互いに数手進めていくと、

「え……? ちょっと待って……今のって……」
 
 観戦していたセラフィナたちがハッとする。
「隊長の手、失着じゃなかったのか?」 
「いや……これ、見れば見るほど……」
「まさか……隊長は、あの一手でこの攻防を狙っていたというの!?」

 銀翼隊の面々も、ざわつき始める。
 
「まさか……隊長は、あの一手でこの攻防を狙っていたというのか!?」

 副長のレオニスが、盤面を指差しながら呟いた。

「この魔紋の流れ……隊長の幻影騎兵が、アマンスの風裂魔導士を誘導してる……」

 ミリアも、目を見開いたまま言葉を漏らす。

「な、なんだこの戦い……俺、もうついていけないっす……」

 カイルは、頭を抱えながら呻いた。

「ラヴィーネ……あなた、あの一手で……この展開を読んでいたの?」

 セラフィナは、椅子から立ち上がり、盤面に歩み寄った。

(さて……どうしてくるのかしら?)

 ラヴィーネは、静かに盤面を見つめたまま、何も言わなかった。  
 だが、その瞳には、確かな意志が宿っていた。

「……見事だ。あの一手は、確かに意表を突くものだった」

 アマンスは、盤面を見つめながら、静かに呟いた。
 その言葉に、場が静まり返った。

「だが――」

 アマンスは、次の駒を動かした。
 その一手は、まさに絶好の打ち返しだった。
 盤面が、再び震えた。

「こ、こんな……こんな手が……!」

 セラフィナは、目を見開いたまま、言葉を失っていた。

「アマンス……やっぱり、ただ者じゃない……」 
「隊長の奇手を、完全に読み切って……」 
「これが……王国の英雄か……」


 銀翼隊の面々も、誰もが息を呑んでいた。
 ただ……

(…………この返しは……)

 ラヴィーネは、盤面を見つめたまま、何も言わなかった。  
 だが、その瞳には溢れ出そうに涙を必死に堪えるだけで精一杯だった。

(……やっぱり、あなたは)

 アマンスはそこまで考えが及んでいなかった。
 ラヴィーネの打った手が、単純にトリックプレーでアマンスを倒すために打った手ではない。
 アマンスがどうやって返すのかを見極めるための手だった。
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