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第8話 勝てなくても守る(2)

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「キカイは私たちの攻撃が一切効きません。叩いてもダメ、斬っても武器が壊れ、魔法で攻撃してもまったく効果がありません。先ほどのようにふっとばしたりして足止めすることは出来ますが、これまで世界の誰もがキカイを倒したことがないのです。魔王であるお父様も……魔族最強の槍使いと言われたお姉様も……最強の生物と言われる獣王様も……誰一人、キカイの一人すらも倒せないのです」

「だ、だれ……も? あいつらの一人すらも?」

「ですので、私たちにできることは、少しでもキカイたちを足止めして、襲われる村や街の人たちを逃がすこと。足止めしながら少しでもキカイを倒す手段を考えること。それだけなのです」


 記憶のないアークスには全てが新しい情報。その話を聞いても特に記憶を思い出したり、何かがピンときたりすることはない。
 だが、だからこそ自分はとんでもない記憶を失っていることをようやく知った。
 世界の人類が滅亡の危機だというのに、自分はそのことを何も覚えていないのだから。

「ど、どうしよ……お、俺も殺されるのかな?」

 状況を理解したことで、アークスは余計に恐怖を抱いた。
 女の子に守られながら、情けないとは思わない。
 ただ、怖かった。
 しかし、そんなアークスの手をより一層ギュッと握りながら、クローナはこの状況下でも柔らかい笑みを浮かべた。

「いいえ、死なせません。そのために私が……私たちが居るのです」
「あっ……」
「そしていつか……必ずキカイを倒してみせるのです! 皆さんと一緒に!」

 その言葉に何の根拠も無かった。
 しかし、アークスには強がりに聞こえなかった。
 クローナは世界のこの状況でもまるで諦めていない。前を見ている。
 小さな手と小さな体。しかし、どうしてか少しだけ頼もしく感じ、気付けばアークスの恐怖も収まっていた。

「でも、今は逃げて足止めに全力全開です! ですので、自然さんごめんなさい!」

 頼もしく微笑みながら、クローナは手を繋いで無い方の手に握っている銃で振り向きざまに連射。
 それはキカイではなく森の木々に向けられたもの。
 クローナの魔砲弾が着弾した木々は……

「冥王の樹林! プルートフォレスト!」

 うねるように木々は成長し、そして己の意志を持っているかのように巨大な枝や蔦を伸ばし、追跡してくるキカイたちを捉え、そして一斉に覆いかぶさった。


「ふふん、今度こそどんなもんだい、です♪」

「は、はは……あんた……すごいな……」

「約束します。必ずあなたは守ります!」

 
 クローナは「勝てない」と言った。しかしそれでも「守る」と口にした。
 それは決して口だけではないことを目の当たりにし、その頼もしさにアークスも心を揺さぶられた。

「さて、今のうちにお姉様の所へ……あっ、アークス、先ほどから気になっていましたが、服のボタンが開いています。ほら、しめてあげます」
「わ、な、なに?」
「そういうの、ダラしないと思います。さっ、これでよしです! とっても男前さんになりました!」
「いや、もう……」
「ふふん。いかなる状況下でも服装の乱れは……あ……」
「……? どうしたの?」
「私の下着……あの洞窟の瓦礫の中に」
「ッッ!? そういえば、何だかんだでまだ……」

 だが、やはり抜けているところがある。
 とりあえず、アークスは自分の手を引っ張って前を走るクローナのスカートのヒラヒラしている部分は絶対に見ないように心がけた。
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