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プロローグ
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――たわけた悪は根絶やしにしなければならない
それが僕の掲げる絶対的正義だ。
力ある者が弱き者の力になる。それは当然のことだ。
力ある者が弱き者から奪う。それが悪だ。
弱き者から奪う者たちに制裁を課す。それが正義だ。
なのに……
「シィーリアス。お前をパーティーからクビにする」
「……え?」
僕は耳を疑った。
「何故です、先生!?」
幼いころから憧れた勇者フリード。僕の師匠にして、僕が見習いとして所属する、世界最高峰にして唯一無二の「SSSランク」の称号を与えられた最強にして最高の正義のパーティー。
先生の弟子になって、正式なパーティーの一員となり、僕もこの世の悪を討つ正義の味方になりたい。そう思って小さい頃から目標にしていた。
少しいい加減な所のある先生だが、その先生が真顔になったときは「本気」を意味する。
「僕が何か粗相をしたでしょうか! 何か任務中にミスをしたでしょうか?! 教えてください! 僕の正義に至らぬところがあれば直します! どうか、僕をこのパーティーに置いてください!」
僕は土下座をした。アジトの大理石の床に地面を叩きつけて割ってしまうも、何度でも僕は土下座する。
すると先生は……
「お前さん、この間の盗賊団の討伐の時……随分とやり過ぎたようだな」
「え? アレですか?」
そのとき、僕が先生に言われたことは、僕が何のミスもしていない任務の時の事だった。
「先輩が魔法結界でアジトの周囲を囲み、僕がアジトに侵入して盗賊団を討ったアレですか? ちゃんと討伐しましたし、成敗してやりましたし、言われた通り誰も殺してません!」
「ああ。全員……半殺しを通り越して九割殺し状態……俺の嫁が治療しなきゃ、全員二度と首から下が動かせなくなるぐらいヤバかった……」
「そ、それが……何か……」
それの何か? 僕はちゃんと手加減した。全員両足両腕は砕いて、アバラも四~五本ぐらいしか折っていないし、内臓も少々損傷させたぐらいだ。
頭部へのダメージや急所への攻撃は避けたので、放置しても死ぬことは無かったはず。
「あいつらよ……お前さんに『盗んだものも返し、大人しく捕まるし、二度と悪いこともしない』……そう降伏したそうじゃねえか。なのに、何で成敗した?」
え……? 先生はとても悲しそうな目で、何で僕にそんなことを……?
「な、何故って、奴らがたわけた悪だったからです! 悪の言葉に耳を傾ける必要はありません! ごめんで済むなら勇者はいりません!」
「ああ。だが、あいつら自身もまた、戦争で職も住む場所も失って路頭に迷い、生きるため仕方なく盗みをした……もちろん許されることじゃねえが、大人しく降伏するならば、必要以上にボコボコにする必要もねえし、俺らはそこまでエライ人間でもねえ」
「何を! 先生や先輩たちは世界最高の正義にして最強の勇者! そんな先生がそのようなことを何故仰るのです! 悪は許してはなりません!」
僕は思いの丈を叫んだ。
本来、僕のような未熟者な見習いが先生に意見するなど恐れ多いが、それでも僕は我慢できなかった。
しかし先生は僕を悲しそうに見つめ……
「いいか、シィーリアス。自分が何もかも正しい正義なんてねえよ! そんなもんただの傲慢だ! 時と場合に応じて、人の醜く汚い面も許せる広い心を持て。行き過ぎた正義なんざ、ただの暴力以外の何ものでもねえ。お前さんは色々と勉強不足だ。出直して来い!」
「せ、先生……」
「ま、お前さんはまだ15……とはいえ、ガキの頃から俺らにくっついて、同年代の友達も作らず、あの魔界最悪の悪所でもある『暗黒冥獄街・エンダーク』で過ごしちまったから、お前さんが色々と極端になっちまったのは、一緒に居た俺らの責任でもある……」
暗黒冥獄街・エンダーク。
その名が出るだけで僕の体は強張ってしまう。
そこは、かつて魔界にあった、人間と魔族の「悪」たちが交流する地獄の街。
悪魔たちが笑いながら極悪非道な行いを日常として繰り返していた街。
僕が10歳の頃、僕の故郷の村は空間転移魔法により村ごとエンダークに召喚され、そしてその場に居た悪魔たちの遊びの一環で村人全員がハンティングされた。
今でも覚えている。
優しかった隣の家のおじいちゃんがいきなり首を刎ねられた。
幼馴染のみんなが、笑った悪魔たちに生きながらオモチャにされて死ぬまで弄ばれた。
僕を逃がそうとした父さんと母さんは……
「あのとき、運よく先生たちが現れなければ、僕も死ぬところでした」
絶体絶命のそのとき、勇者フリード一味に僕は救われた。
父さんも母さんも村のみんなも全員殺されてしまう中、運よく僕だけが助かった。
ただし、当時は先生たちもまだ力が足りず、人類からの支援や帰る手段も断たれた状態でその街に隠れていた。
そこから数年間、僕は先生たちと隠れて暮らしながら、そして力を蓄え、そして昨年ついに―――
「先生と先輩たちが力を合わせ、見事にエンダークの黒幕たちを討伐した。先生たちの正義の力が巨悪を討ち、多くの人々を救い、世界で唯一のSSSランクの称号を与えられた……そんな先生に、何の落ち度がありましょうか!?」
「……シィーリアス」
「僕は大恩ある先生に報いたい! 先生の下でもっと多くのことを学び、もっと強くなりたい! そして、正式に先生のパーティーの一員に認められて、世界中の悪どもを滅ぼしたいのです! もっと強くなります! ですので、どうか自分を置いてください、先生!」
すると、先生は僕の前に立ち上がられた。
どうされるのだ?
それでも僕をクビに?
「シィーリアス……蹴ってこい」
「……へ?」
「今一度、お前さんの力を俺にくらわせてみな。あの地獄の街で生き延びて、俺らから戦い方や魔法を学んだうえで、お前さんが身に着けた力……俺に見せてみな」
そのとき、先生から溢れ出る闘志に僕は委縮してしまった。
部屋を埋め尽くし、相手を押しつぶすほど圧倒的で強大なプレッシャー。
僕の目指す道の頂にいる、世界最強SSSランクの勇者。
「っ、せ、先生……」
「どーした、シィーリアス、ビビってんのか!」
そして、僕は察した。
これは僕の力を今一度確認するための試験。
この試験をクリアできなければ、僕はクビになる。
嫌だ……
「行きます、先生!」
ならばと、僕も今の僕の全力を先生に放つ。
「唸る雷の速さ、荒ぶる暴風の力、この脚に纏い――――」
魔法を足に纏わせて、相手を蹴る僕の戦法。
幼く力の弱かった僕だが、蹴りがパンチの4倍はあると知った瞬間から、少しでも相手にダメージを与えられる蹴りを磨いた。
勇者である先生たちとの組手や魔法指導、そして実戦には事欠かないエンダークでの日々。
その果てで僕は「魔法蹴撃士」というスタイルを作り出した!
「雷と嵐を纏いし蹴撃! 風雷蹴烈閃!!」
アジトの部屋の壁や屋根が飛んでしまう……後で謝らないと……だけど、今は僕の全力を―――
「ぬおりゃああああああああ!」
「ッ!?」
先生の右の上段に放った僕の最強のハイキックを、先生は素手で受け止めた!?
ダメだ、押すんだ! 先生は両足を床に埋め込むほど踏ん張っているが、これをふっ飛ばし――――
「どっこい!」
「―――――――ッ」
あ……がら空きになった僕の顎を……先生がカウンターで左パンチが……ああ、そうだった……渾身の一撃を放った時ほど防御が疎かになるからと先生に言われ……嗚呼……僕は本当に未熟―――
「だーっ、たく……なんっつー蹴りだ……痺れがやべえ……こんなん直撃したら俺でも死ぬっての……強くなりすぎてんだよ、お前さんは。だからこそ、このままじゃ危ういんだよ……」
その瞬間、僕の意識は完全に断たれた。
「これだけの力を持っている奴が、何も知らずに自分や俺らのことを絶対的に正しいと思い込んでその力を躊躇いなく使う……ダメなんだよ、それじゃ。俺らと一緒に居るだけじゃ学べねえことを、お前さんはもっと学ばないとよ……」
そして僕は、正式にクビになった。
ーあとがきー
初めまして、よろしくお願い申し上げます。
頑張りますので、よろしければお気に入り登録お願い申し上げます。
それが僕の掲げる絶対的正義だ。
力ある者が弱き者の力になる。それは当然のことだ。
力ある者が弱き者から奪う。それが悪だ。
弱き者から奪う者たちに制裁を課す。それが正義だ。
なのに……
「シィーリアス。お前をパーティーからクビにする」
「……え?」
僕は耳を疑った。
「何故です、先生!?」
幼いころから憧れた勇者フリード。僕の師匠にして、僕が見習いとして所属する、世界最高峰にして唯一無二の「SSSランク」の称号を与えられた最強にして最高の正義のパーティー。
先生の弟子になって、正式なパーティーの一員となり、僕もこの世の悪を討つ正義の味方になりたい。そう思って小さい頃から目標にしていた。
少しいい加減な所のある先生だが、その先生が真顔になったときは「本気」を意味する。
「僕が何か粗相をしたでしょうか! 何か任務中にミスをしたでしょうか?! 教えてください! 僕の正義に至らぬところがあれば直します! どうか、僕をこのパーティーに置いてください!」
僕は土下座をした。アジトの大理石の床に地面を叩きつけて割ってしまうも、何度でも僕は土下座する。
すると先生は……
「お前さん、この間の盗賊団の討伐の時……随分とやり過ぎたようだな」
「え? アレですか?」
そのとき、僕が先生に言われたことは、僕が何のミスもしていない任務の時の事だった。
「先輩が魔法結界でアジトの周囲を囲み、僕がアジトに侵入して盗賊団を討ったアレですか? ちゃんと討伐しましたし、成敗してやりましたし、言われた通り誰も殺してません!」
「ああ。全員……半殺しを通り越して九割殺し状態……俺の嫁が治療しなきゃ、全員二度と首から下が動かせなくなるぐらいヤバかった……」
「そ、それが……何か……」
それの何か? 僕はちゃんと手加減した。全員両足両腕は砕いて、アバラも四~五本ぐらいしか折っていないし、内臓も少々損傷させたぐらいだ。
頭部へのダメージや急所への攻撃は避けたので、放置しても死ぬことは無かったはず。
「あいつらよ……お前さんに『盗んだものも返し、大人しく捕まるし、二度と悪いこともしない』……そう降伏したそうじゃねえか。なのに、何で成敗した?」
え……? 先生はとても悲しそうな目で、何で僕にそんなことを……?
「な、何故って、奴らがたわけた悪だったからです! 悪の言葉に耳を傾ける必要はありません! ごめんで済むなら勇者はいりません!」
「ああ。だが、あいつら自身もまた、戦争で職も住む場所も失って路頭に迷い、生きるため仕方なく盗みをした……もちろん許されることじゃねえが、大人しく降伏するならば、必要以上にボコボコにする必要もねえし、俺らはそこまでエライ人間でもねえ」
「何を! 先生や先輩たちは世界最高の正義にして最強の勇者! そんな先生がそのようなことを何故仰るのです! 悪は許してはなりません!」
僕は思いの丈を叫んだ。
本来、僕のような未熟者な見習いが先生に意見するなど恐れ多いが、それでも僕は我慢できなかった。
しかし先生は僕を悲しそうに見つめ……
「いいか、シィーリアス。自分が何もかも正しい正義なんてねえよ! そんなもんただの傲慢だ! 時と場合に応じて、人の醜く汚い面も許せる広い心を持て。行き過ぎた正義なんざ、ただの暴力以外の何ものでもねえ。お前さんは色々と勉強不足だ。出直して来い!」
「せ、先生……」
「ま、お前さんはまだ15……とはいえ、ガキの頃から俺らにくっついて、同年代の友達も作らず、あの魔界最悪の悪所でもある『暗黒冥獄街・エンダーク』で過ごしちまったから、お前さんが色々と極端になっちまったのは、一緒に居た俺らの責任でもある……」
暗黒冥獄街・エンダーク。
その名が出るだけで僕の体は強張ってしまう。
そこは、かつて魔界にあった、人間と魔族の「悪」たちが交流する地獄の街。
悪魔たちが笑いながら極悪非道な行いを日常として繰り返していた街。
僕が10歳の頃、僕の故郷の村は空間転移魔法により村ごとエンダークに召喚され、そしてその場に居た悪魔たちの遊びの一環で村人全員がハンティングされた。
今でも覚えている。
優しかった隣の家のおじいちゃんがいきなり首を刎ねられた。
幼馴染のみんなが、笑った悪魔たちに生きながらオモチャにされて死ぬまで弄ばれた。
僕を逃がそうとした父さんと母さんは……
「あのとき、運よく先生たちが現れなければ、僕も死ぬところでした」
絶体絶命のそのとき、勇者フリード一味に僕は救われた。
父さんも母さんも村のみんなも全員殺されてしまう中、運よく僕だけが助かった。
ただし、当時は先生たちもまだ力が足りず、人類からの支援や帰る手段も断たれた状態でその街に隠れていた。
そこから数年間、僕は先生たちと隠れて暮らしながら、そして力を蓄え、そして昨年ついに―――
「先生と先輩たちが力を合わせ、見事にエンダークの黒幕たちを討伐した。先生たちの正義の力が巨悪を討ち、多くの人々を救い、世界で唯一のSSSランクの称号を与えられた……そんな先生に、何の落ち度がありましょうか!?」
「……シィーリアス」
「僕は大恩ある先生に報いたい! 先生の下でもっと多くのことを学び、もっと強くなりたい! そして、正式に先生のパーティーの一員に認められて、世界中の悪どもを滅ぼしたいのです! もっと強くなります! ですので、どうか自分を置いてください、先生!」
すると、先生は僕の前に立ち上がられた。
どうされるのだ?
それでも僕をクビに?
「シィーリアス……蹴ってこい」
「……へ?」
「今一度、お前さんの力を俺にくらわせてみな。あの地獄の街で生き延びて、俺らから戦い方や魔法を学んだうえで、お前さんが身に着けた力……俺に見せてみな」
そのとき、先生から溢れ出る闘志に僕は委縮してしまった。
部屋を埋め尽くし、相手を押しつぶすほど圧倒的で強大なプレッシャー。
僕の目指す道の頂にいる、世界最強SSSランクの勇者。
「っ、せ、先生……」
「どーした、シィーリアス、ビビってんのか!」
そして、僕は察した。
これは僕の力を今一度確認するための試験。
この試験をクリアできなければ、僕はクビになる。
嫌だ……
「行きます、先生!」
ならばと、僕も今の僕の全力を先生に放つ。
「唸る雷の速さ、荒ぶる暴風の力、この脚に纏い――――」
魔法を足に纏わせて、相手を蹴る僕の戦法。
幼く力の弱かった僕だが、蹴りがパンチの4倍はあると知った瞬間から、少しでも相手にダメージを与えられる蹴りを磨いた。
勇者である先生たちとの組手や魔法指導、そして実戦には事欠かないエンダークでの日々。
その果てで僕は「魔法蹴撃士」というスタイルを作り出した!
「雷と嵐を纏いし蹴撃! 風雷蹴烈閃!!」
アジトの部屋の壁や屋根が飛んでしまう……後で謝らないと……だけど、今は僕の全力を―――
「ぬおりゃああああああああ!」
「ッ!?」
先生の右の上段に放った僕の最強のハイキックを、先生は素手で受け止めた!?
ダメだ、押すんだ! 先生は両足を床に埋め込むほど踏ん張っているが、これをふっ飛ばし――――
「どっこい!」
「―――――――ッ」
あ……がら空きになった僕の顎を……先生がカウンターで左パンチが……ああ、そうだった……渾身の一撃を放った時ほど防御が疎かになるからと先生に言われ……嗚呼……僕は本当に未熟―――
「だーっ、たく……なんっつー蹴りだ……痺れがやべえ……こんなん直撃したら俺でも死ぬっての……強くなりすぎてんだよ、お前さんは。だからこそ、このままじゃ危ういんだよ……」
その瞬間、僕の意識は完全に断たれた。
「これだけの力を持っている奴が、何も知らずに自分や俺らのことを絶対的に正しいと思い込んでその力を躊躇いなく使う……ダメなんだよ、それじゃ。俺らと一緒に居るだけじゃ学べねえことを、お前さんはもっと学ばないとよ……」
そして僕は、正式にクビになった。
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