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第22話 バカ
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カイは教室に入って早々にシィーリアスと目が合った瞬間、その無表情で固めていた鉄仮面が僅かに動いた。
そして、昨日決闘をしていた二人の会合にクラスはまたハラハラとする。
だが……
「やぁ、君はカイではないか! おはよう!」
「…………」
「昨日、君の脚を蹴ってしまったが、状態はいかがだろうか?」
シィーリアスは周りの反応お構いなしにカイに駆け寄った。
「昨日は僕も教員の方々に連れて行かれたために、君と話をすることも仲直りすることもできなかった。僕としては両成敗にしたいのだが、怪我をしたのは君の方であり、君の言い分もあるであろう。この場合、どうやれば僕たちは仲直りして友達になれるのか、君の意見も―――」
ギロリと睨みつけるカイに対して空気も読まずに話しかけるシィーリアス。
クルセイナも含めてクラスメートたちはハラハラ。唯一フォルトだけは楽しそうにニヤニヤ。
すると……
「失せろ」
「……え?」
「自分は不要なことで誰かと関わる気はないので、気安く自分に話しかけるな」
それはカイからの拒絶の意思表示であった。
言われたシィーリアスはポカンとしてしまうも、すぐにハッとしてカイに詰め寄る。
「ま、待ちたまえ! 話しかけるなと言われても、僕たちは今日から同じ空間で学ぶクラスメートというものなのだろう! 同じ屋根の下で共に学び、競い合い、正義を胸に歩む同士! なれば関わらないで過ごすというわけにはいかないだろう!」
「……正義……だと?」
「うむ、正義だ!」
その時、カイの目尻が動いた。それは「不快」を示す感情。
フォルトもクルセイナも「あちゃ~」と頭を抑えた。
カイの事情は知らないが、少なくともその話題で昨日はカイとトラブルになったのだが、それをまた蒸し返してしまったからだ。
だが……
「ならば……貴様にとっての正義とは何だ?」
昨日とは同じ展開にはならなかった。
意外にも、カイはむしろシィーリアスに質問をしたのだ。
それはやはり、何だかんだでカイもクールな表情をしながらも、シィーリアスは決して無視できないほどの存在だと身に染みて感じたからだ。
「え?」
「言ってみろ。なら、貴様にとっての正義とは何なのかと」
すると、その問いにシィーリアスは……
「決まっている! 悪を懲らしめるものだ!」
と、迷いなく答えた。
するとその答えにカイは更に目つきが鋭くなる。
「悪だと? では、その悪とは何だ?」
「……え?」
「悪の定義とは何だ?」
「そんなもの……悪いことをする者という以外にどう答える! 例えば僕にとっては、力ある者が弱きものから奪うというものは、間違いなく悪に分類している!」
「その正義と悪は誰がどうやって分類している? どう見分ける? どう定義する? お前が判断するというのか? ならばお前が悪だと判断した悪が……本当に悪なのかどうかは誰が判断する?」
クールなカイが珍しく言葉を多く口にした。
それだけでフォルトもクルセイナもクラスメートたちも、「カイには何か事情がある」と察した。
すると、そんなカイの言葉にシィーリアスは……
「なるほど。それはつまり……悪には悪で何か事情があるかもしれない……無闇に容赦なく罰していいかどうかということだろうか?」
「…………」
「うむ。実はそのことは以前僕の尊敬する先生にも言われたことがある……自分が絶対に正しい正義などないと……そして昨日も似たようなことをクルセイナにも言われた。僕は傲慢だと」
「ほう」
シィーリアスの言葉に、カイは少し驚いた様子を見せた。
どうやら、自分以外からもシィーリアスは同じことを指摘されたことがあるのだと。
だが、今のシィーリアスにはまだ届かない言葉でもあった。
「しかし! 僕は相手が悪党だという自信が無いから何もしない……そういうことはしたくない! それでは何のために強くなるのか分からんではないか!」
「……なに?」
「それに、僕は悪にも事情があるというのはやはり理解できない。事情があるから許すとはならぬだろう! それに悪党が語るのは事情ではない! 言い訳というのだ!」
「……………」
「ゆえに、僕は正義を胸にこの学園でも頑張るつもりだ! 今はFランクだが、頑張って頑張って……将来はSSSランクになりたいのだ!」
「ッ!?」
まるで幼い子供が語る夢。
まだ若いとはいえ、それでも今ぐらいの歳の男が口にすれば笑われてしまうような夢。
だが、この場に居る誰もが笑わなかった。
いや、笑えなかった。
そして同時に……
(この男……そういうことか……)
カイは内心でシィーリアスのことをこの会話の中で、あることを分かったのだった。
そしてそれは……
(……ああ……分かった)
(こいつ……間違いない……)
(うーわ……マジか……)
(この人、すごく強いって……そして今の話している表情に嘘を言っているように見えない……)
(つまり、天然でこいつこんなことをマジで……)
(ってことは、この男は……)
その場に居たクラスメートたちも分かったようだ。
(なるほど……夢の中であれほど抱き合ったのに……こんな形でシィー殿の欠点が見えるとはな……)
当然クルセイナも……
(なるほど……シィーさん……)
フォルトも分かった。
それは……
((((この男は……力はあるけど……純粋なバカなんだ!))))
そう、シィーリアスのことを判断した。
(そう……シィーさんは純粋で、純粋すぎて……まさに子供……この世を完全に正義と悪……言ってみれば、善人と悪人の二種類のみに色分けしているのですわ……)
世の中は複雑であり、そんなシンプルなものでは決してありえない。
しかし、シィーリアスの頭の中ではシンプルになっているのだ。
何故ならば、シィーリアスは幼少期の頃から、魔界のエンダークという完全に分かりやすく、目に映る者は悪と悪に奪われる者たちしか存在しない街で過ごしてしまったからである。
だがこの地上や、エンダーク以外の場所ではどうであろうか?
(シィーさん……この世を二種のみに分けるのは不可能ですわ。そもそも、正義にも色々な形がありますわ。何故ならば、正義とは……相手や自分の立ち位置によって変化するものだからですわ)
それぞれの思惑や、損得や、互いにどちらも間違っているとは言えない大義など、多くの者の想いや立場や事情が複雑に絡み合っている。
(何よりも世界は……自分が正しいと思い込んでいる頭の悪い正義が、時には悪だと自覚している悪よりも厄介で害になることもありますわ……ゆえに、シィーさんは……極端なのですわ。それが良い方向に作用している時は問題ないのですが……うふふふふ、行く末が気になりますわねぇ♪ なんてかわいいのでしょう、ワタクシのシィーさんは♥ 想いを変えずにいつまでもキラキラするシィーさんも……どうしようもない現実に弱弱しくなるシィーさんも想像しただけで……萌えますわ♥)
いずれにせよ、クラスメートたちにとって謎の存在であったシィーリアスのことを、皆が何となく分った瞬間であり、戸惑ってしまう者たちも出てくる一方で……
「……なかなか面白いことを語る人が居るのね……子供じみた正義……結構なことだわ」
シィーリアスに強い関心を持つ者も出てくる瞬間でもあった。
そして、昨日決闘をしていた二人の会合にクラスはまたハラハラとする。
だが……
「やぁ、君はカイではないか! おはよう!」
「…………」
「昨日、君の脚を蹴ってしまったが、状態はいかがだろうか?」
シィーリアスは周りの反応お構いなしにカイに駆け寄った。
「昨日は僕も教員の方々に連れて行かれたために、君と話をすることも仲直りすることもできなかった。僕としては両成敗にしたいのだが、怪我をしたのは君の方であり、君の言い分もあるであろう。この場合、どうやれば僕たちは仲直りして友達になれるのか、君の意見も―――」
ギロリと睨みつけるカイに対して空気も読まずに話しかけるシィーリアス。
クルセイナも含めてクラスメートたちはハラハラ。唯一フォルトだけは楽しそうにニヤニヤ。
すると……
「失せろ」
「……え?」
「自分は不要なことで誰かと関わる気はないので、気安く自分に話しかけるな」
それはカイからの拒絶の意思表示であった。
言われたシィーリアスはポカンとしてしまうも、すぐにハッとしてカイに詰め寄る。
「ま、待ちたまえ! 話しかけるなと言われても、僕たちは今日から同じ空間で学ぶクラスメートというものなのだろう! 同じ屋根の下で共に学び、競い合い、正義を胸に歩む同士! なれば関わらないで過ごすというわけにはいかないだろう!」
「……正義……だと?」
「うむ、正義だ!」
その時、カイの目尻が動いた。それは「不快」を示す感情。
フォルトもクルセイナも「あちゃ~」と頭を抑えた。
カイの事情は知らないが、少なくともその話題で昨日はカイとトラブルになったのだが、それをまた蒸し返してしまったからだ。
だが……
「ならば……貴様にとっての正義とは何だ?」
昨日とは同じ展開にはならなかった。
意外にも、カイはむしろシィーリアスに質問をしたのだ。
それはやはり、何だかんだでカイもクールな表情をしながらも、シィーリアスは決して無視できないほどの存在だと身に染みて感じたからだ。
「え?」
「言ってみろ。なら、貴様にとっての正義とは何なのかと」
すると、その問いにシィーリアスは……
「決まっている! 悪を懲らしめるものだ!」
と、迷いなく答えた。
するとその答えにカイは更に目つきが鋭くなる。
「悪だと? では、その悪とは何だ?」
「……え?」
「悪の定義とは何だ?」
「そんなもの……悪いことをする者という以外にどう答える! 例えば僕にとっては、力ある者が弱きものから奪うというものは、間違いなく悪に分類している!」
「その正義と悪は誰がどうやって分類している? どう見分ける? どう定義する? お前が判断するというのか? ならばお前が悪だと判断した悪が……本当に悪なのかどうかは誰が判断する?」
クールなカイが珍しく言葉を多く口にした。
それだけでフォルトもクルセイナもクラスメートたちも、「カイには何か事情がある」と察した。
すると、そんなカイの言葉にシィーリアスは……
「なるほど。それはつまり……悪には悪で何か事情があるかもしれない……無闇に容赦なく罰していいかどうかということだろうか?」
「…………」
「うむ。実はそのことは以前僕の尊敬する先生にも言われたことがある……自分が絶対に正しい正義などないと……そして昨日も似たようなことをクルセイナにも言われた。僕は傲慢だと」
「ほう」
シィーリアスの言葉に、カイは少し驚いた様子を見せた。
どうやら、自分以外からもシィーリアスは同じことを指摘されたことがあるのだと。
だが、今のシィーリアスにはまだ届かない言葉でもあった。
「しかし! 僕は相手が悪党だという自信が無いから何もしない……そういうことはしたくない! それでは何のために強くなるのか分からんではないか!」
「……なに?」
「それに、僕は悪にも事情があるというのはやはり理解できない。事情があるから許すとはならぬだろう! それに悪党が語るのは事情ではない! 言い訳というのだ!」
「……………」
「ゆえに、僕は正義を胸にこの学園でも頑張るつもりだ! 今はFランクだが、頑張って頑張って……将来はSSSランクになりたいのだ!」
「ッ!?」
まるで幼い子供が語る夢。
まだ若いとはいえ、それでも今ぐらいの歳の男が口にすれば笑われてしまうような夢。
だが、この場に居る誰もが笑わなかった。
いや、笑えなかった。
そして同時に……
(この男……そういうことか……)
カイは内心でシィーリアスのことをこの会話の中で、あることを分かったのだった。
そしてそれは……
(……ああ……分かった)
(こいつ……間違いない……)
(うーわ……マジか……)
(この人、すごく強いって……そして今の話している表情に嘘を言っているように見えない……)
(つまり、天然でこいつこんなことをマジで……)
(ってことは、この男は……)
その場に居たクラスメートたちも分かったようだ。
(なるほど……夢の中であれほど抱き合ったのに……こんな形でシィー殿の欠点が見えるとはな……)
当然クルセイナも……
(なるほど……シィーさん……)
フォルトも分かった。
それは……
((((この男は……力はあるけど……純粋なバカなんだ!))))
そう、シィーリアスのことを判断した。
(そう……シィーさんは純粋で、純粋すぎて……まさに子供……この世を完全に正義と悪……言ってみれば、善人と悪人の二種類のみに色分けしているのですわ……)
世の中は複雑であり、そんなシンプルなものでは決してありえない。
しかし、シィーリアスの頭の中ではシンプルになっているのだ。
何故ならば、シィーリアスは幼少期の頃から、魔界のエンダークという完全に分かりやすく、目に映る者は悪と悪に奪われる者たちしか存在しない街で過ごしてしまったからである。
だがこの地上や、エンダーク以外の場所ではどうであろうか?
(シィーさん……この世を二種のみに分けるのは不可能ですわ。そもそも、正義にも色々な形がありますわ。何故ならば、正義とは……相手や自分の立ち位置によって変化するものだからですわ)
それぞれの思惑や、損得や、互いにどちらも間違っているとは言えない大義など、多くの者の想いや立場や事情が複雑に絡み合っている。
(何よりも世界は……自分が正しいと思い込んでいる頭の悪い正義が、時には悪だと自覚している悪よりも厄介で害になることもありますわ……ゆえに、シィーさんは……極端なのですわ。それが良い方向に作用している時は問題ないのですが……うふふふふ、行く末が気になりますわねぇ♪ なんてかわいいのでしょう、ワタクシのシィーさんは♥ 想いを変えずにいつまでもキラキラするシィーさんも……どうしようもない現実に弱弱しくなるシィーさんも想像しただけで……萌えますわ♥)
いずれにせよ、クラスメートたちにとって謎の存在であったシィーリアスのことを、皆が何となく分った瞬間であり、戸惑ってしまう者たちも出てくる一方で……
「……なかなか面白いことを語る人が居るのね……子供じみた正義……結構なことだわ」
シィーリアスに強い関心を持つ者も出てくる瞬間でもあった。
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