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第42話 喜んで教えよう
しおりを挟む「というわけで、友達になってくれないだろうか、セブンライト!」
「ッ、あ、いや……その……」
セブンライトはどうすればいいか分からなかった。
本来であれば、下賤な平民と友になるなど彼からすれば考えられないこと。
しかし、相手は自分をボコボコにしたカイを、さらに圧倒した正体不明の怪物。
「……嫌だろうか?」
「ッ!? いや、わ、分かった! 僕はお前の友達になる、それでいいか?」
「おおお、友達になってくれるか! ありがとう! これで僕は入学して友達が3人できた! よろしく頼むよ、セブンライト」
「あ、ああ……よ、よろしくな……」
もし、この男の機嫌を損ねたら自分はどうなってしまうのか? 想像しただけで恐ろしくなり、ビビッて了承するしかなかった。
「フォルト、クルセイナも! 今日から僕たちは友達なので、君たちもそのつもりで頼むぞ!」
「まぁ……シィーさんがそう言うのでしたら……た・だ・し、スキンシップはワタクシ、シィーさんとしかしませんわ~。では、よろしくですわ~」
「というか、シィー殿、スキンシップ云々については私たちだけの間にして欲しい……彼が友になるのは構わんが」
シィーリアスに言われて渋々と納得するフォルトとクルセイナだが、二人はセブンライトに対してそれほど必要以上に関わろうという姿勢は見られずそっけない。
一方でセブンライトもこの状況にまだ頭を抱えていた。
(くそ、貴族である僕がどうしてこんなFランクの平民に……と思ったが、こいつ既にフォルト姫と侯爵家のクルセイナと親しく……なぜだ? Sランクの強さがあるからか? いや、でもこいつはFランクで……)
まったく、どうして自分はこうなった? そんな気持ちでいっぱいだった。
「で、友になって早々なのだが、君に勉強を教えてもらうことを頼みたいのだが、そういったことはどうだろうか? ジャンヌとフォルトでも意見が分かれているので、正直僕はどちらが正しいのかは判断できないが、勉強を教えてくれたら非常に助かるのだが……」
そして、挙句の果てにシィーリアスからは勉強を教えてほしいなどと、初日からすれば考えられないお願いまでされる状況。
断ったら怖くなるので断るわけにはいかないセブンライトだが、少しでも何か言い返すことはできないかと思い、思わず……
「ふっ、だったら僕にお前の蹴り技でも教えてくれたら、勉強を教えてやってもいいぜ?」
と、それはまさに、シィーリアスがAランクのカイすらも上回った力と技であり、それを教えて欲しいという無理難題……かと思われたが……
「ん? 僕の蹴り技? なんだ、そんなのいくらでも教えるとも! トレーニングの仕方、蹴り方、コツ、全部教えよう!」
「……え?」
「「「「「ッッ!!!???」」」」」
「いや~、まさか僕の蹴り技を教わりたいなんて……光栄だ! まだ未熟な僕の技をそこまで評価してくれたのだから、その想いに報いるためにも僕は全力で君に蹴りを教えよう!」
自分の技を教えるというのは、ある意味で自分の手の内をライバルに教えるようなもの。
これからの学園生活では模擬戦含めて競って蹴落とし合う関係になるというのに、シィーリアスは「自分の技を教わりたい」と思ってもらえたことが嬉しいようで、むしろ気合が入っている。
「ちょ、シィーさん、よろしいんですの!?」
「シィー殿!」
驚いたのはフォルトとクルセイナだけではない。
ジャンヌや他のクラスメート、カイすらも声を出しそうになっていた。
「え? よろしいって……なんでそんなことを聞くんだ?」
「な、なんでって……だって、アレがシィーさんのとっておきで……」
「別に僕の蹴りはただの蹴りだし、秘密にするようなことは何もないんだし、僕だって勉強を教わるんだ。何より僕の蹴りを教わりたいなんて思ってもらえるなんて光栄なことだ!」
「ッ!?」
「友達とは、そういうものなのではないのか?」
別に秘密でも何でもない。
それはシィーリアスにとっての蹴りは別に魔法でも手品でもないからでもある。
とはいえ、それでも自分の技をアッサリと人に教えることに……
(こいつ……正気か? 自分を打ち破ったあの蹴りを……そんなにあっさりと人に伝授すると……? 一体どんな……ぐっ……)
(ほ、本当に教えるというの? というか、教えてもらって身につくものなのかしら? もし、そうだとしたら……)
カイやジャンヌですら驚き、同時に「どうやって身に着けるのか?」と関心ないふりをしながらも内心では気になって仕方がない様子だった。
「で、では、シィー殿は……仮に、その、勉強を教えることができなくなった私ではあるが、それでも友達であるから……私も蹴りを学びたいと言えば、教えてもらえるのだろうか?」
「え? 当たり前ではないか、クルセイナ。君も学びたいと思ってくれているのなら、一緒に蹴りのトレーニング会でも企画しようか?」
「ッ、な、なんと……」
それは、まさにクラスメートたちにも衝撃であった。
未だに謎多きクラスメートであるシィーリアスだが、それでもその蹴り技でAランクのカイを倒したのは事実。
その蹴り技をアッサリと教えるというのだ。
それはこれまであまりシィーリアスと関わらないで様子見だった他の生徒たちも含めて、「自分もいいか?」と名乗り出ようかと本気で悩む瞬間であった。
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