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プロローグ3 仕組まれた悲劇の中で
しおりを挟む船内の状況は凄惨そのものであった。
おびただしい数の死骸がまき散らされていた。
あるものは、胴を貫かれ、あるものは頭部を潰され…思わず目を背けたくなるが、鼻孔をつんざく死臭がそれを許さない。
なによりも、今時分は救うべき人がいて、彼はそれを待っている…
(希望は通じる!努力は絶対報われる!!)
そう、信じて疑わずに夏樹は旅客船の船橋部へと疾る。
息を切らし、階段を蹴り上げ、やっとの思いで船橋部がある階にたどり着いた夏樹は力いっぱい叫んだ。
「先生!李先生!返事をしてください!?先生!!!」
しかし、返事は帰ってこない。それでも、止まることは許されない。僅かな希望を賭けて、
夏樹は船橋部の扉を開けた。
「先生!!」
思わず、叫んだ夏樹は部屋の隅に自らの師、李朝雲を見つけるも、衰弱しきった体を壁に預けていた。
「先生!?」
「やぁ、遅かったじゃないか…あやうく、三途の川を渡るところだったよ……」
夏樹は李の傍に駆け寄り、倒れこんだ李の体を観察する。
右大腿部と左下腹部より出血。どちらも弾丸で貫かれた跡があり、常人ならば即死しかねない程の傷だった。
「今すぐ手当をします!安心してく――」
「無用だ!!もはや、この身は言霊を掻き集めて、ない筈の余命を伸ばしている身。直に私の霊脈炉は止まり、言霊の導きにひかれていくだろう。それに、私は約束をしてしまっていてな…この子を頼む……」
そういって、李は右の脇腹に隠していた、外套に包まった幼児を夏樹に手渡した。
幼児は深く眠りについており、外から響く振動で目を覚ます様子もなかった。
「この子は一体…」
「ろくでなしの大馬鹿弟子から取りあげようと急いで奴の乗るこの船に乗り込んだのだが…奴め、言ノ刃なんぞに成り下がった。せめて、この子を――ゴフッ…」
李は吐血し、いよいよその生気が奪われていく様が目に見えた。
「せめて、その子のために残せれば良かったのだが…私が不甲斐ないばかりにこうなってしまった。」
「そんな、先生は――」
「後悔ばかりしても、私には何も残らん…だが、その子には力が宿ってしまった!ワシも詳しくはわからんがその子には間違いなく鬼の因子が埋め込まれておる…だから、力を持つ君に託す他、ないのだ!?」
「先生?でも、私は――」
「君が……この…子の………は…は…親――」
―瞬間、全てが暗転した――
●
残弾は尽きた、対物ライフルも使い物にならない。霊子残量も保って5分。手持ちの武器は高周波ブレードとサブマシンガン1丁とハンドガンが2丁。挑発には使えても、『ヤツ』を仕留めるには至らなすぎる…
「やはり、コトワザ使いではない自分には…」
「ウッチー、残弾は!?」
「ッ…尽きました!!」
「じゃあ、あれやるよ!!」
「――あれって?」
「決まってんじゃん…男ならステゴロでしょうがぁぁぁ!?」
「へ!?」
俊足で背後に近づかれた正守は片足を掴まれると――そのまま、言ノ刃めがけてスローイングした…
「むちゃくちゃだぁぁぁぁぁああああ!!!??」
正守の絶叫など聞く耳を持たない言ノ刃の触手は容赦なく振るわれる。
「くっそっったれぇぇええ!!」
正守は目一杯、背部のスラスターを吹かせて、姿勢を保つと…高周波ブレードを力いっぱいに抜き、殺到する触手を叩き斬った。
「ナイス、ウッチー!これで、いける!!」
圧倒的な加速で正守を抜き去ると莉子は言ノ刃の本体に迫り、正拳突きを叩きこむ。
一撃、二撃、三撃―――たった一度の正拳突きが連鎖するかのように次々と打ち込まれる。
目にも止まらぬ、強烈な殴打は留まることを知らず、遂には眼前の怪物が倒れ伏すまで叩き込まれ続けた。
「沈黙…した!?」
「どうよ、ウッチー!刀なんか使わずにウッチーも拳で捻じ伏せると気持ちいいよ?」
「はぁ…拳ですか。自分にでき――」
瞬間――言ノ刃内部から弾丸が飛び出し、正守の肩を射抜く。
「ウッチー!?ガッ――!!?」
莉子が反応するよりも先に鋭く伸ばされた腕は的確に喉元を捉え、掴み上げた。
「やれやれ、爺をいたぶるために言ノ刃になったはいいが、碌なもんじゃないな。やはり、人を仕留めるには生身が一番だ…」
声の主は仕留められた言ノ刃の内部からゆっくりと這い出ると、その姿を露わにした。
女と見間違うほどの長髪、およそ人間とは思えない黒光りした両目。白衣を纏っているが、デスクワーク中心の学者とは考え難い腕力で人ひとりを持ち上げ、絞殺しようとしている。
肩を撃ち抜かれた痛みを押し殺して、正守は判断する。
(こいつとまともにやりあっても勝ち目はない…)
「それでも!!」
考えるよりも先に高周波ブレードの柄を握る。ならば、抜刀する他ない。
正守は無心で縮地をするが如く踏み込み、男の側面に回る。
「その手を放して貰う!!」
(居合の間合いに捉えた!)
男の左腕は瞬く間に一閃の煌きと共に分かたれ、続く突きの一撃が喉元に迫る。
「痛いじゃないかね…」
男は不敵に笑うと高周波ブレードを光の灯った指で受け止めた。
「お返しだ」
光に触れた刃は砕け、勢いのままに突進する正守を男は右人指し指一本で受け止め、正守の頭部を掴みあげては、右膝蹴りを喰らわせ、おまけと言わんがばかりに船橋部に向けて蹴りを決め込む。
(ば、馬鹿な…)
宙を舞い、薄れゆく意識の中で霊子が切れたことに気付いた正守は態勢を整えることもできぬまま、結界を突き破り、守るべき船橋部に叩き込まれた。
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