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第18話 運命
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うっかり墓穴を掘ってしまったことを悔やみながらも、柊也は今回の依頼のことを改めて振り返ることにする。
だが、がっくりと肩を落とすことしかできなかった。
妖魔を浄化できたところまではいいが、まさかその後に倒れてしまうとは。本当に不甲斐ないとしか言いようがない。
そんな気まずい記憶しか蘇ってこないのは、まだまだ妖魔に対する知識や訓練が足りていない証拠だろう。
さらに申し訳ない気持ちになってしまい、柊也はうつむく。神妙な面持ちで静かに切り出した。
「でも……何で俺なんて雇ったんだよ。『祓い屋』としては足を引っ張るだけなのに。実際引っ張ったし」
柊也の台詞に、継は途端に真面目な表情になる。静かに瞼を伏せた。
「『なんて』とか自分を蔑むようなこと言わないの。……ただ、放っておけなかったんだよ。色んな意味で」
「色んなって何だよ。俺がまだ子供だからってことか?」
柊也がむっとしながら顔を上げ、わずかに頬を膨らませる。
高校生は世間一般から見ればまだ子供かもしれないが、はっきりと子供だと言われるのも何となく嫌なものである。
瞳を開いた継が、今度は机の上で両手を組んだ。
「それもまったくないわけじゃないけど、君は妖魔が見える。見えるってことは『祓い屋』としての特別な力があるってこと」
わかるよね、と穏やかに問われ、柊也は黙って頷く。
最初の頃に継から教わったことである。けれど、力があっても使いこなせないのでは意味がない。宝の持ち腐れもいいところだ。
「でも、役立たずはいらないだろ」
それしか言えない柊也に、継は励ますように続ける。
「ちゃんと浄化できたんだから、君は役立たずじゃないでしょ。それに知らないだろうけど、そのブレスレット」
「これか?」
柊也は左腕を上げて、継に見せた。ブレスレットが夕日を眩しく反射する。
「そう。そのブレスレットには長い時間をかけて蓄積された大きな力が込められているんだ。誰の力かわかるかい?」
柊也が無言で首を横に振ると、継はしっかりとした口調でさらに言葉を紡いだ。
「それは君の力だ。君が持ってる力って思っている以上に大きいんだよ。だから君やブレスレットを悪用されると大変なことになる。それに力の使い方もわからないまま妖魔に食わせるわけにもいかないでしょ」
「そっか……」
とりあえず役立たずと思われていないようでよかった、と柊也の心がわずかに軽くなる。
継がそのようなことを考えていたことも知らなかった。ただ偶然出会って、適当に選ばれただけだと思っていたから。
何気なく継の顔を見上げると、目が合った。
「だから僕は君を守らなきゃ、って思って。まあ、他にも理由はないわけじゃないけどね」
「他の理由?」
さっぱりわからないとでも言いたげに、柊也は聞き返す。
「別に、君とずっと一緒にいたいなーって思っただけだよ」
継が意味深にわざとらしくウィンクしてみせると、
「うわ、それってプロポーズみたいで気色悪っ!」
一瞬で柊也が顔を真っ青にして、ソファーの端まで後ずさった。
「そうかもね」
継は楽しそうに笑いながら、いつもの可愛らしいマグカップを手にする。マグカップに口をつける直前、口元だけでそっと囁いた。
「……でも、初めて会った時に運命みたいなものを感じたのは、本当なんだよ」
「あ? 何か言ったか?」
座り直そうと、ちょうど背を向けていた柊也が振り返る。
「いいや、別に」
小さく微笑みながら、継は砂糖とミルクで真っ白になったコーヒーを口に含んだ。
柊也も同じように、すでに冷めてしまったマグカップを両手で大事そうに持つ。
「ふーん、まあいいか。アンタだけだと事務所が事務所じゃなくなるし、しばらくはいてやってもいいけどな。時給いいし」
そう言うと、一気にブラックコーヒーを飲み干し、顔を綻ばせたのだった。
【了】
だが、がっくりと肩を落とすことしかできなかった。
妖魔を浄化できたところまではいいが、まさかその後に倒れてしまうとは。本当に不甲斐ないとしか言いようがない。
そんな気まずい記憶しか蘇ってこないのは、まだまだ妖魔に対する知識や訓練が足りていない証拠だろう。
さらに申し訳ない気持ちになってしまい、柊也はうつむく。神妙な面持ちで静かに切り出した。
「でも……何で俺なんて雇ったんだよ。『祓い屋』としては足を引っ張るだけなのに。実際引っ張ったし」
柊也の台詞に、継は途端に真面目な表情になる。静かに瞼を伏せた。
「『なんて』とか自分を蔑むようなこと言わないの。……ただ、放っておけなかったんだよ。色んな意味で」
「色んなって何だよ。俺がまだ子供だからってことか?」
柊也がむっとしながら顔を上げ、わずかに頬を膨らませる。
高校生は世間一般から見ればまだ子供かもしれないが、はっきりと子供だと言われるのも何となく嫌なものである。
瞳を開いた継が、今度は机の上で両手を組んだ。
「それもまったくないわけじゃないけど、君は妖魔が見える。見えるってことは『祓い屋』としての特別な力があるってこと」
わかるよね、と穏やかに問われ、柊也は黙って頷く。
最初の頃に継から教わったことである。けれど、力があっても使いこなせないのでは意味がない。宝の持ち腐れもいいところだ。
「でも、役立たずはいらないだろ」
それしか言えない柊也に、継は励ますように続ける。
「ちゃんと浄化できたんだから、君は役立たずじゃないでしょ。それに知らないだろうけど、そのブレスレット」
「これか?」
柊也は左腕を上げて、継に見せた。ブレスレットが夕日を眩しく反射する。
「そう。そのブレスレットには長い時間をかけて蓄積された大きな力が込められているんだ。誰の力かわかるかい?」
柊也が無言で首を横に振ると、継はしっかりとした口調でさらに言葉を紡いだ。
「それは君の力だ。君が持ってる力って思っている以上に大きいんだよ。だから君やブレスレットを悪用されると大変なことになる。それに力の使い方もわからないまま妖魔に食わせるわけにもいかないでしょ」
「そっか……」
とりあえず役立たずと思われていないようでよかった、と柊也の心がわずかに軽くなる。
継がそのようなことを考えていたことも知らなかった。ただ偶然出会って、適当に選ばれただけだと思っていたから。
何気なく継の顔を見上げると、目が合った。
「だから僕は君を守らなきゃ、って思って。まあ、他にも理由はないわけじゃないけどね」
「他の理由?」
さっぱりわからないとでも言いたげに、柊也は聞き返す。
「別に、君とずっと一緒にいたいなーって思っただけだよ」
継が意味深にわざとらしくウィンクしてみせると、
「うわ、それってプロポーズみたいで気色悪っ!」
一瞬で柊也が顔を真っ青にして、ソファーの端まで後ずさった。
「そうかもね」
継は楽しそうに笑いながら、いつもの可愛らしいマグカップを手にする。マグカップに口をつける直前、口元だけでそっと囁いた。
「……でも、初めて会った時に運命みたいなものを感じたのは、本当なんだよ」
「あ? 何か言ったか?」
座り直そうと、ちょうど背を向けていた柊也が振り返る。
「いいや、別に」
小さく微笑みながら、継は砂糖とミルクで真っ白になったコーヒーを口に含んだ。
柊也も同じように、すでに冷めてしまったマグカップを両手で大事そうに持つ。
「ふーん、まあいいか。アンタだけだと事務所が事務所じゃなくなるし、しばらくはいてやってもいいけどな。時給いいし」
そう言うと、一気にブラックコーヒーを飲み干し、顔を綻ばせたのだった。
【了】
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