78 / 105
第三章 緑と黒――そして集まる五人
第78話 動き出した教団と緑色・2
しおりを挟む
木漏れ日の下、五人の会話はまだ続いている。
ここまでの話で、ノアがこちらの世界に召喚されている可能性があり、さらには最近できた怪しい教団と何らかの関係があるかもしれない、というところまではわかった。
草の上にあぐらをかき、腕を組んだ千紘がリリアの方へと顔を向ける。
「で、その教団とやらの名前は?」
「確か、ベテ……何とか教団って名前らしいけど」
問い掛けられたリリアは、ほんのわずかに考える素振りをみせた後、至って真面目な顔で曖昧な答えをよこした。
「その名前じゃヒントにもなんねーな」
まったく、と千紘が呆れたように肩を竦めると、
「私だってちゃんとした名前を聞いたわけじゃないもの」
リリアはそう言って頬を膨らませる。
このまま二人の間に険悪な空気が流れるのではないか、と思われた時である。
そんな様子を見かねたらしい秋斗が、やんわりと仲裁に入ってきた。
「まあまあ、そこは仕方ないんだから千紘もリリアも仲良くしような」
「……わかったよ」
秋斗の宥める声に、千紘は仕方ないとでも言いたげに小さく嘆息してから、改めて切り出す。
「とりあえず、そのベテ何とか教団ってやつとノアが本当に関係あるのかは、まだ確認してないんだよな?」
「か弱いあたしとリリアちゃんだけじゃ確認しに行くなんて無理よぉ。仮にあたし一人で動くにしたって、知らない異世界でなんてすごい不安じゃない? それが千紘ちゃんたちを呼んだ理由よ」
今度はリリアではなく、香介が答えた。
途端に千紘は引きつった笑顔を浮かべ、わざとらしく首を傾げる。そのまま香介に視線を投げた。
「俺たちを呼んだ理由はまだいいとして、か弱いって誰が?」
「あたしとリリアちゃんに決まってるじゃない」
「リリアは百歩譲るとしても、アンタのどこがか弱いって?」
まだ笑顔が引きつったままの千紘に対して、香介が動じる様子はどこにも見られない。
代わりというわけではないが、リリアがむっとした表情で千紘を睨みつけた。どうやら『百歩譲る』という部分が気に入らなかったようだ。
香介はマイペースを微塵も崩すことなく、とぼけたようにあっさりと言ってのける。
「え? 全部かしら?」
「俺や秋斗より腕相撲の強いやつがか弱いわけないだろ……」
これまで、千紘と秋斗が腕相撲で香介に勝てたことは一度もない。
そのことを振り返り、千紘は思わず頭を抱えた。
そこに、秋斗が苦笑しながら割り込んでくる。
「確かに千紘の言う通りだろうけど、今は置いといて話を戻そう、な?」
「そうねぇ。秋斗ちゃんの言葉もちょっと気になるけど、今はそんな話をしてる場合じゃないわよね」
「……」
秋斗の言葉に、香介が素直に従う。しかし、千紘は無言で渋々頷くことしかできなかった。
次には、これまでおとなしく千紘たちを見守っていた律がゆっくり口を開き、香介に改めて確認する。
「えっと、ノアさんと教団の繋がりはまだ確認できてないってことでいいんですよね?」
「さっきも言った通り、今はまだ確証はないわ。緑色のマントだからスターグリーンと関係あるとは限らないもの」
いくらグリーン繋がりとはいってもねぇ、と香介は神妙な面持ちで頬に手を当てる。
「安易には決めつけられないけど、偶然にしてはできすぎてる気もするし、教団との間に何らかの関係はあるかもしれないってことだよな」
ようやく気を取り直した千紘が、確認するように全員の顔を見回すと、皆が千紘に視線を向けしっかり頷いた。
「だったら、まずはそれをちゃんと確認してきた方がいいですよね」
「もし関係なければ、それはそれでいいし」
律と秋斗が真剣な表情で、一緒になって頷き合う。
「そういうことだな」
千紘も納得しながら、これからの行動について考えた。
とにかく、ノアをこの世界でずっと一人にしておくわけにはいかない。
教団とまったく関係がなければ、また違う手掛かりを探すしかないが、それはその時に考えればいいだろう。
今は教団を調べることに専念すべきだ。
「じゃ、リリア以外の四人で調べに行くってことでいいか?」
さすがにリリアを連れていくわけにはいかないだろう、と千紘が提案する。
こうなった原因はリリアの失敗のせいではあるが、仲間であるノアを助けに行くのは地球から来た自分たちだけで十分だ。
それに、ノアがこれからタフリ村に現れる可能性もまったくないわけではないので、事情を知っているリリアはこの村に残った方がきっといい。
千紘はそんなことを考えたのである。
「ああ、そうだな!」
「それでいいと思います」
「あたしたちがいない間、リリアちゃんはいい子でお留守番しててね」
「わかったわ」
全員がまたも揃って首を縦に振った。
リリアが香介に対してだけやけに素直なのが少し引っかかる千紘だが、きっと性格的に相性がよかったのだ、とそれ以上深く思考するのをあっさり放棄する。
考えるだけ無駄だろうし、今はノアのことで手一杯でそこまで考えるのも面倒だったのだ。
「よし、頑張って調べるか!」
秋斗がガッツポーズをしながら気合を入れる。
こうして、千紘たちスターレンジャーの四人は教団を調べに行くことになったのである。
ここまでの話で、ノアがこちらの世界に召喚されている可能性があり、さらには最近できた怪しい教団と何らかの関係があるかもしれない、というところまではわかった。
草の上にあぐらをかき、腕を組んだ千紘がリリアの方へと顔を向ける。
「で、その教団とやらの名前は?」
「確か、ベテ……何とか教団って名前らしいけど」
問い掛けられたリリアは、ほんのわずかに考える素振りをみせた後、至って真面目な顔で曖昧な答えをよこした。
「その名前じゃヒントにもなんねーな」
まったく、と千紘が呆れたように肩を竦めると、
「私だってちゃんとした名前を聞いたわけじゃないもの」
リリアはそう言って頬を膨らませる。
このまま二人の間に険悪な空気が流れるのではないか、と思われた時である。
そんな様子を見かねたらしい秋斗が、やんわりと仲裁に入ってきた。
「まあまあ、そこは仕方ないんだから千紘もリリアも仲良くしような」
「……わかったよ」
秋斗の宥める声に、千紘は仕方ないとでも言いたげに小さく嘆息してから、改めて切り出す。
「とりあえず、そのベテ何とか教団ってやつとノアが本当に関係あるのかは、まだ確認してないんだよな?」
「か弱いあたしとリリアちゃんだけじゃ確認しに行くなんて無理よぉ。仮にあたし一人で動くにしたって、知らない異世界でなんてすごい不安じゃない? それが千紘ちゃんたちを呼んだ理由よ」
今度はリリアではなく、香介が答えた。
途端に千紘は引きつった笑顔を浮かべ、わざとらしく首を傾げる。そのまま香介に視線を投げた。
「俺たちを呼んだ理由はまだいいとして、か弱いって誰が?」
「あたしとリリアちゃんに決まってるじゃない」
「リリアは百歩譲るとしても、アンタのどこがか弱いって?」
まだ笑顔が引きつったままの千紘に対して、香介が動じる様子はどこにも見られない。
代わりというわけではないが、リリアがむっとした表情で千紘を睨みつけた。どうやら『百歩譲る』という部分が気に入らなかったようだ。
香介はマイペースを微塵も崩すことなく、とぼけたようにあっさりと言ってのける。
「え? 全部かしら?」
「俺や秋斗より腕相撲の強いやつがか弱いわけないだろ……」
これまで、千紘と秋斗が腕相撲で香介に勝てたことは一度もない。
そのことを振り返り、千紘は思わず頭を抱えた。
そこに、秋斗が苦笑しながら割り込んでくる。
「確かに千紘の言う通りだろうけど、今は置いといて話を戻そう、な?」
「そうねぇ。秋斗ちゃんの言葉もちょっと気になるけど、今はそんな話をしてる場合じゃないわよね」
「……」
秋斗の言葉に、香介が素直に従う。しかし、千紘は無言で渋々頷くことしかできなかった。
次には、これまでおとなしく千紘たちを見守っていた律がゆっくり口を開き、香介に改めて確認する。
「えっと、ノアさんと教団の繋がりはまだ確認できてないってことでいいんですよね?」
「さっきも言った通り、今はまだ確証はないわ。緑色のマントだからスターグリーンと関係あるとは限らないもの」
いくらグリーン繋がりとはいってもねぇ、と香介は神妙な面持ちで頬に手を当てる。
「安易には決めつけられないけど、偶然にしてはできすぎてる気もするし、教団との間に何らかの関係はあるかもしれないってことだよな」
ようやく気を取り直した千紘が、確認するように全員の顔を見回すと、皆が千紘に視線を向けしっかり頷いた。
「だったら、まずはそれをちゃんと確認してきた方がいいですよね」
「もし関係なければ、それはそれでいいし」
律と秋斗が真剣な表情で、一緒になって頷き合う。
「そういうことだな」
千紘も納得しながら、これからの行動について考えた。
とにかく、ノアをこの世界でずっと一人にしておくわけにはいかない。
教団とまったく関係がなければ、また違う手掛かりを探すしかないが、それはその時に考えればいいだろう。
今は教団を調べることに専念すべきだ。
「じゃ、リリア以外の四人で調べに行くってことでいいか?」
さすがにリリアを連れていくわけにはいかないだろう、と千紘が提案する。
こうなった原因はリリアの失敗のせいではあるが、仲間であるノアを助けに行くのは地球から来た自分たちだけで十分だ。
それに、ノアがこれからタフリ村に現れる可能性もまったくないわけではないので、事情を知っているリリアはこの村に残った方がきっといい。
千紘はそんなことを考えたのである。
「ああ、そうだな!」
「それでいいと思います」
「あたしたちがいない間、リリアちゃんはいい子でお留守番しててね」
「わかったわ」
全員がまたも揃って首を縦に振った。
リリアが香介に対してだけやけに素直なのが少し引っかかる千紘だが、きっと性格的に相性がよかったのだ、とそれ以上深く思考するのをあっさり放棄する。
考えるだけ無駄だろうし、今はノアのことで手一杯でそこまで考えるのも面倒だったのだ。
「よし、頑張って調べるか!」
秋斗がガッツポーズをしながら気合を入れる。
こうして、千紘たちスターレンジャーの四人は教団を調べに行くことになったのである。
0
あなたにおすすめの小説
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる