私と君の永遠の物語

英華

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再び

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ノエルとの出会いから数日経ち、レイナはある街を訪れていた。
街中を歩いていると、久しぶりに見る人間の姿が見えた。しかし、賑わう声は全く聞こえない。レイナは抱えていたパンが入った袋を少し強く抱きしめた。
 そんな時、遠くから爆発音と悲鳴が響き渡り辺りがざわめいた。
爆発音が聞こえた方から何人にも人が逃げてきた中、女がレイナの前で躓き転びそうになったのを助けると、女はレイナを涙を浮かべた瞳で見つめた。

「あ、ありがとうございます...!」
「いや、礼はいい。それより何があった」
「く、黒い翼を生やした男が突然現れて...!!」
「っ、黒い翼の生えた男...」
「あなたも早く逃げた方が!」
「ああ、だが私にはやるべき事があるんだ。お前は早く逃げろ」
「...は、はい!」

レイナの言葉で走り出した女の背が遠ざかると、レイナは表情を引き締め爆発したため炎が立ち上る方へ歩き出した。

ー  私を追ってきたということは、あいつは...

逃げ惑う人たちがレイナを避けながら進んでいく。恐怖に歪む表情がレイナの目にははっきりと映っていた。
前へ進む足が無意識のうちに速くなっていた。
爆発の炎が立ち上がる中、そこには男が一人立っていた。背には黒い翼、不気味に笑みを浮かべる口元。そこからすぐにわかる。

「...やはりお前か...。なんでここまで運がないんだろうな」

ため息混じりに呟いたレイナの前にいる男は、ノエルの屋敷で襲ってきた吸血鬼の男だった。

「俺はそんなことありませんよ?またあなたの悲しみに歪む顔が見れると思うとゾクゾクします」
「腐ってるな、ほんとに」
「あなたもだいぶだと思いますが」
「っ、黙れ!」

レイナが片手に剣を召喚すると、地面に突き刺し肩膝を地につけゆっくりと目を閉じた。

「お前との戦いを長引かせると厄介だからな、さっさと終わらせてもらう」

地面に突き刺した剣を中心に、ペガサスが綴られた紋章が浮かび上がってきた。
そこから煙が立ち上りレイナの姿が消えていった。

「目くらまし...?いや、これは...」

レイナの周りを囲む大きな影がゆらりと動くのが見えた。その影が見えた瞬間、男の表情が険しくなり右手に剣を召喚した。
辺りを風が吹き抜け、煙が消えそうになるとレイナの口元が見え、笑みが浮かべられていた。

「私はお前にお返しをしなければならない...。あいつのお返しをな!!」

レイナが手を横に勢いよく振ると、周りの煙がすべて消え大きな影の正体が見えた。

「大地を轟かせ!大地に吠えろ!タイガーっ!」

レイナが叫ぶと、レイナの何十倍もの大きなタイガーが唸りを上げた。

「夜叉が得意とする技を出してくるとは思いもよりませんでした」
「今の私をお前は止めることなどできない」

レイナが口に親指と人差し指を当てると指笛を鳴らした。すると、それに反応するようにタイガーが勢い良く走り出した。
男は目の前にまで迫ったタイガーがかぶりつこうとしたのを見て、男は剣で抑えた。だが、力で勝てないとわかったのか右足でタイガーの足を蹴り上げると、飛び上がり、剣を振り下ろそうとしたが、それをタイガーが尻尾で振り払った。

「くっ...!」

男は地面に叩きつけられる前に姿勢を変え、剣を地面に刺し、家に当たるギリギリで止めた。
男は顔を伏せた状態で立ち上がり服についた砂を払い、タイガーを睨みあげた。

「この俺に膝をつかせたなっ...!」

口調が変わり、男がタイガーに向かって手のひらを向けそこから光を放った。
一つだった光はいくつにも分かれ、勢いがつきタイガーめがけて飛んできた。

「タイガー!下がれっ!」

レイナは剣を離し、親指を噛み血を流すとその手を地面につけ、タイガーが下がったのを確認するともう一度叫んだ。

「揺らげ、かの者の盾となる大地よ!」

レイナの声で大地は揺れ、地面が浮き上がりタイガーの前で盾となり光を食い止めた。

「...」

光をすべて食い止めた大地は崩れていった。
崩れていった大地の隙間から、男の不気味に笑う顔が見えた。

「俺に与えた屈辱はこの程度では終わりませんよ」

男が光を放った方の手を空へ向け、下がったタイガーの上に何千もの剣を召喚させた。

「その召喚獣の弱点は簡単に見つけられました。なので、その弱点を狙わせていただきますね」

言い、男が腕を下げると、空へ浮いた剣が一直線にタイガーへと降り注いだ。

「くそっ!タイガーその場を動くなよ!」

レイナは叫ぶと右手を降り注いでいる剣に向け、レイナも手元に何千もの剣を召喚した。
しかし、その剣の本数を見て、レイナは舌打ちをしながらもそれを放つと同じタイミングで走り出した。

「あなたはずっと使命に縛られているのですね」
「縛られている?馬鹿なことを言うな、私はとうに使命を捨てた」
「それならなぜそんなにも必死に戦うのですか」

そう、レイナは言葉とは真逆に必死になってタイガーを助けようとしていた。男は少し苛立ったのか、レイナに手のひらを向けた。

「あなたに似合う顔はそんな顔ではないですよ」

男は手のひらにまた光を集めると、レイナに向かって放った。光はさっきの光と同様に何個にも分かれてレイナに向かってきた。

「っ、」

さすがに動いたままではどうにもできないと思ったのか足を止め、レイナが一本の剣を召喚した。
今まで剣とは違う。柄の部分に桜の模様が入った剣。その剣は召喚したときに桜が1枚舞い落ちた。
そしてその剣を一振りすると、1枚だった桜の花びらが増え、渦を巻いて広がり出した。

「一の太刀、桜の舞」

桜の渦は光を飲み込みゆっくりと散っていった。
花びらが少し舞う中、タイガーの背に近づいた剣の刃が光った。

「またあなたは何かを失う」

男の言葉にレイナの脳裏に過去が蘇る。
笑い合う2人、共に見た1本の虹色の桜の木、そして2度と目を開くことない者を抱きしめ涙を流したあの時が...。

「失う...」

すべてが無となったあの時と同じようになる。そう感じた瞬間、レイナの体が震え出した。

「やはりあなたは人を愛していたのですね」
「...ちがう。人を愛していたのは私ではない、あいつだった。だか守ろうとしたんだ。だが、人は私たちを裏切った」
「...」
「いや、裏切ったのは私なのかもしれない...」

静かに呟かれた声が、タイガーの背に突き刺さりそうになっていた剣が弾かれる音でかき消された。

「っ、誰...」

タイガーの背を見上げたレイナが、凛と立つ相手を驚いたように見つめた。

「なんで、お前が...」

光があたり、影になっていたがその影が消え姿がはっきりと見えるようになると白髪の髪が見えた。

「ノエル...」

ノエルはレイナを見下ろし、優しく微笑んだ。その姿があまりにも過去の人と重なった。
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