私と君の永遠の物語

英華

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兄弟の絆

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【パチンっ!】

「兄、様...」
「なぜ俺を一番に守らなかった」
「...申し訳ありません」

ノエルは剣を鞘に収め、頭を下げた。周りにいた兵たちは目を背けることしか出来なかった。
ジャンは言葉を止めることなどせず、怒りを纏った瞳でノエルを見下ろしていた。

「兵はこの国の民だ。民は俺たちに守られて生きてきた。だから今度は、民である兵がこの俺を守るべきだった。もちろん...」

ジャンはノエルの胸ぐらを掴みあげると、ノエルをまっすぐ睨みつけた。

「お前もだ」

冷えきった目に睨まれ、一瞬ひるみそうになったが、意を決したようにジャンを見つめ返した。

「兄様、民は命をかけてここに集まってくれています。俺達もそれに答えるべきなのではないのでしょうか!」
「黙れっ!そんな事は弱者がすることだ!」
「ですが...」
「口答えするつもりか?」

ジャンはノエルを胸ぐらを掴んでいた手で突き放すと、ノエルは足元がふらつき倒れそうになったが、それを後ろに立っていたレイナが支えた。

「す、すいません...」
「いや、大丈夫か?」
「はい...」

気力を失った瞳がレイナに向けられ、レイナが少し寂しげな表情を見せた。が、すぐに表情が変わりジャンの方を見た。

「王家もだいぶ落ちたものだな」
「なんだと?」
「民を守ってきたから自分が民に守られてあたりまえだとでも思っているのか」
「民は王家あってこそだ。王家である俺を守れるなら、民も誇らしいだろ?」
「...ふざけるなよ」

レイナはノエルの腰に下げていた剣を軽やかに抜き、ジャンに素早く近寄り、首元に刃を当てた。ノエルが近づくよりも早く、レイナがグッと顔を寄せて口元に笑みを浮かべた。

「お前にはこの街がどう映っている」
「っ、」
「この街の空気は冷たく、笑い声すら聞こえない。それなのに守ってきた?ふざけたことを言うなよ!民あってこその王家だ。民をただの兵だと思っているお前には一生理解出来ないことだろうがな」

レイナはすべてを言い終えると離れ、ノエルに剣を返し歩き去ろうとしたが、それをジャンの声が止めた。

「お前に何がわかる...、人の上に立つという事は何かを犠牲にしなければならない」
「だから民を犠牲にした?違うだろ、民と力を合わせることが大事なんだ」
「民と力を...?」
「民はお前たちを守るためにここに集まったんだろ?なら、ここにいる者たちを見ろ。誰を犠牲にしていい?」

ジャンがレイナの言葉で辺りを見渡した。兵一人一人の顔を見る。誰1人として諦めた目をしていなかった。
見たらすぐにわかる。この者たちを犠牲にすることなどできないと。

「...わかっただろ?民のあるべき姿が」
「黙れ...黙れっ!!そんなことわかっておった。だが、この街を支えるには他に方法がなかったんだ...」
「ジャン兄様...」
「だから俺はっ...」
「わかっているじゃないか」
「え...」

レイナは視線をジャンに戻すと真っ直ぐ瞳を見つめ直し、口を開いた。

「子と親がなぜ共にいるかわかるか?」
「なぜって...」

困惑した表情を見せたジャンにレイナは軽く笑った。「だろうな」とでも言っているかのような笑いに、ジャンは顔を赤くした。

「あたりまえのことだからわからないだろ、それはそうだ。人はあたりまえを考える事はしない。だが、1人1人のあたりまえは違う」

レイナはしゃべりながら歩を進めた。
思わず後ろへ下がってしまい、下に落ちていた石に躓き転びそうになってしまったが、それを兵が支えた。

「周りを見ろ、お前の周りには多くの民がいる。仲間が、家族がいるだろ。1人で為せぬことは、皆を頼れ。それが必ずお前の糧となる」

ジャンの前に立ったレイナがジャンの腰に下げてある剣に触れた。

「王からこれを授かったとき、お前は思ったはずだ。ここの民を守りたいと...。だからそれを受け取ったんだろ、だからここの街が心配で外にいたんだろ」
「なんで知って...」
「寝ていたとしても近くにいた者の気配ぐらいはわかるものだ」
「...お前のようなやつだったら、この街をこんな事にすることはなかったのかもしれないな...」
「そんなことはない。お前はこの街を大切に思っているんだろ」
「そう思っていたが俺はこの街を見捨てたも同然だ...」
「そんなことありません!!兄様が苦労していること俺は知っています!」
「ノエル...」
「いつも夜な夜な屋敷を出て見回りをしていることも知っています。だからそんなこと...言わないでください...」

離れた位置にいたノエルが駆け寄り涙目で見上げた。この光景はただの兄弟の姿でしかなかった。王家など関係の無い。兄弟の絆がそこにあった。
ジャンはノエルに手を伸ばしたが、その手は迷うように空中をさまよっていたが、レイナがその手を掴みノエルの頭に乗せた。

「己の心を隠すことこそほんとの弱者だ。だなら心が思うままに進めばいい。そして今はただの兄としていてやれ、ただの兄として抱きしめてやれ」
「っ、」

レイナの言葉にジャンはためらいながらもノエルを抱きしめた。ぎこちない触れ方がどこか心地さそうにノエルはジャンの胸で笑った。

「笑顔...」

レイナは聞こえない程の小さな声で呟き、背を向けると扉の方へ歩き出した。
なにかに耐えるように口を固く閉じていると、後ろから右手の手首をつかまれた。

「待ってください!」
「なんだ」

手が離れ、レイナが振り返るとノエルは少し息を吸い、勢いよく頭を下げた。

「俺たちのためにここまでやってもらってありがとうございました」
「俺からも礼を言う」

ノエルとジャンの言葉で周りにいた兵が全員頭を下げた。
その様子をレイナは驚いたように見つめた後、元の冷静な表情に戻り、また背を向けた。

「礼を言われる筋合いはない。私は...」

顔だけノエルたちの方へ向けると、レイナは口元に笑みを浮かべて言った。

「この世界を壊した張本人なんだからな」
「えっ...」
「どういうことだ、それは...」
「...さあな」

話をそらすようにレイナは歩を進めた。その背は悲しみと寂しさで溺れているように見えた。
レイナはそのまま振り返ることなく去っていった。その後ろ姿を見つめ、ノエルが口を開いた。

「ジャン兄様」
「...言いたいことはわかっている。だが火を改めろ」
「はい!」

ノエルは明るく頷くと、レイナの後ろ姿を目に焼きつけるように見つめ続けた。
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