徳島第一高校ゼンタイ部

まとらまじゅつ

文字の大きさ
6 / 13

ACT.5

しおりを挟む
 日曜の午後、薄曇りの空。
 人通りの少ない住宅街の裏道。
 春の風はまだ少し冷たく、地面には昨日の雨で黒く湿った落ち葉が散っていた。

「るな、首もファスナーしめて。空気が入っちゃうと膨らむからね」

「ん……オッケー……よいしょ……できた!」

 その道の端を、ふたりの少女が並んで歩いていた。

 姉・いつきは白みがかったグレージュのフルゼンタイ。
 るなは子供用の淡ピンクのゼンタイ。どちらも顔まで被っているが、目元と口元はうっすらと透けるように加工されていた。

 ——あくまで“散歩用ゼンタイ”。

 人目を避けるというより、風と布の感覚を楽しむための、包まれる服。

 「るな、どう?歩きづらくない?」

 「ううん、平気……あったかいね、これ。風が通らないのに、風を感じるの……へんなの……」

 顔を包む布越しに聞こえる妹の声は、どこか遠くから届いてくるようだった。
 ゼンタイを着たまま話すと、声がこもり、やさしく響く。言葉の輪郭が丸くなる。

 「ねぇ……なんでこんなに落ち着くの?」

 「うん……たぶん、皮膚の“外側”が消えるからじゃないかな。
  風も、音も、世界の触り方が変わるでしょ?」

 るなは何かを思い出すように小さく頷いた。

 「これってさ……お腹の中にいた時と似てるのかな……?」

 いつきは足を止めた。妹の言葉が、深く響いた。

 「……そうかも。私たち、いちど全部を包まれて、そこから出てきたんだもんね」

 ふたりは並んで公園の芝生に腰を下ろした。
 他に誰もいない、閑散とした午後の公園。

 ゼンタイの布が芝に擦れる音。
 そよ風がゼンタイの背中を撫でていく感触。
 目を閉じれば、世界がやさしく包まれていることを、全身の布で感じ取れた。

 「……お姉ちゃん、もし将来、私もゼンタイ部入ったらさ、またこうして散歩しようね」

 「うん。何回でも。
 それに、そのときは私が部長かも」

 るなはくすくす笑って、姉の肩にもたれた。
 ゼンタイ同士の肩と肩が、ふにゅ、と潰れ合う感触。
 ふたりの頭のなかに、まるで言葉の代わりの“柔らかな音”が流れていた。

 帰り道、るながふと尋ねた。

 「お姉ちゃん……あのね、もし赤ちゃんがゼンタイ着たら、どうなると思う?」

 「……きっと、安心すると思うよ。
  だって、私たちも、産まれる前はずっと包まれてたんだもん。
  包まれるって、やっぱり——」

 「“ここにいていい”ってこと?」

 その言葉に、いつきはそっと手をつないだ。

 夜。
 るなが寝た後、いつきは一人でゼンタイを撫でていた。

 机の上には、優子先生から渡された**“胎児ゼンタイ”の布片**。
 わずか十センチ四方の布。でもその薄さと柔らかさは、記憶のようだった。

 それをそっと額に当て、目を閉じる。
 浮かぶのは、白く柔らかい布の中を歩いたあの時間。

 ——人目のない場所で、言葉も持たず、妹と並んで歩いたあの風の匂い。

 彼女はその布を、日記帳のページに挟み、こう記した。

「今日、るなと歩いた。風の音が、布で丸くなった。
 顔がないのに、隣に誰がいるかすぐわかった。
 私たち、たぶんまだお腹の中にいる。
 でもそれでいい。そういう時間が、今の私を作ってる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...