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第1章 胎動編
ACT.2 練習バトル
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朝焼けが赤城の稜線を朱に染め上げる。 ワンエイティに乗り込んだおれと六荒。背後には智姉さんのR35── 刹那、ワンエイティが赤城を裂くように弾けた。 最初の5連ヘアピン。練習とは思えない、火花を散らすようなバトルが始まった。
1つ目のヘアピン。突っ込みはおれのほうが鋭い。だが、R35はまるで意志を持った獣のように、ギリギリまでフェンダーを押し付けてくる。
「……何だよ、あの切れ味……。さすが智ってワケかよ」
……余裕すぎる。あの重さであの切れ味、まるで重力を無視してるみたいだ──怖い。
(……伝説ってのは、冗談じゃなかったのかよ……!)」
3つ目のヘアピン。
──そのカーブのすぐ外側、誰にも気づかれないように二人の影が潜んでいた。
「切れ味はあるけど……牙が足りねーぜ」と、茶髪の女は呟いた。「──悪くない」と、黒髪の女は静かに頷いた。 焦るおれに追い打ちをかけるように、智姉さんは2つ目のヘアピンでさらに距離を詰めてきた。
「……負けられない!」そう呟いた瞬間、4つ目のヘアピンへ飛び込む決意が固まった。
「突っ込みじゃ、勝てない……なら、出すしかない……! 〈コンパクト・メテオ〉ッ!」
赤のワンエイティが吐き出すオーラは、火を噛んだ導火線。走るたびに閃き、消え、また灯り、やがて閃光へと変わっていく。 それは“技”ではない。“祈り”に近かった。走る意思が、そのまま閃光になって放たれていく──
智姉さんよりかなり遅れて、資料館前の駐車場に辿り着いた。
「待ってたぞ、オオサキ、六荒。」
「手加減したって言ってたのに、あれじゃあ……勝てるわけないですよ!」
必死に走り抜けたおれは、顔を真っ赤にしながら息を切らしていた。その悔しさに、思わずため息が漏れる。 隣を見ると、六荒がシートにもたれるようにして目を閉じている。覚醒技の影響だろうか?彼の額には汗が滲んでいた。 智姉さんが心配する。
「……大丈夫か、六荒?」
彼がゆっくりと顔を上げると、智姉さんは一瞬だけ不安げな瞳を向けた。 だがすぐに、口元だけで笑って、さらりと言った。
「確かに本気では走っていないが、オオサキを離してしまったな。」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。まだまだだが、次はもっと追いついてみせる。 六荒が少し不安そうに提案した。
「ダウンヒルではハンデをつけて走ってみるか?」
智姉さんは腕組みをしながら答える。
「よし、1分先行しよう。それだけの差を、お前たちが追えるかどうかだ」
「1分……か」 拳を握りしめる俺の隣で、六荒が小さく喉を鳴らす。その音が、余計にプレッシャーを煽る。 智姉さんが時計をちらりと見る。
「じゃあ、10分休憩だ。それから始めよう。」
おれたちは車から降り、それぞれペットボトルの水を飲みながら黙り込んだ。山の静けさの中で、次の挑戦への緊張がじわじわと高まっていく。
おれたちは再びそれぞれのクルマに乗り込み、スタートラインの前に並んだ。
「行くよ、ワンエイティ!」
アクセルを踏み込み、長い直線を稜線を斬り走る。次のコーナーに向かって、目の前の景色が変わり始めた。
『まだ使うな……』
心の中で自分に言い聞かせる。……まだ早い。今出しても、意味がない。 第2高速区間に入ると、タイヤが路面を掴む音が耳に響き、全身が緊張で固まる。 低音のエンジン音が背後から近づいてきた。振り返るまでもなく、それが智姉さんのR35だと分かる。
「……背後の音、嘘だろ……もう来てる……?」
コーナーごとに迫りくるプレッシャーに、胸の奥がギュッと締め付けられる。負けたくない。でも、どうすれば……。 最後の5連曲線に突入する。後ろのガードレール脇、ふたりの影がじっとこちらを見ていた──そんな気がした。
「コーナーで離すよ! イケイケイケイケェー!」
必死にドリフトを決めるが、迫りくるR35はまるで獲物を狙う猛獣のように容赦がない。
「この一瞬しかない……!」 ワンエイティが、夜空を裂くような閃光の弧を描く。 それは“技”というより、意思を持った一閃──〈コンパクト・メテオ〉。
車体の後輪が閃光のようなオーラを残しながら、山肌を切り裂くように滑った。しかし、それでも智姉さんは追いついてきた。 焦りが足を縛る。右足の踏み込みが、ほんの一瞬だけ遅れた。
「その逃げ脚、悪くなかったぞ。でも──あと十手、足りないな。追いついてこい、オオサキ。」
もう一度──魂ごと火を点ける、あの技を。その瞬間、智姉さんのR35はおれのワンエイティを追い越し、視界から消えていった。 ゴールに着く頃には、全身が疲労で重くなり、ステアを握る指先が、じわりと汗に滲んでいく。
「智姉さん、速すぎです……」
『負けたくない』という思いを胸に秘めながら、次こそは追いついてみせると誓った。
「また私の勝ちか。……本気で来るのは、まだ先か」
「……それ余裕ですよね」
智姉さんの軽口に、悔しさが倍増する。でも、口答えするよりも次は絶対に勝つと心に誓うしかなかった。
「さぁ帰ろう。朝日が昇ってきた。帰ったら朝ごはんだな」
智姉さんが指差した先、山の稜線が金色に光っていた。
「六荒も来い。」
「はい!」
六荒はがばっと上体を起こし、寝癖のついた髪を振り払うようにしながら、笑顔で応じた。
「……俺も、一緒に行っていいか?」一拍の沈黙。智姉さんはふっと目を細めて笑う。「もちろんだ。勝負のあとは、腹を満たして、次の戦に備えるもんだろ?」
それだけの言葉なのに、胸がきゅっとなる。 何度抜かれても、何度追いつかれても──この人と並びたいと、また思ってしまった。 おれたちはクルマに乗り込み、和食さいとうへ向かった。朝焼けに滲む街の輪郭。その先に、おれを待つ挑戦者がいる気がした。……いいさ。誰が来ようと、受けて立つ。走りこそが、おれの声であり、誓いであり、存在そのものだから。
3つ目のヘアピン。 茶髪の長髪を揺らす背の高い女と、右目を黒い前髪で隠した冷静な瞳を持つ女。彼女たちの周囲には、得体の知れない威圧感が漂っていた。
「斎藤智のドリフト、どうだった?」
茶髪の女が目を輝かせる。
「……綺麗だったな。あれが本物の技術だ。」
黒髪の女が短く答える。 二人はオオサキと智の練習を見ていたらしい。その会話の端々から、斎藤智に対する深い理解が窺える。
「あの加速と音……RB26か? まさかワンエイティに?」
「走りも悪くなかった。だが、智に敵うほどではない。」
冷静な言葉とは裏腹に、黒髪の女の目はどこか鋭さを帯びている。
茶髪の女が続ける。
「でも、オーラはあったぜ。あの子、まだ伸びしろがあるんじゃないか?」
黒髪の女が肩をすくめる。
「……あいつ、走行会に出すつもりか? ま、いいけど……まだ正直、未知数だな」 やがて、彼女は自分の手のひらを見つめる。そこからわずかに青と黄色のオーラが立ち上り、風に揺れる。
「覚醒技がすべてじゃない。魂ごと、車と一緒に光る──そういう子もいるんだ」
黒髪の女は言葉の代わりに、肩越しに見せた背中──そこには、黒い影がかすかに揺れていた。
「……なら、試してみるといい。オレたちが判断してやる。」
二人は静かに微笑み合い、その目は次のドリフト走行会を期待しているかのようだった。
1つ目のヘアピン。突っ込みはおれのほうが鋭い。だが、R35はまるで意志を持った獣のように、ギリギリまでフェンダーを押し付けてくる。
「……何だよ、あの切れ味……。さすが智ってワケかよ」
……余裕すぎる。あの重さであの切れ味、まるで重力を無視してるみたいだ──怖い。
(……伝説ってのは、冗談じゃなかったのかよ……!)」
3つ目のヘアピン。
──そのカーブのすぐ外側、誰にも気づかれないように二人の影が潜んでいた。
「切れ味はあるけど……牙が足りねーぜ」と、茶髪の女は呟いた。「──悪くない」と、黒髪の女は静かに頷いた。 焦るおれに追い打ちをかけるように、智姉さんは2つ目のヘアピンでさらに距離を詰めてきた。
「……負けられない!」そう呟いた瞬間、4つ目のヘアピンへ飛び込む決意が固まった。
「突っ込みじゃ、勝てない……なら、出すしかない……! 〈コンパクト・メテオ〉ッ!」
赤のワンエイティが吐き出すオーラは、火を噛んだ導火線。走るたびに閃き、消え、また灯り、やがて閃光へと変わっていく。 それは“技”ではない。“祈り”に近かった。走る意思が、そのまま閃光になって放たれていく──
智姉さんよりかなり遅れて、資料館前の駐車場に辿り着いた。
「待ってたぞ、オオサキ、六荒。」
「手加減したって言ってたのに、あれじゃあ……勝てるわけないですよ!」
必死に走り抜けたおれは、顔を真っ赤にしながら息を切らしていた。その悔しさに、思わずため息が漏れる。 隣を見ると、六荒がシートにもたれるようにして目を閉じている。覚醒技の影響だろうか?彼の額には汗が滲んでいた。 智姉さんが心配する。
「……大丈夫か、六荒?」
彼がゆっくりと顔を上げると、智姉さんは一瞬だけ不安げな瞳を向けた。 だがすぐに、口元だけで笑って、さらりと言った。
「確かに本気では走っていないが、オオサキを離してしまったな。」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。まだまだだが、次はもっと追いついてみせる。 六荒が少し不安そうに提案した。
「ダウンヒルではハンデをつけて走ってみるか?」
智姉さんは腕組みをしながら答える。
「よし、1分先行しよう。それだけの差を、お前たちが追えるかどうかだ」
「1分……か」 拳を握りしめる俺の隣で、六荒が小さく喉を鳴らす。その音が、余計にプレッシャーを煽る。 智姉さんが時計をちらりと見る。
「じゃあ、10分休憩だ。それから始めよう。」
おれたちは車から降り、それぞれペットボトルの水を飲みながら黙り込んだ。山の静けさの中で、次の挑戦への緊張がじわじわと高まっていく。
おれたちは再びそれぞれのクルマに乗り込み、スタートラインの前に並んだ。
「行くよ、ワンエイティ!」
アクセルを踏み込み、長い直線を稜線を斬り走る。次のコーナーに向かって、目の前の景色が変わり始めた。
『まだ使うな……』
心の中で自分に言い聞かせる。……まだ早い。今出しても、意味がない。 第2高速区間に入ると、タイヤが路面を掴む音が耳に響き、全身が緊張で固まる。 低音のエンジン音が背後から近づいてきた。振り返るまでもなく、それが智姉さんのR35だと分かる。
「……背後の音、嘘だろ……もう来てる……?」
コーナーごとに迫りくるプレッシャーに、胸の奥がギュッと締め付けられる。負けたくない。でも、どうすれば……。 最後の5連曲線に突入する。後ろのガードレール脇、ふたりの影がじっとこちらを見ていた──そんな気がした。
「コーナーで離すよ! イケイケイケイケェー!」
必死にドリフトを決めるが、迫りくるR35はまるで獲物を狙う猛獣のように容赦がない。
「この一瞬しかない……!」 ワンエイティが、夜空を裂くような閃光の弧を描く。 それは“技”というより、意思を持った一閃──〈コンパクト・メテオ〉。
車体の後輪が閃光のようなオーラを残しながら、山肌を切り裂くように滑った。しかし、それでも智姉さんは追いついてきた。 焦りが足を縛る。右足の踏み込みが、ほんの一瞬だけ遅れた。
「その逃げ脚、悪くなかったぞ。でも──あと十手、足りないな。追いついてこい、オオサキ。」
もう一度──魂ごと火を点ける、あの技を。その瞬間、智姉さんのR35はおれのワンエイティを追い越し、視界から消えていった。 ゴールに着く頃には、全身が疲労で重くなり、ステアを握る指先が、じわりと汗に滲んでいく。
「智姉さん、速すぎです……」
『負けたくない』という思いを胸に秘めながら、次こそは追いついてみせると誓った。
「また私の勝ちか。……本気で来るのは、まだ先か」
「……それ余裕ですよね」
智姉さんの軽口に、悔しさが倍増する。でも、口答えするよりも次は絶対に勝つと心に誓うしかなかった。
「さぁ帰ろう。朝日が昇ってきた。帰ったら朝ごはんだな」
智姉さんが指差した先、山の稜線が金色に光っていた。
「六荒も来い。」
「はい!」
六荒はがばっと上体を起こし、寝癖のついた髪を振り払うようにしながら、笑顔で応じた。
「……俺も、一緒に行っていいか?」一拍の沈黙。智姉さんはふっと目を細めて笑う。「もちろんだ。勝負のあとは、腹を満たして、次の戦に備えるもんだろ?」
それだけの言葉なのに、胸がきゅっとなる。 何度抜かれても、何度追いつかれても──この人と並びたいと、また思ってしまった。 おれたちはクルマに乗り込み、和食さいとうへ向かった。朝焼けに滲む街の輪郭。その先に、おれを待つ挑戦者がいる気がした。……いいさ。誰が来ようと、受けて立つ。走りこそが、おれの声であり、誓いであり、存在そのものだから。
3つ目のヘアピン。 茶髪の長髪を揺らす背の高い女と、右目を黒い前髪で隠した冷静な瞳を持つ女。彼女たちの周囲には、得体の知れない威圧感が漂っていた。
「斎藤智のドリフト、どうだった?」
茶髪の女が目を輝かせる。
「……綺麗だったな。あれが本物の技術だ。」
黒髪の女が短く答える。 二人はオオサキと智の練習を見ていたらしい。その会話の端々から、斎藤智に対する深い理解が窺える。
「あの加速と音……RB26か? まさかワンエイティに?」
「走りも悪くなかった。だが、智に敵うほどではない。」
冷静な言葉とは裏腹に、黒髪の女の目はどこか鋭さを帯びている。
茶髪の女が続ける。
「でも、オーラはあったぜ。あの子、まだ伸びしろがあるんじゃないか?」
黒髪の女が肩をすくめる。
「……あいつ、走行会に出すつもりか? ま、いいけど……まだ正直、未知数だな」 やがて、彼女は自分の手のひらを見つめる。そこからわずかに青と黄色のオーラが立ち上り、風に揺れる。
「覚醒技がすべてじゃない。魂ごと、車と一緒に光る──そういう子もいるんだ」
黒髪の女は言葉の代わりに、肩越しに見せた背中──そこには、黒い影がかすかに揺れていた。
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