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第3章 戸沢編
ACT.14 FFとFR
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4月10日、金曜日の朝 ― 葛西家
葛西家の食卓には湯気が立ち、四人の息遣いが静かに混ざっていた。
最初に口を開いたのは長女・サクラだった。
箸を置き、ぼそりと言う。
「明日、大崎翔子が戸沢龍と走るらしい」
母のウメが頬杖をつきながら、苦い笑みを浮かべた。
「柳田マリアを倒したばかりで、次は戸沢龍……ほんとにトップ2狙いね、あの子」
次女ヒマワリがすぐ反応する。
「昨日さ、大崎翔子の仲間がC33で挑んで負けたって聞いたぞ。でも覚醒技めっちゃ強いんだろ? それに勝つって……戸沢ってマジで化け物だな」
三女モミジは黙って聞いていたが、目だけが鋭かった。
他人の癖を瞬時に読む、あの独特の洞察が始まっている。
「……柳田のときとは違って、今回はダウンヒルだね」
サクラが小さくうなずく。
「そうだ。けど……なんか嫌な予感がする」
モミジがスッと顔を上げた。
「ねえ。オオサキの能力って、何なんだろう」
食卓の空気が一瞬止まる。
ヒマワリが笑って肩を叩く。
「やっぱり頭いいなぁ、モミジは。16歳で大学卒業は伊達じゃあない」
「オレは高校中退したけどね」
なぜか誇らしげに胸を張る。
サクラは腕を組んだ。
「大崎翔子が戸沢と決着つけたら……オレもリベンジする。その前に、お前らにも走らせたい。“根っこ”は今のうちに叩き込む」
「ボクが先でいいよ」
モミジが淡々と言う。
「スーチャー310馬力のアルテッツァ。駆け引きで勝てる」
「じゃ、オレはSW20だな。3S-GTEの350馬力! 覚醒技全部使って、サクラ姉ちゃんの仇を取ってくる!」
三姉妹の眼に同時に火が灯った。
「母さん、オレら赤城行ってくる」
「赤城道路に?」
ウメの声が少しだけ強張る。
「斎藤智と大崎翔子が……毎朝走ってる」
「……あの二人、本当に好きねぇ」
3人はそのまま愛車へ向かった。
朝靄の赤城。
人影はほとんどない。
おれ(翔子)のワンエイティと、六荒のヴィッツが先行する。
背後には、智姉さんのR35が迫っていた。
「速い! これ、抜く気か!」
(さては智……本気出したな)
六荒が心で呟くまでもなく――
最後の直線で、R35が弾丸のように抜き去った。
「ちっ……やっぱ抜かれるか。でも悪くねぇ走りだった」
三台は駐車場へ滑り込み、朝の冷気を吸った。
ドアの開閉音が重なり、三人は肩を回しながら呼吸を整える。
「さて。次の相手はFF車だな。駆動方式、ちゃんと頭に入れてあるか?」
智姉さんが腕を組むと、おれと六荒が頷く。
「まず、FF。特徴は?」
「車内空間が広くて軽い。下りのトラクションが強い。でもフロント荷重でアンダーが出やすくて……ハイパワーは苦手です」
「正解」
「俺のヴィッツもFFだぜ」
六荒が胸を張る。
「次、FR」
「ステアと駆動が分かれるから安定。パワーも載せやすい。ドリフト向き。ただし悪路は苦手で、室内は狭くなる」
「うむ」
「最後、4WD」
「発進が強くて悪路も得意。ただし重くて旋回は鈍い。R35がまさにそれ」
「完璧」
智姉さんは口元をわずかに緩めた。
「MRとRRは……ミッドシップと走るときに教えてやる」
胸が少し高鳴る。
「もう一走り行くぞ。乗れ」
三台は再び山へ消えていった。
サクラの黒いJZA80スープラ。
ヒマワリの蛍光グリーンSW20MR2。
モミジのオレンジのアルテッツァ。
三台の影が並んでいた。
「……来るの遅いね」
「ほんとに走ってんのかよ」
「待て……」
サクラが空を見上げた瞬間――
遠くで複数のエキゾーストが重なった。
「来た!」
「RB26とVR38の音だ!」
最後の五連ヘアピン。
ワンエイティとR35が白煙を巻き、駆け抜けてくる。
「うわ……大崎翔子、やれてるじゃん」
「イィーネッ!」
「斎藤智、本気だねこれ」
三姉妹は素直に感嘆した。
空はオレンジから群青へ。
3台が和食さいとうに戻ると、3姉妹もそれぞれの車へ戻っていった。
赤城は再び静かさを取り戻した。
暖簾をくぐり、プラズマ三人娘が入ってくる。
席につくと同時に、クマさんが昨夜のバトルを語り出した。
「……ヘッドライト消されてさ。完全に読まれた。完敗だ」
「負けたのか?」
智姉さんが皮肉まじりに笑う。
「ええ、全然ダメでした。覚醒技も通らず……」
「騙し討ちだな」
「まさに……です」
クマさんは悔しそうに笑い、しかしどこか吹っ切れていた。
(――どう勝つ。あの無灯火の走りに……勝つ方法)
おれは静かに息を吸い込んだ。
The Next Lap
葛西家の食卓には湯気が立ち、四人の息遣いが静かに混ざっていた。
最初に口を開いたのは長女・サクラだった。
箸を置き、ぼそりと言う。
「明日、大崎翔子が戸沢龍と走るらしい」
母のウメが頬杖をつきながら、苦い笑みを浮かべた。
「柳田マリアを倒したばかりで、次は戸沢龍……ほんとにトップ2狙いね、あの子」
次女ヒマワリがすぐ反応する。
「昨日さ、大崎翔子の仲間がC33で挑んで負けたって聞いたぞ。でも覚醒技めっちゃ強いんだろ? それに勝つって……戸沢ってマジで化け物だな」
三女モミジは黙って聞いていたが、目だけが鋭かった。
他人の癖を瞬時に読む、あの独特の洞察が始まっている。
「……柳田のときとは違って、今回はダウンヒルだね」
サクラが小さくうなずく。
「そうだ。けど……なんか嫌な予感がする」
モミジがスッと顔を上げた。
「ねえ。オオサキの能力って、何なんだろう」
食卓の空気が一瞬止まる。
ヒマワリが笑って肩を叩く。
「やっぱり頭いいなぁ、モミジは。16歳で大学卒業は伊達じゃあない」
「オレは高校中退したけどね」
なぜか誇らしげに胸を張る。
サクラは腕を組んだ。
「大崎翔子が戸沢と決着つけたら……オレもリベンジする。その前に、お前らにも走らせたい。“根っこ”は今のうちに叩き込む」
「ボクが先でいいよ」
モミジが淡々と言う。
「スーチャー310馬力のアルテッツァ。駆け引きで勝てる」
「じゃ、オレはSW20だな。3S-GTEの350馬力! 覚醒技全部使って、サクラ姉ちゃんの仇を取ってくる!」
三姉妹の眼に同時に火が灯った。
「母さん、オレら赤城行ってくる」
「赤城道路に?」
ウメの声が少しだけ強張る。
「斎藤智と大崎翔子が……毎朝走ってる」
「……あの二人、本当に好きねぇ」
3人はそのまま愛車へ向かった。
朝靄の赤城。
人影はほとんどない。
おれ(翔子)のワンエイティと、六荒のヴィッツが先行する。
背後には、智姉さんのR35が迫っていた。
「速い! これ、抜く気か!」
(さては智……本気出したな)
六荒が心で呟くまでもなく――
最後の直線で、R35が弾丸のように抜き去った。
「ちっ……やっぱ抜かれるか。でも悪くねぇ走りだった」
三台は駐車場へ滑り込み、朝の冷気を吸った。
ドアの開閉音が重なり、三人は肩を回しながら呼吸を整える。
「さて。次の相手はFF車だな。駆動方式、ちゃんと頭に入れてあるか?」
智姉さんが腕を組むと、おれと六荒が頷く。
「まず、FF。特徴は?」
「車内空間が広くて軽い。下りのトラクションが強い。でもフロント荷重でアンダーが出やすくて……ハイパワーは苦手です」
「正解」
「俺のヴィッツもFFだぜ」
六荒が胸を張る。
「次、FR」
「ステアと駆動が分かれるから安定。パワーも載せやすい。ドリフト向き。ただし悪路は苦手で、室内は狭くなる」
「うむ」
「最後、4WD」
「発進が強くて悪路も得意。ただし重くて旋回は鈍い。R35がまさにそれ」
「完璧」
智姉さんは口元をわずかに緩めた。
「MRとRRは……ミッドシップと走るときに教えてやる」
胸が少し高鳴る。
「もう一走り行くぞ。乗れ」
三台は再び山へ消えていった。
サクラの黒いJZA80スープラ。
ヒマワリの蛍光グリーンSW20MR2。
モミジのオレンジのアルテッツァ。
三台の影が並んでいた。
「……来るの遅いね」
「ほんとに走ってんのかよ」
「待て……」
サクラが空を見上げた瞬間――
遠くで複数のエキゾーストが重なった。
「来た!」
「RB26とVR38の音だ!」
最後の五連ヘアピン。
ワンエイティとR35が白煙を巻き、駆け抜けてくる。
「うわ……大崎翔子、やれてるじゃん」
「イィーネッ!」
「斎藤智、本気だねこれ」
三姉妹は素直に感嘆した。
空はオレンジから群青へ。
3台が和食さいとうに戻ると、3姉妹もそれぞれの車へ戻っていった。
赤城は再び静かさを取り戻した。
暖簾をくぐり、プラズマ三人娘が入ってくる。
席につくと同時に、クマさんが昨夜のバトルを語り出した。
「……ヘッドライト消されてさ。完全に読まれた。完敗だ」
「負けたのか?」
智姉さんが皮肉まじりに笑う。
「ええ、全然ダメでした。覚醒技も通らず……」
「騙し討ちだな」
「まさに……です」
クマさんは悔しそうに笑い、しかしどこか吹っ切れていた。
(――どう勝つ。あの無灯火の走りに……勝つ方法)
おれは静かに息を吸い込んだ。
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