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第5章 ヒマワリ編
ACT.22 葛西ヒマワリ
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4月29日、水曜日。夜7時。
カラオケボックスの薄暗い部屋に、オレの熱唱が響きわたっていた。
「タイガー&ドラゴン! イーネっ!」
クレイジーケンバンド。十年前のドラマ主題歌だ。
渋い? うるせぇ。
オレの心を一番走らせてくれる曲なんだよ。
背後でDUSTWAYの二人がヒソヒソ。
「ケンバンドって渋すぎでしょ~」
「私はサカナクション派~」
聞こえてる。でも気にしない。
“音楽の趣味=オジサン扱い”なんて、もう日常茶飯事だ。
「イィーネ!」
サビ終わりに決めポーズを入れると、二人も笑いながら真似してくれる。
そんな時間が続き、気分は完全にレッドゾーン。
「――よし。行くか、赤城へ」
夜9時半。外に出てマシンへ向かう。
蛍光グリーンのSW20。ミッドシップの相棒だ。
仲間は赤いNAロードスターと白のBNR32。
クラッチを踏み、キーを回す。
3S-GTEが眠気を払うように咳き込んで――一気に目覚めた。
三台のヘッドライトが夜を切り裂いていく。
赤城山・ダウンヒルスタート地点の空気がピリついていた。
「着いたぜー!」
車列を眺めていたら、異質な二台が目に入った。
黄色のE46 M3。青のW203 C55 AMG。
ドライバーは、まるでマッドマックス住民。
「おい。DUSTWAYの葛西ヒマワリだよな?」
絡んできたと思ったら――
「その緑……ケロロ軍曹? いやフライゴンか?」
プツン、と耳の奥で何かが切れた。
「ヨッシー扱いすんな。SW20はミッドシップの王様だ」
「あー? じゃあ勝負してみろよ」
胸が熱くなる。上等だ。
「望むところだ! ぶっちぎってやるよ!」
3台が一斉に闇へ飛び込む。
先頭W203。追うE46。さらに追うオレ。
「イーネ……!」
S字へ飛び込み、ギリギリでリアを流して繋ぐ。
立ち上がりで一気にE46を射程へ――
「《神速》!」
胸の奥が熱くなり、視界が研ぎ澄まされる。
緑のオーラが身体から噴き上がる。
「抜くぜ!」
ターボが吠え、オレはBMWを置き去りにした。
残すはW203。
「料理してやる……!」
三連コーナーを正確に刻む。
最後の立ち上がり、W203がビビってアクセルを戻した瞬間――
「350馬力でも、ミッドシップは数字以上だ!」
鼻先をねじ込み、その夜の赤城を制した。
翌日。和食さいとう。
オレはカウンター越しに、オオサキちゃんと智のぎこちなさを眺めていた。
「あの二人、気まずいな……」
原因は昨日のバトルの敗北だろう。
「仲良くしろよ。仕事にも響くぞ?」
返ってきたのは智姉さんの冷たい声。
「そんな簡単じゃない」
その空気をかき消すように、ドアが開いた。
長髪、整った顔――仮面ライダー555の乾巧っぽい雰囲気を纏った男。
「草加幸平って男、ここに来なかったか?」
乾健人。元GT300、現ラリードライバー。
“ターマックの狼”の異名を持つ男だ。
「最近、草加の“娘”を名乗る走り屋が赤城に出てる。気をつけろ」
九一三雅――
胸の奥が重くなる名前を、乾は残して去っていった。
夕方、のりもの大の部室は夕陽に染まっていた。
わだす、くに、川ちゃんでヒマワリの話題が続く。
「SW20を乗りこなせるだけで天才だよ」
「MRであの安定感はヤバい」
「突っ込み速ぇし、ドリフトとグリップ切り替えてくるべ」
正直、脅威だ。
サギさんの180SXでは分が悪い。
そこに――
「ふふっ。悔しくないの?」
九一三雅が現れた。
「また負け犬になるのね?」
言葉より先に、悔しさが込み上げる。
「負けたからこそ、次に行くんだべ」
「無理よ。ヒマワリは大崎翔子と最悪の相性。絶対勝てない」
「根拠は?」
「自分で考えなさい」
残した笑みは、刺すように冷たかった。
閉店準備の最中、甲高い1JZが店前に滑り込む。
九一三雅だ。
「あなたには用がないの」
そう言い、智姉さんに抱きついた。
「あなたには、私しかいないのよ……!」
胸が焼けるようだった。
「……離して」
腕を振り払う智。
雅の表情がぐしゃりと歪む。
「大崎翔子なんて不釣り合いよ!」
「邪魔だ」
智の冷たい声が店に落ちる。
「私は……あの人に“母親になってほしかった”のよ……!」
その叫びは、悲鳴みたいだった。
おれは雅の拳を受け止めて言った。
「……君と智姉さんは、似合わない」
雅は目を伏せ、1JZの咆哮を残して夜へ消えた。
同時刻、Speed葛西、ヒマワリがSW20に乗り込み、叫ぶ。
「かーちゃん! サクラ姉ちゃん! 赤城行ってくる!」
3S-GTEの咆哮が夜へ吸い込まれていく。
ガレージでは、サクラがJZA80のボンネットを撫でていた。
「大崎翔子との再戦のために、強化する」
「どこを?」
「低速トルク。軽量化。コーナリング性能――全部」
明星芽衣が工具を回しながら笑う。
「任せて。最高に仕上げるよ」
そして、母ウメは静かに言った。
「……サクラ。私も斎藤智にリベンジしたいのよ」
葛西家の因縁――
娘と母。二代の炎が、赤城へ向けて灯り始めていた。
──The Next Lap──
カラオケボックスの薄暗い部屋に、オレの熱唱が響きわたっていた。
「タイガー&ドラゴン! イーネっ!」
クレイジーケンバンド。十年前のドラマ主題歌だ。
渋い? うるせぇ。
オレの心を一番走らせてくれる曲なんだよ。
背後でDUSTWAYの二人がヒソヒソ。
「ケンバンドって渋すぎでしょ~」
「私はサカナクション派~」
聞こえてる。でも気にしない。
“音楽の趣味=オジサン扱い”なんて、もう日常茶飯事だ。
「イィーネ!」
サビ終わりに決めポーズを入れると、二人も笑いながら真似してくれる。
そんな時間が続き、気分は完全にレッドゾーン。
「――よし。行くか、赤城へ」
夜9時半。外に出てマシンへ向かう。
蛍光グリーンのSW20。ミッドシップの相棒だ。
仲間は赤いNAロードスターと白のBNR32。
クラッチを踏み、キーを回す。
3S-GTEが眠気を払うように咳き込んで――一気に目覚めた。
三台のヘッドライトが夜を切り裂いていく。
赤城山・ダウンヒルスタート地点の空気がピリついていた。
「着いたぜー!」
車列を眺めていたら、異質な二台が目に入った。
黄色のE46 M3。青のW203 C55 AMG。
ドライバーは、まるでマッドマックス住民。
「おい。DUSTWAYの葛西ヒマワリだよな?」
絡んできたと思ったら――
「その緑……ケロロ軍曹? いやフライゴンか?」
プツン、と耳の奥で何かが切れた。
「ヨッシー扱いすんな。SW20はミッドシップの王様だ」
「あー? じゃあ勝負してみろよ」
胸が熱くなる。上等だ。
「望むところだ! ぶっちぎってやるよ!」
3台が一斉に闇へ飛び込む。
先頭W203。追うE46。さらに追うオレ。
「イーネ……!」
S字へ飛び込み、ギリギリでリアを流して繋ぐ。
立ち上がりで一気にE46を射程へ――
「《神速》!」
胸の奥が熱くなり、視界が研ぎ澄まされる。
緑のオーラが身体から噴き上がる。
「抜くぜ!」
ターボが吠え、オレはBMWを置き去りにした。
残すはW203。
「料理してやる……!」
三連コーナーを正確に刻む。
最後の立ち上がり、W203がビビってアクセルを戻した瞬間――
「350馬力でも、ミッドシップは数字以上だ!」
鼻先をねじ込み、その夜の赤城を制した。
翌日。和食さいとう。
オレはカウンター越しに、オオサキちゃんと智のぎこちなさを眺めていた。
「あの二人、気まずいな……」
原因は昨日のバトルの敗北だろう。
「仲良くしろよ。仕事にも響くぞ?」
返ってきたのは智姉さんの冷たい声。
「そんな簡単じゃない」
その空気をかき消すように、ドアが開いた。
長髪、整った顔――仮面ライダー555の乾巧っぽい雰囲気を纏った男。
「草加幸平って男、ここに来なかったか?」
乾健人。元GT300、現ラリードライバー。
“ターマックの狼”の異名を持つ男だ。
「最近、草加の“娘”を名乗る走り屋が赤城に出てる。気をつけろ」
九一三雅――
胸の奥が重くなる名前を、乾は残して去っていった。
夕方、のりもの大の部室は夕陽に染まっていた。
わだす、くに、川ちゃんでヒマワリの話題が続く。
「SW20を乗りこなせるだけで天才だよ」
「MRであの安定感はヤバい」
「突っ込み速ぇし、ドリフトとグリップ切り替えてくるべ」
正直、脅威だ。
サギさんの180SXでは分が悪い。
そこに――
「ふふっ。悔しくないの?」
九一三雅が現れた。
「また負け犬になるのね?」
言葉より先に、悔しさが込み上げる。
「負けたからこそ、次に行くんだべ」
「無理よ。ヒマワリは大崎翔子と最悪の相性。絶対勝てない」
「根拠は?」
「自分で考えなさい」
残した笑みは、刺すように冷たかった。
閉店準備の最中、甲高い1JZが店前に滑り込む。
九一三雅だ。
「あなたには用がないの」
そう言い、智姉さんに抱きついた。
「あなたには、私しかいないのよ……!」
胸が焼けるようだった。
「……離して」
腕を振り払う智。
雅の表情がぐしゃりと歪む。
「大崎翔子なんて不釣り合いよ!」
「邪魔だ」
智の冷たい声が店に落ちる。
「私は……あの人に“母親になってほしかった”のよ……!」
その叫びは、悲鳴みたいだった。
おれは雅の拳を受け止めて言った。
「……君と智姉さんは、似合わない」
雅は目を伏せ、1JZの咆哮を残して夜へ消えた。
同時刻、Speed葛西、ヒマワリがSW20に乗り込み、叫ぶ。
「かーちゃん! サクラ姉ちゃん! 赤城行ってくる!」
3S-GTEの咆哮が夜へ吸い込まれていく。
ガレージでは、サクラがJZA80のボンネットを撫でていた。
「大崎翔子との再戦のために、強化する」
「どこを?」
「低速トルク。軽量化。コーナリング性能――全部」
明星芽衣が工具を回しながら笑う。
「任せて。最高に仕上げるよ」
そして、母ウメは静かに言った。
「……サクラ。私も斎藤智にリベンジしたいのよ」
葛西家の因縁――
娘と母。二代の炎が、赤城へ向けて灯り始めていた。
──The Next Lap──
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